<東京怪談ノベル(シングル)>


日々、修行也!!

 高く険しい山々が連なる険しい自然。
 そこに、闘神教団の信者達は暮らしている。
 鍛えられた肉体を更に磨きをかける為、今日も彼らは山脈を走り込んでいた。
 それは、とある日の話。

 ガイは他の信者達と共に半裸、裸足という出で立ちで整備されていない山道を走っていた。雄大な自然は圧倒的な力で今日もそこにあり、この肉体を鍛える為の試練を与えてくれる。
「イッチニ!イッチニ!…ん?」
 掛け声雄々しく走っていると、ガイ達は異変に気づいた。
 複数の知らない気配が、山を走っている。
「盗賊…だけじゃなさそうだな。いってみっか!」
 この山脈は高く険しい山々が連なり、魔獣や魔物が跋扈する世界である為、人の手は入っていない。それ故、盗賊達が拠点にすることもあるのだ。もっとも、彼ら全てが闘神教団の良いトレーニング相手でしかないのだが。
 ガイ達が気配の方へ急行すると、山がさざめく。どうやら相手もこちらに気づいたようだ。
 茂みの先に、十数名程の盗賊と数頭の魔獣が見える。
 ガイは、加速した。
「おっしゃあ!一番乗り!」
 スピードを乗せた強烈な飛び蹴りが手前にいた魔獣の頭部にヒットすると、魔獣は岩に叩きつけられ、物言わぬ肉塊と化す。着地と同時に身体の遠心力を使い、腕を薙ぎ払えば、盗賊の脇腹に決まり、骨が折れる感触を伝えた後、木に叩きつけられる。
「ガイ!俺達の分も残せ!」
「悪い悪い!」
 後を追ってきた信者達に笑いながらガイは、背後から刃物を振りかざした盗賊の顔面に肘をめり込ませ、振り返り様に膝を鳩尾へ叩き込む。
 追いついた信者達も嬉々として盗賊と魔獣に踊りかかり、彼らを叩き伏せていく。
 悲鳴の連続から静寂が戻るのに、それ程時間はかからなかった。
「で、お前ら何だ?」
 先程顔面に肘をめり込ませた盗賊だけが気絶せずに残っており、ガイ達は尋問を始める。
 どうやら、この盗賊が身を置く盗賊団はつい最近、この山脈に拠点を作ったらしい。見覚えのない盗賊だからそれもそうかとガイは納得する。
「もうちっと詳しいこと教えてもらわねーと、アジトに行けねぇよなぁ」
 ガイはそう言いながら、盗賊の右手を両脚で挟み込み、その関節を十字に極める。無理に逃げようとする盗賊は悲鳴を上げる。
「おっと、無理に逃げねぇ方がいいぜ?商売道具の腕が使い物にならなくなっちまうからなぁ」
「話す!話すから話してくれ!」
「素直だな」
 ガイはぱっと話すと、明るく笑う。
 盗賊は洗いざらい話した。
 彼の盗賊団のアジトは、この山にある洞窟の一つらしい。頭領は、中年に差し掛かる男で魔法を扱うらしい。その魔法で魔獣や魔物を従えたばかりか、洞窟は何かの遺跡のように整備されているのだという。
「魔法使いか。手応えありそうだが、自然のものを弄るのは、良くねぇよなぁ」
 ガイの言葉にうんうんと頷く信者達。
「もう、いいだろう?!俺はもうこれ以上知らない!!」
「おう、ありがとな!」
 その言葉と同時にガイは鳩尾に拳を一発入れ、盗賊を気絶させた。彼らは麓の街に転がしておけば、自警団が捕らえるだろう。
「魔法使いが盗賊の親分か…。これは、ひっさびさに腕が鳴りそうだぜ。な!」
「おうよ!」
 貴重な修行相手の出現にガイも信者達も豪快に笑った。

 その夜。
 ガイ達は、盗賊達のアジトを見つけ出していた。
 入り口が小高い丘になっている洞窟には、見張りの盗賊達が数人いた。入り口の上部で耳を澄ませていると、魔獣を連れた何人かが帰ってきておらず、頭領が不機嫌であるという会話が耳に入ってくる。
 ガイは、信者達と顔を見合わせ、頷きあった。
 今だ!
「油断大敵とはよく言ったもんだぜ!」
 ガイ達は一斉に飛び降りつつ、着地の衝撃を利用した踵落としを盗賊達の脳天に叩き込んだ。見張りの盗賊達は悲鳴と共に地に崩れる。そして、アジトの内部へすぐに異変が伝わったのか、中から武器を構えた盗賊達が現れた。
 そう来なくては、面白くない。
 だが。
「悪いが、雑魚に興味はねぇよ!」
 ガイは大地へ力強く足を踏み下ろした。
 その瞬間、ガイの気が衝撃波となって、入り口付近にいた盗賊達をまとめてアジトの壁へと叩きつける。
 入り口は完全に制圧した。
「さーって!修行させてもらうぜ!」
 ガイ達は楽しげにアジトの中へと突入する。
 洞窟の中は情報通り、魔法の力によって確固たる遺跡のような形を保っていた。まるで迷路のようでもあったが、それすらも楽しく、ガイ達は現れてくる盗賊ごと力で捻じ伏せていく。
 その時だ。
「てめぇら、よくもここまでやってくれたな」
 残りの盗賊達の奥に目つきの悪い中年の男が杖を持って立っている。男が盗賊団の頭領であるということは、説明されずとも分かった。
 魔法使いは、魔法を撃たれる前に倒すのが鉄則である。
「でっかいの、いっくぜぇっ!」
 ガイは拳に気を集中させると、その漲る力を気弾とし、盗賊達に向け、叩きつけた!
 ガイの大技、煉獄気爆弾である。
 通常の気弾より威力もその攻撃範囲も比べ物にならないが、大技であるが故に暫く気の力を練れないという欠点がある。
「チッ!」
 頭領が杖を水平に構えた、その瞬間。
 気弾は盗賊達の足元に炸裂すると、爆発を起こし、荒れ狂う爆風は頭領の周囲にいた盗賊達を薙ぎ払い、アジトの壁へ叩きつける。
「大した技だが、俺の魔法の方が上だったようだな!」
 爆風の中、頭領が笑い声を上げる。
 だが、爆風が収まったと同時にガイは地を蹴っていた。身体の遠心力、そして着地の衝撃を加えた蹴りが頭領の顔面を捉えていた。
 頭領はアジトの壁に勢い良く叩きつけられると、そのまま動かなくなった。
「なんだ、思ったよりあっけなかったな」
 ガイはそう言うと後からやってきた信者達に「悪い!俺だけでやっちまった!」と明るく笑うのだった。

 それは、とある日々の話。
 彼らのありふれた修行の1コマ。
 高く険しい山々に囲まれ、ガイと信者達は今日も修行に明け暮れている。