<水無月・祝福のドリームノベル >
あなたとの結婚生活
結婚――‥‥。
それは人生の中で一つの終着点であり、出発点でもある儀式。
他人同士が誓い合って、これから先の人生を共にする事。
「そういえば‥‥結婚、したんだよね」
ふとした時に思い出す結婚式のこと。
色んな事があって、あの人と夫婦になって‥‥。
「幸せだなぁ‥‥」
視点→フィール・シャンブロー
自分が結婚する事を水晶玉で見えたのはいつの事だっただろう。
最初は気まぐれからだったような気がする。いくら未来予想だからと言ってもそれは『可能性』の一つでしかなく、必ずしもその出来事通りに行くとは限らない。
(最初はびっくりしたっけ‥‥)
水晶玉に映し出されたのは、まだあどけなさの残る年下の少年だった。
(彼を見た時、本当に私が結婚する事になるのか疑いたくなるくらいだったし)
だけど、こうして結婚式を迎えるのだから運命なんて本当にどうなるか分からないものだとフィールは痛感していた。
「‥‥‥‥」
今日から自分の夫となる彼は確かに隣に座っているのに、ガチガチに緊張しているらしく、フィールのウェディングドレス姿を見ても褒め言葉の一つも言ってくれていない。
(普通、こういう場合って花嫁の方が緊張するんじゃなかったかしら)
「な、何?」
突然フィールが思い出し笑いをしたのを不思議に思ったのか彼が目を瞬かせながら問いかけてくる。
「ううん、あなたとも結構いろんな事があったなと思って――‥‥ほら、あの時だって」
「あの時?」
それはまだフィールと彼が付き合い始めたばかりの頃だった。
彼とデートをする為に、待ち合わせ場所で待っているとフィールは数人の男に絡まれてしまった。
普段ならばそんな男たちなど蹴散らしても良かったのだが今日は彼とのデートの為にいつもよりお洒落をしてきていた。
(‥‥こんな男たちのせいで、服装が乱れるのも嫌だし‥‥相手にしないのが一番かもしれないわね)
フィールは心の中で呟き、男たちの言う事など聞こえていないかのように小さくため息を吐いた。
「おい、聞こえてるんだろ。澄ましてんじゃねぇよ」
「そうそう、さっきから見てればずっとそこに立ってんじゃん」
「俺達と一緒に遊ぼうぜ、絶対その方が楽しいからさ」
次々に言葉を投げかけられ、正直フィールはうんざりしていた。
(‥‥いつもなら待ち合わせ時間より先に来てるはずなのに、何で今日に限って遅刻してくるのかしら。そして何で今日に限ってこういう男に絡まれたりするんだろう)
今日の運勢、悪かったかな――‥‥とフィールが心の中で言葉を付け足す。
「な、何してるんだよ!」
何度目になるか分からないため息を吐いた時、息を切らした彼がやってきた。汗だくになっている所を見ると、慌てて走って来てくれたのだろう。
「なんだよ、お前」
「お呼びじゃないんだから、帰れよ」
「そ、その人は僕の大事な人なんだ。だ、だから帰るのはキミ達の方だ!」
そして彼がかっこよくフィールを助けてくれた――‥‥という事にはならず、フィールを守るために前へと立って、男たちから数発殴られてしまっていた。
結局騒ぎを聞きつけた周りの人間たちが男を追い払ってくれた形になってしまったのだが、自分の為に明らかに勝てないであろう男たちに立ち向かってくれた事がフィールはとても嬉しかった。
「あの時か‥‥本当はかっこよくフィールを助けたかったんだけどね」
落ち込んだように彼が言うから、フィールは「そんな事ない」とすぐに言葉を返した。
「強くても弱くても、あなたは私が大好きなあなただもの」
しょんぼりと落ち込む彼をフィールがぎゅっと強く抱きしめる。
「僕はダメだね。本当ならこういう場合緊張するのは花嫁で、緊張をほぐしてやるのが新郎なのに――‥‥でもありがとう、こんな僕を選んでくれて」
彼がふわりと微笑み、そのままフィールに顔が近づく。
(あ、キスされる‥‥)
そう思ったフィールは彼と自分の口の間に手を入れて「ダメ」と短く呟いた。
「えー‥‥」
思い切り不満そうな声をあげられ、フィールは苦笑して「誓いのキスは本番にとっておかなくちゃ」と言葉を返す。
「それじゃ、そろそろ時間だから行こう」
彼が手を差し出してきて、フィールも微笑みながらその手に自分の手を乗せる。
「あ」
控え室を出ようとした所で足を止め、彼がフィールの方を見ながら「すごく、綺麗だよ」と照れたように言い、予想してなかった言葉にフィールも照れてしまう。
そして二人だけの結婚式が始まる。
普通ならば友達や家族などを呼んでするのだが、二人だけの結婚式にしようとフィールと彼、二人で決め、自分達以外は神父しかいない結婚式をする事にしていた。
「それでは、誓いのキスを」
誓いの言葉が終わった後、神父が微笑みながら両手で促す。
「はい」
触れるだけのキスだったけれど、じんわりと心が温かくなるようなキスだった。
「世界中の誰よりも大好き、きっとこれから苦労をかけるかもしれないけど‥‥ずっと仲良くしていこうね」
フィールが呟き、そんな事を言う自分にフィール自身が驚いていた。
(私がここまで思うなんて‥‥)
ずっと彼がフィールに依存しているんだと思っていたが、どうやらそれは間違いのようでもしかしたらフィールの方が彼に依存しているのかもしれない。
「‥‥‥‥」
水晶玉の映像が消え、フィールは小さくため息を吐く。
「‥‥結婚なんて面倒くさいのに、本当にこれは私の未来の可能性の一つなのかしら」
今まで水晶玉で見た自分の未来を見終えて、フィールはとても信じられなかった。性格や低血圧な所は一緒だけど、彼に関する感情がとても今の自分からは考えられないものだった。
(私って、誰かを好きになったらこんなになるのかしら)
ぼんやりと何も映さなくなった水晶玉を見ながら、先ほどの映像を思い出す。水晶玉の中の自分は笑っていて、とても幸せなのだということが伺える。
水晶玉に映された出来事は可能性の一つでしかないけれど、出来るならその可能性の未来へと歩いている自分がいて欲しい――と願うフィールなのだった。
END
―― 登場人物 ――
3783/フィール・シャンブロー/20歳(実年齢120歳)/女性/異界職
――――――――――
フィール・シャンブロー様>
初めまして、今回執筆させていただきました水貴透子です。
今回はご発注いただき、ありがとうございました!
ご希望に沿えた内容に仕上がっていれば嬉しいのですが‥‥!
それでは、今回は書かせて頂き、ありがとうございました!
2011/7/1
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