<WS・クリスマスドリームノベル>
Enjoy×Error Xmas
招待状
日ごろのご愛顧に感謝して
ここにささやかながらパーティの席を設けさせていただきました
皆様お誘いあわせの上、ご参加をお待ちしております
2009年 オーナー
高さ20階建てのホテルの最上階で行われるパーティの入り口では、ボーイが招待客を出迎える。
キング=オセロットは、パーティ会場であるホテルのカフェで蘇芳が来るのを待っていた。
パーティに誘われたものの、やはり一人で参加するというのは些か味気なく、寂しい気もしたので、蘇芳を誘ってみたのだ。だが、やはりというべきか、年末は何かと配達物が増え、一緒に来るということはできず、現地集合ということになった。
コーヒーカップを口元に傾けながら、オセロットは今までのクリスマスを思い返す。
「ふむ……パーティ、か。例年通りだとすると何かしら起こるわけだが……さて、今年は何が起こるやら」
ふっと口元に笑みを浮かべ、オセロットはのんびりと待つ。何かしらトラブルが起こると分かっていた場合、もっとうろたえるものだが、オセロットはどこか楽しそうだ。
ふと、耳に聞こえた翼のはためきに顔を上げる。
視線に先には軽く手を上げる蘇芳の姿。
去年は母親が用意したというド派手な王子様スタイルだったが、今年はシンプルなスーツだった。
前回の事もあったからだろうか、今年はあまり照れることなく蘇芳をオセロットと腕を組んで、エスコートする。
エレベータを昇った会場入り口前、オセロットは小さなショルダーバックから招待状を取り出し、ボーイに見せると、蘇芳と共に会場に足を踏み入れる。
「ん?」
何か可笑しい。
オセロットは足を止める。
そもそも蘇芳の方が身長は高かったはずだ。なのにどうして自分はこのピンク頭を見下ろしているのだろう。
「ぎゃあああああ!!!」
その疑問は、蘇芳のちょっといつもより高めな悲鳴によってかき消された。
「ああ、なるほど」
可笑しい理由は直ぐに分かった。
会場に入る前は、コートにドレスだったはずなのに、今着ている服装はパリッと整えられたスーツ。それに加えて、豊満だった胸はストーンとした絶壁と化している。
そして、逆にスーツだったはずの蘇芳の服装はドレスに変わり、髪の長さはショートのままだが、体格は小柄になり、小さいながらも胸まである。
完全に性別が入れ替わっていた。
「って、何でそんなに余裕なんだよ!」
せっかく格好だけは着飾って綺麗な女の子になっているのに、中身は蘇芳のままのため、とてもアンバランスだ。
が、オセロットはそんなこと気に留めた素振りも無く、ふっと笑う。
「ハプニングは人生のスパイスと言うじゃないか」
そう、常識に囚われず、状況に応じて楽しめば良い。それがオセロットのスタンスでもある。
だから、性別が変わってしまったとしても、そのように対応すればいい。
半涙目でこの状況を一生懸命処理しようとしている蘇芳に、オセロットはふと視線を向けて、ふむ…と、小さく息を吐き、にやり――いやいや、にっこりと微笑んだ。
「では、お相手いただけるかな、蘇芳…姫?」
「!!!?」
すっと腰を折って片手を差し出したオセロットに、蘇芳の動きがぴたっと止まる。
今までエスコートされる側だったのだから、性別が変われば自分がエスコートする側…と、言ってしまえば聞こえは良いが、実際は、
「お…おまっ、絶対遊んでるだろ!!!」
というような蘇芳の叫びの通り、オセロットはもう状況に順応し行動を始めていた。
オセロットと腕を組んで、今にも沸騰しそうなほど真っ赤になって、拳で思いっきりスカートを握り締めつつ歩く蘇芳。今招待状を送りつけた主催者でも出てこようものなら、飛び掛っていきそうだ。
しかし、性別が変わるだけというのは、例年からすればとても些細な悪戯である。今年は何が起こるやらと思いつつ来たが、平和(?)なハプニングで良かったやら、拍子抜けやら。
まぁ…蘇芳にとっては、大きすぎる悪戯だったようだ。
慣れないスカートで緊張しまくっている蘇芳にオセロットはふっと笑って、近くを通ったウェイターから飲み物を2つ受け取る。
「どうだ? 最近は。配達は順調かな?」
蘇芳と初めて出会った時のことを思い出し、オセロットは少しでも緊張をほぐそうと問いかける。
「え?」
突然話を振られたことで一瞬瞳を大きくしたが、蘇芳は問われたことを思い出すように「あぁ」と呟いて、頬杖を着いて言葉を続ける。
「最近は、順調だな。ああいった連中にも絡まれねぇし」
「それは良かった」
中身ではなく蘇芳自身が狙われた事件が初めての出会い。その後、仕事を押し付けられることはあったが、何かしらピンチに陥ったというような話は聞こえてこなかった。確かにそれは順調という証でもあるのだが、やはり直接聞いた方がほっとする。
「何かあってからでは遅い……と、言いたいが、無理なのだろうな」
スピード命の配達業において、そのスピードを犠牲にする行為というのは、本当に危機迫った時以外考えられない。オセロットにも、それは、分かっているけれど、一応言わずにはいられなかった。
「心配してくれて、ありがとな。ま、オセロットも“走れる”ようになれば、一緒には行けるけど?」
「最初から無理と分かっていることを言うのは、デリカシーに欠けると思わないかな?」
「はは。悪ぃ。何か、ぱぱっと出来そうな感じがしたからさ」
「私はそこまで万能ではないよ」
いや、人間というものは総じて万能ではない。軽くこなしているように見えて、その裏にはちゃんと努力があるのだ。
「ところで、樹海の村のご家族は元気にしているかな?」
話題を変えようと思ったわけではないが、話の流れからふと思い出し、気になったのだ。その時、実際に配達の現場には居合わせなかったが、その後の報告で村には蘇芳の家族が住んでいると聞いている。そして、依頼を頼んだ理由も。
「ご家族っつても、あの村に住んでるの俺のじーちゃんだけなんだ。父さんは死んだし、母さんは…まぁ、元気だけど」
蘇芳の祖父の妹、つまりハイツラッソ夫人には配達で会っているが、彼女もエルザード暮らしだ。
「年に一度でも、孫に会えておじいさんは嬉しいと思うよ」
「そうだといいんだがなぁ」
顔を見せれば怒鳴りあってばかり。けれど、お互いを信頼しているからこそ怒鳴りあうことも出来るのだ。
受け取った飲み物をぐいっと飲み干して、蘇芳は改めてオセロットの格好を見遣る。
「それにしても、格好はスーツになってるけど、コートはそのまんまなんだな」
女性物のデザインではあるが、色が黒だからだろうか違和感が余りない。
「コートは性別の範囲内ではないということなんだろう」
「そういうもんなのか?」
「さぁ?」
こんなことを仕掛けた本人に聞けば分かるだろうが、悪戯を受けた側では分かるはずもない。
がくっと蘇芳の肩が落ちる。
ぐぅー。
次に腹の虫が鳴った。
「恥っず。仕事終わって直ぐだったからなぁ」
高速飛行の配達の後、休む暇もなく着替えて直ぐに出てきたため、今日はまだ何も食べていないのだ。が、折角着替えてきた服も今や無駄になってしまっているが。
「何か料理でも取ってくるとしよう」
オセロットはくすっと笑って席を立った。
料理が並ぶテーブルへと辿り着くと、その向こう側に見知った面々を見つけ、オセロットは料理テーブルを横切ると、その面々が座っているテーブルへと歩み寄った。
「やあ。コール達も来てたんだね」
笑顔で軽く手を上げて声をかけたオセロットに、面々はきょとんと瞳を瞬かせた。
なぜならば、今のオセロットは男性で、スーツを着ていたから。
「ま、まさかオセロットさん!?」
面々の内の一人、ルツーセが驚きに声を上げる。
「そのまさかだが? 何かおかしいかな?」
まるで計算しているかのような角度で、小首をかしげて微笑しつつ告げたオセロットに、ぶんぶんとルツーセは首を振る。
「何だか凄くかっこいいね! オセロットちゃん」
にっこりと笑って絶賛するコールに、まんざらでもない表情で返すオセロット。完全に楽しんでいる。
「ああ、すいません。オセロットさんにもご迷惑をかけてしまったようですね」
子供も居ないのに子供用の椅子を持ってきたルミナスが、オセロットの現状を見やり、ペコペコ頭を下げる。
「何故ルミナスが謝るのかな?」
が、理由を知らないオセロットはただ困惑するしかない。
「これはたぶん、アクラの仕業なんですよ」
「ふむ…アクラ、か……」
何故だろう。どうしてこんなにすんなり納得できてしまうのは。
ずっと何か起こったままでは困るため、どうしてこうなったのか気になってはいたが、こうもすんなり理由が判明してしまうとは。
「この会場から出れば、元に戻ると思いますが……」
この現状を楽しんでいるようにも見えるオセロットには、そんな気遣いは無用だっただろうか。と、ルミナスは言葉を止める。
「いや、原因究明をするべきかと思っていたんだ。教えてくれて助かったよ。これで、後はこのパーティを存分に楽しめそうだ」
ただ、それは連れの蘇芳次第とも言えるかもしれないが。
オセロットは自分も連れを待たせているからと、3人が居るテーブルから手を振って離れた。
ルミナス達と別れ、皿に料理を乗せて蘇芳が待つテーブルに戻ったオセロットは、少しふてくされて座っている蘇芳に苦笑いを零す。
「何かあったのかな?」
蘇芳は目線だけをオセロットに向け、体勢はそのままで、告げる。
「……ナンパされた」
「ああ……」
今は少女にしか見えなくても、中身はどうがんばっても男のため、男に声をかけられるなど、脱力や落ち込み以外の何者でもない。
「会場から出れば戻るそうだが、どうする?」
「オセロットは楽しそうだよな?」
ぶすっとした表情のまま蘇芳をオセロットを見上げる。
「楽しそうというか、起こった状況を素直に受け入れているだけさ」
蘇芳を見ていると、こういった状況に陥った場合、女性よりも男性の方がダメージが大きいものなんだなぁと、暢気にも思ってしまう。
「はぁあああああ…」
蘇芳の大きく長いため息が響く。
「なんか俺、情けねぇ――…」
何だか今度は別の方向で落ち込んでいる蘇芳に、オセロットは肩をすくめるように微笑む。
「気にすることはないさ。きっとそれが普通の反応だろうから」
今まで生きてきた性別がいきなり変わってしまうような状況に陥れば、誰だって混乱する。
「よし! 取り合えず、腹いっぱい食べるぞ」
蘇芳もこの場に居ることに腹を括ったのか、空腹に負けたのか、両頬をぱんっと叩いて体勢を整えると、料理をばくばくと食べ始めた。
「ふふ、そうするといい」
オセロットは新しい飲み物を受け取り、椅子に腰掛け、楽しそうにその様を見つめていた。
fin.
登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【2872】
キング=オセロット(23歳・女性)
コマンドー
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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E×E Xmasにご参加ありがとうございます。ライターの紺藤 碧です。
お届けが大変時期はずれになってしまい申し訳ありませんでした。
オセロット様の身に起きましたErrorは性転換となりました。ぶっちゃけ余り普段とそう変わってないです。一緒に居た蘇芳の方が大ダメージです(笑)。
それではまた、オセロット様に出会えることを祈って……
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