<東京怪談ノベル(シングル)>
ガイの盗賊撃破術
徐々に太陽が傾きかけてはいるが、世間はまだ明るい。今日もソーンは晴天に恵まれている。
それなのに、わざわざ薄暗い森の中に蠢くのは、群れずにはいられない盗賊の下っ端どもだ。彼らは、全部まとめて賞金首。いつものように下衆な話題で盛り上がっていると、いきなり巨漢のマッチョが着の上から跳んでくる。連中は例外なく「ひいっ!」と叫んだ後、慌てて獲物を抜いた。
「黒影のマント団、だな?」
半裸で裸足の格闘家にして、最近は賞金稼ぎとしても売り出し中のガイ=ファングは、冷静に敵の反応を見る。数は5人‥‥ナイフや剣を持っているが、遠距離から攻撃する手段は持っていないようだ。
対する盗賊団は、ガイの風貌を見ただけで怖気づき、まともに目を合わそうともしない。それどころか、リーダーっぽい男が「やれー!」と無茶な指示を発するだけ。結果は火を見るよりも明らかだが、雑魚は痛い目に遭わないと状況を理解できないのが世の常‥‥いや、ソーンの常だ。
「しょうがねぇ、覚悟しとくんだな!」
ガイは元気いっぱい攻めてくる敵を見やり、先頭の男に向かって突進。左肩を前に押し出し、体勢を微妙に変えつつ、勢いよく飛び出した。
「とぉりゃあぁぁーーーっ!」
臆病者は「自分が狙われた」と知ると、必ずたじろぐ。これは本人が考えるよりも大きな隙なのだ。敵はガイのタックルを食らい、後方へと吹っ飛ぶ。そこには駆け出していたもうひとりの姿があった。
「うぉあっ! じゃ、邪魔すんな!」
「余所見してんじゃねぇよ! はあっ!」
敵の動きが止まったのを見て、ガイは右のパンチを振りかぶって打つ。それが顔面にヒットすると、男の体は若い木に引き寄せられるかのように飛んだ。そこでしこたま全身を打ち、ピクリとも動かなくなると、残った3人は窮鼠の心に変わる。
「ええい、さっさと片付けんかー!」
残ったふたりは、むやみやたらと武器を振るう。無論、それがガイの脅威になり得るわけもない。すかさず前方に足払いを仕掛けて敵を転倒させると、そのまま大きくジャンプ。ふたりの胸と背中を両の足で踏み抜いて圧殺した。
「むげっ!」
「ぐごおっ!!」
残すはリーダーただひとり。我が身がかわいくなったのか、さっさとその場を立ち去ろうとしたが、あっさりとガイに追いつかれ、髪の毛を掴まれてしまう。
「痛たたたた! は、放せっ!!」
「よくそんなこと言えんな。ま、しょせんは下っ端か」
部下には厳しく、自分にやさしい‥‥そんなダメリーダーに哀れみを感じつつも、ガイは力づくで盗賊団のアジトを聞き出そうとする。ちょっとベアハッグで脅すと、相手はすぐに場所を吐いた。森の奥を進み、山の影に隠れたところに、黒影のマント団のアジトがあるという。
その方向は、別に聞かずともわかる。さっきリーダーが逃げようとした方向に間違いはないだろうから。
「ま、念のために聞いとこう。どっちだ、どっちに行きゃーいいんだ?」
「あががが! あ、あっぢでずぅーーー!」
骨が軋む音が聞こえそうなくらいに締め上げると、リーダーはガイの腕の中でぐったりとなった。彼はそれをおもむろに放り投げると、腕輪の力を解放し、神速のスピードでアジトへと急行する。
動き出した筋肉超特急は、もはや誰にも止められない。
ガイは山の影に隠れてひっそりと建つ、いかにも怪しいアジトを見つけると、再び腕輪の力を解放。今度は超力を発揮し、必殺キックを扉ではなく壁に向かって放つ!
「これで無作法はお互い様だぜ!」
粗末な作りの壁はあっけなく壊れると、どこで集めたのかわからない戦利品を眺めてご満悦の連中が悲鳴にも似た声を上げる。
「う、うひゃああーーーっ! て、敵襲だーーーーーっ!」
扉以外の場所から突入したからか、敵の驚きは大きい。アジトはいくつかの部屋に分けられていたが、ガイの使命はただひとつ。すべてをぶっ潰すのみだ。
「まとめて相手してやるぜ、かかってきな!」
侵入者の体躯を見るに、素手では勝ち目がない。盗賊の連中は武器を探すが、この行動が命取り。ガイは腕を伸ばして部屋を駆け回り、腕にかかった敵を次々と壁へぶつけた。その途中で巻き込まれる者、それを見て恐怖を覚えてただただ逃げ回る者‥‥盗賊団のアジトは、阿鼻叫喚の渦に叩き込まれる。
「悪党ども相手に気兼ねなく大暴れする時が、一番充実するぜ!」
どこまでも豪快な賞金稼ぎに抗う術もなく、敵はその数をどんどん減らしていく。
その後の状況は、もはや「哀れ」の一言に尽きる。少し知恵の働く者は、家具などを利用してガイを攻めるが、相手はそれを木っ端微塵に破壊。ついでに敵の体をも破壊する。森の中で出会った雑魚と同じく、指揮系統もズタズタ。団長だろうが三下だろうが、ガイの手にかかれば大差はない。奥に潜んでいた連中をちぎっては投げ、ちぎっては投げ‥‥最終的には誰が誰かわからなくなった。
結局、全員が動けなくなったところで戦いを止め、ボコボコにした全員を外の木々にまとめて縛り付け、ガイは悠然とその場を後にした。
翌日、ギルドに赴いたガイは「盗賊団の壊滅を確認した」ということで、提示された賞金をそっくりそのまま受け取った。
「こんだけあっても、半分くらいは食費になっちまうからな‥‥ま、修行のためだし仕方ねぇ」
そう呟くガイだが、残った分は鍛錬のために使う金に化けるのだが、後悔は微塵もない。
鍛錬を続け、たらふく飯を食い、その成果を悪党に見せ付ける。ソーンにおけるガイの生活は、充実したものになりつつあった。
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