<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>


尋ね人 -帰る場所編-



───私の娘を探して下さい。

古い紙の上に短い文章、そしてとても薄く小さな文字で
そう書かれた一通のメモがピンで留めてあった。
依頼人の名前は書かれておらず、ただそこには
【救済の者達集いし時、闇の森への道を開きます……、武器は持ち込まないで……】
とだけ書かれていた。

「武器は持ち込まないで、かぁ……」
壁に貼り付けられた依頼の紙を見ながら、胸の前で両腕を組み、首を傾げて、うーん、と唸っている女性が一人。
彼女の名前はユーア。
依頼内容は気になるものの、武器を持ち込むなという一点が気になっているようだ。
『イライヲ ウケテ イタダケルノデスカ?』
どこからか、問いかけるかのような声が聞こえた。
ユーアは周囲を見まわしたが、目の届く範囲には何の姿も見当たらない。
「誰だ?」
姿こそ見えないが、聞こえてきた内容から、おそらく依頼者かその関係者だろうと判断し、言葉を返す。
『イライヲ ウケテ イタダケルノデスカ?』
全く同じ言葉が返ってきた。
「…まだ悩んでるとこだよ」
会話が成り立っているのか判らないが、ユーアは問いかけに応じている。

『───ソウデスカ。 デハ…。』
一応会話は成立していたようだ。
そして、そう聞こえた途端、依頼の紙が風に揺れてボードからバリッと剥がれる。
「えっ?ちょ、ちょっと待て!」
風に飛ばされそうになった依頼の紙を、半ば反射的に慌てて押さえるユーア。

『………』
「………」
両者、共に黙り込んだ。

『誰も来ないので、もう諦めようかと……』
虚空から聞こえていた声の口調が変わった。
声とともに、木々がザアッと揺れる。
「会話できるのか?」
『えぇ、でもあまり長くは……』
「姿が見えないけど、アンタが依頼者?」
『はい。 探して頂きたいのは私の娘です。 でも、こんな怪しい依頼では、足を止めてくれる人もいなくて……』
「──俺が受けるよ。 場所は?」
『…ありがとう。 場所は闇の森。わたくしがご案内します』
「うん、わかったよ。 じゃぁ、──うわっ!!」

行こう、と言おうとした途端、ユーアの周りをゴウッ!と風が包む。
ユーアは両腕で顔をガードして、両目を伏せた。


***


再び目を開けた時には、周りの景色が完全に変わっていた。
闇の森、という割には明るく、特に「闇」という感じもしない普通の森。
ただし、人の気配だけは全くと言っていい程感じられなかった。

「手がかりとか、何もなしかよ……」
その場所へ、一人で導かれたユーアはハァと溜息をついて、空を見上げる。
「怪しすぎる内容だったもんなー。 んで、依頼主の姿も見えない…し……」
ユーアの言葉が不自然に途切れた。

──ユーアの瞳は、空から視線を下ろした先を、真っ直ぐに見ていた。
そこには、小さな女の子が一人。
ジーッと黙ったまま、ユーアを見上げていた。
「お、お嬢ちゃん、迷子?」
ユーアが口の端を片方だけ上げて、ひくっと笑う。
まさかこれ? こんなにアッサリ見つかんの? とでも言っているかのように。

少女はコクッと頷いた。
そしてユーアを見上げて口を開く。
『帰りたいの。 お母さんの所に』
──依頼主が探しているだろう少女に確定。


***


「どうして帰らないの?」
『帰れないの』
「なんで?」
『動けないの』
「どうして?」
『わかんない』

少女の前にしゃがみこんで、ユーアが話を聞いている。
何か事情があるらしいことは解ったのだが、母親と同じく会話があまり成立しない。

『眠い……』
「え、眠いの? でも、こんなところで寝たら……」
『帰って寝る』
「え、ちょっ!!」

眠いから帰って寝る。
そう言った少女は、止める間もなくゴッ!と風に巻かれて消えた。
ユーアは少女の方へと手を伸ばしたが、少女には届かなかったようだ。
「帰って寝るって、おかしくねーか……」
一人残されたユーアが呟いた。
ユーアのその言葉の通り、帰って寝るというのは依頼内容と一致しないようだ。

娘を探して。
帰りたい。
帰って寝る。

何もかもが、依頼にも言葉にも噛み合っていない。


***


「他に理由があるっていうことだよなー」
ブツブツと言いながら、深い森の中を歩いているユーア。
少女が消えてしまった以上、その場にいても仕方が無いので、周囲を探してみることに。

──ゴツン!

「痛ッ!」
何かに躓いた。
いや躓いたというより、つま先を激しくぶつけたようだ。
「何だこれ、岩?」
痛いつま先を撫でながら、ユーアはそこにしゃがみこむ。
指先で触れたそれは、何かの形を象られているようだった。
森の中に岩。
特に珍しいものではなかったが、ユーアが何かに気づいたようで、素手でその周りを掘り始めた。

「くそ、時間がかかりすぎるな。 ここは俺様のびっくりどっきりランダム薬で……」
ランダム薬で、と言いかけたところで、ユーアの動きがピタリと止まる。
持ってきていた薬を使おうとしたは良いが、ランダム薬はその名のとおり、使うまで効果がわからない。
武器を持ち込むなと言われていた空間で、万が一爆発でも起こしたら……
そう思うと、アイテムを使うことは出来なかった。

仕方が無いので、ユーアはひたすら素手で掘り続けた。


***


「出てきたー! やっぱり正解じゃねぇか!」
土に汚れた両手を天に突き上げて、ヤッター!のポーズ。
ユーアの周辺は、まるで隕石でも落ちたかのような穴が出来上がっていた。

ただし、ユーアはランダム薬を使用していない。
当然、爆発も起こさず、他の武器も持ち込まず、一心不乱に何時間も素手で掘り続けた。

そして出てきたのは、小さな墓石。
ユーアはその墓石の前に立ち、ポンポンと手で軽く叩く。
「こういうことだろ、お嬢ちゃん」

周囲の木々がザワザワと揺れ、ユーアの手によって姿を見せた墓石を中心に風が集まる。

『アリガト…、お姉ちゃん』
光に包まれた少女の姿が、墓石の上に微かに映し出された。
「どういたしまして。 さ、早くお母さんのとこに行きな」
ニィと笑って、ユーアはそう言った。

少女はニコ、と笑って、空へと上がって行った。
おそらく、依頼主のもとへ戻るのだろう。

「あ、道……」
少女が消えた後、一陣の強い風が吹き、ユーアの正面に風の道が作られた。

おそらくそれは帰り道。
木々の揺れる風の音を道標に、不思議と解る帰り道を歩きながら……

ユーアは元の世界へと戻って行った。




『── ありがとう。 お姉ちゃん……』





fin







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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【2542 / ユーア / 女性 / 外見年齢18歳 / 旅人 / 人間】

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■         ライター通信          ■
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ご依頼&ゲームノベルへの参加ありがとうございました。
そして、ユーア様、初めまして。
今回は期間内の参加者様がお一人のみでしたので
今回の『尋ね人』 は 『-帰る場所編-』 とさせて頂きました。
少しでもお楽しみ頂けましたら幸いです。
また機会がありましたら、その際にはどうぞ宜しくお願い致します。