<パンパレ・ハロウィンドリームノベル>
+ カボチャ王国の危機を救え! +
「とりっくあんどとりっく!」
ハロウィンの夜、ステッキを持った魔女っ子が貴方に魔法を振りかけた。
その瞬間視界は歪み、地面が揺れる。
やがて目を開いた時に目の前に現れたのは――。
「でっかい南瓜ー!!」
「『でっかい南瓜』ではない。わしの名はカボチャ大王だ」
「でっかい南瓜に顔が付いてて王冠被っただけじゃん!」
「むむ、そこは突っ込んではならん。それでもわしは大王なんじゃ」
えっへん。
どこが胸なのか分からないが人間サイズの南瓜が胸を張り偉ぶる。
周りを見れば一面の南瓜畑。大王はその中でも一際大きい南瓜だった。
だがへにょへにょと頭の蔓をしおらせ、カボチャ大王は言った。
「じつはのう、魔女っ子が悪戯をしておるんじゃ。世界を滅茶苦茶に渡ってこのカボチャ王国に空間を繋ぎ人を飛ばしておる。時期が時期じゃった為か人がわしらを収穫し始めよってな。でもカボチャ王国的には国民を収穫されるのは非常ーに困る。お前さんも別世界からやってきた異世界人じゃろ。帰りたいじゃろ。でな、わしらじゃ対処に困っておってな、悪いんじゃが異世界人よ。魔女っ子を捕まえて来てくれんか」
「自分達でやればいいじゃん!」
「だってわしも部下もカボチャじゃもん。畑から動けん」
「…………」
―― やっぱりただの『でっかい南瓜』なんじゃん。
ある一人の異世界人は心の中で突っ込んだ。
■■■■
「つーわけで、こっちは王様慰めてるからそっちは魔女っ子捕まえてきて!」
うっかり異世界人代表者になった人物は『魔女っ子に悪戯されてカボチャ王国に飛ばされてしまった人達』にそう伝える。その頃にはすっかり呆れ声になっていたのは言うまでもない。
「うん! 捕まえてくるね! だって南瓜さんたち、離ればなれになってかわいそう! 南瓜さんを持っていった人たちにも、畑に戻してくださいってお願いするよ!」
まず最初に手を上げ大声で賛同したのはザド・ローエングリン。
黒い短髪紅い瞳の十六歳の子供だ。今は常のカジュアルスタイルとは違い、黒長袖ジャケットにショートパンツというゴシックパンク調の狼男に仮装している。狼耳と尻尾も当然身につけており、体を振ればそれらが揺れた。だが元々愛らしい外見な為、「がおー!」と頭より手を上にあげて叫んでみても迫力は無く愛らしさを加速させるだけである。
「話す南瓜か…確かに珍しい。南瓜の王様もそんな顔するな。悪戯はすぐに解決して楽しくパーティーといこう。……そうだな、魔女っ子が空間のどこに穴を開けるか推測して待ち伏せをする。東西南北、今迄どのあたりに穴を開けていたか、異空間からやって来た人々や南瓜への聞き込みをする、とかどうだ」
ザドの隣に立っていた黒髪黒瞳の長身の男性はルド・ヴァーシュ。
彼もまたハロウィンパーティの途中でカボチャ王国に飛ばされてしまった人物である。彼が仮装しているのは黒き翼の死神。装飾品の大鎌を片手に、黒のゴシックスーツをびしっと着こなし皆に意見を求める姿は見目麗しい。――ただし、鎌の刃の部分は飴細工で戦闘力はゼロというおまけ付き、だが。
「そうだな。それに賛成だ。皆で南瓜や飛ばされてきた異界人達に聞き込みをして魔女っ子の行動パターンを絞り込み、何かで誘えばいい。――さて、此処でこれに注目。あたしは冒険者なのだけど実はノワールというお菓子屋を開いていて、たまたま納品しようと持っていたお菓子を持っているんだがこれを餌に魔女っ子を釣れないかね。自分で言うのもなんだが今は冒険者稼業よりも菓子作りの方で有名かもしれない程だ。味は保証しよう」
すっと細長い手を挙げ凛とした視線で意見を述べたのはふわっとした短めの茶髪をもつ女性、ライラ・マグニフィセント。
納品途中で此処に飛ばされたため衣服は通常の礼服だ。マントの裏地が星空の様に光っており目を惹く。彼女は自身の自慢の菓子を包装した箱を開き、中に入っている洋菓子を見せる。クリームや色取り取りの果物で飾られたそれに皆の唾が思わずごくりと鳴った。
ザドなど今にも手を出してしまいそうな勢いで瞳を光らせている。
だがザドとは別にもう一人出て来たお菓子に瞳を輝かせている人物が居た。
「わぁ、そのお菓子とてもおいしそう! あ、僕はマーオって言って見習いパティシエやってます。もし良かったら後で一口だけ食べてみてもいい? じゃ、なくって、えっと、作戦だよね。んー、誘き出した後は「わっ!」って驚かして捕まえられたら理想的だけど、魔女っ子さんだから魔法とかでやっつけられそうだなぁ。でもせっかくのハロウィンだし……あ、そうだ!」
ショートボブの薄い金髪に緑の瞳を持つ少年――マーオ。
彼は自身の唇に指先を押し当て眉間に皺を寄せて真剣に考え始める。だがふとぴんっと指を立て何かを思い付くとパーティ用に用意されていたテーブルの上に敷かれていたテーブルクロスを引っ張った。そしてふわ、っとそれが宙を舞うとマーオの体に掛かる。彼は手を僅かに前に出し出っ張らせると皆の方へと体を向ける。表情は見えないが彼が笑っていることだけは皆空気で分かった。
「普段僕、幽霊に見られないからテーブルクロスを被ってお化けになろう!」
「幽霊!?」
「うん、幽霊。ほら、足透けるんだよ〜」
告げられた瞬間皆の視線はばっと下を向く。
ひらひらとはためくテーブルクロス、その下には何もなく。
その時皆の心は。
―― ゆーれーっておいしいのかな?
―― 幽霊が幽霊の仮装って突っ込むべきだろうか。
―― 幽霊が作る菓子……興味がある。
――心は、バラバラだった。
■■■■
聞き込み開始。
「ふんふんふん、さっきはあっちで、その前はあそこらへんだったのー」
「その前はあそこだったっす」
「他に何か気付いた事はないかな?」
「魔女っ子は菓子が好きなんすよね。特にこの時期はカボチャを使った菓子が好きで、おれらいつも命を危機を感じてんすよねー」
「ん、カボチャおいしいよね」
「うっ、褒められて複雑っ!」
「僕も知らない間にカボチャ王国のカボチャさんたちをパンプキンケーキにしてるかも」
「う! 鬼!」
「だってぼくたちにとっては『かぼちゃ』だもん」
「美味しそうなカボチャさん達だもんねー」
「……っすよね」
ザドとマーオは一つのカボチャに話しかけ情報を収集する。
ほのぼのと雑談する様子を空から眺めつつ、次の空間が開く場所を探しているのは翼を持つルドだ。
彼は今まで繋がれた場所へと飛行し異変が無いか調べていた。ふと僅かに何か潰されたような痕跡がある事に気付くと彼は地面へと降り立つ。それに続いてライラもルドの傍へと寄り片膝を付いて地面を撫でた。
「草が倒されているな。落ちて来た人間が踏んだのか、それとも……」
「魔女っ子の魔法によるものかね。あたしがさっきカボチャに教えてもらった場所にも似たような窪みがあったよ」
「だがこれは踏まれたというよりも風で薙ぎ倒されたという感じだな。茎が折れているんじゃなくて倒されている」
「つまり、魔女っ子が出現する時は強い風が集中的に起こっている、と?」
「小さな竜巻のようなものが発生していると考えて間違いないだろう」
「では次風を感じたらその場所に即座に移動し、捕獲すれば良いな」
「ただそれが発生する時間が――」
ふわりと何か甘ったるい匂いが香ってくる。
気付いた二人は顔をあげ視線で香りを辿った。一面カボチャ畑であるのにバニラらしき香りがするなど有り得ない。
「ぼくもカボチャを収穫しようかなー」などと冗談を言いながら遊んでいたマーオとザドの二人もそれに気付く。
シン、と空気が冷えた。
ざわ。
足元の草が音を鳴らす。髪の毛が横に流れ風が次第に強まっていく。
ざわざわ。
より強く、より大きく、その動きは渦を巻くように――やがて皆の目の高さで景色が歪み、其処から何かが落ちて来た。
ドサ……と静かに横たわったそれは気絶した成人男性。どう見ても魔女っ子ではない。
来る――。
「とりっくあんどとりっくー!! あはは、皆楽しんでるぅー!?」
開かれた空間からひょこっと現れたのは愛らしい顔立ち、長い金髪を持つ一人の美少女。
魔法のステッキに尖がり帽子、黒いひらひらのマント……間違いない。魔女っ子だ。
「つかまえるのー!!」
「えーい!! 魔女っ子さん、南瓜達を返してー!」
「きゃああ、なんなのっ! なんなのあんた達っ!」
素早く動いたのは幽霊仮装のマーオと狼男仮装のザド。
二人は当初の予定通り魔女っ子を捕獲するため地面を蹴り飛びだす。だが魔女っ子の方とてそう簡単に捕まりはしない。素早く体を上昇させ突撃を避けた。
だが飛び出した方は止まれないのが世の常。
魔女っ子が消えた瞬間二人はぶつか――――、
スカッ。
「…………今ザドがマーオの身体をすり抜けたな」
「うん、抜けたようだね」
「わーん! ルドー! 前がみえないぃ〜!」
「あれれれ? ザドにテーブルクロスもっていかれちゃった。てへ、失敗失敗っ!」
狼の仮装をしたザドに掛かったテーブルクロスを引っ張りながらマーオが舌をちろりと見せる。
マーオは幽霊の為基本的に物をすり抜けてしまう。意識していれば物質に触れることも出来るが、不意打ちで気が抜ければこういう事もある。
魔女っ子の姿を追ったのはルド。
黒い翼を大きく広げ速度をつけて追う。魔女っ子は自分が捕獲対象である事に気付くと魔法のステッキを振った。
だがその前にルドは懐から拳銃を取り出し構えた。指先を引き金に引っ掛け完全に魔女っ子が魔法を仕掛ける前に打ち込む。
それはもう、ハロウィンらしく。
―― パンパンパンッ!!
「きゃあっ! 何、なんの音なのっ!?」
「――この隙、逃さないよっ」
飛び出してきたのは鉄の弾ではなく万国旗と紙ふぶき。
発砲音で吃驚した魔女っ子は隙を見せてしまう。その隙をライラは見逃さない。勿体無いと思いつつも自身が作った焼き菓子の一つを掴み、勢い良く投げ飛ばした。
見事に其れは魔女っ子の手にぶつかり、彼女は魔法のステッキを落としてしまう。
ステッキが無ければ魔法は使えないも同然。宙を浮いていた魔女っ子の体がぐらりと揺れ、地面へと落ちていく。
スピードを上げて墜落していく魔女っ子の下に皆駆け両手を伸ばした。
「――…………? 痛くない」
恐怖のあまり目を閉じていた魔女っ子の目が開かれると同時に零れる言葉。
そして彼女は知る。自身の腕が翼を持つ青年の手に捕まれている事、そして自分がゆっくりと地面に下ろされている事を。
爪先が地面に触れても力が入らずそのままへなへなと彼女は崩れ落ちる。
地上には他の三人も居り、もう逃がすまいと全員魔女っ子を取り囲んだ。ルドは飴細工の鎌を魔女っ子の体に引っ掛けて僅かに引き、捕らえる。四人は顔を見合わせ輪の中心に存在する魔女っ子にハロウィンらしく問うた。
「「「「トリックオアトリート?」」」」
ステッキはライラの手の中。
抵抗する術はもう無い。魔女っ子は見る見る内に悔しそうに表情を歪める。やがて全てを諦めたかのように両手を顔の横まで持ち上げた。
「っ、ぅ……悪戯よりお菓子が良いわぁ」
その瞬間、カボチャ畑に歓声が湧いた。
■■■■
「いやいや助かった。とぉーっても助かったぞう。これでカボチャ王国にも平和が戻るじゃろ」
「良かったねー!」
「本当、捕まってよかったねー!」
「魔女っ子も反省しておるようじゃ。この度の騒動はそれなりの罰は与えるものの、命まではとらん」
「命って……」
「暫くステッキはわしが預かっておく。これで魔女っ子も魔法が使えんしの」
のほほんっと王様がそう告げる。
だがふと皆一様に違和感を感じやがて現時点ステッキを持っているライラが片手をすっとあげ、異世界人代表として告げた。
「王様、手が無いのにどうやってステッキを持つ気なんだね?」
「……はっ!」
「刺すかい?」
「王様は体がでかい、流石に刺さらないだろ」
「ルド、考えが甘いよ。――王様を柔らかく茹でればいいんだ」
「それってりょう――」
「物は言い様、なのさ」
ふふっと不敵にライラが微笑む。
彼女のマントが風に撫でられ内側が星空の様に光り輝く。
相手のどこか楽しそうな、嬉しそうな言葉にザドは軽く肩を竦ませた。
その後、反省した魔女っ子に各々の世界に送り返されるまで何があったかは、また秘密のお話。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【3364 / ルド・ヴァーシュ / 男性 / 26歳(実年齢82歳) / 賞金稼ぎ / 異界人】
【3742 / ザド・ローエングリン / 中性 / 16歳(実年齢6歳) / 焔法師 / レプリス】
【2679 / マーオ / 男性 / 14歳(実年齢30歳) / 見習いパティシエ / 幽霊】
【eb9243 / ライラ・マグニフィセント / 女性 / 21歳 / ファイター / お菓子作り職人】
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■ ライター通信 ■
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こんにちは、発注有難う御座います!
全体的にお菓子で美味しそうなお話になりました。
あと今回は夏野IR様とのコラボ企画で参加して頂きまして本当に嬉しく思います。
■ルド様
発注を見て死神ー!と一人喜びました。いつもながらきびっとした発注を有難う御座いました。
今回は空中担当で飛び回って頂きました。あと、ちまっとした戦闘。普段が普段なだけに持っているものが愛らしくこちらもほのぼのさせて頂きました、有難う御座います!
■ザド様。
狼男なザド様はぴょんぴょん飛び跳ねて頂きました。
ほんわかプレイングを有難う御座います。ストーリー展開上一部活かしきれませんでしたがこのような形で。ですが個人的にその頭を撫でくりまわしたくなりました、と(笑)
■マーオ様
お久しぶりです!
覚えております&こちらこそ発注有難う御座いました!
久しぶりということで楽しんで頂けましたでしょうか? 幽霊なのにお化け仮装……と一人で受けておりました。なので幽霊であることをポイントに楽しく描写させて頂きました。通り抜けてみたりっ!
■ライラ様。
こんにちは、初めまして。
今回はハロウィンへの参加有難う御座いました! ライラ様には主にサポートに回って頂き助かりました。あとちまっと美味しいところも持って行って頂きましたので楽しんで頂けたらいいなと思います!
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