<PCクエストノベル(2人)>


+ 温泉と休みと感謝のハルフ村 +

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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】

【2357/イクスティナ・エジェン/第三級術煉士】
【2358/ルュ・ルフェ・メグ・メール/フェイメル・シー】

【助力探求者】
【NPC/ルディア・カナーズ/ウェイトレス】

【その他登場人物】
【NPC/従業員】

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■■ 序章 ■■



 それは新年の賑わいからようやく辺りが落ち着きを取り戻した頃の話。
 白山羊亭も日々客の入りが多くてんやわんやな毎日だったが、なんとか通常の客足へと戻り始めた時の事だった。
 いつものように休憩を取ろうとイクスティナ・エジェン――通称、イクスが店の奥へと足を運ぼうとした瞬間、ひゅるるるるっと何か小さい物が頬の傍を通る。なんだ、と彼女は眉を顰めてそれを睨みつけると『それ』、すなわち妖精であるルュ・ルフェ・メグ・メールがくるっと振り返り小さい目を大きく見開いて両手をぶんぶん振っている姿が見えた。


ルルフェ:「イクス、当たった〜!!」
イクス:「ん? 何がだ」
ルルフェ:「あのねあのねっ〜、新年祭の催し物でね、ぼくね〜、籤を引いたんだ! そうしたらね! 当たったの!」
イクス:「なんだ、石にでも当たったか」
ルルフェ:「違うよー! あのねっ、温泉旅行が当たったの! ねっ、ねっ、凄くない!? ボク凄いよね! ほら、良い機会だから皆で一緒に旅行に行こうよ〜!」


 そう言いながら彼が差し出してきたのは一つの封筒。
 恐らくその中には当たったという温泉旅行に関する書類やらチケットやらが入っているのだろう。イクスは半信半疑でルルフェから其れを奪い、中を開く。「どうせてきとーなもんでも入ってんだろう」と考えていたイクスだが、中身は意外にしっかりとしたプランや其処に行き着くまでのルート、馬車の手配の方法など事細かに指定されていた。


ルルフェ:「ボク、ルディアも呼んでくるー! イクスはその間にお休みが取れるかどうか聞いておいてね!」
イクス:「おい、俺はまだ行くだなんて一言も言って――」
ルルフェ:「きーこーえーなーいー! ルディアー! 聞いて聞いて、あのね、ボクねっ――」


 両手で自身の両耳を塞ぎつつ、満面の笑顔でルルフェは白山羊亭のウェイトレスであるルディア・カナーズの元へと飛んでいく。
 その小さな背中をちっと舌打ちしつつも眺め、イクスは手の中に残ったパンフレットを眺めた。


 『ハルフ村』。
 それは突然温泉が湧き出た事で一躍有名になった村だ。観光地としてイクス自身も何度か名を耳に入れたことがある。人の出入りが増えたことによって好くない噂も多少は聞こえてくるも、基本的には良い村だとか。


 イクスは封筒にパンフレットを仕舞い、角でとんとんっと肩を叩く。
 その顔にはやれやれ、と書いてあった。


イクス:「ったく、普通そんな急に休みなんか取れるわけねーだろうが」


 だがそれでも足が向かった先は間違いなく、亭主の元だった。



■■ ハルフ村 ■■



イクス:「――いや、俺はさー。ホント休みなんて取れるわけねーって思ってたんだよ」
ルディア:「ところが案外あっさりと取れちゃいましたね〜。ふふ、暮れから年明けまで働き詰めだったから本当に嬉しいです〜」
ルルフェ:「二人とも一生懸命働いていたもんね〜」


 ハルフ村に到着した馬車からイクスが先に、続いてルディアが地面に足を下ろす。
 人の出入りが激しいと聞いてはいたが、村は本当に多くの人で賑わっており活気付いている。これが数年前までは実はただの長閑に日々を過ごしていた村だったとは思えない。道行く人々の表情はとても明るく、そして穏やかで、エルザードとはまた違う雰囲気に三人は表情を綻ばせた。


イクス:「さてっと、今日の宿はー……お、ここか。よしさっさと中に入って休むぞ。確か飯も出たな。それまで俺は寝る」
ルルフェ:「え〜、なにそれ。なんでこれからって時に寝ちゃうの!?」
ルディア:「そうですよ、せっかく旅行に来たんですから色々回りましょうよ。ね?」
イクス:「あのなぁ、俺は身体を休めに来たんだ。エルザードでの激務の日々を忘れるために来たのであって、けっして遊びに来たわけじゃ……」
ルルフェ:「あ! あれ何! 『温泉ひよこ』って書いてあるよ〜」
ルディア:「見に行きましょう、ぜひそうしましょう!」
イクス:「あ、おい待て、こらー!! お前らせめて荷物は宿に置いていけー!!」


 本日の宿、その玄関先に辿り着いたまではいい。
 だがそれよりも先にルルフェとルディアは土産物屋に目を奪われてしまったらしい。着替えなど詰め込まれたリュックはそれなりの大荷物になっているというのに二人は特に気にせず、今し方気になった『温泉ひよこ』とかいう幟が立っている店へと片方は駆け、片方は飛び始める。
 片手を前にして制止の声をかけたイクスを見て、対応していた女性の従業員はくすくす笑う。もちろん三人が微笑ましくて、だ。


従業員:「ご夕食のお時間は午後六時から八時の間となっております。お荷物はお預かりいたしますので、それまではどうぞゆっくり観光なさってはいかがでしょうか。ここら辺には遊技場も土産物店も甘味処も沢山在りますよ」
イクス:「〜っ……じゃあ、荷物だけ部屋に運んでおいてくれ。――だからお前ら、荷物は置いてけってー!!」


 イクスは自身の荷を肩から下ろし、二人を……主にルディアを追いかける。
 そして彼女の肩からもリュックサックを下ろさせると従業員に預けた。後は金銭だけ落とさなければ何とかなるだろう。人の多いところには小競り合いも多い。そこだけは気をつけなければと僅かに緩みそうになっていた精神を引き締める、が。


ルルフェ:「すごーい! イクス、イクス。『温泉ひよこ』って温泉の熱を利用して孵ったひよこのことなんだって〜」
ルディア:「でも売っているのはお饅頭ですね〜、みんなのお土産に買って帰りましょう」
ルルフェ:「ね、あっちのは何だろう! えーっと……『ハルフ村名物ちょこっと温泉☆』とか書いてる」
ルディア:「あ、それは入浴剤みたいですね〜。向こうの店は甘味処と書いてありますね。ほら、イクスさん美味しいものを食べに行きましょう。そうしましょう!」
ルルフェ:「ボク、食べきれるかなぁ〜」


 ――何故だろう。
 すでに辺りに馴染み始めた二人を見ていると気が抜け始めるのは。


イクス:「あー、もう。身体休めに来たんじゃなかったのかよ」


 ややうんざりと言った感じでイクスは右手を額に当て、肩を落とす。
 だが、楽しそうな彼らの表情を曇らせるほど彼女も愚かではない。むしろ盛り上がっている二人を見ているとエルザードでの激務も忘れてしまえそうだ。
 イクスの腕を掴んだのはルディア。先導するのはルルフェ。
 早く早くと急く二人にやれやれと心の中で溜息を吐き出しながらも、イクスは僅かに不器用な笑みを浮かべた。



■■ 温泉 ■■



 『ハルフ村は岩風呂、檜風呂、美人の湯などなど多種多様の風呂があり、内風呂と露天風呂のいたれりつくせり両対応。さあ、貴方も楽しい旅行は如何ですか!』


 そうパンフレットに書いてあった事をイクスは思い出す。
 外湯巡りも楽しそうだったが、本日は宿の都合もありそれは明日という事になった。


イクス:「っていうかお前ら二人で楽しんでこいよ」
ルディア:「あら、それは三人で来た意味がないじゃないですか〜。もちろんイクスさんだって一緒に行きますよね」
イクス:「……」
ルディア:「女湯に一人で入るのって面白くないですよ〜」
イクス:「じゃあ、なんで今このチビはここにいるんだよ」
ルルフェ:「えへっ」


 イクスとルディアが浸かっているのは宿の貸切露天風呂。
 それは旅行のプランにオプションで付いていたものだ。女性二人で和やかに空を眺めながら湯に入り、他愛ない話に花を咲かせている姿は非常に長閑。
 だがその光景の中に桶に湯を張った即席温泉に浸かっている妖精が一人。それはもちろんルルフェの事だ。彼は可愛らしく、顔に人差し指を当てて笑顔で二人を見遣る。当然彼自身も腰に巻いた手拭いの他は全て裸だ。


ルルフェ:「イクス知ってる〜? 男が一人で温泉に入っても面白くないんだよ〜」
イクス:「おまえはアホか」
ルルフェ:「えー。でもイクス抜きで温泉巡ってても面白くないよー」
イクス:「だからお前ら二人でちゃっちゃと入ってくりゃ良いだろうって言ってるだろうが。チビ、どうせお前の事だからちゃっかり女湯に行く気なんだろ」
ルルフェ:「ボクに一人寂しく男湯に行けって言うの〜? イクスの鬼!」
イクス:「世間的にはそれで正しいんだよっ!!」


 桶の縁で腕を組み、ぱちゃぱちゃと足をばたつかせるルルフェ。
 ぷくぅっと膨れた頬から本気で女湯に交じる気でいる事が窺える。イクスはそんな態度にくらりと眩暈のような眩みを感じた。
 ふふっと微笑むルディアもイクスも身体に布を巻いてはいるがほぼ裸だ。つまり、一応これは混浴である。
 だが漂っているのは色気と言う言葉とは縁遠い雰囲気。むしろそこにあるのは家族のような――友人同士の穏やかな空気だけ。


 ふと、イクスは思う。
 結局はなんだかんだと休みを休みとして満喫しているのは久々かもしれない――と。


 鼻が浸かるぎりぎりまで身体を沈め、内側の方まで温めながら考えることも他愛のない……けれどそれもまた大事な感情。
 エルザードに居ても、離れていても、この二人と一緒であれば途絶えることのない時間はもしかしたら――。


イクス:「お前らといるとホント、退屈だけはしねーよな」
ルルフェ:「でしょでしょ〜。もっと褒めて」
ルディア:「ルディアもイクスさんと一緒に居ると楽しいですよ。なんせ突込みが早いですから」
イクス:「そこか」


 びしっと裏拳で思わず突っ込みをいれてしまいたくなる程の台詞に正直脱力する。
 上を見れば紺色の夜空。
 寒さは温泉の暖かさに包まれ、今は感じない。彼らは笑う、話す、時々ボケて突っ込みを入れる。


 ―― そう、それは所変わっても賑やかな休日。


イクス:「あー、……あったけぇー」


 その優しく与えられている温度に、心からの感謝を。











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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、発注有難う御座いました!
 ハルフ村への観光は如何だったでしょうか?
 普段とは違う場所――けれどいつも通り賑やかで幸せな日。
 ところでイクス様の突っ込みはこんな速度で大丈夫でしょうか。
 あとはやっぱり温泉にちゃっかりルルフェ様が交じっているところなど楽しんで頂けましたら嬉しいですv