<PCシチュエーションノベル(グループ3)>


+ ララ香辛料店隊商護衛―ただいま!― +



「見ろ、エルザードが見えたぞ!!」


 馬車の先頭で馬を操っていた男が先を示す。
 アルフォランス村からエルザードへの道中、盗賊団に襲撃され危うく荷を奪われそうになった彼らにとってそれは緊張が解ける魔法の言葉のようなものだった。
 他の面々も顔を勢い良くあげ、男に倣う様に道の先へと視線を走らせる。
 後方で護衛をしていたルドも自身の翼を広げ高く飛び上がると街の存在を確認し、下で待機しているザドへと声を掛ける。
 ザドの居る場所からはまだ街の存在は確認出来ない。だが進むにつれザドの目にも懐かしいエルザードの町並みが見えてきた。


「おお! 無事帰ってきたぞー!!」
「はぁー、これでやっと温かいベッドで寝れるんすね。暫くは野宿は遠慮するっすよ」
「俺は家族んとこにやっと戻れるっつー幸福感でいっぱいだよ」
「お前んとこは新婚だからなぁ」


 街、そしてララ香辛料店の前へと荷を付ければ、隊を待っていた商人達が店から出てくる。
 彼らは隊商の帰還をそれはもう首を長くして待ち望んでおり、しかも途中襲撃にあったと聞かされれば喜びも一入だった。
 加えてアルフォランスの状態を確認すればそれはもう上質であることが分かり、商人魂に火が付く。今すぐアルフォランスの到着を心待ちにしていたお客様に売ってしまいたい気持ちを抑えるのも一苦労だ。


 ルドとザドも荷を店内に運び入れるのを手伝う。
 だがその途中でマーディーに呼ばれ、二人は他の商人に軽く手を振って店の中に入った。


「二人が一緒に働いてくれて助かったよ。また仕事があったらお願いするね」


 そう言うマーディーは疲れた顔など一つも見せず、笑顔で。
 彼女は店の奥から今回の報酬が入った袋を持ってくるとルドの手に握らせる。彼は有り難くその報酬を頂くとまず中身を確認することにした。何故なら思っていた報酬より重たい気がしたからだ。


「マーディー、これは多すぎやしないか」
「危険手当が入っているよ。実際問題、盗賊団の手からあんた達は荷を護ってくれた。おかげさまで全員無傷とは言えないけれど、命は無事だ。アルフォランスにも傷は無いしね」
「そうか。では素直に貰っておく」
「そうしな。今回は本当に助かったよ」
「では俺達はまた荷を運び入れる手伝いを……」
「いや、そこはもう私達がやるさ。此処から先は商人の仕事だからね。さあ、二人はもう帰って疲れた身体をゆっくり休ませな。あんだけ暴れたんなら疲労も溜まっているだろう?」


 馬車から荷を運び入れる商人達の元へと二人が戻りかけると、マーディーが有り難い言葉を掛けてくれる。
 両手、片手ずつ二人の肩をぽんっと叩き、そして背中を押す。マーディーだって疲れているだろうに、そんな事など一言も口にはしない。それが商人というものかとルドは心の内で納得する。
 彼らにはまだ仕事が残っているが、素人である自分達にはもう手の出せない分野だ。
 ルドはザドの手を取ると、一度ぺこりと店のほうへ頭を下げる。マーティーもひらひらと手を振って見送ってくれていたが、彼らが通りの向こうへ移動すると彼女もまた忙しそうに店内へと入っていった。


 ザドは彼女の後ろ姿を不思議そうにその赤の瞳で見つめる。
 そしてきゅぅっとルドの手を握り締めた。


「ん? どうした」
「すごく、ふしぎな気持ちがする」
「不思議な気持ちって?」
「力をつかって、ありがとうって、いわれたのはじめてっ」


 今回の任務はアルフォランスと商人達の護衛なのだから彼らを護って当たり前の話だ。そういう契約で二人は動いていた。
 だが強すぎる力は使い方を間違えれば恐怖対象となる――それを悲しいかな、ザドは身をもって知っているのだ。
 だけどザドの心の中にはそれとは違うふわふわとした、もぞもぞとした、いわゆるどこかくすぐったい感情が芽生え始めている。
 それがなんなのかは良く分からず正しく口に出す事は出来なかったけれど、ルドにどういう気持ちなのか丁寧に伝えれば彼はそっと目を細めて微笑んだ。


 護衛だから護って当然――だが、マーディーの笑顔と感謝の言葉は彼女の心からのモノで、それがザドの心を響かせたのだろう。


「お前がそう感じているのならやっぱりこの仕事請けてよかったな」
「うん! 香辛料もすごくおいしかった! おちゃも!」
「今度から何か香辛料を買いに行く時はあそこに行くとするか」
「んっ!」


 何人かすれ違う商人達にも別れを告げると二人はアパートへと戻る。
 途中食料品店に寄ってミルクやパンを買うことも忘れない。エルザードを発つ前に腐るものは全て処分したので今アパートには食べるものが殆ど無いのだ。
 戻ってきた部屋はやはり長い期間離れていたせいかほんの僅か埃が溜まっているような気がしたので、すぐに窓を開いて換気をする。部屋の中を通り抜けていく風が篭っていた空気を外へと押し出し、やがて気分も落ち着いた。


 ザドは自分の愛用している画帳を捲る。
 そこには以前書いたルドの似顔絵や花の絵があり、それがやけに懐かしく感じて胸の奥がきゅんっとした。マーディー達と一緒に過ごした日々はとても楽しくて、賑やかで、……でもやっぱりこのアパートで暮らした日々には代えられないと気付いたのだ。


「長いこと離れていたけど、うちに帰ってきたんだね。……なつかしい、うれしい、どれかな。むねがきゅっとなる」


 思わず、というようにルドは口にする。
 キッチンの様子を確認していたルドは自分のスーツを脱ぐとそれを椅子に引っ掛けた。腰巻エプロンを掴むを装着し、そして買ってきたばかりのミルクを鍋に入れ火にかけた。それらを温めている間にマグカップを二つ用意する。後ろを見ればザドがクレヨンセットを持ち出してきて、何か描いているよう。
 ちらっと視線を寄せればそれは日記のようにも見えた。


「帰る場所があるってのは、いいものだな」
「ルドもおんなじ……?」
「……ああ」


 こぽこぽこぽ。
 湯気の立つミルクをカップに移し変え、適度に蜂蜜を注ぎいれて甘さを付ける。
 疲れた時や眠れない時にはホットミルクが丁度いい。ルドがそれをテーブルの上に滑らせると嬉しそうにザドが両手を伸ばす。
 エプロンを解きそれもまた椅子の背に引っ掛けてからルドもザドの正面に腰を下ろした。カップを両手で握ると温かく、そして目を伏せれば今までの事を思い出す。


 面接に行った時のこと、依頼を正式に請け負った時のこと。
 旅の始まり、そしてアルフォランスへの道中。
 村での宴も楽しかったし、村人たちもとても優しかった。
 盗賊達に襲われて大変な目にあったけれども、皆無事帰ってこられた。


 ザドはズボンポケットの中に仕舞い込んだままの「お使い」を思い出す。
 だが今はまだ休んでてもいいと思う。
 考えたいことも沢山あるけれど、今日はゆっくり休もうと考えた。


「ねえ、ルド」
「ん? どうした」
「今日はいっしょにねてもいい?」


 部屋には二段ベッドがあり、常ならば分かれて眠っている。
 だけど今日は――そう訴える瞳は真剣で。


 ルドは少しだけ無言になり、けれどぎこちなく天井へと視線を走らせ、次にザドの手元を見遣る。
 画帳には山と花畑が描かれており、真ん中には人物らしきものもあった。ザドにとって今回の依頼がどのような形で響いたのかはルドには感じ取れないが、本人にとっては絵に記したくなる程思い出深いものになった事はわかった。
 野宿の間は常に相手の体が傍にあった。
 その名残をすぐに消してしまうのも勿体無いような気がして。


「ああ、今日は一緒に寝よう」
「っ、やったぁ!」


 そうやって満面の笑顔でザドが笑うから、きっと自分はどんどん相手に嵌っていくのだろう。
 自覚はしていても、ルドはそれを止める事はしなかった。







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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【3364 / ルド・ヴァーシュ / 男性 / 26歳(実年齢82歳) / 賞金稼ぎ / 異界人】
【3742 / ザド・ローエングリン / 中性 / 16歳(実年齢6歳) / 焔法師 / レプリス】
【3755 / マーディー・ララ / 女性 / 25歳(実年齢25歳) / 冒険商人 / 人間】

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■         ライター通信          ■
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 長い旅となりましたが、お疲れ様でした!
 皆様無事エルザードに帰還されましたので、内心ほっとしております。本当に長い時間今回のお話を書かせて頂けたのでライターとしても本当に嬉しく思っております。
 どうか、今はおやすみなさい。
 疲れた身体を癒してまた元気なお二人がみれますように!