<PCシチュエーションノベル(ツイン)>
+ 本日の夕食:肉野菜炒め、卵スープ、パン +
面接を終えた二人はあれから食料店に寄り、スパイスを引き立てる料理は何か懸命に考えながら材料を購入した。
早速アパートに帰ってきたルドとザトは外出着を脱ぎ、長袖シャツとズボンというラフな格好へと着替える。
その上から黒のエプロンを羽織り袖を捲り上げ、袋の中から購入物をテーブルの上に広げた。
同様にザドもまた同デザインのエプロンを装着し髪の毛が食品に落ちないよう丁寧に髪の毛を結わえる。それから掃除の行き届いた台所できちんと石鹸を使い水で手の汚れを洗い落とした。
食料品が並んだテーブルの上にはコップに入った野花がある。
それを見てザドは少しだけ照れ臭そうに微笑んだ。
「では貰ったスパイスで今日は晩飯を作る。用意はいいか」
「いいよー!」
「まずは野菜を切ろう。ザド、俺はスープの準備をするからたまねぎを切ってくれるか?」
「どーやってきるの?」
「こうやって茶色い部分を剥いてから食べやすい大きさに切ってごらん」
テーブルの上にまな板を置き包丁を用意する。
危なくないようルドは最初に手本を見せてから場所をザドに譲った。いつもならルド一人で食事を用意するが今日は共同作業だ。ザドは少し怖々と包丁を握り、まず一つ切れ目を入れてみた。
教わった通り手は拳にし、指に歯が当たらないよう細心の注意を払う。
すとん、すとん。
ゆっくりとしたテンポで玉ねぎは切られていく。その度につん、としたネギ類特有の臭いが鼻を掠めた。
「なみだでる〜!」
「たまねぎは泣けるんだ」
ルドよりも身長の低いザドに対し、効果的に催涙効果が襲う。
堪えていても目にはじわりと涙が浮き視界が滲み始めた。ザドは一旦玉ねぎを切る手を止め慌てて洗面台へと向かう。水で目を洗い流しても中々痛みは取れない。
唇を引き結び覚悟を決めて戻ってくるとまた玉ねぎを切り始めた。
そんなザドの様子を見守りながらルドは幾つかの卵を割り手早く溶いていく。
ザドに対して彼は非常に慣れた様子で料理を進めていく。ルドの手際の良さにザドは改めて感心しながら何とか玉ねぎを切り終えると、緑の野菜であるピーマンに手を伸ばした。
玉ねぎは苦戦したもののザドは元々手先が器用で、一つ形を教えれば直ぐに物事を吸収する柔軟性を持っている。ピーマンを上手に刻みそしてトマトも潰さぬよう包丁を入れた。
「ルド、できたー!」
「どれどれ。ああ良く出来てるじゃないか」
やがて全ての野菜を切り終えルドに報告する。
スープの方も後は溶き卵を加えるだけ。肉も火が通りやすいよう小刻みにして用意してある。
ルドはフライパンを火に掛けるとまず肉を炒め始めた。ザドは隣に立ちわくわくしながら過程を見守る事にした。
肉に火も通り野菜も加え、いよいよスパイスを振る作業に入る。
二人は慎重にスパイスをひとつまみすると、フライパンの上にぱら……っと振った。
「「このぐらいかな?」」
思わず声が揃う。
次の瞬間二人は顔を見合わせ、同時に笑みを浮かべあった。
スパイスの量を調節し、最終的にシンプルに塩を振れば素材とスパイスの味がよくわかる。
しんなりとした野菜を一欠けら取り出し味見をしてみる。野菜特有の硬さの残る感触とスパイスの香りが食欲を刺激してきた。
「ザドはどんな味が好きなんだ? ……これ、薄いかな?」
「んー、も少し、しょっぱいのがいいー」
「じゃあもう少し増やしてっと。これはこれでいいかな」
「あとはスープ?」
「ああ、テーブルに用意しておいた食器を持ってきてくれ。そろそろ夕食にしよう」
「わぁーい!」
ザドが平皿とカップを持ってくる間にルドはスープの最後の仕上げである溶き卵を落とした。
ふんわりと固まるよう緩やかに、そして素早く混ぜていく。淡い黄色がスープに加わるとそちらもまたスパイスを加えて味を調節する。もちろん味見は忘れない。二人で交互に小さな皿に乗せた僅かなスープを飲み、そして満足する味になると其れをカップに掬い上げた。
肉野菜炒めも平皿の上に乗せ、温めておいたパンも並べる。
美味しそうな香りが室内に広がり、それに触発されたザドの腹が鳴った。
「ルド、はやく! いただきますしようよ!」
「その前にエプロンを外せ」
「あ……わすれてた」
エプロンを着用したまま椅子に座り食事を始めようとしたザドに呆れる。ルドはエプロンを外しそれを空いた椅子の背に引っ掛けた。
対面し並んだ食事をまず目で楽しむ。
緑、赤、肉の茶が映える肉野菜炒め。ふわふわっとした黄色が食欲をそそるスープ。そして温かいパン。
二人は両手を合わせると。
「「いただきます」」
ルドはまず卵スープに口に運び、ザドはフォークで野菜炒めを突き刺した。
僅かに無言。
各々舌の上で出来上がった料理を味わってから感想を口にし始めた。
「わあ、ぴりっとする! いつもとちがうあじ! おにくおいしいねー!」
「本当に美味いな。今日の料理は特別だ。スパイスの力はもちろん、ザドが手伝ってくれたからだな」
「……えへへ」
ザドはほんのり照れ、何かを誤魔化すようにスープの入ったカップに口付ける。
まだ出来たてて熱々のそれが舌に触れると慌ててカップを離した。
「お前は意外に器用だな。包丁にも直ぐ慣れてた」
「教えてくれるルドが料理上手だからー! ルドはどこで料理覚えたの?」
「一人で生活するようになって、自然と。料理を作るのも苦手じゃなかったし」
「それで、それで?」
パンに手を伸ばし、一口サイズに千切る。
続きを聞きたそうに視線を寄せるザドの頭をくしゃっと撫で、ルドは言った。
「それに――食べてくれる人がいる料理は、作りがいがあるものだ」
伝わるかどうか分からない。
けれど食べてくれる誰かがザドでよかった、と彼は心底思っていた。
妙に照れ臭い空気が流れ、それを散らそうとフォークで肉を刺し何を言い出そうとしたザドの口に放り入れる。
もぐもぐもぐ。
そして、ごっくん。
やがて開かれるザドの唇。
「ぼくも、ルドのりょうり食べるの、だいすきだよ」
おいしいもん、と最後に付け加え熱が収まったスープを飲む。ルドもパンと肉野菜炒めを同時に口に運んだ。
温かく、そして心休まる二人の日々。
ぴりっとした刺激あるスパイスの味だけではない美味しさが、身に染みるのを感じた。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【3364 / ルド・ヴァーシュ / 男性 / 26歳(実年齢82歳) / 賞金稼ぎ / 異界人】
【3742 / ザド・ローエングリン / 中性 / 16歳(実年齢6歳) / 焔法師 / レプリス】
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■ ライター通信 ■
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こんにちは、料理発注有難う御座います!
引き続いての内容ですのでこのように。二人並んで野菜を切ったりスープの用意をしたり、時々手助けをしながら夕食を作り上げていく……貰ったスパイス(刺激)も加わり、常とは違う美味しさを味わっていただけたらいいなと思います。
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