<WS・新春ドリームノベル>


+ 新春・VS正月!〜ぽろりはありますか〜 +



「明けましてー」
「おめでとうー」
「「「ございまっすっ!!」」」


 声を揃えて皆が挨拶を交わす。
 そう皆が――新春には欠かせないお祝い事の品、達が。


「やー今年はいい突き具合だよ。見て見て、このもっちりとした肌!」
「餅兄、アンタがもっちりしてるのは毎度のことですわ。……でも今年は焼餅なんかにならず、お雑煮の私と一緒になってもらいますからね」
「おみくじさーん、今年は大凶なんか出しませんから」
「そりゃあ『運次第』っつーもんですよ、お年玉の姉さん。あ、うまい事言った! 座布団一つおくんなましー」
「俺、今年は迷子にならずにあの人の元に行きたい……」
「年賀状さんは毎年何人か必ず行方不明になりますもんなぁ。よしよし」
「がるるる……」
「今年のゲストは虎の旦那! さあ始めましょう、頑張りましょう」


 彼らはいそいそと祝いの席を立つ。
 外に出れば一面の銀世界。それはもう今から行われる事を待ち望んでいるかのような綺麗な白。


 代表者である鯛は雪山に尾ヒレで立ち、マイクをヒレで掴む。


「では只今より、我ら『正月チーム』VS『正月を祝い隊』で雪合戦を開催致します。ルールは簡単! 制限時間内に相手チームの陣地内に立てられている旗を取る事と攻撃は全て雪を使用して行う事! それ以外は皆の良心ってやつにお任せいたします! 皆、死ぬなよ、食われるなよー!!」
「「「「おーッ!」」」」


 かくしてバトルは幕を開けた。



■■■■



「新年のお祝いだってのに、どうしてこうなったんだろう……って、僕何だか何時の間にか巻き込まれてない!?」


 そう口に出したのは短い黒髪緑瞳の少年、真行寺 拓海(しんぎょうじ たくみ)。
 彼は今外で雪合戦を始めた人(&物)達をこそっと建物の端から覗いている。すでに雪合戦の火蓋は落とされ、そこらかしこでは雪玉が舞う。
 楽しそうに雪玉を投げている姿だけを見ているとそれはそれで楽しそう、なのだが。
 ……相手はなんせ、正月商品。奇妙な光景過ぎて彼は非常に戸惑う。


―― ルルティア。ぼくは一体どうしたら良いんだろう。
―― 大丈夫よ。動いて喋っていても彼らはただの物。恐れることなど何も無いわ。
―― ルルティア……。
―― さあ、私達も行きましょう。拓海、あなたの事は私が護るから!


 拓海は自身に共存しているルルティアという女性と念で会話をする。
 彼らはまさに一心同体。ルルティアの優しげな……けれど凛とした強さを持つ言葉に拓海もまた頷いた。
 そして未だ建物の影に隠れながらすぅっと息を吸った。


 その瞬間、彼の体からは眩いばかりの光が溢れ出す。
 髪は長く伸び彼の――いや、彼女の体を覆う。光で覆い隠されたまま服は解ける様に消え去り、代わりに細い肢体とは言え確実に男性体だった身体にはふくよかな胸が盛り上がり、それにきゅっとしまったウェスト、そして美しいラインを描く美尻が現れる。最終的には魔法少女アニメに出てきそうな女性が出現した。
 蒼と白を貴重とした若干露出度の高い戦闘服は冬空の下では酷く寒そうに感じられるが「大いなる恵みの恩恵」によって彼女はこの状況下でも寒さを感じない。


 見事麗しい女性へと変身した拓海は――いや、今はルルティアという女性は自分のチームである『正月を祝い隊』の元へと駆けた。
 突如現れた美少女にチームの皆は戸惑うがそれすら彼女は予想済み。
 むっちりと、けれどとても色気のある太腿を外気に晒しつつも、ブーツを履いた足を雪に沈め、凛としたポーズを決め彼女は叫ぶ――!


「我が名はルルティア! 大いなる恵みの下に、ここに光臨!」


 決まった、と彼女はその麗しき唇を持ち上げる。
 手に持っているのは戦闘スーツと同系色の宝飾が施されたソードだ。だが今回戦う相手にはソードそのものを使用するわけにはいかない。彼女は静かに目を伏せ、そのソードを静かにしまった。


 彼女の言葉に味方である一人の翼を持つ黒髪黒瞳の青年――ルド・ヴァーシュは一瞬訝しげに目を細める。まあ単に吃驚した、というだけの反応なのだが。
 だが彼の隣にいた子供――ザド・ローエングリンは大きく目を開き、そして次の瞬間には明るい笑顔を浮かべ雪の上を駆け、ルルティアの傍へと寄った。


「いっしょのチーム、だよね! さっきまで一緒にいたかな〜?」
「私はね、知人である拓海に頼まれて此処に来たの。さあ、一緒に正月チームを倒しましょう。そして私たちのチームにも大いなる恵みをもたらすのよ」
「うん! みんな、いっしょ! がんばるの〜!! あのね、あのね、さっきからあの白いとらさんなんてすごいんだよ。ずっと向こうのとらさんをじぃーっと見てるの!」


 ぴっとザドが指を指し示した先。
 其処に居たのはホワイトタイガーだ。ルルティアは一瞬それは正月チームの動物ではないかと疑問に思う。だがそれを口にするよりも前にザドはホワイトタイガーへと駆け寄った。
 ザドはなんの躊躇もなくぽふんっとホワイトタイガーの身体へと優しく抱きつく。ルドは僅かばかり警戒心を抱くが、抱きつかれたホワイトタイガーの尻尾がゆらゆらと揺れ、やがてザドの背中を撫でる様に動くのを見て緊張を解いた。
 ホワイトタイガーは自身を抱擁する子供へと視線を向ける。
 だが次の瞬間には再び相手チームにいるゲストの虎と虎グッズへとその赤い瞳を移動させた。


「ガルル……(訳:かなりの威圧感だ……)」


 敵チームの虎もホワイトタイガーを見遣る。
 お前は同族ならこちらではないのか、とでも言うように。
 だがホワイトタイガーは――白虎 轟牙(びゃっこ ごうが)は動物特有の動きと視線でそれを否定した。
 「俺はお前達の味方ではない。今回は正月を祝い隊の一員なのだ」と、そう伝わるように視線は強められる。それが通じた瞬間、ぴりっとした空気が二匹とその他虎グッズの間に漂う。傍にいたザドが僅かにそれを感知し、ひゃっと肩を竦めた。


「グルル……、ガォォォオオー!(訳:さあ、此処は俺に任せてお前達は行け!)」


 白虎は大きく体を揺らし、そして高らかに吼える。
 そしてザドの背を僅かに濡れた鼻先で押し、攻撃をするよう促した。


「うん、じゃあぼく行って来るねっ! 旗をまもるのはまかせたよ〜!」


 言葉が分からなくても、意思は通じ合える。
 ザドの言葉をきっかけにルドもルルティアも互いに顔を見合わせ、そして一度呼吸を合わせるかのように頷いた。
 攻撃条件は「雪を使用すること」だ。つまり雪を使用していれば後はどう仕かけようがそれは作戦のうちだ。


「俺は相手チームの指揮を乱そうと思う。お前達二人はその間に攻撃と旗を取りに行ってはくれないか」
「いいよ〜! ぜんりょくで旗うばいにいくもんねっ」
「分かったわ。私もそれに従う――だが相手は人間体ではないのよ。そこはどうするつもり?」
「それは俺に任せてくれ。案がある」
「……健闘を祈ります」
「そっちもな。何より寒そうだし……その、視線のやり場が」
「気にしないで。このスーツは大いなる恩恵により寒くは無いの。目のやり場については――そうね、色々頑張ってくれると嬉しいわ」


 ルルティアの胸元は肝心な部分は隠されているが、ほぼ肌といっても違いない。
 これでも健全な思考を持つルドは彼女の顔を見る度に胸元に視線が下りそうになってしまうが、すっと横に避ける。ルルティア本人は朗らかに微笑み、気にした様子は無いが、場所が場所なら多大な注目を集めるコスチュームなのだ。
 ザドは子供ゆえかきょとんとしている、が――両手をほんの少し持ち上げ自分の胸に当ててみる。
 ぺったんこ。
 凹凸など殆どない其処に、ザドはひっじょーに複雑な気持ちが湧いた。


 だが作戦を練ってばかりでは居られない。
 こうして固まっている間にも正月チームは雪玉を作る班とそれを投げつける班とで役割を分担し自分達に雪玉を放り投げてくる。
 その一つがルドの頭を直撃すると流石に意識が雪合戦へと戻ってきた。
 三人は互いに手を差し出し、そして重ねる。


「では、俺達も攻撃に――」
「いくぞー!!」
「行かせて頂くっ」


 その言葉を合図に三人は三方向に散った。
 ルドが相手チームの指揮を乱している間にザドとルルティアが攻撃に移るのが今回の作戦だ。そのためにはまず相手チームの陣地内に潜り込まなければいけない。
 ザドとルルティアは建物や木の影などに隠れながら雪玉をせっせと作る。
 地味な作業ではあるが、攻撃手段が「雪」である以上雪玉は大切な役割を担う。
 ルドはその背に持つ翼を大きく広げ空高く舞い上がる。上空から陣地内へと踏み込むつもりなのだ。


「ガル……!(訳:あの青年、空を飛べるのか)」


 がっしりとした身体で旗を隠すように味方陣地内で三人の動向を窺っていた白虎はルドへと視線を上げた。自分は地を這う動物――だからこそ空を行くその姿に興味を抱いて。


 彼はサーカス団に属する虎だ。
 そのサーカス団の団長と共に新年の挨拶回りに出かけ、団長が一件お伺いしている間、暇を持て余していた。その時うとうとと目を伏せたのが今回の件に巻き込まれた理由だ。だから彼は思っている――これは夢なのだと。


 実際よいしょ、よいしょ、と必死に小さな体を雪の上に這わせながらいつの間にかこちらの陣地内にやってきた虎グッズ達は自分の住む世界では動かず、むしろ家の飾りとして扱われている。
 奇妙な光景だと彼は思うが、夢ならこれもまた一興。


「ガルルルルルルッ!!!(訳:さあ、こい。ちびっこどもっ!!)」


 恐れず、ひるまず雪玉を口で、尻尾で思い切り飛ばしてくるミニ虎グッズ達。
 それに応える形で彼は彼なりに雪合戦を楽しむ事にした。



■■■■



 ルド・ヴァーシュの作戦はこうだ。
 まずお屠蘇コンビを戦線離脱させ、さらに周りの正月商品のやる気を無くさせる。そうすれば彼らは攻撃意欲が無くなり、「正月を祝い隊」にとって有利になるだろうと。
 まず建物内の祝いの席で配られていた盃を集め、彼はそれを持ってまずはお銚子の傍へと素早く滑降した。


「なんと! 空からやってくるとは卑怯な! 卑怯な!」
「俺は飛べる種族なんでな。元々ある能力を使うのは卑怯でもなんでもないだろう。それよりもお銚子さん、貴方に用がある」
「なんと! 飛べるとは卑怯な! 我は飛べぬのに――で、用とはなんじゃ?」
「これを貴方に捧げたい」


 そ……。
 差し出したのはもちろん真っ赤な盃。しかも大量の、だ。それを見た瞬間お銚子は「ふぉぉおおおおお!!!」と奇妙な声をあげ、急に興奮し始めた。


「この正月と言う季節、我の役目は酒を注ぐ事! ああ、注ぎたい! いや、注ぐぞ! 注ぐのじゃー!!」


 とくとくとく。
 お銚子は興奮のままにルドが差し出した盃に酒を注ぎ始める。だがその動きに気付かないほど正月チームも馬鹿ではない。今までザドやルルティアに投げてつけていたがその動きをぴたっと止め、侵入者であるルドへと雪玉を持ってじりじりにじり寄り始めた。
 その間ももちろんお銚子は盃に酒を注ぎ始める。足りなくなったら自ら建物内に戻り、酒を補充してから外に出てきて注ぐという見事な興奮っぷりだ。


「卑怯です! この雪合戦のルールじゃ雪での攻撃が基本! それをお銚子様の習性を利用するなんて……っ」
「だが俺は攻撃はしていない。これはあえていうならば、『交流』だ」
「お、この若旦那うまいこと言った! 座布団一枚よろしく!」
「おみくじはん! 騙されてはいけまへんで!」
「だが俺もそろそろ寒いんでな。折角だし一杯頂くぞ」


 会話を交わしている間も雪玉を投げつけてくる年賀状や鏡餅の攻撃を避けながらルドは盃を一杯手にした。
 縁に唇を当て、こくんっと飲み干す姿は堂々としたもの。もし此処で毒でも盛られて入れば彼は死んでしまうというのに。


「お前ら、我の酒が呑めんと言うのか!! 呑め! 体を温めてまえ!!」
「ああ、とうとうお銚子様のご乱心が……っ。けれど確かに寒くて俺のもちもちとしていた肌がこわばってきた」
「餅兄っ! そういう時こそお雑煮のあたいの中に入ってきてくださいませ! 喜んでアンタを包み受け入れますわっ! ――はっ、あたいもいつの間にか冷えてる!?」
「うー、鯛の俺もそろそろ限界。一杯くらいならいいか」


 正月商品達も寒さを感じるようで、一部の商品達は自身の商品価値が若干下がってきた事を察する。
 注がれてしまったものは仕方がない。すすめられてしまったものは仕方がない。交流ならば仕方がない。
 各々勝手に理由をつけて盃に手を、口を、体を伸ばしこくこくと呑み始める。
 更に攻撃してこないならば、攻撃する必要も無い。なんせ今日の目的は雪合戦と言う名の交流が目的なのだから。


「はー、年賀状さん。お前とやっと出逢えた。俺の世界じゃなかなか出会えなくてな」
「っ……! 俺もお前と出会えて最高だ! ああ、涙が、涙が滲んで宛先まで滲んできやがった! 畜生ー!!」
「伊達巻さん、俺もきみに巻かれてみたい……きっとお前の中は温かくて幸せな気分になれるんだろうな」
「……ぽっ。なんやろ、この気持ち。ややわぁ……心が温かいわぁー」
「なますさん、ちょっと一口……、うん、酢がきいてるのも嫌いじゃない。……好きだよ」
「うぁああああ!! 照れるじゃないか、やめてくれぇええ!!」


 結局ぐだぐだと正月チームが酒盛りを始め、ついでに指揮を乱すという目的で酒を呑んだはずのルドまでもが酔っ払いになり正月商品達を口説いたり、感動させたりしていた頃。
 ――それを見ていた、ザドがぴきっとこめかみに青筋を立てた。


「手伝ってくれてるんだよ……ね……? ……。……こら、ルドー!」


 持っていた雪玉を使い、ザドは明らかにルドの素行が目的からずれ始めている事に突っ込みを入れようと投げつける。
 次第にルドが酔っ払っている事にも、ナンパしていることにも怒りが湧いてきた。


 だがそれは『攻撃』。
 敵陣地に飛んできた雪玉は全て攻撃の一つとして見なされるのは当然のこと。
 酒盛りをしている皆の前にすっと立ったのは美しい日本女性の絵が描かれた羽子板。彼女はふっと不敵な笑みを浮かべると飛んできた雪玉を華麗に打ち返した。――いや、雪玉自体は跳ね返る事無くべちゃっとその場に落ちるだけではあったが。


 酒に惑わされなかった正月商品――主に食品ではない物達がザドの前に立ち塞がる。
 羽子板だけではなく、凧や福笑い、双六など、だ。
 初めて見るもの達にザドは目を光らせる。面白そう……! そう本能的に感じ取って。


「皆の者、行けー!!」
「「「おおおー!!」」」


 門松が声を掛け、皆がザドに襲い掛かる。
 攻撃は「雪が基本」であるが、それは雪玉に限ったことではない。雪、であればいいのだ。逆を言えば雪玉でなくてもいいのだ。
 ひゅんひゅん飛んでくる雪玉を横に飛んで逃げながらザドは切らしてしまった雪玉の代わりになるようなものは何かないか探す。
 誰も居ない場所目掛けて走り、正月チームの陣地に近付いていきながらザドは他の攻撃方法を、そして身を護る方法を考え始めた。


 そしてついに、幾つかの案を思いつく。
 まず先ほど見事雪玉を打ち返した羽子板の後ろを取ると、その持ち手に手を掛ける。抵抗される前に、ザドは彼女の耳元にそっとこう囁いた。


「はごいたさん、ほら、うちかえすたまがいっぱいだよ!」
「はう! それは誘惑の言葉どすぇ。ああ、味方の玉なのに、味方の玉なのに!!」


 かこ、べちゃ、ぽふん!
 闘争本能と言うべきか、羽子板は味方がザドに攻撃する玉であっても打ち返さずにはいられない。やっぱり華麗に美しく玉を打ってしまう事にザドはやったと小さくガッツポーズをした。だが羽子板とはいえ当然全ての攻撃を防いでくれるわけではない。自分の方へと飛んできた玉は自分で塞がなければいけないため、ザドは次なる作戦に移る事にした。


「かどまつさん、おいわいかざりさん、ごめんね!」
「うお!?」
「きゃんっ! 冷たぁいっ!」


 ザドは敵である門松とお祝い飾りを盾にし攻撃を避ける。
 だが、ふと、あるものに目を奪われてしまった。


「あ、おせちさんおいしそう……すっごくおいしそう……じゅる」
「よ、よだれ垂らしても今は戦闘中ですから食わせませんよ。……俺が美味しいのは当然ですけど!」
「じゃあ攻撃しなかったらたべさせてくれる?」
「え……それってあり?」
「だって戦闘中だったらだめ、なんでしょー。口取りっておいし? たべた事ないからすごくきょーみあるんだけど」


 うっとりとした目でザドはおせちを見つめる。
 その熱い……油断すれば溶けてしまいそうなほど真剣な瞳におせちは何処にあるか分からない心臓が高鳴るのを感じた。
 これが恋、か。それとも乞いか、……などと下らない事を考えながら。


 ルドとザドが正月チームの攻撃をめちゃくちゃにしているのを見たルルティアは自分の持ち玉が随分と溜まった事を確認し、スーツの前掛け部分にその玉を乗せながらこっそり相手陣地内へと侵入する。それはとても魅惑的な格好だ。うっかりすればビキニラインが見えてしまいそうなほど、といえば分かってもらえるだろうか。
 だがルルティアはそれよりも正月チームの旗を護っている虎へと近付く。
 虎は今までの身体を伏せ状況を眺めていたが、傍観者というものは異常事態に気付くのが一番早い。
 ルルティアが正月チームの陣地内に入ったことなどとっくの昔に気付いていた。


「がるるるるるるっー!!!」
「気付かれた!? では、隠れる必要はもうないわね、私が相手よ!!」
「がぉぉぉぉぉぉぉっ!!」


 雄たけびが辺りを響かせ、遠くの山では小さな雪崩が起きる。
 ルルティアは雪玉を虎の顔目掛けて投げつけ、視界を奪おうとするが虎も素早く身を起こし雪玉を器用に避けてしまう。


 彼女と虎の戦闘が始まった途端、酒盛りをしていたルド達やおせちを突いていたザド達は一斉に旗の方へと視線を集めた。
 それはもちろん、「正月を祝い隊」の旗を護っていた白虎もだ。


 白虎は足で押さえていた虎グッズ達を見る。
 ちたちたともがいている様は愛らしい。だがぱくっと甘噛みすると彼らを一匹一匹正月チームの方へと放り投げた。そして旗の傍に誰も居ない事を確認すると彼は体を起こし、虎同様雄たけびを上げた。


「ガォォォォォォォォ!!(訳:俺も行くぞ!!)」


 二匹の獣の雄たけびは雪に吸い込まれすぐに消える。
 だが皆は悟った。
 ――これが最終決戦なのだと。


 白虎は雪原を駆けると止めようとする正月商品達を一気に薙ぎ払い、ルルティアの傍へと駆けつける。雪玉が無くなり攻撃の手がなくなっていた彼女は助けが来たことにほうっと白い息を吐いた。


「ガルルルル……(訳:俺が旗を奪う。その間、向こうからの攻撃を引きつけてくれ)」
「御免なさい、動物の言葉は分からないの。……でもあなたが何を言いたいのか分かるわ。さあ、行きましょう!」


 ルドとザドは今まで仲良くしていた皆を別れ、白虎とルルティアの元へと駆ける。
 その手にはもちろんいつの間にかこっそり作っていた雪玉を携えて。
 対峙する二匹の虎の身体の大きさはほぼ互角。つまり攻撃力も互角と見ていいだろう。威嚇の声をあげ、飛び跳ねる白虎。そんな彼の後方から皆が雪玉で応戦する。
 同様に正月商品達もまた攻撃を再開してきた。


「ガルルルッ!(訳:正月早々仲間と逢えるとは、俺は運がいい)」


 白虎は微笑む。
 この雪合戦がたとえひと時の夢であっても幸せだと、楽しいと感じているからこそ。
 そして全力で虎は応えた。虎もまた同じ気持ちであると。


 そんな二人の後方で支援しながらルルティアは空を見上げる。
 そして今まで以上に硬く握った雪玉を一つ作るとある一点目掛けて思い切り投げつけた。彼女が放った雪玉は直線を描き、見事目標物へと到達する。そうそれは『枝』。しかもたっぷり雪の乗った枝だ。


「がるっ!?」


 下には正月チームの虎がしまったと言うように一瞬目を丸めた。
 慌てて身を横へとずらそうとするが、今度は足に向かってルドとザドが雪玉を投げつけて衝撃を与え逃げ道を塞ぐ。ぐらりと虎が体勢を崩し、ずしんっと音が鳴った。


―― ざざざざざざざッ!!!


 積もりに積もっていた雪が落ちる。きゃああ、と悲鳴をあげたのは恐らくお雑煮あたりだ。
 白虎は高くジャンプし、旗目掛けて素早く駆けた。


 そして虎が雪の下から何とか這い出し、旗の方を睨めばそこに立っているのは勝者。


「ガルルルルルルッ!!(訳:俺達の勝利だ!!)」


 夕日を背に旗を加えて吼える白虎はまさに神々しい獣だった。



■■■■



 決戦後。


「どーして、酔っ払ってるの! どーしてナンパしちゃうのー!!」
「いや、相手はおせちだよ? お酒だぞ?」
「やだー! おせちでも、やーなのっ!」


 ぽかぽかと可愛らしく拳でルドの身体を叩くザド。
 ほっぺたはぷくっと膨れ、まるで焼餅のようだ。


「さぁさぁさぁ、皆さん。中へ入りましょう。次はおせちさんを突かなければ!」
「餅兄、あたいもアンタも一緒に温まりたい」
「ああ、お雑煮。俺も今年はお前と……」
「ラブロマンスうざい」
「ほらほら、年賀状。宛先が滲んじまって迷子になる可能性が高いからって八つ当たりしねーの」


 寒空の下から和風の建物の中へと入ればそこはまさに天国。楽園。温められた室内は疲れを癒すのに最高だ。
 司会である鯛は再びマイクを手に、皆が一瞥出来る場所へと立つ。
 そしてぺこりと器用に体を折ってお辞儀をした。


「本日はお疲れ様でした! では皆様盃を持って下さい! あ、子供は酒禁止。ジュースだよ」


 その言葉に一部の子供は配膳してくれているお年玉にグラスにオレンジジュースを注いでもらう。
 そして皆高らかに盃、そしてグラスを掲げた。


「ではでは、今年も宜しくお願い致します!!!」
「「「「致しますっ!!」」」」


 そして正月バトルは幕を下ろした。








□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

【3364 / ルド・ヴァーシュ / 男性 / 26歳(実年齢82歳) / 賞金稼ぎ / 異界人】
【3742 / ザド・ローエングリン / 中性 / 16歳(実年齢6歳) / 焔法師 / レプリス】
【8048 / 真行寺・拓海 (しんぎょうじ・たくみ) / 男性 / 16歳 / 学生/ルルティア】
【6811 / 白虎・轟牙 (びゃっこ・ごうが) / 男性 / 7歳 / 猛獣使いのパートナー】

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

 あけましておめでとう御座います。
 皆様集合有難う御座いました!!
 また機会が御座いましたら、遊んでやってくださいませっ。


■ルド様
 こんにちは、いつもご参加有難う御座います。
 プレイングを読んで勢い良く吹かせて頂きました。今までルド様に頂いた中である意味一番凄い中身で「どうした!? 何があった!?」などとこっそり叫んでおりました。
 口説き文句が素敵です……!