<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


+ クリスマス勝負―イクスの場合― +



「だりゃぁあッ!!」


 俺は術を発動させつつ剣を振り回し、モンスターを倒す。
 此処最近エルザード近くの森で人を襲っていた熊型モンスターは呻き声を上げながら場に身体を崩した。ズシン、と重い音と共に横たわった身体を見下ろしながら俺はふぅっといい笑顔を浮かべる。この仕事はこれで終わりだと清々しい心地でいっぱいだ。
 後は皮を剥いで証拠として依頼人に突き出せば文句なしだろ。


 さて現在クリスマス手前。
 世間は恋人同士のイベントだとか家族サービスをする良い機会だとかで盛り上がっているが、俺はそうじゃねえ。日々白山羊に舞い込む依頼を嬉々として受けれるだけ受けこなしている。
 傍から見れば俺は仕事狂いの様にも見えんじゃねえかと思う。だがしかし実はその裏には俺の野望がある。


 そう、それは夏の事。
 俺の誕生日にあんのチビ――ルルフェから贈られた誕生日プレゼントが原因だ。それも普段勝手に人の金を使うアイツにしては珍しく手作りのお守りという心温まるものを贈呈してきやがった俺はそりゃあもう悔しくて、……いや、う、嬉しかったのもあるけど、それよりも不意を突かれた事が悔しくて――まあつまり結局悔しさが増してしまったわけだが、やられっぱなしというのも俺の性に合わねぇ。
 今度のクリスマスは俺の方がルルフェに何か贈って驚かしてやると意気込んでいるわけだ。


 だが何をしようにも世の中金が必要だ。
 食うにも寝るにも物を贈るにも人を驚かすにも、だ。


 だからルルフェがいねぇ間に少しでも金銭を稼いでおこうとバイト仲間であるルディアにも話し時間をやりくりしてこうして依頼を受けているわけだ。
 俺としてはたまたま最近日帰りで充分こなせる依頼が舞い込んできただけで、別に他意はねえ。


「そう、依頼が来たのは偶然だからな、ぐ、う、ぜ、んっ! あー、くそぅ。こいつ皮剥ぎにくいッ」


 もしルルフェに何か聞かれたとしてもそう答えられる。
 モンスター討伐の証拠を剥ぎ取りながら俺はふっふっふっと笑みを浮かべ、剣を動かす。
 女が男に贈り物をするといや可愛らしいもんを想像するかもしんねえが俺はそうじゃねえ。
 これは俺とルルフェの戦いだ。常に物を贈ってきたり脱力するような言葉を吐いてくれやがるアイツへの復讐のようなものだ。


 幸いにもルルフェもいつも以上に外をふらふらしてやがる。
 これなら俺が依頼を増やしている事にも気付かないだろう。しかも日帰り。ルディアには今回の一件については相談済みだし、いざとなったら誤魔化すと約束してくれた。
 ああ、――俺の計画は完璧だ。


「ふっ、クリスマスは俺が勝ーつっ!!」


 ルルフェが目を丸くして吃驚する顔を想像しつつ俺は腕を振り上げて叫んだ。



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 さて、なんだかんだ言ってクリスマス当日がやってきた。
 路銀稼ぎとしてバイトさせてもらっている白山羊亭でもいつも以上に人が多く集い賑わっている。ウェイトレスの制服姿で客から客へと渡る俺もマジで忙しい。「イベントなんか来なくてもいいのにッ」とは思うが、店の景気が良くなると自分の懐に入ってくる賃金も増えるので口には出せねぇ。
 人の尻を撫でようとしてきた酔っ払いのオッサンの手の甲をぎりぎりと指先で抓り上げながら笑顔を浮べていれば奥の方からルディアが俺を呼ぶ。


「イクスさんー、休憩に行っていいですよ〜」
「お、マジで? じゃあちょっくら休憩に行ってくるな。とと、そうそう、例の件だけどもしルルフェが俺のことなんか聞いてきたらよろしくなっ」
「はい、お気をつけて〜。あ、例の件もちゃんと覚えてますよ。ルルフェさんの足止めは任せて下さい!」
「おう、任せた!」


 俺は制服の上からコートを掴み羽織るとそのまま外へと歩き出す。
 目指すはルルフェお気に入りのケーキ屋さん。予約しとかねえと当日じゃあっと言う間にケーキが売り切れになってしまうそりゃあもう美味い店だ。
 そこのパティシエにも俺の計画を話し「ルルフェに何も言わない、ケーキを買おうとしても買わせないように」と言い含めてから、一ヶ月前からケーキを特別注文して頼んでおいた。
 俺が顔を見せるとにやついた笑顔で完成したケーキを取り出してくる。生クリームとフルーツがたっぷり乗せられたそれに思わず俺も唾を飲む。


 ごくり。
 いや、いやいやいや、これを食すのはルルフェの驚いた顔を見てからだ。今は我慢だ、我慢。


「どうだ、美味そうだろう」
「おうよ、サンキューな!」
「お前の計画の為にレシピを一から見直して味付けもルルフェ好みにしてあるからな。絶対に成功させろよ」
「もちろんだ! 成功したら報告にくるから楽しみに待ってろよッ」
「ふふ、もちろんだとも」


 金を払い包んで貰ったケーキを受取ってパティシエに礼を言う。
 ぐっと親指が立てられたので俺も指を立て返す。これで失敗したら今度こそ末代まで恥だからな! 絶対に失敗するものかッ。


 次に向かうは雑貨店。
 そこではチビなアイツのためにこれまた特別注文しておいた品を受取る。太さは俺の指一本分、そこから二十センチ程度の紐状のそれはいわゆるマフラー。
 チビすぎるアイツのサイズじゃ既製品は厳しいからな。そりゃあもうオーダーメイドするしかねえって話だ。
 注文する時は店に置いてあった人形をモデルにあーだこーだと店員と話し合いを重ねた事を思い出す。色だとか形だとか模様とか――結局は赤一色に白綿を付けたシンプルなものになったっけ。


「あっと、この帽子も包んで。女性用向けの包装で宜しく」
「こちらはピンクのリボンでよろしいでしょうか?」
「ん」


 マフラーを待っている間店内を見ていればルディアに良さそうな帽子を見つけた。
 ルディアにはいつも世話になってるからな。そりゃあもうバイトから依頼の斡旋、それに今回の様に俺とルルフェのあれやこれやまで。
 そんなルディアに何もしねえってのはそりゃあもう礼儀知らずだ。


 ケーキと二人分のプレゼントを抱えて白山羊亭に戻ってくれば、ぱたぱたと小さな羽音が聞こえる。
 昆虫の様に細長く透けた羽を背に持つあいつ――ルルフェがぷぅっと頬を膨らませていた。なんだ、拗ねてるなんて珍しい。


「なんでかなー、なんでケーキ売ってくれなかったんだろう〜っ。折角のクリスマスなのにケーキ無しなんてボク寂しいよぉ!」
「なんででしょうねぇ〜」
「お店の人ずっとにやにやしてたし、絶対アレ何かあるよ!」
「クリスマスですから、ケーキ屋さんにも考えることがあったんですよ、きっと」
「考えることって?」
「そりゃあもう楽しいことに決まってますよ。あ、イクスさんおかえりなさい」
「え、イクス!? わーい、イクスおかえり〜っ!!」


 ルディアと会話していたルルフェだが、俺が帰ってきた事に気付くと一直線に飛んでくる。
 思わずそれをプレゼントの袋で叩き落し……かけたが、なんとか踏みとどまって避けるだけにしておいた。クリスマスに流血沙汰は流石に避けたいからな。
 だが勢いが付きすぎて壁にぶつかっている姿を見ると叩き落した方が良かったのか?


「やる」
「うー? これなぁに?」
「クリスマスプレゼント」
「ぇ!?」


 俺はケーキとルルフェへのマフラーを取り出し、カウンターの上においてすっと指先で滑らせた。
 鼻先を小さな手で擦っていたルルフェはその豆粒ほどしかねえ目をそりゃあもう大きく見開いて、俺とプレゼント達とを交互に見る。


 そう、その顔が見たかったんだっ!
 金色の瞳が俺を写し、信じられないというように驚愕の色を浮かばせる。意外そうにすればするほど俺は満足な気分で幸せなっていく。だってこの計画はルルフェを驚かせることが第一目的なのだから!


「うわー、うわー、このマフラーちゃんとボクのサイズだぁ!」
「オーダーメイドだからな」
「わーわー、こっちのケーキもボクが好きなお店のだっ」
「予約して特別に頼んだ」
「あ、だからボクはケーキを売ってもらえなかったんだ!」


 包装を解きマフラーを取り出せば満面の笑みを浮かべやがる。
 もっと驚け、俺が夏の日受けた衝撃はそんなもんじゃねえ。ケーキを見ろ、お前の好みに合わせて製作してもらったんだからなっ。
 嬉しそうに何度もマフラーを撫で、巻きなおしてはまた巻いて喜ぶルルフェに俺は満ち足りた心地になる。


「ね、イクス。手を出して」
「んぁ? なんだよ」
「はい、ボクからのクリスマスプレゼント。今年も寒いって聞いたからね。風邪引かないようにこれ使ってよ」
「お前、これって」
「ちゃぁーんとボクが働いてお金を貯めて買いました! イクスのお金じゃないから安心して受取ってよねっ!」


 ぽん、と乗せられたのは赤い手袋。
 しかもまるで俺が今コイツに渡したマフラーと対になるような鮮やかな色だ。……いやいやいや、対になんかなってねえぞ! 俺もこいつも別に示し合わせて買ったわけじゃねえんだからッ!
 っ〜ッ、ちょこちょこ居なくなってたのはこれのせいか。また頑張って働いてきやがったのか――あの夏の日の様に。


「イクス、照れた照れた?」
「照れてねえ!!」
「えへへ〜、これ大事にするね。ありがとう、お礼にほっぺたにちゅーしてあげようか」
「いらねええッ!」


 ふよーと飛び上がり俺の頬に顔を寄せようとするルルフェ。
 だが、反射的に叫んだ声と共に振り上げた手がそれを拒む。あらあらまあまあ、なんてほんわかとした空気を背負いながらルディアが微笑んでくるが、俺の心中はそんな和やかじゃなくて。


「くそっ、これじゃあ完全勝利じゃねえじゃないか」
「なんの話〜?」
「なんでもねえよ!」


 次こそ出し抜くと心に誓いつつ、俺は熱の集まる頬を撫でつつ仕事に戻ることにした。






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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【2357 / イクスティナ・エジェン / 女性 / 17歳(実年齢17歳) / 第三級術煉士 / 人間】
【2358 / ルュ・ルフェ・メグ・メール / 男性 / 13歳(実年齢237歳) / <声>の紡ぎ手 / フェイメル・シー】
【NPCS003 / ルディア・カナーズ / 女性 / 18歳 / ウェイトレス / 人間】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、初めまして! 発注有難う御座いましたv
 クリスマス、そしてイクス様サイドを描かせていただきました。全体的にテンションの高い話になりましたが如何でしょうか?
 良いコンビ2人+1、どうか良いクリスマスをお過ごしくださいませ!!