<PCクエストノベル(2人)>
『悪者退治と温泉〜ハルフ村〜』
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【冒険者一覧】
【2854/桃園めぐみ(ももぞの めぐみ)/異界職】
【0385/八俣智実(やまたともみ)/16歳の人間】
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ハルフ村は、一昔前まではただの田舎に過ぎなかったが、温泉が湧き出た事でその名を全国に知られるようになった。
聖都から訪れる者も多く、今では様々な町からの定期便があり、誰でも手軽にこの村に訪れる事が出来る様になった。村人達も、温泉を良い観光資源と考え、施設を整備して今では岩風呂、檜風呂、美人の湯等、多種多様の風呂が作られ、内風呂も露天風呂も楽しむ事が出来る様になった。今では大きな宿屋や土産屋がこぞって作られ、屈指の観光地となっている。
しかし、人が多く訪れるという事は、それだけ治安も悪化する事にもつながるのだ。特に観光客が良く被害に合うのが、スリであった。スリ集団は組織的に動いているらしく、巧妙な手口を使って観光客達の金目のものを盗んでいくのである。
貴重品から手を離さない事が鉄則だが、ついうっかり、というところを狙って、スリ達は盗みを働くのであった。ハルフ村の村人達も、それをのさばらせておくわけにはいかず、観光客に注意する様に呼びかけをしたが、年々多くなる観光客に、なかなか注意を浸透させる事は出来なかった。
そこでハルフ村の村人達は、聖都へ警備員を派遣してくれる様に頼む事にした。聖都につわもの冒険者が集まってくる事は、この離れた場所であるハルフ村でも有名なことであったからだ。
智実:めぐみちゃん、ハルフ村でスリが横行してるんだって。
めぐみ:あの有名な温泉の村ね。人が一杯集まるから、悪い人も増えるのかしらね。
智実:そうだろうね。前に、スリで稼いでいる輩から聞いたことがあるよ。観光地に人が一杯集まってどんどん賑やかになってほしいって。そうすれば、自分達はもっとスリを働く事が出来るからって。
智実は、町の人々からの噂で、ハルフ村にスリが頻発するということを聞いていたのだ。
そして、今朝、白山羊亭にハルフ村からのスリ対策の依頼が出されているのを目にし、親友であるめぐみに声をかけ、一緒にスリ退治へ向かおうと思ったのであった。
めぐみ:そんなのをほっといたら、あのハルフ村もどんどん治安悪くなっちゃうわ。智実さん、すぐにハルフ村へ行きましょう!
智実:事件を解決したら、温泉へ入れるかもしれないよね?
めぐみ:そうね。それも楽しみかも!
外見こそ可愛らしい女性二人であったが、その戦闘力は、平凡な冒険者の男を上回るだろう。そうでなければ、観光地のスリ退治など受けたりはしない。
智実とめぐみは、ソーンから出発するハルフ村への定期馬車に乗り込み、すぐに村へと出発した。
二人の乗った馬車には、他にも観光客と思われる一般人が乗り込んでおり、カップルや家族、友人同士等年齢層も様々であった。皆、温泉へ入るのが目的の様で、どの者も楽しそうに目を輝かせ、言葉を弾ませていた。
ハルフ村にスリが出没する事は、村人が注意を呼びかけているので、観光客の誰一人知らないということはないだろうが、少なくともこの馬車に乗り込んでいる人々は、そんなこともすっかり忘れている様子であった。
智実:ああやって浮かれている人を、スリは狙ってくるんだよね。
めぐみ:うん。でも、あんなに楽しそうにしている人たちに、スリが出るから浮かれてちゃ駄目よ、なんて言えないわよね。あの盛り上がりに水を差すなんて事は。
智実:そうだよね。めぐみちゃん、あの人達の為にも頑張ろうね。人の物を盗んでいい気分に浸っている悪い奴らを、こらしめてやらなきゃ!
智実とめぐみは、馬車に揺られながら視線を交わし、共にこの依頼を必ずやり遂げる事を誓い合うのであった。
やがて馬車はハルフ村へと到着した。ソーンに比べるとかなり小さな村ではあるが、あちこちから湯気がたっており、ここが温泉の名所である事を語っていた。
湯畑があちこちにある様で、そのまわりでは屋台で湯の花を売っていたり、温泉の土産屋や休憩所、食事処が軒を並べており、聖都とは違った賑やかさがあった。
めぐみ:うわあ、凄く賑やかね。
智実:人も一杯いるね。確かに、こんなに沢山いたらスリもやりやすいだろうね。
めぐみ:智実さん、どうやって犯人達をおびき寄せようか?
智実:囮作戦がいいと思うよ。なるべく目立つ所で騒ぎましょう。あからさまに油断して見せかけるんだよ。
智実とめぐみは、この村で一番大きな湯畑の前に行き、そこで観光客のフリをして騒ぐことにした。遠くからでも目立つ桃色の大きな鞄をそばに置き、そこにいかにも貴重品が入っているかのようにダミーの空の財布を鞄から覗かせた。
智実:めぐみちゃーん、この入浴剤、すっごくいい香りだよ!
めぐみ:智実さん、このお菓子食べてみて。このあたりの名物のお菓子なんですって。凄く甘くて美味しいの!
智実:あっ、見て見て!あそこに格好いい人いるよー!
めぐみ:え、どこどこ?あー、凄い!イケメンねー!
2人は、いまどきの女の子を装い、温泉観光にすっかり夢中になるフリをしていた。地面に置いた鞄のことはすっかり忘れている、という事をスリ集団に見せることが重要であった。はしゃいで自分の荷物の存在をすっかり忘れている、か弱そうな女の子2人なのだ、スリにとっては格好の獲物だろう。
2人が湯畑のまわりではしゃいでいると、20代前半と見られる若い男が、観光客に混じって智実が置いた鞄に近付き、何食わぬ顔で鞄を持ち去っていった。
智実は視線でめぐみに合図をした。めぐみもスリが出た事にすでに気づいていたのだろう。彼女の表情も、それまでの楽しそうな観光客然としたものから、きりっとした真面目な表情へと変化をする。智実とめぐみは、男を追いかけた。
だが、突然目の前に、大きな看板を持った、20代半ば位の男女が現れ、智実とめぐみの進路を塞いでしまった。
智実:めぐみちゃん、逃げられちゃう!
めぐみ:大丈夫、任せて!
めぐみはそう叫ぶと、新体操用のリボンを取り出し、可憐にジャンプをすると邪魔をしていた看板の上部へと立ち、リボンをまるでムチの様にしならせて、鞄を持って逃走する男の体へと巻きつけた。
急に看板の上に着地した為であろう、看板を持っていた男女は看板を地面に落とした。めぐみはさらにもう片方の手でリボンを取り出し、看板から降りると男女をまとめてリボンで拘束したのであった。
この男女がただの通りすがりでない事は明らかだろう。看板でめぐみと智みの進路を塞ぐことで、鞄を盗んだ男の逃走を手助けしていたのだ。
だが、新体操を得意とし、しなやかな体を持つめぐみにはそれもあまり有効ではなかった。めぐみはその二人の妨害の合間を縫って、逃走する男をリボンで捕らえたのだ。
智実:残念だったね!
智実は大き目の剣を取り出して、その鋭く光る刃を、3人へと見せ付けた。
智実:痛い目に遭いたくなければ、ここから撤退することだね!
めぐみ:楽しそうな人達の金目のものを盗んで自分が潤うなんて許せないわ。もし、これ以上悪さを続ける様なら、智実さんと私で容赦なくおしおきするわよ。
2人はスリ集団を睨み付けた。スリの3人はしばらく顔を見合わせていたが、やがて鞄を盗んだ男がケッ!と舌打ちし、仲間を連れて撤退すると言い出したのであった。
智実:やっと観念したみたいだね。と、その前に僕の鞄、返してもらうよ!
智実は男から鞄を取り返した。スリ集団達は悔しそうな表情こそしていたが、智実とめぐみにこれ以上抵抗しようとはしなかった。この2人の少女に勝てると、思わなかったからだろう。
智実:ちょっと甘かったかなあ。やっぱり、あのまま聖都に連行するべきだったかも。
めぐみ:痛い目を見たんだから、改心してくれるといいんだけどね。
智実:僕もそれを願っているよ。でももし、あいつらがまた悪さをしたら、めぐみちゃんと2人で今度こそ捕らえにいかなきゃね。
智実とめぐみは、先程の湯畑のそばにある、入ると美人になるという温泉に入っていた。露天風呂になっており、村の景色をよく見る事が出来た。
事件を解決した2人は、せっかくここまで来たのだからと、温泉へ入って事件解決後のゆるやかな時間を楽しんでいた。温泉の心地の良いお湯に浸っていると、日頃の疲れも消えてしまいそうになる。
めぐみ:この温泉は入ると美人になるらしいけど、私、美人になってる?
智実:なってるなってる。ここに来る前よりも、微妙にね。
めぐみ:微妙に?もう、何その表現!
温泉を楽しんだ後は、美味しい料理を食べて、宿に泊まっていく予定だ。友人同士で来るにはハルフ村はぴったりであった。
毎年色々な人がやってくる村であるから、またこの村で事件が起こるかもしれない。もちろんその時は、智実とめぐみのコンビが、悪者を退治するつもりだ。いつかこの村へ、何の心配もせずに観光に来られる事が出来る様にするのが、智実とめぐみの願いなのである。(終)
◆ライター通信◆
発注有難うございます!WRの朝霧青海です。クエストノベルの発注、どうもありがとうございました。
事件が発生している、とありましたので、観光地ではよくありがちなスリ集団を捕まえる、という内容にしてみました。可愛らしい女の子二人だったので、スリ集団も油断していたのでしょう。
ラストの温泉へ入るシーンと、囮作戦の部分は、観光している友達同士の女の子、という雰囲気が出るように描いてみました。湯畑のある温泉町は、草津を参考にしてみました。
楽しんで頂ければ幸いです。
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