<聖獣界ソーン・黒山羊亭冒険記>
■各所探訪−ヤーカラの隠れ里−■
「あの薬剤師。あいつが騙したんです」
飛び込んできた成長途上の少年はぎゅうと拳を握り締めて訴えた。
いわく、彼はヤーカラの隠れ里の出身なのだが薬剤師は里人を騙し、自分達の特殊とされる血を薬剤に混ぜ込む協力を求めていたのだという。真摯な訴えにじきに里の者は何人かを預ける許しを出す。
一滴の血で足りるも年齢性別での差異を確かめる為、そして警戒すべき里外である為、子供だけということは双方共に不可能で――だから、成人する頃には外界への拒絶意識は刷り込まれているので対人関係が多少難しいと思われはしても、戦う術を持つ成人した男女を共にとして。
少年は、子供の中で最年長として薬剤師の下で協力していたらしい。
「最初は普通だった。僕達の体調を見て、薬を調合して」
けれど自分達が薬剤師を信頼したところで、誠実な言動であった相手はそれを翻したのだ。
いささか貧相な顔立ちを悪辣に歪めてその薬剤師は、大人達の食事に毒を持った。
それなりに詳しく調べた後のことである。里から共に来ていた大人二人は簡単に崩れ落ちて不思議はなかった。
「それから、それから皆を、捕まえて」
そうして身動きもままならぬ大人達までもを引き摺って行った。何処かに閉じ込めた。
けれど少年はかろうじて逃げ出して、エルザードで知り合った人達に協力して貰ってどうにか彼等を助け出した。薬剤師もその人達の協力で一度は捕まえた。
だというのに。
「閉じ込めてたんです。でも、目を離した隙に逃げ出して」
捕まえて下さい。いいえ死体でもいいんです。
訴える姿からは伝え聞く隠れ里の民かどうかはまるでわからない。
だがその真偽はどうでもよく、エスメラルダは依頼書に一連の言葉をまとめて書き付けると少年の顔をまじまじと見た。強張った顔。忙しなく動く瞳。エスメラルダと真正面から視線が合うと僅かに伏せて逸らされる視線。この少年は知らないが、薬剤師は知っている。
第一印象で損をする男、中身と外見が噛み合っていない、そんな風に言われるような人の良い――とまで言えるかどうかは微妙だが、多少研究熱心が過ぎる事があっても人を害してまで成果を求める人物ではなかったはずだ。
「……助け出した里の人達は?」
「協力してくれた人達が、今は、傍で」
守ってくれています、と続いた声は段々と小さくなる。
視線を据える踊り子に圧された風に居心地悪そうに。
「お、お願いします。あいつを!」
「………………」
しばらくエスメラルダは少年がまくしたてるのを聞いた。黙っていれば向こうは延々と薬剤師の悪辣さを並べ立てる。彼女が知るのとは大きく違った人物像を。けれどそれを告げはしない。
「わかったわ。薬剤師の捜索を依頼に出しておきましょう」
ただ息を吐いて応じるだけ。
「捜索した後にどうなるかは保証出来ないけど、いいかしら」
「はい。どうしてくれても構いません」
「そうね。どうしようと構わないということで」
ほっと表情を緩める少年を見ながらエスメラルダは何も補足しなかった。
捜索はして貰おう。捜索、は。
(後は『どうしようと構わない』のよね)
エスメラルダは薬剤師を知っている。少年を知らない。
それを差引いても、少年の態度は人を多く見てきたエスメラルダにとっては信頼に値するものではない以上、立ち去る背中を見る表情が険しくなるのは仕方のないことだったろう。
そうして依頼が出される頃。
黒猫がぱたりと耳を動かして見遣る先には息を潜める貧相な男が蹲っていた。
■各所探訪−ヤーカラの隠れ里−■
傾き始めた陽の、投げる光も呑んでしまおうと言いたげに灯り始めた其処彼処。
それが作る歪な影達の間を抜けて千獣は黒山羊亭のある辺りよりもはるかに危うく、不道徳と隣り合わせの空気が溢れる街路を進む。足元の石畳さえ荒れて不安定な様は、たむろする人々の含んだ眼差しの奥を形にしたかのようだ。
そういった人々からの声――それは馴染みのない者に対する忠告、誘い、からかい、雑多極まりない様々なもの――を浴びながら、黒髪を闇に浮かべて路地を行く。かろうじて人が通り抜けられる程度の建物と建物の間。積み上げられた薄汚い木箱。転がる瓶。踏まれた何か。それらに視線を滑らせながら、千獣は探す。
(……あの子……)
少年を。黒山羊亭を訪れた少年を。
エスメラルダが訝しく見ていた、怯えと緊張を刷いていた少年を。
(助けて、もらった、のに)
千獣もまた、少年が訪れたときに居合わせていた。
何事かを話しているのを見るともなく見ていたのだ。
(酷く、怯えて、いた)
少年が落ち着き無く去って行った後、訪れたキング=オセロットと二人で依頼を聞いたのだけれども。
そうして今、事情を詳しく聞かねばと、手分けして少年と薬剤師とを探しているのだけれども。
(……助けてもらったんじゃ、ない?)
するすると通行人を避けて歩きながら千獣は少年を思い返し、考える。
千獣の位置からは少年の表情は確とは見えなかったものの、言葉の調子や態度、雰囲気は充分に感じ取ることが出来ていた。そこに憤りは、里の同胞を害した薬剤師への怒りの類はあっただろうか。絶対に抱くとは限らないけれど、薬剤師の悪辣さを語る声はただ忙しなくて。
抱く訝しさ。
それに重みを与えるのは、周囲でちらちらと引っ掛かる誰かの動きや視線だった。
周囲を窺いつつ動く千獣を探るようなもの。後ろめたい人々も多いだろう場所であるが故とも思えるが、だとしてもいささか過剰に過ぎる。かといって着いてくるでもない。誰かが見、それが外れれば別の誰かが見、繰り返し。
紅瞳を細い路地に向け、その先の人影を見定めて黒髪を広げた千獣は瞬間にも掛かる視線を感じてふと、思う。
まるで『何某かを探す誰か』を見張っているようだ、と。
あるいはそれは、薬剤師、についてのことであるかも知れない。
千獣は双眸を眇めて鋭さを覗かせると、少年へと一息に距離を詰めて声をかけた。
** *** *
よくある話――だった。
物珍しさから多くに手を出し、のめり込み、挙句に道を踏み外して限度を超える。
それはとてもよくある話だった。結末もよくある話であるはずだった。
若気の至りでは済まぬ程に加減を誤った当人が身を持ち崩す結末程度であるはずだった。
少年が、ヤーカラの里の民でなければ。稀な者でなければ。
……同胞を差し出す事に、少年とても抗いはしたのだ。
抗いはした。けれどそれまでに幾度か重ねられた暴力が少年を萎縮させていた。
世界を知るのはこれからだというような年若い彼は、だから竦んだ精神を安らげる為に手引きした。
予想されるその続きから目を逸らして、強い薬を年長者達に盛った。
自分達の血を使っていた薬剤師の薬を漁る必要もない。他の薬が効かないわけではないのだから。
効果が薄いと案じられればより強く、多く、重ねておけばよかったのだ。
そうして押し入った者達が同胞を捕えて奥に運ぶのを見送って。
見送って、目を逸らしていた展開の果てを突きつけられて。
床に散らばる食器と、点々と落ちる血と、自分を呼ぶ者達の下卑た笑みとを見て。
それでも押し寄せる後悔が力にならず心が縮こまったまま。
やはりどこまでも、よくある話――だったのだ。
千獣は少年を、オセロットは薬剤師を。
それぞれに探し当てて黒山羊亭の裏口から戻り、用意されていた一室で話を聞く。
傷の手当てと負担のない食事を薬剤師が済ませる横で少年が話したこと。
薬剤師が言葉を挟みながら進むその『事情説明』に、二人は傍目にはさほどに表情を変えぬままでいたが、それでも少年が唇を閉じたところで息を薄く吐くくらいの反応は明らかになった。ゆるゆるとオセロットはかぶりを振る。千獣は少年に向けて何事かを言おうとし、視線を彷徨わせてから結局閉ざす。適切な言葉や言い回しを用意するのに苦労するのだ。代弁者の如くに口を開くことはオセロットにもなく、なによりも。
「――ご、めんなさ、い――ごめ――」
少年の行いは謝罪一つで許される事ではないとしても、それは差し出された彼の同胞と薬剤師が定める事だ。
逆らうこともなく、唯々諾々とどこぞの輩共に従い続けた挙句の依頼だとても千獣とオセロットには、言葉で責め苛む趣味なぞないのだからここで少年を延々といたぶるつもりもない。
「……それで」
だから沈黙を退けて言葉を置いたのは、更に必要な情報を得る為でしかなかったのだけれど。
「っ!」
指先でテーブルを叩いて注意を引きながらのオセロットの声に竦んだ少年に苦笑した。
「貴方に何かを言うべきは私達ではない。今は知る事を話して貰いたいだけだ」
「……捕まってる人達の、場所、とか……見張りの配置……とか」
千獣はオセロットのような苦笑も浮かべず、また異なった思考の読めない表情で言葉を添える。
それなりの人数が居て、里の大人二人は傷も負っているというならば、慎重に事を進めねば彼等の安全が失われてしまうのだから、情報は必要なのだ。少年は千獣に腕を取られて黒山羊亭に連れ戻され、薬剤師の傷んだ格好を見てからは苦しい言い訳を試みることもなかったが、積極的に全てを話すまでもいかない。これは少年に、同胞を差し出させた者達に対しての恐れが拭いきれないが故――どこかから知れるかもしれない、挙句痛めつけられるかもしれない、という不安からの事だったろう。それを完全に拭い去る為には結局、ヤーカラの里人達を救い出してやらねばなるまい。
「場所、は――」
また沈黙を挟み、今度はそれを退ける言葉をオセロットからも与えられずに少年は視線を泳がせることしばし。
爪先からも血を零していた指で器を抱えて匙を運ぶ薬剤師が、それでも少年を罵ることなくオセロットと千獣の表情を見て沈黙を倣う。少年の言葉を彼も静かに、自分達を助けてくれるという女性達に従って待てば、ヤーカラの子供はつっかえつっかえながらも彼の知る限りの事を、告げた。
薬剤師の住居。奥の部屋や半地下だろうと予想を交えて話す。
その構造を住んでいた当人にも確認し、千獣とオセロットはそれぞれの考えを述べる。見張りについて、周囲について、相手の逃走について。訥々と緩やかな口調の千獣と、静かに凪いだ口調のオセロットと。二人の声だけを聞いていれば内容が複数人の救出と捕縛だとは咄嗟に気付かない。それほどに落ち着いた声。
それでも二人が話すことはヤーカラの里の民達を救う為の事なのだ。
至極当たり前に進められる相談を聞いていた薬剤師は、無言のまま器を空けてテーブルに置いた。
折良く、いや見計らってだろう。オセロットが振り返る。片眼鏡が薄明かりを弾いて瞬く様。
「貴方にも協力を頼めるだろうか」
薬剤師はそれを見てから頷いた。出来ることがあるなら。
何故ならば少年も含め、ヤーカラの里の人々について彼には負うべき責任があったから。
千獣は薬剤師の貧相な顔付きをまじと見詰めて常の通りの訥々とした話し慣れない調子で「大丈夫」と言葉を添えた。大丈夫、ちゃんと助け出すから。それは女性達の胸中で確かな気持ちで。
** *** *
どこからか灯芯の爆ぜる音がしたが千獣は瞳を滑らせることさえしなかった。
必要はない。彼女の秀でた耳がいささか離れた場所での唐突な音を拾っただけだ。
ひたと鼻先の壁を越えた先。薬剤師の住居である建物。その中の気配を探る。巡回。少年は窓の開閉や厳密なルートを知ってはいなかったけれど、人数と建物の使われようを知っていた。それで充分だった。千獣はオセロットがエスメラルダを通じて幾らかの人員――戦闘要員ではないけれど、それなりに慣れた者達――手配する間に先行して一度、確認に来ている。
そして今はオセロットが薬剤師と少年を連れて訪れるのに合わせての、二度目。
警戒はそれなりにされてはいる。だが千獣のように野を駆ける生物達のような潜みようは、街で生きる者達には馴染みがない。風に樹木の枝葉が揺れる、その程度の音も僅かな移動には気付きようもなかった。
(……もう少し……)
エスメラルダの伝手で集められた人員が各所に回る。
何人かは気付かれるかもしれない。だが包囲まで進めず裏通りに逃げ込まれるのを遮る為の配置程度。早々あちらの行動が変化したりはしないだろう。警戒は、増そうと増すまいと、千獣達の取る行動は変わりない。
身を滑り込ませるに足りる大きさの窓に向かう。ちょうど建物の正面方向にざわめきが増すのを聞き拾って膝を曲げた。軍人などの規則的なものとは違えど相応に一定であった足音が乱れる。ん、と訝しむ声は千獣が音も無く屋内に躍り込んだ瞬間に。薬剤師の話していた通り、傷みの酷い窓は簡単に開いて千獣の通過を許した。
(これで)
微かな着地音さえ膝の屈伸で容易く抑える。
ならず者。まさにそう称されるべきと思わせる男の背中。客かと呟く声は遮蔽物も無く千獣の耳に届く。その客を千獣は知っている。薬剤師を伴ったオセロット。だがこの男がそれを確かめる事はない。
「な」
(一人)
距離を詰めるときには気付かれてもいい。相手が何か行動を起こすよりも早く千獣の腕は男の顔面の下半分を捕えて音を隠し、少しだけ振り返っていたその身体を壁際に押しつけながら強かに後頭部を打ちつける。だがそれは死に繋がらない。
(命を、奪ったりはしない、けど)
ただ一点を見据える獣のように千獣の瞳は揺らがなかった。
男が動く事を許さずに重い一撃をくれて沈める。その気になれば腹を貫くこととても叶う手だけれど、それは変わらぬ滑らかさのままで意識だけを奪う。
(――許さない)
壁伝いに崩れ落ちる姿を冷ややかに見下ろして、千獣は相手の衣服の端を使って四肢を縛りあげていった。
「次」
呟く声はあまりに静かで落ち着いている。
だが冷然とした眼差しを見れば奥底にある硬質の怒りを感じ取れるように、それは刃先の鋭さを聞く者に感じさせることだったろう。
** *** *
――反響して耳を貫いた硬い音と叫びが合図となった。
正面玄関でのらりくらりと男達が薬剤師を引き取ろうとするのを遮り、確認作業を促していたオセロットは小銃を素早くしまいこむと薬剤師を背後に動かした。叫び声に反応していた男達は唐突な状況の変化に対応出来ない。
ぽかんと開いた口がそのまま苦痛に震える。
オセロットは一呼吸があるかなしかの間に男の懐に潜り込み腕を振る。的確に動きを制して挙句意識を奪う。気絶までの時間なぞ計る程にもない。それを二人目に繋ごうとも、男は逃げる余裕を持ち得なかった。
「……う……ぅ」
小さな呻き。それに配慮することはない。
手際良く男達を動けないようにして逃走を抑え、オセロットは振り返る。
薬剤師がまだ立ち尽くしているのに戻るようにと声をかけ、背を向けるのだけ確認してオセロットは建物の中へと足を進めた。音の原因は疑うまでもなく千獣。出所はと薬剤師と少年の話から記憶を辿り、照合する。答えはすぐに。
「大人達か」
ならば子供達がならず者達に害されるより早く、仕掛けるだけ。
向かってくる気配の有無を確かめながら進むオセロットの足音は、それでも規律正しく、男達の移動とは比べるべくもなかった。ならず者の足音をしかと聞いたのは裏手から入った千獣程度であったのだけど。
その千獣は、無残な有様で転がされていたヤーカラの里の大人達の拘束を解いてやったところだった。抵抗出来ない状態をいいことに二人ばかりが笑いながら傷めつけているところに踏み込んだ。踏み込んで、見張り達と同じように容赦なく殴打して意識を沈めた。
「子供達……助ける、から……」
警戒しながらも子供達を案じる里人に途切れ途切れの言葉で応じる間に男達を縛りあげる。道具は里人を拘束していた分をそのまま使えばよかった。
「……大丈夫」
人を害する輩である。その在り様に紅瞳を凍らせながらも千獣はヤーカラの民に静かな声で信頼を求め、それに足りるべく部屋を飛び出す。大人達は大丈夫。これまでに気絶させた見張り達の数からすればあとは子供達の方を見張っている三人。少年の言葉が正しければ。
だが千獣は少年の言葉を疑ってはいなかった。
当たり前に寄越された情報を信じて動いていた。
(もうすぐ)
廊下を走り抜ける。残るは子供達の囚われている一室だけ。
少年を利用して、そしてヤーカラの民を害し、そうして人を食い物にしようとする男達への怒りをひたひたと見の内で揺らしながら千獣は駆ける。野山を駆けるのとは違う。すぐに目指す一室へと至った。
僅かばかり千獣に先んじて子供達の囚われている部屋へ向かったオセロットは、様子を窺う為にか廊下に出ていた一人を視界に収めると同時に足を速めて距離を詰める。背後から千獣の気配。丁度良いタイミングだと微かに笑みながら相手の腕を取り捻って抑え込む。優しく扱ってやるわけはなく即座に力を入れて動きを制して。
「間違いない」
千獣とはまた異なった理由から秀でた聴覚で扉の向こう側の音を拾い、駆け抜けた相手に短く告げる。向けられた紅瞳はひどく冷たい色を乗せていたが無論オセロットに向けられたものではない。自分も同じような色だろうかとつと思いながら動けなくなった男を置いて千獣に続く。
その一室で子供達は縛りあげられて怯えていた。
くしゃくしゃに崩れた泣き顔の子供もいる。引き攣ったまま声を詰まらせる子供もいる。そして皆に共通して涙の跡がある。
千獣は踏み込むなりそれを見、剣を抜いた男二人に迎えられた。
いや、一人だ。もう一人は千獣に背を向けて子供に手を伸ばしたのだから。
だが抜き身を手に子供を掴み立たせようとするそちらこそが千獣には標的とすべき相手だった。短い呼気を転がして向かってくる男を流す。ふるわれた剣が掠めたが関係ない。子供の腕を取った男。それを目掛けて二歩、三歩。
「うわぁっ!」
千獣の腕が男の肩をぎりりと掴む。
続いて踏み込んだオセロットが千獣に流された男を捕える。
子供達はそれを涙に濡れた顔で、見開いた眸で、茫然と、見た。
傷ついた身体を引き摺るようにしてヤーカラの大人達が現れ、子供達を抱き締める様を千獣とオセロットは眺め遣る。
「無事で良かった」
「……うん……そう、だね」
ぽつりと呟いたオセロットに千獣も短い言葉で応じ、会話らしい会話にならぬ内に沈黙が落ちるけれど、互いに見知った相手だ。馴染みのある沈黙は居心地の悪さを招くこともない。
しばらく二人はそのままヤーカラの里人達を見守った。
薬剤師もじきに戻ってくるだろう。少年もまた戻り、皆と話をする必要もあるだろう。だがそれらは全て後々の事だ。今は無事を喜ぶとき。
「……よかった……」
それを前にして千獣がそっと言葉を落とす。
聞いて、オセロットは黒髪が白い肌の線を覆う横顔を見た。
「そうだな。せめてこの手に触れた限りは、人を踏み台に上手くやろうとする者達からこうして出来る限りは阻止したいものだ」
見て、確かな安堵が刷かれているのに頷いてオセロットも静かな声を落とした。
奇麗事ばかりの世の中ではないし、今回のような出来事を全て阻止出来るわけでもない。だけれども、言葉にした通り。
「関わった事、だけでも……?」
「ああ。全ては不可能であっても、こうして関わったならば」
「そうだね……そう」
せめてもと働きかける事までもを放棄はしない。
オセロットと千獣は、そうして眼前で互いを案じるヤーカラの民の姿を見守っていた。やわらかな、眼差しで。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【2872/キング=オセロット/女性/23歳/コマンドー】
【3087/千獣/女性/17歳/異界職】
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■ ライター通信 ■
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ご参加有難うございます。ライター珠洲です。
割と期間一杯を頂戴する形となってしまい申し訳ありません。
楽しんで頂ける部分があればいいなと思いつつ。
>千獣様
ホラーよろしく一人ずつ減らしていく場面を想像すると楽しゅうございました。
どう考えてもゴロツキでは千獣様の隠密行動には気付けませんから実行した日には素晴らしい展開だったかと思います。ちょっと惜しかった、と実は思っていたり。
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