<PCシチュエーションノベル(ツイン)>
〜赤と白の幸せな朝〜
ふたりで買い物に出るのは久しぶりだった。
いつもはエバクトで済んでしまうことが多いのだ。
何しろ、節制しながら暮らしているので、余計なものを買うこと自体がほとんどないのである。
だが気分転換も兼ねて、散歩しがてら、たまにはのんびりと買い物をするのもいいだろうと、ふたりは聖都まで足を延ばしたのだった。
松浪静四郎(まつなみ・せいしろう)は、横を並んで歩く義弟の心語(しんご)を見下ろして、にっこり笑った。
「あとは雑貨屋に寄って、塩と小麦粉、それに香辛料を買って帰りましょうか」
「香辛料……?」
心語は少しだけ眉をひそめて、静四郎を見上げる。
「それは……だいぶ……高価なものだな……」
だが静四郎は笑顔のままで言う。
「もうすぐ新しい年がやって来ますからね。そのお祝いの意味も含めて、スパイスの効いた料理でも作ろうと思っているのですよ。たまには変わった味を楽しむのも良いことですからね」
いつも静四郎が懇意にしている、あの城の姉弟にも、美味しい新年の料理を届けるつもりなのだ。
せっかくの祝いの料理なのだから、大勢で楽しんだ方がいいに決まっている。
そのために多少奮発してもいいのではないか。
静四郎はそう思って、雑貨屋に足を向けた。
中に入ると、何故か店内は赤と白と緑にあふれていた。
ふたりは怪訝そうにそれらの飾り付けを見やり、だが、この国に伝わる何か特別なお祭りでもあるのかと思って――異文化にはふたりはかなり慣れて来ていたので――さして気にもかけずに買い物を始めたのだった。
目的の塩と小麦粉、それに香草の束と黒い種のようなもの――胡椒を買って、ふたりが店を出ようとした時、店の主人が満面の笑みを浮かべて、ふたりに何かを差し出した。
「これ、クリスマスのサービスだよ。持って帰るといい」
心語は、主人から手渡された、たくさんのリボンや小さな人形がついている、木の枝を束ねてリング状にした飾りをしげしげと見つめた。
店を出、トコトコと道を歩き出しながら、心語は首を捻る。
「兄上、くりすます、とは……?」
「クリスマス、ですね」
さり気なく心語の発音を直して、静四郎は紙袋を抱え、先日自分も同じ質問をして、勤務先の城で聞いた話をしてやった。
「わたくしも実際には祝ったことはないのですが、イエス・キリストという聖人が生まれた日のお祝いだそうですよ。その日は、一年を通して良い子だった子供に、サンタクロースという赤い外套をまとったおじいさんが、プレゼントをくれるとか」
「良い子……」
心語は過去一年間を振り返り、自分の行動が間違っていなかったかどうかを思い起こした。
難しい顔をしてかなりの間悩んでいる心語を見つめ、静四郎は可笑しそうに声を出して笑った。
「大丈夫ですよ。心語はとても良い子でした。きっとサンタさんは、あなたにも何かをくれると思いますよ。何かほしいものがあったらお願いしてみてはどうですか?」
静四郎はやさしく笑って心語に提案する。
まるで子供扱いをされているようで面白くない、と顔に書き、しばらく黙って吟味していた心語は、それはそれで悪くないと思い直すとこくりとうなずいた。
「どうすれば……?」
もしかしたら、念願の「あれ」が手に入るかも知れない。
そうなったら、きっといろいろなことが見違えるように変わるだろう。
エバクトへ向かう馬車へと乗り込み、静四郎は横に紙袋を置きながら、心語に言った。
「それでは、家に戻ったらやり方を教えましょうね」
家に着き、心語はさっそく静四郎からやり方を教えてもらった。
枕元に欲しい物を書いた紙を置いて、そのまま眠ればいいらしい。
そうすれば、眠っている間にサンタがやって来て、その紙に書かれた願い事をかなえようとしてくれるのだという。
いそいそとベッドに入る心語を見て、静四郎は後片付けをしながら、彼が寝入るのを待った。
少し後に聞こえてきた規則正しい寝息を合図に、足音を忍ばせて、心語の元へと近付いて行く。
丁寧に折りたたまれた、願い事を書いた紙を拾い上げ、静四郎はそっと、それを開いた。
「これは…」
思いがけない心語の「願い」に、思わず静四郎は苦笑して義弟の寝顔を見下ろした。
安らかに眠る心語の、それは心からの願いなのだろう。
「どうしましょうか…」
静四郎はため息をついた。
それは本当に、かなえるのが難しい願いだった。
数日後のクリスマスの朝――ぱちりと目が覚めた心語は、ベッドに吊るした靴下の中に何かが入っているのに気がついた。
靴下を取り、中身を取り出してみて目を見開く。
中からは、真新しいマフラーと手袋、クッキーやキャンディー等お菓子の詰まった袋と1通の手紙が出て来た。
手紙をひっくり返して、裏に「サンタクロースより」と書いてあるのを見つける。
ガサガサと無造作に手紙を開けると、「身長のような形のないものは贈れないので、お詫びにあなたの好きな甘いお菓子と、風邪を引かないようマフラーと手袋を入れておきます」と書かれていた。
心語はじっとその手紙を見つめた。
字は、少しにじんでいて、やや右肩上がりの不思議な形になっていた。
「……?」
心語はその字をどこかで見た覚えがあった。
さらにじっと見る。
わざと崩された字は、苦心して変えたものなのだろう。
その時ようやく、心語は「サンタ」の正体に気がついたのだった。
心語はベッドを降り、台所で朝食の支度をしている義兄に近付いた。
そしてその後ろ姿に向かって、朝のあいさつを述べた後、言った。
「……プレゼント……」
静四郎は振り返り、心語をやわらかく見つめた。
ぱちぱちと目を何度か瞬かせ、心語も静四郎を見つめ返す。
「……俺の……願い通りだった……」
内心でほっとしながら、静四郎は笑顔で応えた。
「良かったですね」
「……ああ」
素直にうなずき、心語は一瞬うつむく。
何かを考えているような様子の彼に、静四郎は怪訝そうに首を傾げた。
やがてゆっくりと顔を上げ、心語はその大きな目で訴えるように義兄を見て、こう言ったのだった。
「……サンタに……お礼が……したい……何が……いいだろうか……?」
〜END…?〜
〜ライターより〜
いつもご依頼、誠にありがとうございます!
ライターの藤沢麗です。
今年最後の幸せなお話を堪能させていただきました。
この後、心語さんは静四郎さんに、
どんな心のこもったプレゼントをなさるのでしょうか?
静四郎さんはきっと、どんなものでも、
とっても喜んで下さるだろうとは思いますが。
おふたりとも、うれしいクリスマスになることを祈っています。
それではまた未来のお話を綴る機会がありましたら、
とても光栄です。
今年一年、本当にありがとうございました!
来年もまた、お話の先を拝見させていただければ、
これに勝る喜びはありません…!
このたびはご依頼、本当にありがとうございました!
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