<ココ夏!サマードリームノベル>


『夏の涙』

「互いに互いを大切にしたくて守りたいんなら、怪我も負担も片方だけに偏らないほうがいい。千獣が無茶をしてリミナが傷つくなら、それはそれで互いに怪我したってことだしね。千獣が痛いの我慢する代わりに、リミナも辛いの我慢すればいいじゃん」
 ルニナのその言葉に、リミナは軽く眉を寄せて困り顔で苦笑した。
 千獣は――。
 目を開いたまま、硬直したかのように表情が固まっていた。
 瞳だけが、揺れていく。
 ルニナはにやりと笑みを浮かべており、窓からは温かい風が入ってくる。
 命を感じる。
 熱く強い命を感じるこの場で、千獣の頭の中はぐるぐると感情が渦巻いている。
 一人の時には、受けることのない感覚。
 話すということ、聞くということ。
 会話をすることで、湧き起こる感情が頭痛がするほどに、頭の中で暴れている。
 言葉さえちゃんと出すことができず、千獣は混乱をしていた。
「やだな……」
 先に声を発したのはリミナの方だった。
「互いに、痛い思いしないですむのが一番なのに」
 そして、リミナは弱弱しく笑った。
 千獣はそんなルニナとリミナの言葉を聞いた後、首を左右に振った。
「とう、して……」
 手を握り締めながら。ぎゅっと強く握り締めていきながら、千獣は問い始める。
「……傷ついても、いいって、どうして?」
 目を向けるルニナに対して、千獣はたどたどしくも早口になりながら、問いかけていく。
「だって、体の傷と、心の傷は、違う……。体の傷は、治る。まして、私は、人間より早く、治る。……だから、平気。でも」
 首を強く左右に振った。
「心は、違う。体の傷より……もっと、痛い。体の傷のようには、治らない」
 口調を荒げて、切実な声で千獣は訴えていく。
「私は、その心を、傷つけている。……傷つけたくない、守りたいのに、傷つけてしまう」
 千獣の真剣な表情と声に、ルニナからも笑みが消える。
「ザリスのときも、そう。あの人は、生きてなければならなかった。……少なくとも、ルニナや、村の人達を、救う方法を知るまでは、傷つけては、いけなかった。でも、止められなかった。みんなの命を、背負う人だって、わかってても、無理だった……」
「千獣……」
 千獣の名前を口にしたリミナは、とても辛そうな表情をしていた。
 自分の言葉が、またリミナを傷つけているのだと、千獣は知って。
 それがまた、千獣を苦しめる。
「……私に、人は守れない」
 今にも泣き出しそうな顔、だけれど泣くことは出来ない顔で、千獣は続ける。
「人と共にある資格は、ない」
「千獣、私、は……」
 リミナは涙を浮かべていた。
 眉を寄せて、涙を堪えながら俯いて。
 苦しげに言葉を出していく。
「何て言ったら、あなたを癒せるのかわからない。わからない、千獣」
 閉じたリミナの目から、涙が一粒、零れ落ちた。
「傷ついているのは、あなたも一緒じゃない。あなたの人の心が傷ついている。体の傷よりもっと痛い心の傷を負っている。体の傷は治療してあげられても、その心の傷を癒すことができない。一緒にいたいのに、以前のように笑いあいたいのに、3人で一緒に眠って、朝を迎えたいのに――」
 千獣とリミナが苦しげな言葉を吐いた後、しばらく沈黙が続いた。
 ゆっくりと流れ込んでくる風の音が聞こえるくらい、静かだった。
「ザリスを殺したのも、千獣の人の心でしょ? だって、私があなたの立場だったら、同じことしたと思うし。そんなアイツを見たら、私も自分を止められなかったよ、絶対」
 沈黙を破ったのはルニナだった。
「話、一通り聞いたけれど、ザリスが生きていたら今はなかった。良い方向に進んだのに、過去に縛られて後悔して逃げようとしてしまうのも、人の心。千獣が人間と一緒にいる資格がないのなら、私の方がもっとないと思うんだけどね。自分達の為に、沢山の人々を犠牲にした私の方が」
 小さく息をついて、ルニナは千獣の目を真っ直ぐに見た。
「そんな風に悩んでいるのも、あなたを支配しているのは、人の心だから。人は心の奥に、誰だって獣の心も持っている。私は結構その動物的な心が強い。千獣も強い方なのかもしれない。ザリスはきっともっと強かった」
「でも……」
 千獣にとって、他の命を奪う場合、自分や仲間の命を繋ぐ為であることが大前提だ。
 何の糧にもしない殺害は大禁忌だ。
 薬が出来たことは結果論でしかないのだ。
 苦しげな千獣に、ルニナは語り続けていく。
「だけど私は仲間と暮らしたい。例えば、治してもらったこの体の一部が獣と化したとしても。リミナとも一緒にいたいし、千獣も大好きだよ」
 最後に、強い目で微笑みながらルニナは言った。
「その人の心できちんと考えて、人の結論を出してほしいと思ってる」
 カタン、と音がして。
 部屋のドアが開いた。
「ん? なんか空気が重いぞ」
 入ってきたのはファムル・ディートだ。
「友や家族の笑顔が、病人にとっての薬でもあるんだぞ?」
 千獣とリミナにそう言った後、ファムルはベッドのルニナに目を向ける。
「無理はするな。副作用がないとも限らんしな」
「……少し、休んで」
 リミナはルニナを休ませて、それから千獣の方に弱い笑みを向けた。
 彼女はもう何も言わずに、千獣の答えを待っていた。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【3087 / 千獣 / 女性 / 17歳 / 異界職】

NPC
ファムル・ディート(NPC0463)
リミナ(NPC0980)
ルニナ(NPC0965)

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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いつもお世話になっております、ライターの川岸満里亜です。
ご依頼、ありがとうございました。
良いご決断をしていただければと思うのですが……。
力不足により、至らない点が多々あり、申し訳ありません。