<東京怪談ノベル(シングル)>


巨人の足にご用心!

 先日の修行で新技を会得したガイは、腕試しにと酒場で依頼を受けた。
 最近村を襲ってくる山賊討伐の依頼だが、その山賊には賞金首の悪党がいるとかで手こずっていた。
 山賊の情報はほとんど無く、山奥の廃墟となった砦に居を構えているということ。元々は軍が戦場の砦として使っていたものだったが、遺棄されてからは山賊たちが魔法やらを使って修復したらしい。
 賞金首に魔法使い、強固な砦とあっては討伐パーティを組むのがセオリーだったが、ガイは一人で意気揚々と山賊退治に出かけたのだった。
 道案内もなく、子供の落書きのような大雑把な地図のみを手渡された。
 そこに記されていたのは、村と山が2つに川、そして山の中腹あたりにバツ印が打ってある。
 地図を片手に持ち、顔の前に飛び出してきた小枝を払う。
 かろうじて人が通ったかのような道だが、ほとんど道無き獣道だった。
 かれこれ2時間は登ったところで、ふぅっと息を吸い込む。
 自然の新鮮な空気が肺を、体中を満たした。

「結構険しい道だな、イイ修行になる」

 妙に嬉しそうだ。


 木々の隙間のような道をぬけ、開けた場所に出た。
 公演場ほどの広さはあるが、左奥は清々しいほどに眼下が開けた崖になっていた。
 ふいに、ガイはその場から後ろに跳躍した。
 一瞬のち、カカッと小気味よい音を立て、3本のナイフが地面に突き刺さる。

「誰だ!」

 ガイは鋭くナイフの射線上を睨みつける。
 茂みの奥からのらりとした声が返ってきた。

「お前さんも不幸だねェ、今ので死んでたら楽だったのによォ」

 裸の上半身に毛皮のコートを羽織り、片手には細い鋼線の鞭。先端には無数の棘が付いている。
 酒場でこの男の似顔絵を見たことがあった。確か賞金首の悪党だ。
 びゅぅっと鞭が空気を切り裂く。
 ガイの上腕筋が切れ、血が滲んだ。

「くっ、てめぇ……!」
「丸腰で来るなんていい度胸だよォ。食ってくれって言ってるようなもんじゃないかィ。なぁオィ!」

 そう言って男は後ろに声をかけた。
 がさっと茂みの中から出てきたのは、鋭い牙に爪を持つ猛獣だった。気づいたらガイは猛獣の群れに囲まれていた。

「獣使いか……それもこの数ときたもんだ。かなりの腕前とみえるな」
「へへェ、褒めてくれるのかィ?」

 体をよじり、妙なポーズをする男。
 地の利もなく獣の群れに囲まれていては圧倒的に不利なのだが、ガイの顔には先を嘆く様子はない。その逆で楽しそうだった。

「なんだよなんだよォ?気でも狂ったかァ?」
「いや、楽しくてしょうがねぇのさ」

 ニィっと口の端を上げ、深く空気を吸い込んだ。血液と共に、体に気が巡ってくるのが分かる。
 すっと右足を上げ、地面を踏み鳴らした。
 腹の底に響くような地響きを立て、視界が大きく揺れる。いや、地面が揺れているのだった。
 ガイに巡る気の流れが、足に集中して力を放出する。
 大地のエネルギーにぶつかり、跳ね返ったエネルギーは大きなチカラを纏って地表を揺らした。
 巨人流格闘術の奥義『巨人の足』。
 ボコボコと地面がせり出し、地形を変える。
 揺れが収まった頃には猛獣は皆逃げ出すか目を回してへたり込み、獣使いは青ざめて地面に突っ伏していた。

「こいつァ……、思ったより使える技だな」

 筋骨隆々な自分の足を改めて見た。
 賞金首を適当な場所に縛り上げ、帰りに拾っていくかと先を急ぐ。
 さらに30分ほど、地図とカンだけを頼りに獣道を進み、石と巨木の砦に辿り着いた。
 山賊とは思えないほど精緻な作りに、槍の盾ような正面入り口は堅牢な面構えをしている。
 フン、と鼻息を鳴らし、ガイは考えるより先に走り出していた。

「なんだあいつは!」
「裸の男?!おい、あいつを止めろ!!」

 予想通りに騒がしく、わらわらと山賊たちが現れた。
 先頭をガイが走り、後ろから山賊がナイフや魔法などで攻撃しながら追いかけてくる。
 正面を向きながら器用に避けつつ、先ほどの戦闘のことを思い返していた。

「このくらい集まればちょうどいいな……」

 振り返ったガイは両足に気を集中させ、思いっきり踏みしめた。
 縦揺れ、横揺れと砦内が大きく揺れる。
 踏みしめた足から放出される気は地面だけでなく、衝撃波として水平に敵へと向かって行った。
 わらわらといた山賊たちが揃ってひっくり返り、体を痙攣させたり気を失う者もいた。
 それからガイは砦内を暴れ回り、敵を見つけては巨人の足を使い、時には格闘術で張り倒し殲滅していった。

「ヒュー!こいつぁいいねぇ!」

 走りながら地面を揺らし、技のあまりの手軽さに快感を覚えていた。
 そこへ台風のようなガイに果敢に立ち向かう髭面の男が声をかける。

「ちょっと、まち、な……うっぷ」
「ん?何か言ったか?」

 後ろを振り返ってよれよれになった男を目視できたその時、頭上から降ってきた木片の山に下敷きになった。
 すると周囲からわっと野太い悲鳴の数々が挙がる。

「と、頭領ーーー!」
「お、おう……?倒しちまったのか?」

 目を丸くして木片の山を見つめるガイ。
 賞金首の頭領と聞いて腕試しを期待していたのだが、かの相手は呆気無く倒してしまった。
 足を止めているので巨人の足は使っていないのだが、なんだかまだ揺れている感じがする。
 両腕を組んで首をひねり、おかしいなと頭上を見ると今まさに木片やら石やらが一斉に襲いかかってきた。

「「う、うわぁーーーーーー!!!!!」」

 巨人の足の乱用で砦が崩れ、ガイは山賊ともども生き埋めとなった。
 そこは堅牢で壮観な砦の様相などまるでない、ただの瓦礫の山と化していた。
 瓦礫の中から太い血管が逞しい腕が伸び、這い出た後ろ姿は夕日に照らされて何ともいえない哀愁を漂わせていた。
 ぐっと右拳を握りしめ、自分の行いを悔いるガイ。

「この程度でボロボロになるとは修行が足りねぇな……。くっ、もっと筋肉を鍛えねぇと!」

 瓦礫を残し、自らの更なる鍛錬を誓うガイだった。