<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


+ ××、襲来! +


 それはとても暑い夏の日の出来事。
 今日も毛先がふわりとウェーブしている茶髪の少女ミリア・ガードナーと艶やかな黒髪を腰まで伸ばした女性ジュリス・エアライスは聖都エルザードにある、エルザード城の門周辺の警護を行っていた。


「今日も暑いですわね〜」
「本当……照りつける太陽がちょっと……」
「ジュリスさん。休憩時間になったら何か冷たいものを貰いましょうよ、ね!」
「そうね、流石にこのままじゃ熱中症になってしまうもの」


 白を貴重としたドレスに似た戦闘服を纏うミリアは胸元で拳を作りながら進言する。それに対してジュリスも同意の頷きを返し、日差しを遮るように額に手を乗せた。
 それから影を探すように二人は門から僅かに移動する。警護を任されているとはいえこうも暑いと自分達の方が倒れてしまう。そうなってからでは仕事自体こなせなくなってしまうため、安全策を取った。門から少し離れた建物の影の下はひんやりとしており、壁に寄りかかれば背中に冷たさが伝わる。そうしてやっと二人はほうっと息を吐くことが出来た。


「あら? あれは……」
「ミリア、どうしたの?」
「ジュリスさん、あれは――」


 不意にミリアが指をさす。
 その先にあるのは城門。先程まで警戒していた場所に誰かの影が伸びていることに二人は気がついた。一般人だろうか。そう考えるも、その考えは次の瞬間轟音と共に覆される。
 ゴォォォンッッ!!
 破壊音と共に飛び散ったのは門を閉じていた鉄の鍵。強制突破しようとしているのは誰の目にも明らかであった。民であればこんな真似はしない。否、例え民であっても許可なき侵入は許されるものではない。二人は顔を見合わせると影から飛び出て侵入者の進路を塞ぐように構えを取った。そんな二人の目に入ったのは――。


「あっら〜ん、かわいらしいお嬢さんねぇん」
「ひっ!」
「ま、まぁ……」


 なんと、見かけは強靭な肉体を持つ男性。
 しかし仕草や口調、そして唇などに塗られている化粧品は明らかに女性のもの……つまり、侵入者はオカマであった。男性に見える女性かとも考えてみたが股間部を覆うアーマーには男性特有の膨らみがあり、即座にそれは脳内で否定されてしまった。
 彼? 彼女? の手に握られているのは鎖鎌。ヒュンヒュン、と鎖を回し、鋭く磨がれた鎌が回るのを見て危機感を感じる。見かけと似合わないくねっとした仕草は見るに耐えない。ミリアは明らかに嫌悪を顔に浮かべ、ジュリスも足を一歩後ずらせてしまった。


「でもねぇ、邪魔されちゃあ困るの、よぉっ!!」


 その声と同時に侵入者は地面を蹴り飛ばす。
 勢いの有るダッシュと共にオカマはにぃっと嫌味のある笑みを浮かべまずジュリスに標的を定めた。鎌を振り回し、勢いのついたそれを彼女の細い首目掛けて投げ飛ばす。しかし鎌自体がジュリスを傷つけることは無く、むしろ付けられていた鎖が彼女の首を強く締め付け始めた。次いで侵入者は鎖を持つとそのままジュリスの身体を持ち上げ、彼女自身の体重に任せるままに呼吸を奪う。


「――っ、かは、ぁ!」
「ジュリスさん!」
「く、ぅ……」
「ジュリスさんを離して下さいませ! この……オカマさん!!」
「……あっらぁ……ん?」


 ジュリスが鎖に指を食い込ませて抗う。
 その間にもミリアは彼女を助けようと自身の足技で相手を攻撃するが、見かけはただのオカマと言っても肉体から推測出来るように、侵入者は相当の手練であることがわかる。金属鎧に当たる彼女の足は音や衝撃からもそれなりにダメージを叩き出しているはずなのに、相手はまったく気にしていない。


「ミ、リ……」


 やがて、ジュリスの意識が遠のき、抗っていた手がくたりを垂れる。死んではいないのは胸元の上下運動から分かるが、それでも危険なことには違いない。ミリアはカッと目を見開き、渾身の力を込めて侵入者の脛を蹴った。ジュリスが意識喪失した事もあり、侵入者はやっとミリアの存在を認めたかのように鎖に込めていた力を抜く。そしてずるりとジュリスの身体は地面に崩れ落ち、儚く横たわった。


「さぁて、あんたはどのように料理してあげましょうかねぇ」
「わ、わたくしだってそう簡単には負けませんわよ!」
「そう言っていられるのも――――」
「!?」
「ほら、おしまい」


 オカマの言葉が切れた、そう思った瞬間目の前に現れた強面。ずいっと近寄ったその顔から漂う柑橘系のコロンの香りは相手が女性であれば素直に心地よいものであったかもしれない。しかしオカマはあくまで……オカマ。ぞっと悪寒を走らせている間にミリアの首にもしゅるりと鎖は絡みつき、そして……。


「ぅ、う……!」


 ジュリス同様細い身体は鎖に締め付けられながら持ち上げられ、抵抗と攻撃を兼ねてオカマの身体を蹴り続ける。だがその力も次第に弱まり、ミリアの唇はぱくぱくと動いて酸素を求めることに必死になり始めた。
 このままでは……、と薄まる意識の中でミリアは懸命に策を練る。しかし頭に酸素が回らない状態では考えを巡らせる事も困難だった。
 唾液を飲み込むことさえ困難になり、唇の端からそれが伝う様はさぞかし無様だったであろう。


 もう駄目、とミリアが両腕から力を抜き、鎖に身をゆだねようとしたその瞬間――!!


「貴様、この城にて何をしている!!」


 怒号が辺りの空気を震わせる。
 たった一声。
 しかしその一声が場に在った空気を一瞬にして変えてしまった。ミリアは薄れていく意識の中、それが誰のものであるか見ようと目を動かす。だが、その努力の甲斐なく……彼女もまた熱の篭った土の上へとその身を横たえる事となってしまった。



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「お、ぼえてなさいよおぉぉぉぉ!!」


 間抜けなオカマの捨て台詞が響き渡る。
 先程まで女性二人に優勢であった侵入者は場に駆けつけた騎士レーヴェ・ヴォルラスによって圧倒的な力を見せ付けられ、あっけなく去ってしまった。レーヴェはふぅとため息を吐き出し、今まで振るっていた大型のソードを仕舞いこむ。


「おい、お前達起きろ」
「ぅ……」
「……」
「ふぅ…………いつまで眠っているんだ! さっさと起きないかっ!!」
「きゃああ!?」
「ええ!?」


 最初こそは優しく起こそうと二人の身体をゆすっていたレーヴェだが、なかなか目を覚まさない様子に苛立ち、最終的には活を入れる形で二人を起こした。
 肌をびりびりと震わせる感情の入った大きな声によってミリアとジュリスははっと目を覚まし、慌てて自分の武器に手をかけたり攻撃体勢を取った。


「貴方、さっきのオカマの仲間ですのね!」
「は?」
「先程は負けてしまいましたが、次はそう簡単には通しませんよ」
「何を言っているんだ」
「覚悟なさって下さいませ!!」


 どうやらまだ意識がはっきりしていないのか、上官であるレーヴェの事を強面の顔をした敵だと判断しているらしい。流石のレーヴェもこれには呆れてしまう。
 攻撃に転じようとしている二人に対して構えを取る事もしないレーヴェ。


 やがて二人が相手がレーヴェだと気付くまで……否、レーヴェが再び二人に活を入れるまで後、――三秒。








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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0081 / ミリア・ガードナー / 女性 / 16歳(実年齢16歳) / 武道家 / 人間】
【0056 / ジュリス・エアライス / 両性 / 20歳(実年齢26歳) / 旅の女剣士 / ヒュムノス】

NPC
【NPCS008/ レーヴェ・ヴォルラス / 男 / 32歳 / 騎士】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは&初めての発注有難うございました!
 今回はオカマという点に大いに吹かせていただきました。蒼木のオカマ観によりギャグ路線で書かせて頂きましたがこんなものでいかがでしょうか?
 また機会がございましたら宜しくお願いいたします。では!