<WS・クリスマスドリームノベル>
+ 君はふわふわの夢を見るか +
ふわりふわふわ。
それはクリスマス前夜突然降ってきた。
「雪?」
「それにしては随分と大きいような……」
「それに冷たくもない」
両手を前に伸ばし、降ってきた「それ」は雪と言うより綿毛に近い。
ふわりふわり。
頭に、身体に、落ちて。
「ケサランパサランだ!」
誰が言い出したのか、そんな都市伝説かつファンタジー。
まさか。
そんな。
―― でも、もしもこれが本物なら?
「一つくらいなら持って帰っても良いかな」
「でも不吉じゃない? 俺は止めとく」
「何か悪いことが起き始めたらすぐ棄てれば良いんだもん! きっと大丈夫」
それが持ち帰ったものの幸せと不幸の境目。
その夜、彼らは世界が混合した『夢』を見る。
■■■■
周りの言葉に反応したのはザド・ローエングリンとルド・ヴァーシュも同じだった。
彼らは自分達の上に降り注ぐ白毛玉を見て不思議そうに目を瞬かせた。
「……何だこれは。害は無さそうだが……精霊か何かだろうか?」
そう言って白毛玉を一つ手に取ったのはルド。
柔らかな毛に触れれば掌がふんわりと温かくなった。犬や猫のような毛並みとは違うもっと毛の細い柔らかさ――何故か心までも温められたような気がしてもう一方の手でそれを優しく撫でる。
すると誰か曰く「ケサランパサラン」はルドに懐くようにもふもふっと転がってくるではないか。
そう、まるで「なでて、なでて!」と自ら言っているかのように。
そんな白毛玉の姿が愛らしくなり、口元に笑みを浮かべる。
「……なんだおまえ、ザドみたいなやつだな」
いつも自分の掌に向かって撫でてと頭を差し出してくる相棒の姿を思い出しながら思わず呟いた。褒めれば褒めるほど、愛でれば愛でるほど愛しさが増してくるところが良く似ている。
そしてその当の本人であるザドはどうしたかと言うと――。
「かわいい! みんなつれて帰るの。ルドも手伝ってー!」
両手を天に伸ばし、毛玉を集め始めているではないか。
頭や肩にも乗った毛玉は引き寄せられているかのようにくっついて離れない。服にくっ付いて溜まっていく毛玉を見ていると、そのうちザド自身が毛玉になってしまうのではないかとルドは少しだけ心配した。
両手いっぱい集めた毛玉に満足したのか、ザドがルドの元に戻ってくる。
ルドは空いた手を使って、ザドの頭を優しく撫でた。
「えへへ、この子たちとあそぶのたのしみ〜っ!」
「それは楽しそうだ。――そうだ、こいつに名前つけてみないか? しかし、たくさん連れて帰っていいんだろうか」
「いいと、思う! だってぼくみたいにたくさん集めてる人、たくさんいるよ。ん〜っ! もふもふー!」
頭の中ではすでに毛玉と戯れる姿が出来上がっているのだろう。
寒くてたまらないはずなのに、駆け回ったせいかザドの頬はほんのりピンク色に染まっている。頭の次は、と頬にも熱を移そうとルドは掌を押し当てた。すり……っと甘えてくる様子を見てルドの口元は更に緩む。
―― やはり白毛玉とそっくりだ。
あえて口には出さず、けれどルドは確かに心の中でそう確信した。
■■■■
「ふわふわ、さわりごこち、気持ちいい〜!」
帰宅後、部屋の中にはルドとザドが連れ帰ってきたケサランパサランで溢れかえっていた。
実はあの後、やっぱりと言うか予想通りと言うか他の毛玉達も何匹か――いや、何十匹かザドに惹かれてついてきてしまったのだ。多くの毛玉を集めた者に興味を示したのか、ケサランパサラン達はふわりふわりと進行方向を変えながら器用に二人の部屋の中に侵入してくる。
だがザドはむしろ歓迎して彼ら?を招き入れた。
「しかしそいつらは餌は何を食べるんだろうな。ちゃんと面倒を見られるか、そちらの方が心配だ」
「そもそもこの子たちはごはんたべれるの?」
「わからん。明日あたり図書室にでも行って調べてみるか」
「うんっ!! あと明日になったら名前もかんがえてみる!」
「ほら、そろそろ寝る時間だぞ。ベッドに潜れ」
「えー、まだもふもふってしたいー! 顔つっこんであそびたい〜っ! だってふわふわなんだよー、クリスマスに降ってきたんだよー!」
「駄目だ」
「ぷーっ!」
聖夜だから、と理由を付けて甘やかしてしまいそうになる自分をなんとか抑えつつ、ルドはザドに寝室に行くように促す。
毛玉達もそれに倣うようにふわりふわりと寝室へと移動するのを見て、やはりしっかりとした意思にようなものが存在しているのだなと感心した。
だがザドは二段ベッドの上段に潜り込んだ途端、下段のベッドに潜り込むルドをベッドの淵に手をしっかり掛け逆さまの姿で覗き込む。そしてじぃっとその丸くて大きな赤い瞳でルドを映しながら言った。
「……寒いからいっしょにねていい?」
せっかくの聖夜だもん、と続けそうなそれは甘いねだり声だった。
普段は上段下段と分かれて眠っているが、今夜は共に寝たいらしい。
「……しょうがないな」
「っ! わぁーい!」
ルドは口ぶりとは裏腹にザドが寝られるスペースを空けて、おいでと招く。
その優しさに満面の笑みを浮かべながらザドは上段から飛び降りてくる。それがまたあまりにも勢いの良いよくドンっ! と音が鳴ったものだったから、ルドは潜り込んで来た相手の頭をぺしっと一度だけ軽く叩いて叱る事にした。
「おやすみ」
「おやすみなさい、ルド」
二人抱き合って眠る甘い夜。
―― だけど夢はこれからまだ続く。
■■■■
白い世界だった。
それは本当に白しかなくて、右も左も、前も後ろも、良く分からない世界。
かろうじて自分達が立っている場所が「下」で、それ以上が「上」なんだろうと認識出来るだけの空間だった。
だからこそ最初から二人は悟った。
―― これは夢だ、と。
「ねーねー、ルド。こういうのもホワイトクリスマスっていうんだよね!」
「いや、これは流石に白すぎるだろう」
「でもふわふわしたこの子たち降ってきたよー」
「雪じゃなくても成立するものなの、か?」
ザドがしゃがみこみ、手を右から左へと動かす。
するとそこには白毛玉達がところ狭しと存在しているではないか。ザドは両手いっぱいにそれを掬い上げるとふぅっと息を吹きかけてみる。
ふわりふわりふーわふわ。
毛玉達は楽しそうに辺りを漂っている――少なくともルドにはそう見えた。
「しかし白い世界というのはこう、目によくないな。なんだか眩みそうだ」
「じゃあどういうのならいいの〜?」
「そうだな。聖夜というならば綺麗な星空とか」
何気なくそう口に出した瞬間、――白世界が消えた。
いや、正しくは足元から白の世界が消え、草原が現れたのだ。
そして上を見上げればそこには希望通りの綺麗な星空が広がっているではないか。しかもただ単に星が浮かんでいるわけではなく、冬の星座もきちんと配置されている。二人は急な場面の変化に一瞬身を固めてしまうが、今この瞬間だけは星空は二人だけのものだという事に気付く。
だからこそ気付いた瞬間、ザドは嬉しくて表情を綻ばせた。
「夢だから、かなー?」
「夢だから、かもな」
「じゃあね、じゃあね! ぼく流れ星が見たい! そして首飾り作るの!」
それは無茶な願いだろう、とルドは現実的に考える。
だがふわふわと浮き上がったケサランパサラン達はそれを叶えるかのように空に登っていった。
そして次の瞬間、ザドが口にしたお願い事は星が流れ落ちるという形で叶い始める。
一つ。
二つ。
三つ。
四つ……それこそ数えきれないほど沢山の星達が空から降ってきて夜を彩ってくれていた。
そしてふわり、と白毛玉ではない発光した歪な石が降ってきてザドの目の前で浮かぶ。
意志があるようにそれは淡い光を放ち、ザドが手を開くとその上に乗った。
「ぼく、これで首飾り作るー!!」
そう言うと今度は箱がぽんっと目の前に現れる。
けもけもだかもふもふだかわからない毛玉達が四角い箱を必死にザドが見える位置に押し上げている姿がなんだか可愛らしい。
箱を開けば中にはなんと手芸道具一式が入っているではないか。凄い、と何度も口にしながらザドはその場にしゃがみ込み、自分が楽な体勢を取るとそれらを使い今し方降ってきたばかりの流れ星を加工し始めた。
どんな風に出来上がるのか気になるのか、ケサランパサラン達はザドの手元を避けつつ周りに集まってくる。
「なるほど、願い事を口にすれば叶うのか」
ふわふわふわ。
ルドの周りにも浮かんでは遊んで、構ってと言う様に集う毛玉達を撫でて遊びながらふと空を見上げる。
確かに綺麗だ。星も、月も。
だが、それよりも彼は見たいものがあった。
「もう一度オーロラを見てみたいな」
その言葉に反応したのはザドだった。
手芸道具を動かしていた手を止めて願い事を口にしたルドをくっと見上げる。逆にルドは下にいるザドに優しく視線を下ろした。
「清冽な凍える夜の虹。あれは綺麗だぞ。実際にまた見る機会は無いと思うし……寒い場所は苦手だから好んで出かけることは無いだろう。煌く夜空、クリスマスに似合いそうだ」
「ぼくも、見てみたいな」
オーロラの説明をするその口調がとても柔らかく、そして穏やかなものだったからこそザドも興味を抱く。
するとケサランパサラン達はぶわっと一斉に空に舞い上がる。それこそ先程の非ではない量の毛玉達が、だ。
そして空に描かれたのは薄い赤色から緑色へと移り変わるオーロラだった。
波を描き、そして薄くグラデーションを描くそれはまさに天井のカーテン。淡く……けれど確かに空に存在するそれは二人の視線を釘付けにした。
優しい色。
美しい色。
それだけの言葉じゃ表せない見る者を魅了してやまない自然の神秘。美しい星空だけではなく、二人だけのものであるという事がとても嬉しかった。
「ああ、やっぱり綺麗だ……これをお前にも見せたかった」
「きれー。きらきら、それにさわったらふわふわしてそう」
「残念ながらあれは触れないんだ。翼を使って空に昇ってもただ空気に紛れてしまうだけでな」
「……でも。きれー」
ほうっと息を吐いたのはザド。
ルドは目を細めて微笑み、そしてザドの隣に腰を下ろしてしばしオーロラを観賞することにした。ザドは慌てて首飾りを作る作業を再開する。必死に銀の金具を使ってややいびつな形をした石――流れ星を固定し、それに革の紐を通す。
やがて出来上がったそれを手にし、膝を立てて身体を起こすとザドはルドの首にそれを掛けた。
ふわり。
それはケサランパサランのふわふわとは違う、光源の暖かさ。
作ってくれたザドの心の優しさや思いや、そして聖夜という特別な日が惹き立てる感情。
「有難う」
「えへ、どういたしまして」
二人笑いあって、同じ夢を見た。
二人で夜空を見て、オーロラを見て、優しい気持ちになった。
幸せだった。
―――― そんな「夢」でした。
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彼らは同じベッドに寝転んで夢を見ている。
まだ朝が来ていることを知らずに夢を見ている。
そして――ケサランパサラン達が一夜の夢を与え終えて全て消えてしまった事を知らず……。
だけど想いは残る。
ルドの首に掛けられた小さな流れ星の首飾りがそれを証明するかのように胸元でふわりと輝いていた。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【3364 / ルド・ヴァーシュ / 男性 / 26歳(実年齢82歳) / 賞金稼ぎ / 異界人】
【3742 / ザド・ローエングリン / 中性 / 16歳(実年齢6歳) / 焔法師 / レプリス】
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■ ライター通信 ■
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はっぴーくりすまーす!
と、言うわけでクリスマスノベル参加有難う御座いましたっ。
無事年内にお届けさせて頂きましたのでどうぞご賞味あれ……!
OPを開く時期がかなり遅かったのですがお二人に入って頂けて嬉しかったですv
形的にはお二人の超らぶらぶシチュという形になりましたが、それはそれで有りかなと。
個人的にはこれはこれで幸せかなっと。
そして一つだけライターからも+αなプレゼント。
最初は夢オチで終わらせるつもりでしたが、どうぞ首飾りは現実にお持ち帰り下さい。
では、よいお年を!
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