<WS・クリスマスドリームノベル>
Enjoy×Error Xmas
招待状
日ごろのご愛顧に感謝して
ここにささやかながらパーティの席を設けさせていただきました
皆様お誘いあわせの上、ご参加をお待ちしております
2009年 オーナー
高さ20階建てのホテルの最上階で行われるパーティの入り口では、ボーイが招待客を出迎える。
小さな幼子の手を引いて、千獣はパーティ会場の入り口前まで来ていた。
蒼黎帝国の衣装に身を包んだ蓮は、まるでお人形のようだ。
かく言う千獣もいつもと違い、薄紫の漢服と着物を足して2で割ったような衣装に身を包み、いつもとは趣きが違っている。
「人、いっぱい」
入り口から見える会場内は、すでに招待された客や、トレイを持ってドリンクを配っているスタッフなど、多くの人たちが行き交っている。
楼蘭の町でさえも、一度にこれだけ沢山の人たちが集まるような場所に出向く機会は無いため、蓮は珍しいものを見る目で興味の一点を会場内に向けていた。
「蓮。手、繋ご……」
千獣は今にも駆け出していってしまいそうな蓮に手を差し出す。
ぎゅっと握り返された手に、千獣は微笑み、パーティ会場へと向かった。
エレベータという乗り物は、空を飛べない者が一気に空へと駆け上がる機械だが、自らの翼で飛べる者が乗ると、余りいい気分ではないようだ。
一気に変わる微かな気圧の変化。他の招待客らしき人々は気にしていないため、きっとそれが普通なのだろう。
千獣は蓮の手を引いて――はとても楽しそうだったが――パーティ会場の入り口に向かう。
入り口から見えるパーティ会場内では多くの人がダンスをしたり、歓談したり、料理を食べたりしている。
これなら目的である蓮に世間を触れさせることが達成できそうだ。
千獣は一度蓮に微笑みかけ、ボーイに招待状を渡し会場内へ足を踏み入れる。
会場内に入った瞬間、するりと蓮の手から千獣の手が離れ、蓮は一度自分の手を閉じたり開いたりを繰り返し、それから辺りをきょろきょろと見回す。
「セン?」
千獣の姿が見当たらない。蓮の表情が次第に不安へと変わっていく。
一方千獣も同じように困惑していた。
繋いでいたはずの手が離れたのではない。自分の手がするりと蓮の手から抜け落ちたのだ。
しかも、かなり小さかったはずの蓮がやけに巨大に見える。
自分の目線の位置が明らかに低いのだ。しかもそれに比例して何もかもが小さくなっている。
「蓮……!」
千獣は蓮の服の裾を、一生懸命手を伸ばして引っ張る。
力さえも弱くなっているのか、蓮が気がついた様子はない。
「……蓮!」
千獣はもう一度声をあげ、思いっきり裾をぶら下がるようにして引っ張った。
「…?」
蓮はやっと気がついたらしく、またあたりをきょろきょろと見回し、そしてやっと視線を下へと向けた。
「セン?」
自らの足元、蓮はその場に座り込み、目をぱちくりさせる。
「セン。ちっさい」
それは幼いとかそう言う意味ではない。文字通り千獣は小さくなっていた。いわゆる小人だとか言われるアレだ。
なぜこうなってしまったのかは分からないが、この会場に入ってこうなったため、考えられる理由としてはこの会場内には何かしらの魔法的な要素があり、自分はそれにまんまと引っかかったということ。
蓮は小人になってしまった千獣を両手で救い上げ、どうしようかと首をかしげる。
さすがにこの状態で無理して歩くとも言い辛い。
「肩……乗る、ね……?」
まぁ肩が駄目なら頭でもいいのだが。
「うん」
蓮は手を自分の肩近くに持っていく。千獣は「ありがとう」と微笑み、蓮の肩に座り込んだ。
しかし、これはもしかしたら蓮が人との付き合いを学ぶ絶好のチャンスになるかもしれない。
近くに千獣が居るとはいえ、保護者的にというよりは現状の見た目、どうしたってマスコットのようだからだ。
千獣は近くなった蓮の耳に、この洋風のパーティ(楼蘭的には宴)のマナーを教える。
まず、料理は全て自分のものではなく、食べたい分だけを別の皿に取り分けて食べるということ。
飲み物は、トレイを持って歩いているウェイターやウェイトレスに話しかければもらえるということ。ただし、お酒は駄目。
テーブルは用意されているが、自分用ではないということ。
後何か教えておくことはあるだろうかと考えるが、自分もそう詳しいわけではない。この程度の最低限のマナーで何とかなっていたため大丈夫だろう。
もしかしたら今まで依頼等で一緒になった人たちもパーティに招待されているかもしれないが、小人になってしまった自分が挨拶に行って気が着かれるだろうか。
しかし、人が多くてそれも満足には行えないかもしれない。
「セン、なに食べる?」
何と聞いてはみたものの……
「これ、なぁに?」
蒼黎帝国とはぜんぜん違う料理ラインナップに、蓮は料理テーブルの前で目をぱちくりさせている。
千獣は一度教えそうになった言葉を止め、
「……食べて、みると、いい…よ」
何事も経験だと料理に取り分け食べてみるように促す。
「わかった」
蓮も恐る恐るという感ではあったが、料理を皿に取り分け――ているのだが、山盛りだ。
千獣は慌てて注意を付け加える。
「自分、が、食べる分、だけ、ね」
蓮は素直に「うん」と頷いて、今度は取りすぎた料理を大皿に戻そうとした。
またも千獣は慌てて付け加える。
「料理、は、戻しちゃ、だめ……取り分けた、料理、も、全部、食べる、が、マナー」
再度蓮は頷き。少し眉根を寄せたが、端を手に開いているテーブルへと向かう。
テーブルに着いた千獣はぴょんっとクロスが張られたテーブルへと飛び降り、蓮を見上げる。
「……好き嫌い、だめ、だよ?」
皿の料理を最初はためらっていたが、一口ぱくっと頬張り、よほど美味しかったのか、山盛りあった料理がどんどん減っていく。
「これ」
千獣は別の皿に少しだけ取り分けた料理を、爪楊枝で刺して食べる。
小人になって面白いのは、普通の一切れがかなり大振りで豪華な一切れとして食べれるということか。ただ、量は食べれないため、一定金額の食べ放題では損しかしないが。
「ねえ、蓮……」
千獣はテーブルに座り込んで、食事の手を止めて蓮を真剣に見上げる。
「…ありがとう」
どうしてお礼を言われたのか分からず、蓮はきょとんと瞳を瞬かせる。
「庇ってくれた、よね?」
瞬・嵩晃を探して入った気の中心地で、再度であった蓮の核を作った邪仙。
実質、邪仙は千獣“自身”には何もしていない。
本当は蓮に向けられた攻撃なのだが、それを千獣が全て肩代わりしていたため、起こった現象であった。
それを、蓮が千獣が苦しくされていると思い、あの行動に出たのだ。
「くるしいの、だめ、でしょ?」
苦しいって何かよく分からないけど、笑うの反対にあることは分かる。
「レンは、えがお、好きだよ」
微笑むということは“生まれた”時からしていた。それにどんな意味があろうとも。
「セン苦しんでた。それは、だめ、だから」
だから、苦しめないで。と。
「……私が、苦しい、の、辛かった?」
もしかしたら、他人の痛みに共感できるようになっているのかもしれない。確証はないし、今の蓮の言葉を単純に繋げてしまうのも違う気もする。
「……ん、よく分かんない。もやもや、した」
辛いも苦しいも蓮の中にはない。だから表現が曖昧になる。
「そっか……」
けれど、そう感じるということは、明らかに他人の状態を察することが出来てきている証拠かもしれない。
「……………」
カン―――。
蓮の手から箸が落ちる。
「蓮?」
はっとして見た蓮の手は小刻みに震えている。
蓮を縛り付ける強い強い言霊――本当の、核に刻まれた名前。計都。だったか。
「セン。こわい、よ。レンが、レンじゃ、なくなる」
あの時のことを思い返すということは、初めて与えられた名が持つ強ささえも思い出すということ。これだけは、どれだけ瞬の形骸が、姜の宝貝が強力であろうとも逃れられない。
まるで、子供が生まれてくる親を選べないかのように。
ただ、今それに抗えているのは、千獣が与えた新しい名前のおかげ。そして、ここまで優しさを教えてきた千獣の力にもよる。
「蓮! …ごめん、ね、蓮……蓮」
震える指先に両手を合わせ、何度も何度も名前を繰り返す。
蓮自身は覚えていなくても、核に刻まれた魂の記憶のようなものが、揺さぶられている。
「……大丈夫、もう……大丈夫、だから、蓮」
蓮は蓮のままで、千獣も一緒に居るから大丈夫。
両手を合わせるだけではなく、千獣は蓮の手を抱きしめる。
「怖い、思い……させちゃった、ね……ごめん、ね……」
千獣の言葉と共に、徐々にその震えが収まっていく。
「思い、出させて……ごめん、ね……」
振るえが感じられなくなったところで、千獣は微笑んで顔を上げる。
「嬉しかった……蓮が、庇って、くれた、こと」
新しい形骸を創ってもらい、蓮を生まれ変わらせたことは、間違いではなかったと。他人を庇うということは、気遣うということだから。
「だから、ありがとう」
もう庇ってくれたという事実と、それが嬉しかったという真実以外何もいらない。
まだ蓮はあの邪仙から逃れられるほど自らが強くない。
ただ言えることは、千獣が教えてきたことは無駄ではなかったということ。
「蓮、は…それ、好き……?」
話題を変えるように千獣は蓮が皿に山盛りにした料理を一度見やり、次に蓮の顔を見上げて問う。
「うん! すき。おいしい」
「よかった」
先ほどまで震えていたのに、美味しい料理の影響か、蓮はにぱっと笑って頷く。
その顔を見て千獣もほっとしたように息を微かに漏らした。
「セン。ずっと、そのまま?」
「??」
何のことを聞いているのか分からず、一瞬首を傾げたが、直ぐに小人化のことだと思いやり、千獣はしばし考えた。
「小さく、ても、何、も、変わらない……から」
気持ちも行動も大きさで決まるものではない。
例え身体が小さくなっていたとしても、そこまでの変化があるようには思えない。
「小さい、まま、だったら……蓮、に、運んで、もらおう、かな」
千獣は微かに微笑み、冗談半分、本気半分で伺うように蓮を見る。
「うん!」
蓮はめいっぱいの満面笑顔で頷いた。
fin.
登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【3087】
千獣――センジュ(17歳・女性)
異界職【獣使い】
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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E×E Xmasにご参加ありがとうございます。ライターの紺藤 碧です。
お届けが大変時期はずれになってしまい申し訳ありませんでした。
千獣様に起こりましたErrorは小人化でした。本当に何にも変わってないです。お…おかしいなぁ。大きさ程度は小さなことなのかもしれません。
それではまた、千獣様に出会えることを祈って……
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