<パンパレ・ハロウィンドリームノベル>
『魔法の時間』
子供達がお菓子を求めて家々を回る、ハロウィンの夜。
人通りのない道を歩いていると、突如横切るように現れた馬車が、目の前で止まった。
オレンジ色のカボチャの馬車――ジャックオランタンの形をした馬車だった。
ぱかりと口が開き、中から顔を出したのは黒い三角帽子を被った子供の魔女だ。
「あなたをハロウィンパーティーに招待します。衣装は私が魔法で用意してあげることもできるよ。さ、乗って乗って!」
両手で腕を引っ張られ、馬車の中に引っ張り込まれる。
「私の魔法の効果は12時まで。夜中の12時の鐘が鳴ると同時に解けちゃうからね。どんな格好にする? 全て忘れて楽しんできてね」
少女はにっこりと微笑んだ。
蝋燭の淡い光に包まれたそこは、異質な空間だった。
甘いカボチャの匂いが漂っていて……ふわっと意識が宙を浮き、吸い込まれていく感覚を受けた。
* * * *
馬車から飛び下りた少女は、白くて長い階段を上って、開け放たれた扉を潜り会場の中へ入った。
大きな大きな部屋の中には、沢山の料理と沢山の生物がいた。
目を瞬かせながら、生物達を見て回る。
お化けの姿、動物の格好、人形のような姿の……人。
みんなみんな、変わった格好をした「人」だった。
少女――千獣自身も、人の姿とは違う。
尻尾と耳。それから肉球のついた手と足は獣のものだ。
でも普段とは違い、本物の獣ではなく縫ぐるみの獣のような、ふかふかでもふもふの可愛らしい手足だった。
「いらっしゃい」
白いメイド服をまとった女性が千獣に近付いて、軽く頭を下げた。
茶色の髪をした二十歳前後の女性だった。
「私はリミナ。皆さんのお世話がしたくて働かせてもらってるの。あなたは誰さんですか?」
「……私、は……千獣……」
「千獣さんですね。ようこそお越しくださいました。お席は、あちらがお勧めです」
メイド姿のリミナという女性が指した先は、農家の家族のような集団の姿があった。
そのグループの席には、野菜サラダに、野菜スープ、白米に、パンに、果物など、豪華ではないけれど、素朴な暖かさを感じる食べ物が並んでいる。
「食べるかね?」
リミナと一緒に近付いてみると、一番手前にいた老人が千獣に気付き、優しい笑みを浮かべた。
白髪に口を覆っている白くて長い鬚……。威厳が見え隠れしている老人なのだが、シャツにゴムのズボンといった、ラフで動き易い格好に、麦わら帽子姿だ。
「可愛らしいお手手だね」
「……あり、がと……」
出された林檎をふかふかな手で受け取って、千獣はしゃりしゃりと食べるのだった。
「大人の人に、トリック・オア・トリートって、言ってごらん? 魔法の言葉よ」
リミナにそういわれて、千獣は不思議に思いながらも長い鬚の男性の側に座っているやはり農民風の装いの長い金髪の女性に近付いた。
「とりっく……おあ、トリート……?」
「ふふ……。はいどうぞ」
女性はテーブルの上から、キャンディを1つとって、千獣に渡してくれた。
「……ありがと……っ」
お礼を言った後、リミナに不思議そうな目を向ける。
「あっちの男性にも魔法、効きそうよ?」
リミナに言われて、千獣はまた次の男性の下に向かっていき、大きな体をした青い髪の男性に尋ねるのだった。
「とりっく、おあ、とりーと……?」
「む。……これでどうだ。泣かれては困るしな」
強面の男は、精一杯の笑みを浮かべながら、千獣にクッキーをくれたのだった。
「……ありが、とう……」
千獣はぺこんと頭を下げる。
「はい、この籠を持ってるといいわよ。子供が近付いてきて魔法の言葉を言ってきた時には、千獣さんもお菓子をあげてね」
「……うん……」
千獣はもらったキャンディとクッキーを、リミナから受け取ったちいさな籠の中に入れた。
「ルディアだって、立派なレディなんだから。踊りだって踊れるんだよ」
ライトに照らされた舞台では、ドレス姿の女性が扇を持って踊っていた。
「エスメラルダさんのように、ルディアも店持てるかな? マスターに頼んで2号店任せてもらえないかな〜」
体を左右に振っているだけの踊りだけれど、本人はとても楽しそうだった。
「その外見でその服は合わないんじゃない? 逆にみっともないって」
くすりと笑い声が響いた。
舞台で踊る少女には届かなかったようで、彼女は変わらず楽しそうに踊っている。少女は胸元が大きく開いた黒いドレスを着ているのだが、確かにあまり似合ってはいない。
「そんな言い方ないでしょ。でもちょっとまだ早いかなっていうのは同感だけど」
リミナがそう言いながら、トレーの上にワイングラスとボトルを乗せて、声の主の方へと歩く。
林檎を食べ終えた千獣は、きょとんとしながら、リミナについていくことにする。
蝙蝠の羽の形のアイマスクに、派手な赤いドレスを纏った女性がいた。
部屋の隅にある、豪華な椅子――まるで王様が座るような椅子に腰掛けている。
「おっ、ありがと」
女性はリミナからワインを受け取って、一口飲むと、リミナの側に立っている千獣に目を向けた。
「……トリック・オア……とりーと」
千獣は女性に近付いて、魔法の言葉を発っした。
「ふふーん。女王である私にお菓子をくれなきゃ、悪戯するだとぉ? いいよ、あげる。けどっ」
女性は千獣が持っていた小さな籠に飴をポンと飛ばして入れた後、千獣に手を伸ばして脇腹を擽った。
驚いて、千獣は飛びのいて近くの椅子へと飛び乗り、目を見開いてリミナを見る。
「あはははっ、私はお菓子をあげるけど、悪戯するぞぉ〜」
「もう、ルニナってば……。大丈夫よ、ちょっとした悪ふざけだから」
リミナが千獣に柔らかく微笑みかける。
千獣はちょっと不安を感じながらも、リミナの側に近付いて服の裾を軽く掴み、リミナの隣でじっとルニナという女性の顔を見つめた。リミナとよく似た女性だった。
「……きょう、だい……?」
「うん。私のお姉ちゃんよ」
千獣がそう訊ねると、リミナは微笑みなら首を縦に振った。
「しかし、女王って窮屈ね。一度はやってみたかったんだけど、自分で食べたいものも取りに行けやしないし。んー、近付いてくる子に悪戯したり、近付いてくる下僕に足をお舐めなさい〜とからかってみたりする程度しか楽しみがなーい!」
「……なめ、る?……足、ケガしてる、の……?」
千獣が心配気に言葉を発すると、そのルニナという女性はごく軽く驚きの表情を浮かべた。
「おっと、純粋な子だったか。大丈夫。足、怪我してないよ。さっきのはホントちょっとしたお遊びだから、気にしないでね」
ルニナは千獣に手招きをする。
千獣はリミナに目を向けて、リミナが微笑みながら頷くのを確認してから、ルニナの元に歩いた。
「はい、お詫びにプレゼント」
ルニナが再び千獣にくれたのは――みずみずしい果物の山だった。
「あり……がとっ……私、も……」
千獣は両手で受け取ると、急いでリミナの元に戻ってリミナに果物を預ける。
それから自分の籠を、ルニナに差し出したのだった。
「……え、っと……とりーと……おあ・とりっく?」
千獣が一生懸命そういうと、ルニナとリミナは声を上げて笑った。
「うん、言いたいことはわかる。お菓子をプレゼントしてくれるって意味だよね。ありがと! ……えっと、名前は?」
「……千獣」
ルニナが千獣の籠を受け取った途端、千獣の顔に笑みが浮かんでいく。
ルニナとリミナも同じようにとても嬉しそうな笑みを浮かべていて――。
それから3人で一緒に、お菓子と、果物を食べることにした。
舞台の少女の踊りを観賞して、農民に仮装した集団の元に、お礼のお菓子を配りに回って。
笑い合いながら時を過ごし、気付いた時には、12時に近付いていた。
「ありがと!」
「楽しかったわ」
「……私も、ありが、とう……!」
11時59分。パーティー会場から出て階段の前で3人は別れた。
千獣は階段を飛ぶように下りて、ジャック・オ・ランタンの馬車へと急ぐ。
もうすぐ、魔法が切れてしまうから。
本当は、もっと遊んでいたかったけれど。
この安らぎをずっと感じていたかった、の、だけれど……。
「あら?」
千獣が走り去った後、リミナはルニナと共に階段の半ばに落ちていた物を拾い上げる。
「耳飾り、だね」
「そうね。また……会えるかしら」
「会いたいね」
リミナとルニナは馬車が走り去った先を、見つめ続けた。
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【3087 / 千獣 / 女性 / 17歳 / 異界職】
NPC
リミナ
ルニナ
ルディア
農民姿の老人(聖獣王)
農民姿の女性(エルファリア)
青い髪の男性(レーヴェ・ヴォルラス)
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ライターの川岸満里亜です。
ハロウィンノベルのご発注ありがとうございました!
幸せなもう一つの出会いを描かせていただけて幸いです。
優しい時間に癒されました。
また何かの際にもどうぞよろしくお願いいたします。
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