<PCクエストノベル(3人)>


水の都で休日を

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【 冒険者一覧 】
【 整理番号 / PC名 / 性別 
             / 種族 / 年齢 / クラス 】
【 3826 / アリサ・シルヴァンティエ / 女
 / 異界人(ハーフエルフ) / 24 / 異界職(魔法医師) 】
【 3827 / ロザーリア・アレッサンドリ / 女
     / 動器精霊 / 21 / 異界職(迷宮司書) 】
【 3831 / エスメラルダ・ポローニオ / 女
            / 人間 / 20 / 冒険商人 】

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●多忙な日々ゆえ休みは貴重【0】
 ハーフエルフの女性、アリサ・シルヴァンティエは魔法医師である。治癒魔法や錬金術による治療薬などを活用し病人やら怪我人やらの治療にあたり、医師として多忙な日々を過ごしている。
 魔法医師に限らず、医師・医者などと呼ばれる職業の者は普通何かと忙しいものだ。病人や怪我人が担ぎ込まれれば言わずもがな、平時でも包帯やら治療薬やらを用意しておいたりなどと、やるべきことは少なくない。1日ならともかく、数日間程度の休みもなかなか取りにくいのが実情である。もし医師・医者と呼ばれていて毎日暇にしている者が居たならば、それは病人も怪我人もまず発生しない所で開業しているか、あるいは『やぶ』なり『ひも』なりが『医者』の前について呼ばれているか……さてはて。
 ともあれそんな忙しい日々を過ごしていたアリサであったが、様々な巡り合わせ――多くの者はそれを『運」と呼ぶ――によってまとまった休みが発生したのである。何をするにも十分なほどの休みである。
 しかし、いざまとまった休みが出来るとなると、何をしたものかとふと考えてしまう。そんな時、アリサの養父母から旅行の勧めがあった。曰く、ゆっくりするなり友だちと遊んでおいで、と。
 養父母の勧めになるほどと思ったアリサは、友人たちを誘い一緒に旅行することを決めた。誘ったのはこの2人、親友にして妹分のエスメラルダ・ポローニオと、友人のロザーリア・アレッサンドリ。エスメラルダは旅の達人にして銃の名手だし、ロザーリアもまた旅馴れている大剣豪。そんな2人が一緒なら、養父母も安心であるというものだ。
アリサ:「……ということで、一緒に旅行などいかがですか?」
エスメラルダ:「旅行? 喜んで!」
ロザーリア:「いいねいいねっ、面白そう!」
 アリサの誘いに2人とも快諾。かくして準備を終えた翌日、一行は旅立ったのであった――。

●水の都・アクアーネ村【1】
アリサ:「水の香りが……しますね」
エスメラルダ:「ま、『水の都』って呼ばれてるのは伊達じゃないってことね。ここだと、しない場所の方が珍しいかな」
 夕刻にアクアーネ村に入った一行。アリサのつぶやきに、エスメラルダが笑って返した。
 アクアーネ村は、エルザードと他地域との小さな中継地点である。また、それと同時に有名な観光地でもあったりする。この2つの要素が重なっているゆえ、旅行者・商人・冒険者などなど……アクアーネ村を訪れる者たちの姿は日々絶えない。
 そんなアクアーネ村は『水の都』とも呼ばれることが少なくない。何故そう呼ばれているのか、そんな疑問は村を訪れれば一目瞭然で氷解する。村中に張り巡らされた運河にいくつものゴンドラが揺れている――この村特有の風景を見れば誰しも分かるはずだ。まさしくここは、水によって生かされる『水の都』だと。
ロザーリア:「さて、2人とも、どこから回る?」
 興味深げに周囲を見ていたロザーリアが2人に尋ねる。有名な観光地、色々と巡る場所は当然ある訳だが――。
エスメラルダ:「え? 今から? ロザリー?」
ロザーリア:「え? 今から回らないの?」
 ともに怪訝な表情を浮かべるエスメラルダとロザーリア。もちろん、その理由は真逆である。
エスメラルダ:「もう夕刻よ?」
ロザーリア:「まだ夕刻だよ?」
 エスメラルダが空を指差すと、ロザーリアは空を見上げてから答えた。さて、このまま堂々巡りがしばらく続くかと思われたその時、アリサが口を開いた。
アリサ:「……すみません、実はその、お腹が空いてしまって……」
 照れた笑みを浮かべるアリサ。事実アリサが空腹であったかは他の2人には分からないことであるが、このアリサの言葉で流れががらっと変わったことは間違いなく。
ロザーリア:「むー……それじゃあ仕方ないかなー」
エスメラルダ:「じゃあ、宿! まず宿を決めてから夕食にしましょ!」
 ロザーリアが折れたのを見て、間髪入れず提案するエスメラルダ。
アリサ:「そうですね。これから数日お世話になる訳ですし」
エスメラルダ:「決定! 食べるのはどうとでもなるけど、泊まる所がないとほんと大変だからね、うん! さ、行こ、行こ!」
 そしてアリサが同意したのを受け、エスメラルダは他の2人の背後に回り込み、背中を押して歩き出した――。

●市場にて【2】
 翌朝――宿の食堂兼酒場で朝食を終えた一行は、さっそく村の市場に繰り出していた。
エスメラルダ:「市場を見れば、その土地が結構分かるのよね」
アリサ:「土地の人との触れ合いがあるからですか?」
 そんな答えが即座に出てきたのは、アリサが日々患者たちと触れ合っているからであろう。
エスメラルダ:「半分正解。もう半分はー……市場に出ている品を見てみて」
ロザーリア:「出ている品々から分かる事柄が少なくない? 何が採れるか分かれば、採れる物の特性を調べれば土地の特性も分かるよね。で、他の土地の品が流通しているのなら、そことの結び付きがあることも見えてくるよね」
 市場の品々を興味深げに眺めていたロザーリアがすらすらと答えた。
エスメラルダ:「正解! さすがは迷宮司書ね。まあ商人の立場からすると、たくさん物がある所に同じ物を持っていっても高くは売れない訳だし、何があって何がないかは把握していないと大変なのよね」
アリサ:「なるほど……。市場を見るだけでも、本当にたくさんのことが分かるんですね」
 さすが冒険商人として各地を回っているだけのことはあると、エスメラルダに深く感心するアリサ。
エスメラルダ:「で、今日はどう過ごすつもり?」
アリサ:「そうですね……やはりゴンドラは外せないかと。『水の都』ですし」
 エスメラルダの問いに、少し思案してからアリサは答えた。昨日夕刻に見た、運河をゆっくりと漂うゴンドラの姿が頭にあったからである。

●時の流れが異なる場所【3】
 ゴンドラが1艘、運河を漂っていた。運河の流れに、方角を変えながら時折吹いてくる風に、ゴンドラは揺れていた。
アリサ:「気持ちがいいですね……」
 運河に軽く浸していた右手を、握るようにしてゆっくりと引き上げながらつぶやくアリサ。手の中の水がこぼれ、運河へと還っていく。
エスメラルダ:「夏だともっと気持ちいいわよ」
ロザーリア:「冬だと、より水が澄んでいるらしいよ」
 などとエスメラルダやロザーリアが言うように、あいにく今は少し時期がずれていた。
アリサ:「2人とも詳しいですね」
エスメラルダ:「ん……それはそうよ、ここは初めてではないし。『旅行』としてじゃないけど」
 そう言いエスメラルダは苦笑する。冒険商人はしょっちゅう旅の空にあるけれども、それはあくまでも『旅』であって、物見遊山な『旅行』ではない訳で。
ロザーリア:「あたしは図書館の書物で読んだよ。そういえば、ここがモデルらしい物語もいくつかあったかな?」
 司書を務める迷宮大図書館にて触れた書物の知識を、嬉しそうに披露するロザーリア。得た知識を伝えることが楽しいのであろう。
アリサ:「それじゃああれですね。また、夏にも冬にも訪れてみないといけませんね」
 アリサはくすっと微笑むと、静かに目を閉じた。
アリサ:「……静かですねえ……」
 村の中心部を離れると、運河の上で聞こえてくる音はゴンドラでの会話を除けば水の音と風の音、そして鳥の鳴き声といった程度。それらに耳を澄ませていると、ゆっくりと時が流れているかのように感じてくる。王都の喧噪や、日々の忙しさなど、こうしているとどこか遠い世界の物にも思えてくるというものだ。
アリサ:「……………………すぅ……………………」
 少しして、アリサから小さな寝息が聞こえてきた。ゴンドラの揺れが心地よかったのであろう、昨夜ゆっくり寝たにも関わらず、またこうして眠りに落ちていた。
 そんなアリサの様子を確認したエスメラルダとロザーリアは、無言で笑顔を見合わせたのであった。

●1日の終わりに【4】
アリサ:「今日はすみませんでした。結局、ゴンドラに乗っただけでほぼ終わってしまって……」
 その夜、夕食も終えて戻っていた宿の部屋にて、アリサが申し訳なさげに他の2人に言った。結局あの後、アリサが目覚めたのは夕刻に差しかかる頃合であった。
エスメラルダ:「大丈夫、あたしものんびり出来たし。普段の『旅』と違って、こういう贅沢な時間の過ごし方が出来るのが『旅行』の醍醐味だと思うよ?」
ロザーリア:「あたしも船頭さんから、あれこれこの村の情報を聞くことが出来たから、全く問題なしだよ♪」
 と、それぞれ笑ってアリサに返す。これが旅慣れた余裕というものだろうか。
アリサ:「あ。それじゃあロザリー、今日の夕食を食べたお店、あの船頭さんから聞いた所なんですか?」
 ゴンドラを降りた後、一行は夕食を食べることにしたのだが、その店を選んだのがロザーリアだったのだ。
ロザーリア:「え、違うよ?」
 だがしかし、ロザーリアはきっぱりと否定した。
ロザーリア:「お店の前に居た猫がね、『美味しいよ』って招いてて」
エスメラルダ:「…………猫が?」
ロザーリア:「うん、猫だよ」
 まじまじと見つめて聞き返してくるエスメラルダに対し、しれっと答えるロザーリア。いやほんと、ロザーリアには猫からそう伝わってきたのだから仕方がない。
エスメラルダ:「……着替えよっか……」
 ロザーリアに調子を崩される前に、猫のやり取りを切り上げたエスメラルダがラフな格好へと着替えを始める。それを見て他の2人も同様に着替え始めたのだが……。
アリサ:「ああ、ほら、ロザリー? そう床にまとめて脱ぎ落とすんじゃなくて、ベッドの上に並べてですね……」
ロザーリア:「えー? でもこの方が、またすぐ着られるよ?」
 脱ぎ方を注意するアリサに対し、少し唇を尖らせるロザーリア。傍から見れば、少しだけ口うるさいお姉さんと手間のかかる妹という絵面であった。
エスメラルダ:「着替えながらでいいんだけど、明日はどうする?」
 アリサとロザーリアのやり取りに割って入るエスメラルダ。
アリサ:「そうですね…………ええと、また明日もゴンドラに乗ってみたいです。今度は村の景色を楽しむために……」
 今日は結局寝て過ごしてしまっただから、今度は景色をとなるのは自然な流れであろう。
ロザーリア:「うーん、あたしは船頭さんの言っていた遺跡を見てみたいかも。もう何の危険もない場所らしいけどね」
 歴史がとにかく古いアクアーネ村では、たまに遺跡が発見されて大騒ぎになることがある。しかし念入りな調査が終わってさえしまえば、それもまた新たな観光資源と変わってしまう。ロザーリアが船頭から聞いたという遺跡も、そんな1つであった。
エスメラルダ:「じゃあ先に遺跡に行ってみる? 今日はゴンドラだったから」
アリサ:「私は構いませんよ」
 アリサが構わないと言った時点でほぼ決まり、遺跡に行けることになり喜ぶロザーリア。
ロザーリア:「やった! 何があるかなー♪」
エスメラルダ:「危険がないのなら、もう何も……あ、いや、あれだったら残っている可能性も……?」
アリサ:「ですね、遺跡の壁に何か刻まれているかもしれませんね」
 思案するエスメラルダのつぶやきに、アリサは小さく頷いてからロザーリアを見る。ロザーリアは満面の笑みを浮かべていた。
エスメラルダ:「遺跡、ゴンドラ、で……その後は?」
ロザーリア:「……別の遺跡?」
アリサ:「まだ数日滞在するんですから、翌日に回してみてもいいのでは……」
 その夜、一行の部屋からは遅くまで楽しげな話し声がしていたという――。

【水の都で休日を おしまい】