<WS・クリスマスドリームノベル>
Enjoy×Error Xmas
招待状
日ごろのご愛顧に感謝して
ここにささやかながらパーティの席を設けさせていただきました
皆様お誘いあわせの上、ご参加をお待ちしております
2009年 オーナー
高さ20階建てのホテルの最上階で行われるパーティの入り口では、ボーイが招待客を出迎える。
会場に着いたサクリファイスは、どうしても前のパーティの時に着たチャイナドレスによってソールが不機嫌になったのかが分からなかった。
だが、やっと今年になってチャイナドレスというそのものが、一般的に見て場にそぐわないものだったのではないか。と、思い至るまでにはきたが、不機嫌の理由に思い至るまでにはいかなかった。
それもあってか、今回のサクリファイスの格好はシックなワンピースタイプのロングドレス。
とりあえず、たぶん、これならばソールが不機嫌になることはあるまい。
ドレスにも合う小さなショルダーバックを手に、サクリファイスはあまりなれないエレベータで最上階まで昇る。
会場前では、ソールが今年はスーツで待っていた。
ここから見る限り、パーティ会場内で何かしらトラブルが起きているようには思えない。今年は本当に平和なただのクリスマスパーティが楽しめるだろうか。
しかし平和に見える会場でも、やはり今年も何かしら起こるんだろうなという気持ちを拭い去れないサクリファイスだったが、例年なんとかなってきたため、今年もなるようになるだろうと、ボーイに招待状を渡した。
ソールは前回の事から学び、サクリファイスをエスコートするように腕を組んで会場へと入る。
周りの華やかさに見とれ、しばらくは気がつかなかった。
だが、パーティの奥へと入っていく内に、何かがおかしいと感覚が告げてくる。
何がおかしいのかは、直ぐに分からなかったが、それはぴたっと足を止めたソールに振り返ったことで分かった。
「え! ソール!?」
ソールが身にまとっている見覚えのある正装。
「……………」
必要以上に沈黙して、むしろ絶句して硬直しているソール。
そして、サクリファイスは自分の服装を改めて確認する。
「え、ええ!?」
これまた見覚えのある服装。だが、ドレスではない。
恐る恐るといった態でソールをもう一度見る。見覚えがあるはずだ。ソールが今着ている服装は、ここへ来たときにサクリファイスが着ていた、あのワンピースタイプのロングドレスだったのだから。
そう、サクリファイスとソールの服は、交換されていた。
誰が、何故、何のために。
そんな事を考えたってまったく分からないし、もしかしてこのパーティを主催した人の演出? 演出だったら物凄く納得ができる。なぜならば、パーティ会場内の誰もが現状を受け入れ、誰もうろたえていないように見えるからだ。
……もし、うろたえられていたら、盛大にソールが凹んでいただろうが。
しかしうろたえるレベルに差はあれど、今の段階で結構きているようで。何だか背後にずーんと重たい空気を背負って超猫背状態で小さくなっているソール。
どう声をかけたものかと困るのも事実で、サクリファイスは言葉を捜して瞳を泳がせる。
しかし、こんな状況になって思うのは、チャイナドレスじゃなくて良かったなぁと、まるで他人事のように考える脳みそ。実際、少女顔というわけでも、華奢というわけでもない男が、そんな格好をしたって、回りが面白いだけで本人にとって見れば罰ゲームのようなものだ。
でも確か、スカートが民族衣装の地方を聞いたことがあるような気がする。
サクリファイスは、これだ! と、
「ほら、男性がスカートをはく風習がある民族だってある。ソールが今スカートになってしまっていても、おかしいことではないさ」
一生懸命のフォローだが、功を奏しているとは言いがたい。
「……知っている」
俯いたまま、ボソッと言葉を零したソール。
「……そういう民族が居るのは、知っている」
さすが知識の民と、感心しかけるが、そんなことに繋げたいわけではない。
「…………時と、場所が違う」
ずずずーん。
背負う黒雲の濃度が増したような気がする。
サクリファイスは、フォローをするよりも、どこかトイレでも個室でもいいから、服を元に戻すほうが解決になるだろうと、申し訳ないといった顔つきでソールの顔を覗き込む。
「この状態ではソールは落ち込んだままだ。そんな気分にさせるために誘ったわけじゃない。楽しくないなら、帰ろう」
諭すように優しく言葉をかけるサクリファイスに、ソールは少しだけ視線を上げる。
「………!!?」
なんて顔してるんだ!
眉間にしわを寄せ、ぐっと唇をかみ締めている。
いつもぶすっと余り表情が変わらないだけに、この変化は余りにも衝撃的過ぎた。
「何……?」
「あっ、いや、何でもないぞ」
しばし動きを止めていたのだろう。ソールに突っ込まれ、サクリファイスははっとして今の時と取り戻すと、取り繕うように両手を振る。
とぼとぼと着いてくるソールは、尻尾がたれ、拗ねた大型犬のようだ。
(可愛いと思ってしまうのは不謹慎だが、こんな子供らしい表情も出来たんだな…)
ついつい見た目と落ち着き払っている行動から忘れがちになるが、ソールはまだ少年と青年の中間辺りの年齢なのだ。
元々は自分が着ていたスーツの端を持って、会場から外へ出る。
瞬間、今まで個々に布で覆われていた両足が、一枚の布でくるまれている感覚に、はっとして振り返る。
「…………」
「…………」
服は元に戻っていた。
「やはり、変化は会場内だけなのか?」
そんなサクリファイスの呟きとも取れる疑問に、ソールはたぶんそうだろうと頷く。
だが、仮説を立証したいが、ソールにもう一度会場に戻る勇気はない。
また女の格好になるくらいなら、誘ってくれたことはありがたいが、このままパーティは不参加で一向に構わない。という心情のソール。今回だって、実のところサクリファイスが誘ってくれたから来たが、一人だけだったら会場に来ることさえしていなかっただろう。
加えて今の状況だ。きっと脱兎の如く逃げるなり、転移の言葉で逃げていたに違いない。
ソールはちらりとサクリファイスを見遣る。
その心配そうな表情に気持ちが重くなってきた。
そんなソールを伺うように、かける言葉を捜してサクリファイスはしばし瞳を泳がせる。
「楽しんで貰いたいと思ったんだけど……」
サクリファイスのせいではないが、結果的にそうなっていないことに、短く「すまない」と告げる。
「俺は、サクリファイスが良いなら、良いとか、大人な事は言えない」
だから、一緒に中には行けない。と、気落ちして謝るソールに、
「い…いや、私のことは気にしなくていいんだぞ? ソールが好きなようにしてくれれば良い」
サクリファイスはぶんぶんと手を振って、否定の言葉を紡ぐが、ちらりとサクリファイスを見たソールはすぐさま視線を戻し、小さくポロリ。
「……パーティ。楽しみに、してたんだろ?」
言葉少なに我を行くソールが、ちゃんと自分のことを考えてくれていたのが嬉しくて、サクリファイスは一瞬瞳を大きくする。
「それは……楽しみにしてなかったと言えば嘘になるけど、お互い楽しめなければ意味がない。そうは思わない?」
パーティは一人よりも大勢で、もしくは特定の誰かと。その中の誰か一人でも不快な思いをしてしまったら、自分が楽しみにしていたって全てが台無しだ。
ちらりと視線だけ向けたソールに、サクリファイスはふわっと優しく笑う。
「我慢してまで付き合ってもらうよりは、このまま帰って、そうだな…パーティほど豪華な食事は出せないけど、2人でクリスマスパーティをやり直すっていうのは、どう?」
にこにこと笑うサクリファイスに、ソールはしばし瞠目し、沈黙する。
「……そっちの方が、いい」
口元を隠すように手を当てて、流した瞳でもごもごと小さく返した。
時期ということもあってか、チキンやケーキなど、普段では店頭にならんでいないクリスマス独特の料理も簡単に手に入れることが出来た。
確かに出来合い物でなければ、鳥も材料も売っているため、やろうと思えばいつだって出来る。が、今からソレをしている時間はない。
サクリファイスとソールは適当に料理やシャンパンを買い込む。
場所は……あおぞら荘のホールでいいか。もしかしたら、彼らも居るかもしれないし。後片付けさえしておけば自由に使って良いとも言っていた。
「先に、行っててくれ。直ぐ行く」
「分かった」
サクリファイスは頷き、一度二人は別れ、それぞれの目的の場所へと向かった。
荷物を両手にして辿りついたあおぞら荘は、いつもよりも静かに感じた。
無用心とも思えるほど簡単に開いた玄関扉から、ドアベルの音が高らかに響く。いつもならばこれでルツーセが飛び出してくるが、今日は出てこない。
彼らだって出かけることくらいある。少々残念な気持ちにもなったが、サクリファイスは自動で明かりが灯ったホールを見回し、キッチンカウンターに一番近いテーブルに荷物を置くと、キッチンの方へと回りこんだ。
買った中で調理がされていない食材をキッチンに運び込み、大きな皿やらバスケットやらを出す。
(ソールが帰ってきた時、驚かせられるな)
オーブンを開けてチキンを放り込み、温め直しとスイッチを入れる。
その間、大皿にサラダを、パンを適度な大きさに切り分けてバスケットに並べる。
手伝うつもりがなくて先に行って欲しいと言ったわけではないと思うが、サクリファイスはてきぱきと作業を進め、ソールが戻ってきたらもう何もやることは無くなっていそうだ。
カラン。と、ドアベルが鳴り、テーブルに作ったものを並べていたサクリファイスは顔を上げる。
中に入ったソールは驚いたように瞳を真ん丸くして、その様を見つめ、
「一人で、やったのか?」
「待つだけじゃ、暇だから」
「すまない。ありがとう」
遅くなったことに短く謝る。そして、小さく言葉を紡ぎ、その手に花瓶のようなものを呼ぶと、テーブルの真ん中に花をつっこんでドンっと置いた。
真ん中に花があるだけで、いつものあおぞら荘のダイニングなのに、レストランにでも着たような気がしてくるのが不思議だ。
「……これ」
すっと緩く握られた拳がずいっとサクリファイスに向けられる。何事かと首をひねりつつも、その拳の下でカップを作るように両手を添えれば、その中に何かが落ちてきた。
「……クリスマス…プレゼント」
完全に外した視線で小さく告げたのは、きっと照れているからだろう。
「あ…ありがとう」
手にすっぽりと収まってしまうほどラッピングされた小さな箱。
「クリスマスパーティ。するんだろ?」
「そうだね」
シャンパンの栓を抜き、グラスに注ぐ。
ささやかに、仕切り直すように、二人だけのクリスマスパーティが始まった。
fin.
登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【2470】
サクリファイス(22歳・女性)
狂騎士
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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E×E Xmasにご参加ありがとうございます。ライターの紺藤 碧です。
お届けが大変時期はずれになってしまい申し訳ありませんでした。
サクリファイス様の身に起きましたErrorは男装・女装となりました。あまりにも一緒に居たソールのダメージが大きすぎたので。パーティ離脱してしまいました。(笑)
それではまた、サクリファイス様に出会えることを祈って……
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