<PCシチュエーションノベル(ツイン)>
+ クリスマス勝負―ルルフェの場合― +
十二月、クリスマス間近。
ボクは背中の羽をぱたぱたと忙しなく動かしながら白山羊亭へと向かう。白い紙袋をしっかり両手で持つのはちょっとしんどいけど、お仕事お仕事。頑張るよ!
「ルディア、胡椒買ってきたよ〜っ」
「おかえりなさい。お使い有難う御座いました」
「ふぅ〜、やっぱりボクのサイズじゃ胡椒一つでも重いね」
「でも調味料ないと困るんですよね。かなり助かってますよ」
「そう言ってもらえると嬉しいなぁ」
ほわほわとした空気を纏うルディアにつられてボクもえへへっと笑みを浮かべる。
小さなコップにこれまた小さく砕いた氷と水を入れて差し出してくれたので遠慮なく頂く。それから子供のお使いのように彼女から僅かな賃金を貰うんだ。
ボクが何故こんなことをしてるかと言うと実は生活の為じゃない。
もうすぐやってくるクリスマスの為なんだ。夏生まれのボクの大事な人――イクスに誕生日プレゼントをあげた時、彼女は本当に吃驚していたっけ。あの赤い瞳がまん丸になるのはとても嬉しかった。
あの頃勝手に彼女の金を使ってプレゼント攻撃をしていた。それが喜んでもらえる事だと信じて、だ。だけど、そんなものよりも自分でパーツを選んで想いを込めて作り上げたお守りの方がずっとずぅっと喜んでもらえたんだ。
「あの時のイクスの悔しそうな嬉しそうな真っ赤な顔を思い出すと辛くっても頑張れるんだぁ〜」
「ルルフェさんは本当にイクスさんの事が大好きですね」
「大好きだよ、もうもう、ボクのこの身を捧げちゃってもいいくらいっ!」
「それって大きいのか小さいのか分かりませんね」
「うっ。ルディア酷いっ。ボクの思いはこのちっぽけな身体に収まりきらないくらいおっきいの!」
貰ったばかりのお金をチャリンっと袋に落とし、きゅっと紐で締める。
随分溜まったけど、それでもボクが出来る仕事はちっぽけ。でもルディアにお願いして白山羊亭に持ち込まれた小さな依頼は確実にお金に変わってくれる。それが例え幼児のお使い並の買い物や道案内といった普通なら冒険者達への依頼にもならない小さなものであっても、だ。
ちらっと店内を見遣ればそこにはルディアとお揃いのウェイトレスの制服を着たイクスが懸命に働いている姿がある。
クリスマスに近付くにつれ人が多く訪れ盛況になる白山羊亭。それが幸か不幸か、イクスはボクのこっそりアルバイトに気付く様子が無い。
「さぁーてと、ボクも頑張らなくっちゃ! ルディア次のお仕事なに〜?」
ぐっと腕をあげて体を伸ばす。
ルディアはそんなボクを見て「偉いですねぇ」と褒めてくれた。
■■■■
さて、なんだかんだとクリスマス当日。
ボクは落とさぬよう身体に財布を結わえる。もちろん紐が痛んでないかもちゃんとチェック済み。
ルディアはホールをちらっと見ると裏戸を開きながらボクを手招いてくれた。
「ささ、今ならイクスさんはお店から出られませんからプレゼントを買いに行ったら良いですよ」
「うん、行ってくるね〜。もしイクスがボクの事を聞いてきたら遊びに行ったって言っておいてね」
「分かりましたっ」
ばいばーいと片手を振りながらボクは飛び立つ。
寒空の下じゃこのおチビな身体は冷えてしまうけれど、我慢我慢。頑張った分だけ今日が楽しい日になるんだと信じてボクは行く。
目的地は雑貨店。
ボクはこの日の為に頑張った。――……頑張ったんだけど、小さなボクが出来る仕事の関係上高価なものは買えない。もしボクがイクスのような人間サイズだったならきっと彼女に宝石の一つでも買ってあげられるのに……。
「でもイクスなら『宝石なんていらねぇ。食う金が欲しい』って言うだろうからいっか!」
ちょっとしんみり考えてみたけれど、彼女の性格を思い出してけろっと結論を出す。
まあ、話は戻してーっと。
とにかく高価なものは購入出来ないからボクがイクスへのプレゼントに選んだのは手袋。まだまだ寒い日が続く彼女が風邪を引かないようにと考えてね。
あとお世話になったルディアにも同じ様に手袋を用意。ルディアも寒そうに手を擦り合わせてたんだもん、きっと喜んでくれるよね!
店員のお姉さんに一つずつ可愛らしい袋に手袋を入れてもらうとなんだかドキドキしてきちゃった。
イベントってやっぱり好きだなぁ。
普段だったら「何やってんだ、お前」って言われちゃうけど、こういう日は押し付けても受取ってもらえる気がするんだ。
ああ、また喜んでもらえるといいなぁ。イクスまたあの可愛い顔見せてくれないかなぁー。
ほわほわと妄想の中でイクスが顔を真っ赤にして照れる。
実際はそんな極端な反応はしないだろうけれど、少しはどきっとしてくれると思う。
ふと、財布を開いてみれば半端にお金が余っている事に気付いた。
このまま貯金も良いけれど、――あ、それよりも良いことを思いつーいた! ふふ、手袋に甘い物をプラスするのも良いよねっ。だってクリスマスなんだもん。
そんな事を考えながら寄ったのは顔馴染みのケーキ屋。
ボクが一番大好きなお店。クリスマスのようなイベントの時は早めに顔を出さないとあっと言う間にお菓子がなくなっちゃう人気のお店なんだ。でも今日はまだ時間も早いし、きっと大丈夫!
ほら、ショーケースの中にも色取り取りのお菓子が沢山並んでいるし、お店にも人が溢れている。
「このケーキ下さーい」
「お、ルルフェじゃないか。ハッピークリスマースっ!」
「はっぴーくりすまーっすっ!」
「だがお前にケーキは売れない」
「なんでー!?」
がびんッ!
顔の傍に手を寄せ、ショーケースの上でよよよっと崩れ落ちる。次々とお客さんがケーキを買うのに、店主はボクには売ってくれない。しかも何故か上機嫌な笑顔を浮かべているし、何これイジメ!?
「なんでー、なんでー、今日はボクのお金で買うよ〜ッ! イクスのお金じゃなくてボク自身が働いて稼いだお金で買うんだよっ〜!」
「へぇ、やるじゃないか。だが今日は駄目。また今度な」
「ぎゃん!」
ぽふんっと両手で店主がボクを包む。
まるで虫をそっと外に出すように彼はボクを運んで――ってさり気なくその扱いは自分で考えてても酷いなぁっ。店の外に追い出した店主を内心恨みつつ、でも何故か憎めないのは何故だろう。あのにこにこ笑顔が本当にボクを嫌っているものじゃないからだろうか。
じゃあ、なんで? 何か企んでる?
『力』を使って暴いてもいいけど、そこはプライバシーの侵害ってヤツになっちゃうし〜……うー、イクスに美味しいケーキ買ってあげたかったなぁ。
しょぼん、と盛大に肩を落としながらボクは白山羊亭へとふらふら戻る。
店に入る冒険者が戸を開いた瞬間を狙ってボクも一緒に店内に入ればルディアがおかえりなさいって言ってくれた。
白山羊亭の奥、ルディアと約束していたサプライズ・パーティの準備をする。
テーブルの上に小さな花を飾った。ミニサイズのツリーも用意したし、三人ではしゃぐには充分なスペースだし、後はイクスが帰ってくるのを待つだけ。
でももやっとした気持ちが消えない。
それはジュースを出すからってルディアに促され、カウンターに移動しても同じだった。
「なんでかなー、なんでケーキ売ってくれなかったんだろう〜っ。折角のクリスマスなのにケーキ無しなんてボク寂しいよぉ!」
「なんででしょうねぇ〜」
「お店の人ずっとにやにやしてたし、絶対アレ何かあるよ!」
「クリスマスですから、ケーキ屋さんにも考えることがあったんですよ、きっと」
「考えることって?」
「そりゃあもう楽しいことに決まってますよ。あ、イクスさんおかえりなさい」
「え、イクス!? わーい、イクスおかえり〜っ!!」
ルディアの声にボクは顔を明るくさせ、一直線にイクスの元へと飛んでいく。
でも彼女はげっと小さな声を漏らすとそのままさっと横に避けてしまった。勢いのついた身体は当然止まれるはずが無く、そのまま壁にドーンと激突ッ!!
……痛い、痛いよ、イクス。
鼻を擦りながらふらふらと飛び、カウンターへと移動したイクスの元へ行けば、彼女はすっと何かを差し出してきた。
「やる」
「うー? これなぁに?」
「クリスマスプレゼント」
「ぇ!?」
うそ!?
イクスがボクに!?
あのイクスがボクにプレゼント!? 明日は絶対に雨が降るよ! ううん、きっと今夜! でも出来れば雨じゃなくて雪がいい!!
ぱちぱちと何度も瞬きをして、包装を解いて中からそれを――赤いマフラーを取り出す。どうしよう。本当にどうしよう。これ、これ……っ。
「うわー、うわー、このマフラーちゃんとボクのサイズだぁ!」
「オーダーメイドだからな」
「わーわー、こっちのケーキもボクが好きなお店のだっ」
「予約して特別に頼んだ」
「あ、だからボクはケーキを売ってもらえなかったんだ!」
するりと疑問の糸が解ける。
なんだ、考えてみればこんなに簡単なことだったんだ。イクスがケーキを買ったからボクとかぶらないように売ってくれなかったんだ。なんだ、なぁんだ。そんなにも簡単なこと――
――って簡単じゃないよぉ!
イクスだよ!? 相手はイクス! 普段ならこんなプレゼントとか絶対してくれないのにっ。
どうしよう。嬉しいな、嬉しいな。
何度もマフラー撫でて、巻きなおしちゃうくらい嬉しい。
あ、しかもこのマフラーの色。赤だ。
ボクがイクスに買った手袋と対になるような鮮やかな赤。
「ね、イクス。手を出して」
「んぁ? なんだよ」
「はい、ボクからのクリスマスプレゼント。今年も寒いって聞いたからね。風邪引かないようにこれ使ってよ」
「お前、これって」
「ちゃぁーんとボクが働いてお金を貯めて買いました! イクスのお金じゃないから安心して受取ってよねっ!」
えっへん。
胸を張って言い切ればイクスの褐色の肌がほんのり色を変える。仄かに赤味が掛かった其れを見て、ボクは満足する。良かった、ちゃんと驚いて貰えた――あの夏の日の様に。
「イクス、照れた照れた?」
「照れてねえ!!」
「えへへ〜、これ大事にするね。ありがとう、お礼にほっぺたにちゅーしてあげようか」
「いらねええッ!」
そうやって彼女はボクを拒むけど、心からボクを嫌ってなんかいない。
だからボクは幸せになれる。
頑張れば頑張った分だけ返ってくるその表情が、ボクにとって何よりも嬉しいクリスマスプレゼントなんだ。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【2358 / ルュ・ルフェ・メグ・メール / 男性 / 13歳(実年齢237歳) / <声>の紡ぎ手 / フェイメル・シー】
【2357 / イクスティナ・エジェン / 女性 / 17歳(実年齢17歳) / 第三級術煉士 / 人間】
【NPCS003 / ルディア・カナーズ / 女性 / 18歳 / ウェイトレス / 人間】
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■ ライター通信 ■
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こんにちは、初めまして! 発注有難う御座いましたv
クリスマス、そしてルルフェ様サイドを描かせていただきました。イクス様より若干テンションが高いのは仕様です。イベント仕様です。二人ともサプライズを用意しているなんて羨ましい(笑)
仲良しな2人+1、どうか良いクリスマスをお過ごしくださいませ!!
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