<PCシチュエーションノベル(ツイン)>
+ ララ香辛料店隊商護衛―不思議な老婆― +
ぼくはアルフォランスの花畑にはしる。
なんでもアルフォランスの花の『みつ』はとてもおいしいらしい。だから一口なめてみたくなったんだ。
村の人もいいよ、って言ってくれた。
少しだけなら、と言っていた。
だから本当に少しだけもらう。
一つ、花を摘んで口にふくむ。他の村のこどもがしてるように。
ちゅぅ、とすえば口の中、ひろがるのはあまぁい味。
「おいしい!」
砂糖みたいな甘いだけじゃない。
お花のかおりとか、そういう沢山のものが集まっておいしいんだ。もう一つとオレンジ色の花に手をのばしてまた吸う。自然と笑顔がうかんで、胸の奥がほっこりしてる。
「おや、珍しいお客さんだ」
「?」
どこからか声がかけられてぼくはきょろきょろ辺りを見わたす。
花畑の中、黒いローブを着てフードを被っているおばあさんが一人。ぼくはひとさし指を自分にむける。するとそのおばあさんはしわがたくさんある顔をこくんっとうなずかせた。やっぱりぼくのことを言ってるみたい。
うーん、村の人?
でも今までみた村の人にはこんな服きてる人、いなかった。
ちょっと変ったふんいき。なんだろう、なにか、なにか……。
「そんなに警戒しなくても取って食いやしないよ。こっちにおいで」
またしてもしわくちゃな手でぼくを手招く。
ふんいきとちがって、ほがらかな声。緊張したぼくはその声にほぅっと長い息をはきだす。おばあさんはぼくを招きながら花畑の中を進んでいく。ぼくはまだちょこっとだけ警戒し、距離をとりながら後ろをついていった。
途中、もう一つだけと花をつまんで口にくわえる。
どこにいくんだろう。
しらない人についていったら怒られるかな。
でも変な人、じゃないと思う。
花のみつの甘さを口内に広げながらぼくは考える。
辿りついたのは村から少しだけ離れた場所にある家。村の人達の家よりちょっと『しっそ』な感じ。場所が場所だからこのおばあさんはもしかして村の人、じゃなかったのかな。
とびらの前で考える。中に入っていいのか迷う。
でもおばあさんはあいかわらず手まねいて、最終的には開かれたとびらの向こうに置かれたテーブルに手をむけた。
「お座りなさい。今温かい茶を淹れようね」
「あ、うん」
とまどう。
でも、少しだけ。
ちょっとだけなら……。
ぼくは中に入ってイスの上に腰かける。
おばあさんはなれた手つきでお茶を注いでくれた。それはアルフォランスのお茶だ。何度か飲んだからもう分かる。
温かな湯気がたつカップをさしだされ、ぼくは両手でそれをもつ。おそるおそる口にすればおいしい味が舌の上にのった。
「私の名はジーラ・アスル」
「ぼくはザド、です」
「そうかそうかい。ザドと言うんだね。どうじゃ、そのお茶美味しいじゃろ。今年取れたアルフォランスの中でも特別良く出来たものを分けて貰ったんじゃよ」
イスにすわってフードを取ったおばあさんはほわりと笑う。
今まで気づかなかったけど、おばあさんの額には黄色のひし形の石らしきものがくっついていた。
あれはなんだろう。
かざり、かなぁ。
「さて、私があんたを呼んだのはあんたがとても珍しい存在だったからなんじゃ」
「めずらしい?」
「そう、あんたほどの輝きを持つ者には中々出会えないよ」
おばあさんは言いながら自分の胸あたりをゆびさした。
はっと気づいてぼくはイスから思わず立ち上がる。ガタンッと大きな音が、鳴った。
胸の奥。
それはぼくのもつもの――『魔石』の事だ。
なんでこの人、それが分かるの。
もしかして『追っ手』、なのかな。
ぼくはにげなきゃ、だめ、なんじゃないのかな。
あぶないんじゃないか、な。
ぼくはもしかして、名のっちゃ、だめだったんじゃないかな。
ばれたらめいわく、かかる。
あの人に、みんなに。
きけん、に、なっちゃうのに、っ。
ひやり。
背筋がこおる。
きんちょうで、顔がいたい。
ジーラと名のったおばあさんはそんなぼくなんて気にせず目をふせた。でもそれは逆に、なにか『視』てる――ぼくは何故かそうおもった。
どれくらいの時間がたっただろう。
おばあさんはまたゆっくり目をひらいた。
「うん、綺麗だった。良い輝きを見せてくれてありがとう」
でもぼくが思っていたこととはちがって、おばあさんはお礼を言ってくれた。
輝き、が何のことかぼくにはわからない。
でもさっきおばあさんは胸を指さした――やっぱりこのおばあさんはみんなにはみえない、ぼくの『奥』がみえている。
「そんなに緊張しなくてもいい。私はあんたの敵じゃない。……むしろ綺麗なものを見せてもらった礼にあんたの手助けをしてやろう。そこの砂時計をひっくり返してごらん」
「すな、とけい?」
「砂時計を知らないのかい? これの事だよ。上からこの細くなった窪みを通って砂が落ちる速度で時間を計るものだよ」
「これ、ひっくり返すんだね」
「そう、私はこれで占いをするんじゃよ」
立ったままちいさな『砂時計』をくるりとひっくり返せば砂が上から下へとさらさら落ちていく。
おばあさんはその落ちていく砂をじっとみつめていた。
何をしているんだろう。
ただ砂がおちていくだけ、なのに。
時間をはかっているのかな。
ぼくのほうから砂時計ごしにおばあさんの顔がみえる。
きっと向こうの方からはぼくの顔がみえているんだろうと思う。
「ザド、帰り道にはお気をつけ」
静かに。
けれど真剣におばあさんはそう言った。
でも何が、と聞きかえすことが出来なかった。なんでだろう。おばあさんの言葉が胸の奥にすとんっておちて、そのままおさまってしまったみたい。
帰り道。
明日エルザードに帰る。だからきっとそれまでの道のこと。
『護衛』がぼくの仕事だから、おばあさんの言葉をしんじるなら、『何か』がおこるんだ。そしてそれはきっとおばあさんにもはっきりとしたことがわからなかったんだ。じゃなきゃ、あやふやな言い方しない、……と、思う。
すくなくとも、もしぼくがはっきり何かが起こるってわかっていたらはっきり言うもん。
「ザド。あんたはエルザードに行くんじゃろ。エルザードの隊商が村に来ていることは知っていたからあんたが何処から来たのかはすぐに分かったよ。その上で頼み事があるんじゃ。――これをエルザードにいる吟遊詩人のカレンに渡して欲しいんじゃ。彼女の事は恐らく街の誰かに聞けばすぐに分かる。有名な女だからね」
「んと『カレン』、だね。ん、分かった! でもこれってなぁに? きれいな小石だね」
おばあさんが届けてほしいとさし出してきたのは黄色の小石。
でも温かみのある色合いは以前アクセサリーがいっぱいならんでいる店でみた「こはく」に似てる。
質問してみたけどおばあさんは何もいわなかった。
ただお願い、とだけもう一言付けくわえた。
それ以上何もいえなくてぼくはお礼をいって家を出る。結局一口しかお茶をのまなかった。
ちょっともったいなかったかな。不思議なおばあさんだったけど悪い人、じゃなかった。お茶もおいしかったし、帰り道のこともおしえてくれた。
カレンって人がだれなのかわかんなかったけど、あとでみんなに聞いてみよう。
隊商の人達は『街の人』だからきっと教えてくれる。有名な人だから大丈夫だっておばあさん言っていたし。
空をみれば雲がながれていく。
上の方はうすい青。
中の方はうすい橙。
その下のアルフォランスの花畑のオレンジ色にまじって不思議な景色がひろがる。まるで昼と夜がいっぺんにみれたみたいだ。
なんだかぼくはすこしだけさみしくなってはしった。
花畑の中の道をはしった。
はやくもどりたい。
もどって彼の腕にだきつきたい。
手には黄色のきれいな小石。
横を見てもう一つだけと花をつんで、ぼくはかける。
ぼくにおかえりと、言ってくれる人。
その人に早くあいたくて、そしてみつの味をしってもらいたくて、心にわく不安に似たもやつきをふりはらうように全力で走った。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【3742 / ザド・ローエングリン / 中性 / 16歳(実年齢6歳) / 焔法師 / レプリス】
【3761 / ジーラ・アスル / 女性 / 70歳(実年齢70歳) / 地術師 / エレメンタリス】
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■ ライター通信 ■
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こんにちは、毎度発注有難う御座います。
今回は寄り道ということでジーラさんとの出会いを。
そして今後へと繋がるらしいお話を書かせて頂きました。
+αでちょこちょこ当方なりに含ませて頂きましたのでそこら辺も楽しんで頂けましたら幸いですっ。
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