<PCクエストノベル(3人)>


〜迷宮の奥へ〜


------------------------------------------------------------
【冒険者一覧】

【2377 / 松浪・静四郎 (まつなみ・せいしろう) / 放浪の癒し手】
【3434 / 松浪・心語 (まつなみ・しんご) / 異界職】
【3573 / フガク (ふがく) / 冒険者】

【キャビィ・エグゼイン / 盗賊】

------------------------------------------------------------



 以前から「強王の迷宮」の攻略を試みていたフガク(ふがく)は、聖都のギルドにて新しい地図を買い揃え、三度目の挑戦をすることに決めた。
 ただ、場所柄、そこは常宿「海鴨亭」のある聖都からはだいぶ離れているので、旅費ばかりを食うあの場所の探索は今回を最後にしようと考えていた。
 そのためには協力者の存在が欠かせない。
 そこで彼は、義弟であり、大きな戦力となりうる松浪心語(まつなみ・しんご)に協力を依頼したところ、心語から他にもふたり連れて行きたい仲間がいると言われた。
 それが、松浪静四郎(まつなみ・せいしろう)と聖都でも有名な女盗賊、キャビィ・エグゼインだった。
 フガクはその意図を悟って、ふたりに自分から話を通した。
 静四郎はふたつ返事で、キャビィは「報酬次第だね」と返答した。
 強王――ガルフレッドは元ドワーフだったヴァンパイアだ。
 だとすると、ガルフレッド自身か、彼が支配したドワーフたちが作った数々の細工物や武器が宝物として存在するはずだ。
 現にフガクは前回、別の同行者との探索の際、見事な細工の短剣5振りと宝石で飾られた腕輪などを発見している。
 今回は現地で1週間の滞在を予定していて、初日の夜は4人で現地の最寄りの村の宿に泊まり、翌早朝に迷宮入りした。
 準備は事前に全員で手分けして済ませた。
 フガクはその村の教会で聖水や十字架を購入し、心語は香木の杭、ロープ、照明器具等を到達した後、それぞれの武器を清めてもらった。
 また村の人たちに最新の情報についての聞き込みを行い、地下4階に挑み、大けがをしてその村の宿で回復を待っていた冒険者たちに引き合わせてもらって新たな情報を得ることができた。
 それによると、地下4階以降は部屋や廊下の配置は特に変わらないらしく、反対に同じ階が何度か現れることがあるという。
 彼らから手書きの地図と「同じ作りの階に出くわしたら、周りを気にせずさっさと下階に行くこと」という忠告をもらった。
 静四郎は、聖都とその村の両方で、食料や水、薬品等を調達した。
 何しろ期間が1週間、しかも4人での探索なので、その量は膨大だ。
 それでも干し肉や日持ちのする固いパンなどを中心に買い求め、極力荷物を軽くするように努めた。
 そうして、4人は揃って暗い迷宮の地下へと降りて行った。
 地下3階までは、フガクが先頭になり、手に入れた地図を頼りに進むことができた。
 今回が最後なのだ、できればヴァンパイアの宝物を拝みたい。
 そう思って寄り道はせず、3日かけて一行は地下4階へと降り立った。
 
 
 
 フガク:「案外すんなり来られたなー」
 心語:「そう…か…?」
 フガク:「前回はさ、情報が乏しかったせいもあって、自分から魔物の巣窟に飛び込んだんだよ。今回手に入れた地図は最新のものだから、俺たちが手に入れた情報を基にそこんとこの補完もされてて、無駄足を踏まずに済んだってワケ」
 静四郎:「多くの冒険者がこの場所に挑戦しているのですね…」
 フガク:「そりゃあな。ここには財宝が眠ってるってもっぱらの噂だしね」
 キャビィ:「ほら、男ども、くっちゃべってないで、先に進むよ! そこの兄さん、この先に敵はいないのかな?」
 静四郎:「わたくしの分身からの情報によりますと、この先にはまだ魔物の気配はないそうです。油断は禁物ですが、道も一本道ですし、このまま進んでも問題はないでしょう」
 心語:「兄上の分身…蝙蝠、か…?」
 静四郎:「ええ、先ほどからわたくしたちの隊列の少し先を行っています。ですが、背後は心語、最後尾のあなたに任せるより他はありません。くれぐれも気をつけて」
 心語:「ああ、わかっている…」
 
 
 
 一行はしばらくそのまま道なりに進んだ。
 静四郎の言葉どおり、魔物の気配は特に感じない。
 少々長すぎる廊下を半刻ほども歩いたところで、地下へ下りる階段が現れた。
 警戒を強めつつも、さらに下へと向かった彼らだったが、その目の前にはまた長い長い廊下が続いていた。
 その終点にはまたしても、下へと続く階段がある。
 それを四回ほどくり返したところで、キャビィが彼らの歩みを止めた。
 
 
 
 キャビィ:「同じ階をぐるぐる回らされてるね、これは」
 フガク:「…やっぱりそうだよなー永遠に地下4階を歩かされる羽目になるところだった」
 心語:「さすがに…その前に…気づく…」
 フガク:「言葉のあやだっつーの!」
 キャビィ:「たぶん、どこかに仕掛けがあると思うんだ。ちょっと待ってて」
 心語:「俺も…行こう…」
 
 
 
 心語を伴ったキャビィが、壁をつぶさに調べながら、少しずつ奥へと向かっていく。
 しばらくして、カチッと音がして、キャビィの小さい悲鳴が聞こえた。
 フガクと静四郎が表情を変え、あわててキャビィたちの方へと走る。
 
 
 
 キャビィ:『こっちだよ、こっち!』
 
 
 
 くぐもったようなキャビィの声が、壁の内側から聞こえてきた。
 フガクがその声を頼りに、壁をこぶしで慎重にたたき始めた。
 
 
 
 フガク:「うわ!」
 静四郎:「ええっ?!」
 
 
 
 ふたりは同時に悲鳴を上げる。
 フガクが壁のある一部をこぶしでたたいた瞬間、そこがわずかに沈み込み、カチッと音をたてたのだ。
 その瞬間、フガクとその背後にいた静四郎を巻き込んで、フガクの目の前の壁がぐるりと一回転した。
 どさっと地面に投げ出されたふたりは、キャビィと心語に助け起こされる。
 彼らの前には、別の廊下が現れていた。
 おそらくこの廊下が本道で、先ほどの廊下は偽物なのだろう。



 静四郎:「何かが来ます!」
 フガク:「どこから?!」
 静四郎:「前方です!」
 心語:「兄上、後ろへ…!」
 キャビィ:「とうとう来やがったね!」
 
 
 
 背後は回転したばかりの壁で、押してもびくともしない。
 戻る道はなくなったのだ。
 フガクは腰の短剣を引き抜き、心語は素早い動作で大剣をかまえた。
 闇の中、目を凝らすと、何か丸い物体がふわふわとこちらに向かって飛んで来るのが見えた。
 
 
 
 フガク:「あれが噂の…」



 それは、1メートル大の何の変哲もない黒い球体だった。
 風船のようにふわりふわりと、漂ってくる。
 その後ろには、白や灰色の球体も群れを成して飛んで来ていた。
 
 
 
 フガク:「静四郎! 魔法は使えるか?!」
 静四郎:「わたくし自身は使えませんが、精霊を召喚すれば、彼らが魔法を使ってくれるはずです!」
 フガク:「了解! じゃ、呼び出してくれ! 敵さんはあの白い風船だ! 他のには触んなよ!」
 静四郎:「はい!」
 フガク:「いさなは俺といっしょに黒いのをやっつけるぜ!」
 心語:「ああ…わかった…」
 キャビィ:「あたしはあれをかいくぐって奥を調べるよ!」
 フガク:「だ、大丈夫かよ?!」
 キャビィ:「あたしを誰だと思ってんの!」
 
 
 
 キャビィが不敵に笑って、ひょいひょいと球体をよけながら暗闇の向こうへと消えて行く。
 彼女の身軽さがあるからこそできる技だった。
 その間に、フガクと心語はこの迷宮の最たる敵と言っても過言ではない「黒い恐怖」と呼ばれる球体の魔物を次々に斬って捨てた。
 静四郎はフガクに言われたとおり、雪の精霊を呼び出し、氷の魔法で「白い恐怖」を倒し始める。
 三人は残りの「灰色の恐怖」にできるだけ触れないようにして、キャビィの後を追った。
 
 
 
 キャビィ:「こっちに扉がある!」
 
 
 キャビィの声がして、三人は背後から追って来る「灰色の恐怖」から逃げながらそちらに向かった。
「灰色の恐怖」は倒すのに、剣と魔法の同時攻撃が必要なため、静四郎は、フガク、心語のどちらかとの呼吸を合わせなくてはいけない。
 こんな狭い場所で、しかも少し前までぎくしゃくしていた静四郎とフガクではその連係攻撃が上手くいくかどうかは未知数だ。
 だからと言って、静四郎と心語のふたりでこの数を相手するには、少々荷が勝ちすぎる。
 それを見越した上で、三人はこの場で「灰色の恐怖」と戦うのは得策ではないと判断した。
 キャビィの許にたどりつくと、彼女はいち早くその扉の鍵を解除していた。
 
 
 
 キャビィ:「毒針が飛び出して来る仕掛けになってた。もう解いちゃったけど」
 フガク:「さすが! 早いね〜!」
 キャビィ:「感心してくれてるとこ悪いけど、あいつら、もうそこまで来てるよ!」
 フガク:「うっわ、ヤバいって!」
 
 
 
 四人は扉の向こうに転がり込んだ。
 すると、そこには、豪華な調度品に囲まれた大きな大きな部屋があった。
 本来なら天蓋付きの寝台でもありそうな雰囲気だったのだが、奥に鎮座していたのは、立派な黒塗りの棺だった。
 明らかに、人外のモノ――ヴァンパイアの寝床である。
 
 
 
 フガク:「来るぞ!」
 
 
 
 フガクの怒号が部屋中に響き渡った。
 反射的に床に伏せた静四郎、心語、キャビィの頭上すれすれを、赤い目をした獰猛な蝙蝠たちがけたたましい声をあげて飛び越えていく。
 すぐに反転して戻って来た蝙蝠たちに、フガクが聖水で清められた短剣で立ち向かった。
 その向こうで、棺がガタガタと音をたてて開こうとしていた。
 
 
 
 フガク:「いさな! 急げ!」
 心語:「…!」
 
 
 
 心語は背負い袋の中から、用意してきた香木の杭と木槌を取り出し、棺に走った。
 その全身を、真っ白な光が包み込む。
 静四郎が守護の魔法をかけたのだ。
 棺の中から病的なまでに青白い手がぬうっと現れ、今にもふたを開けようとしていた。
 冷や汗が背に伝うのを感じながらも、心語が渾身の力をこめて木槌を振り下ろし、棺のふたの上から、中にいるモノもろとも、香木の杭で床まで一気に貫いた。
 間一髪で、心語の杭は間に合った。
 断末魔の悲鳴があたりに轟く。
 ふたをつかんでいた青い手は、さらさらと砂に変わり、蒸気を出して消えて行く。
 フガクたちを襲っていた蝙蝠も、同時に消えてなくなった。
 額の汗をぬぐい、心語はフガクたちのところに戻った。
 そして、木槌を袋にしまう。
 
 
 
 フガク:「あれ、ガルフレッドだったんだろうな…」
 心語:「…たぶん…な…」
 フガク:「顔、拝めなかったなあ…」
 心語:「…あまり…見たくない…」
 静四郎:「呪われるかもしれませんしね…」
 キャビィ:「それより、お宝! お宝探そうよ!」
 
 
 キャビィの弾んだ声に促され、一行はあらためて松明を灯し、部屋中を探索した。
 フガクの見立てどおり、部屋の一角に隠し部屋への扉があり、その中に、小さいながらも宝箱が置かれていた。
 キャビィがあっという間に罠を解除し、中を検めると、銀で作られ、刀身に魔法文字がびっしりと描かれたクリス・ナイフや、繊細な模様を施した宝冠や髪飾り、いくつかの魔法薬と魔法書が収められていた。
 どれも値打ちのありそうなものばかりだ。
 四人はそれぞれ、自分が一番価値を見出したものを手に取り、棺には手を触れないまま、その部屋を出、迷宮を後にした。
 
 
 
 
 〜END〜
 
 
 
 〜ライターより〜
 
 いつもご依頼ありがとうございます!
 ライターの藤沢麗です。

 今回はフガクさんと静四郎さん、
 久方ぶりのご同行での冒険ですね!
 以前から探索が続いていました「強王の迷宮」ですが、
 宝物の中身を見る限り、
 斃した敵はガルフレッドで間違いないかと思われます。
 ですが、迷宮自体は広いので、
 探索を続ければもっと宝物は出て来るかもしれません…。
 フガクさんの路銀が潤沢であれば、
 そのうちまた訪れる機会ができるかもしれませんね。
  
 それではまた未来の冒険をつづる機会がありましたら、
 とても光栄です!

 このたびはご依頼、本当にありがとうございました!