<東京怪談ノベル(シングル)>
猛毒の賞金首
人ごみでごった返し、喧騒の絶えない街。その街の一角に設けられたギルドもまた、多くの人間達が仕事を求めて集まっている。
すれ違って歩く事もままならないようなそんな人ごみの中、ガイは一枚の手配書を食い入るように見つめていた。
手配書の頭打ちには「モンスター情報」と書かれている。その手配書を見つめているガイは、無意識に眉根を寄せた。
「賞金はかなりいいんだがなぁ……」
唸るようにそう漏らしながらも、手配書から視線を外す事はなかった。
モンスターの詳細欄をまじまじと見つめ、同じ箇所を何度となく読み返す。
『巨大なキノコと巨大カマキリを合体させたような風貌。手には鋭い鎌を持ち、蠍の尾を持つ。攻撃の特徴は猛毒の胞子を周囲に撒き散らし、目から強力な光線を放つ。注釈:この光線には魔法を封じる効果がある』
ガイはふむ……と短く唸り、ようやく手配書から顔を上げた。
「一筋縄じゃいかないだろうが、ま、何とかなりそうだな」
意を決したかのように、ガイは手配書をしまい込んでギルドを後にした。
*****
ギルドを出たガイは、迷うことなく街の外を目指して歩いていた。
多くの人間達と行き過ぎ、ようやく外へ出られたのに少々時間を食ってしまった。
街の入り口から今一度街中へと視線を送ると、ところ狭しと行き交う人々がどこか窮屈そうに思えてならない。
「ほんとに、人の多い街だな」
ガイは浅くため息を吐いて踵を返すと、一路、賞金首の待つ場所へと歩き出した。
どれだけの時間歩いてきただろうか。振り返ればあれほど賑やかだった街が遥か彼方に薄っすらと見える程度には歩いてきたようだ。
街から真っ直ぐに伸びる街道。気づけば周りには木が並び、今は森の入り口に差し掛かっている。
「あの手配書から、この辺りに出ると思うんだがなぁ……」
何もない平原よりも、こういった場所を好むモンスターであることは分かる。
ガイはその場に立ち止まりぐるりと周囲を見回した。
上空では鳥が羽ばたいて飛び去っていく姿がある。自分が進もうとしている先には鬱蒼と茂る森と草むらがあり、薄暗い。
もう少し先か……そう思い再び足を踏み出した時、すぐ側の茂みに不穏な気配を感じ取り弾かれるようにそちらを振り返った。
ビッと鈍い音が響き、眩い一線がかろうじて避けたガイの顔の側を通り抜けていく。
「出やがったな」
ガイはニッと口の端を引き上げ、身構える。そして拳に力を込め気合を溜めた。
「うおぉぉおっ!」
溜めた気を一気に解放すると、それはガイの足元から外へ向かい強烈な波動が噴出した。彼の隠し能力の一つ、解毒の波動だ。
その直後、紫色の霧が目の前から波のように押し寄せ、ガイの体を包み込む。すると側に隠れていた小動物が痙攣しながら茂みから転がり出てきた。
「猛毒の胞子なんぞ、今の俺には効かねぇ!」
ガイは未だ見えない賞金首目指して、一気に茂みの中に飛び込んだ。
ザザザザッと茂みを踏み荒らし、一直線に猛毒の胞子を放つ賞金首に向かう。
「おりゃああぁあぁっ!!」
ガイは渾身の力を込めて、賞金首に殴りかかる。ボコッと抉るような感覚を感じながら、賞金首は後方へ吹き飛んだ。だがガイはすぐに間合いを詰め、一気に勝負を決めようと飛び掛る。
賞金首は身を守るが如く鎌の手を顔の前で折り畳んでいたが、ガイの攻撃が降りかかる直前にその鎌を振るいあげた。
「ぬおっ!?」
不意打ちを受けたガイは寸でのところで地面を踏みしめるが間に合わず、腹部に傷を負う。
致命傷まではいかなくとも、結構な傷だ。だが、ガイはものともせず相手を睨みつけた。
「まだまだぁっ!!」
鎌を振り上げる相手の懐に飛び込み体当たりを繰り出と、再び間合いを詰めて強烈な蹴りを繰り出す。
敵は即座に鎌を折り畳みガードの体制をとるが、ガイの繰り出した攻撃は気功斬鉄蹴と呼ばれる強烈な気功術だ。敵のガードなど容易く蹴り破り、鎌は半分に折れ飛ぶ。
『ギャアアアァアアァッ!!』
身の毛のよだつような雄叫びを上げ、紫色の血を撒き散らしながら敵がよろめく。
ガイはこのチャンスを逃すまいと体に気合を溜める。
「うぉおおおぉおおおぉっ!! 喰らえ! 巨人の蹴りぃっ!!」
確実に相手を仕留める為に全身の力をその蹴りに込め、思い切り繰り出した。
敵は咆哮を上げ、息絶えた。
動かなくなった敵を目視したガイは、肩で荒く息をつきながら腹部に負った傷に手を当て眉根を寄せる。
「街に戻る前に、癒しとかねぇとな……。う、ぐぐぐぐぐ……っ」
脂汗を滲ませながら全身に駆け抜ける激痛に耐えて、気の治療を施したガイ。気を当てて次第に薄くなっていった傷跡は、嘘のように消え去った。
「……こりゃキツイぜ……」
治療を終えたガイは大きく息を吐き、再び街へと戻っていった。
*****
夜。
宿を取ったガイは部屋のベッドで横になっていたガイは、受け取った賞金袋を見やる。
「今日はちっと疲れたからな。明日から名物のキノコ料理を満喫するとするかな」
ゴロリと寝返りを打ち、ガイはゆっくり眠りに入るのだった。
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