<東京怪談ノベル(シングル)>
新たなる決意
敵の侵入を告げる警報が聖都中に鳴り響いたのは深夜のことだった。不安そうに聖都の外を見やる市民の横を、武器を取り、駆け出していく戦士達。
その中に、戦場には似つかわしくないゴシックロリータの服に身を包んだかわいらしい少女の姿があった。
天井麻里である。
「おいおい。お嬢ちゃん。逃げるなら反対方向だぜ」
赤い鎧をまとった戦士のが、麻里に声をかけるが麻里はふんと鼻を鳴らして言い放った。
「わたくしのほうがきっとあなたよりいい動きをするわ」
「ふん。そんな格好で何ができる」
戦士は鎧を鳴らしながら走るスピードを速め侵入者のもとへと向かって行った。
麻里がたどり着いた時、大勢の敵と戦士達の戦いはもう始まっていた。幸い着たばかりの麻里はまだ敵には気が付かれていないようだ。
麻里は考える。このまま闇から闇へ移動して敵をかく乱させながら攻撃した方が効率がいいのではないかと。
麻里はその服装とは裏腹に軽やかなステップで常に動き回り、華麗な足技や肘による打撃、ウィンドスラシュを駆使して敵たちをかく乱する。その動きには誰も付いてこれない。しかし、敵の体はとても頑強で、一撃では倒せなかった。数度の攻撃でやっと倒せる。それでも、麻里の手によって多くの敵が倒された。
「敵が多すぎるわ」
一体一体がそんなに強くないとはいえ、とにかく敵が多いのだ。少し息が上がってきた時、敵の中から一人、二周りほど大きな敵が、麻里の目の前に立ちはだかった。
「使えねぇやつらだな。こんな小娘、俺が1ひねりにしてやるぜ」
この一団を率いている者だろうか。麻里は警戒しながら、蹴りを相手の急所めがけて打ち込む。
「!?」
かわされたのだ。確かに急所を狙い、外れないはずの蹴りがかわされた。
「お前の動きなんざもう見切ってるんだよ」
それを聞いてか敵が周りを取り囲み、じりじりと近寄ってくる。
「これならどう?」
ウィンドスラシュを相手の目にめがけ打ち、自分は後ろに回って蹴りを繰り出す。これなら避けられるはずは……
「だから俺にはもうお前の動きは読めてんだよ」
ウィンドスラシュを片手で受けた相手はもう片方の手でライトビートを受け止められる。
「くっ!」
多くの敵を倒した上での強敵との戦闘は予想以上に麻里の体力を奪っていた。
体が重い。でも、この敵を倒さなければエルザードが……
その思いだけが麻里を突き動かしていた。
「えいっ!」
満身創痍で打ち込んだ蹴りは軽々と相手に受け止められ、そのまま足を捕まれてしまう。
「は……離して!」
あがくが力が入らない。
「暴れてんじゃねーよ」
敵の一撃がみぞおちに入る。かはっと空気がもれ、意識が薄れていく。
「誰……か……助け……」
その時薄れゆく意識の中で赤い鎧を見た気がした。
「……夫……す……?丈夫……すか?大丈夫ですか?」
気が付いた時、目の前にいたのは聖都の王女、エルファリアだった。
「エルファリア!?」
起き上がろうとするが、体が言うことをきかない。
「まだ起きてはいけません。さあ、ゆっくりこれを飲んで」
そう言って差し出されたのはぼんやりと光る水が入ったコップだった。ゆっくりそれを飲むと体が楽になるのを感じた。
「ありがとう。楽になったわ」
そういって体を起こし辺りを見回すと、ここは王宮の広間のようだった。
あちこちに負傷した戦士達がいる。
「侵入者は?」
「皆さんのおかげで無事倒すことができました。感謝します」
エルファリアは深々と頭を下げた。
「わたくしは……」
ぎりっと唇を噛み締める。
そう麻里はあの敵に負けたのだ。エルファリアの言う通り、敵を倒すことができたと言うことは、誰かがあの敵も倒したのだろう。多分あの赤い騎士が。
もっと強くならなくちゃ。
そう思った。
そのためにはもっと練習しなくちゃ。
「わたくしはもう大丈夫。いつまでもこうしてられないわ。回復してくれて本当にありがとう」
そうエルファリアに言うと、麻里は立ち上がり、王宮の外へと歩き出した。
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