<東京怪談ノベル(シングル)>
VS賞金首
ガヤガヤと周りは仕事を求める多くの人で賑わっている。
カウンターで仕事を紹介してもらう者、壁に張り出された求人を眺めている者。または一仕事終えて金を受け取りに来る者と様々だ。
所狭しと人でごった返す中、ガイ・ファングの姿もあった。
ガイは壁際に設置された大きな掲示板の前に立ち、目の前に大量に貼り付けられている張り紙から自分ができそうな仕事を食い入るように見詰め、探していた。
「どれもイマイチ冴えねぇな……」
そう言いながら隅から隅まで眺めていると、ふと以前から貼り出されたままのとある賞金首の貼り紙が目に止まる。
もう随分前に貼り出されているその賞金首。貼り紙はややくたびれかけている。その貼り紙に大きく描かれている賞金首の下に書かれた金額が赤字で訂正されていた。そして新たに、怪しげな剣を手にしている事も追記されている。
「すげぇな。まだ見つからねぇんだ、こいつ。賞金が大幅に上がってやがる」
ガイはふ〜んと物珍しそうな目で見詰めて唸り、しばらくその貼り紙を眺めていた。
「ま、とりあえず記憶の端で覚えておくか」
そう言いながら、ガイは別の貼り紙に目を向けた。
*****
喧騒な町を後にして、ガイは広い野原を悠然と歩いていた。
「さて……今日はどうするかな。手頃な仕事もなかったし……ん?」
これからどうするか模索しているガイの目が、ふと野原の先で止まった。
巨大な剣を引き摺るように持ち、ボロボロの甲冑を身に纏った男。その歩みはおぼつかない。
そんな彼を見たガイは、それが先ほどギルドで見た賞金首の男だと言う事に気が付いたのにはそう時間がかからなかった。
「賞金首だ……」
ガイがそう呟くと、男は歩みを止めた。そして生気のない落ち窪んだ目をこちらに向けると、ニヤリとほくそえんでくる。
その様子に思わず眉根を寄せると、次の瞬間、男はあれだけ重そうに握っていた大剣を軽々と持ち上げ、目にも止まらぬ速さで一気に間合いを詰めてきた。
「何……っ!?」
そのあまりの俊敏性に、ガイは一瞬面食らった。
重々しく空を切る音を上げ、振り翳された大剣がガイを襲う。
ガイは咄嗟に後方へ飛び退き、男との距離を僅かに離す。
「ちっ……上等だ! 受けて立つゼ!」
ガイは足を広げて腰を落とし、集中力を高める。
その間にも、男は大剣を握りこちらへ走りこんできた。
「だあぁぁあぁぁぁりゃああぁぁあぁあっ!!」
ガイは気の力で強化した格闘術を発揮する。
地面にめり込んだ足を振り上げ、ドォンッ! と激しく大地を踏み締める。するとガイを基準に龍脈が四方に迸り、強烈な波動が爆発。大地が激しく波打った。
男は大地の揺れと強烈な波動で後方へと吹き飛んだ。
ザリザリと音を上げ、砂塵を巻き上げながら大地の上を滑る様に吹き飛んだ男は、すぐに起き上がるとガイに向かって走りこんできた。
「うおっ!?」
ガイの一瞬の隙を突き目の前まで駆け込んできた男は大剣を振り回す。
ガイは身をかがめると剣を握る男の手首を素早く掴み上げ、男の体を背負い込むようにして投げ飛ばした。
再び飛んだ男は、くるくると宙を舞い地面に着地するや、大地を蹴って襲い掛かってくる。
その間に、ガイは溜めていた力を使い、巨人の蹴りを男に食らわす。
「おりゃあああぁああぁっ!!」
飛び掛ってきた男は、ガイの巨人の蹴りを避けることもなく直撃を受け、大剣を手放してはるか遠くまでぶっ飛んで行ってしまう。
地面に着地した男はそのまま起き上がってこようとはしなかった。
「何なんだ、あの気が振れちまったような戦いっぷりは……?!」
気を抜こうとしたガイは、別の殺気を感じ取り背後を振り返った。振り返った瞬間、目の前を素早く何かが掠め通っていく。
もうあと一歩踏み出して振り返っていたなら、間違いなくガイは死んでいたに違いない。
「何だと……」
驚愕して目を見開いたガイの目の前には、あの男が持っていた大剣が持ち主もなく一人で動いている。
「モンスターか!」
ガイは再びぐっと足を踏み込み、攻撃態勢を取る。
大剣は自らの体を大きく回転させながらガイに飛び掛って来た。
ガイは巨人の威圧で大剣を威嚇すると、怯んだのか大剣の回転スピードが極端に落ちた。その隙を突き、ガイは渾身の力を込めて続け様に巨人の拳を繰り出した。
「うおぉぉおぉおおおぉおおおぉっ!!」
巨人の拳は唸りを上げ、目にも止まらぬ剛速球で大剣に襲い掛かり、大剣の核である部位を激しく打ち抜いた。その瞬間大剣はパァン! と音を立てて砕け散り、柄の部分だけが地面の上に転がり落ちる。
ガイはそんな大剣を前に、一つ大きな息を吐いて額の汗を拭った。
「ふぃ〜。なかなか焦ったぜ」
そう言いながら大剣の柄を拾い上げ、気絶している男のところへ向かう。
ガイは男を素早く縄でぐるぐる巻きに縛り上げると、満足そうに笑った。
「さーって。いっちょ賞金を貰いに行くとするか」
縄で縛り上げた男を引き摺るように、ガイは町へと戻っていったのだった。
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