<PCクエストノベル(2人)>


初めましては、ジョッキとともに

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【 冒険者一覧 】
【 整理番号 / PC名 / 性別 
             / 種族 / 年齢 / クラス 】
【 3831 / エスメラルダ・ポローニオ / 女
            / 人間 / 20 / 冒険商人 】
【 3853 / サクラ / 女
 / 異界人(セイレーン) / 27 / 歌姫/吟遊詩人 】

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●それは年に1度の【0】
 旅の途中であったエスメラルダ・ポローニオがその村に入ったのは、夕刻少し前といった所だったろうか。
 村の名前はクレモナーラ村。小さな村ではあるが、ソーン中から発注の絶えない、伝統ある楽器の名産地である。なので訪れる者もそれなりにある訳だが、この日の道中はそれにしても同じくクレモナーラ村方面へ向かう者たちの姿が見受けられた。そこを少々訝しんでいたエスメラルダであったのだが――。
エスメラルダ:「ああ……!」
 村に足を踏み入れて早々、エスメラルダは納得したようにぽんっと手を打った。村のあちこちにのぼりが立てられていたのだ。「音楽祭へようこそ!」と。
 1年中音楽に溢れ活気に満ちている村だが、年に1度の春の音楽祭ともなればそれらも最高潮に達するであろう。
エスメラルダ:「そっかそっか、春にあるとは聞いてたけど、ちょうど……そうなのねー」
 うんうんと1人頷くエスメラルダ。冒険商人という身ゆえ、別段この村を訪れるのは初めてではない。しかしこういったイベント事に巡り会わせるのは初めてのことである。村に入る前は1泊してまたすぐに旅を続けるつもりであったが、こういうことなら話は違う。少し滞在を延ばして、音楽祭を楽しむのも悪くはない。
 ともあれ、まずは――宿の確保である。エスメラルダは何度か泊まったことのある宿へと続く道を、足早に歩いていった。

●捕捉されたエスメラルダ【1】
客A:「いやー、今日も楽しかったな! あのフルートもよかったしなあ……。んで、明日はどうするよ?」
客B:「明日かあ……どうすっかねー。何かハーブだっけ? その演奏があるとか聞いたけどな」
 無事に宿を確保して、付設された食堂兼酒場にて晩御飯を1人食べていたエスメラルダは、近くのテーブルに陣取っていた客2人の会話を耳にしていた。内容からして音楽祭を楽しみにやってきた観光客であろうことは間違いない。
客A:「ハーブじゃなくてハープな。薬草演奏してどうするよ。何か、サクラとかいう名奏者が出るらしいぞ」
客B:「え、サクラって歌姫が出るとは聞いたけど?」
エスメラルダ:(つまり、サクラって名前のハープの名奏者でもある歌姫が出る、ってことよね)
 客2人の微妙にとんちんかんな会話からの情報を、頭の中で再構築するエスメラルダ。
エスメラルダ:(どんな感じなのかしらね。せっかくだし、明日鑑賞しに行こうかな)
 そうと決まれば、後で延泊することを伝えておかねばならない。そう思って、宿の主人の居る方角へと顔を向けると――。
エスメラルダ:(うんっ?)
 その途中で、はたと顔の動きが止まった。それまで意識が向いていなかった方角の隣のテーブルには、1人の女性が陣取っていた。そう、『陣取って』いたのだ――片手で空いたジョッキをしっかと握り締めたまま、テーブルに突っ伏している黒髪の女性が。
エスメラルダ:(え、何? もうこの時間で酔い潰れてるの?)
 その女性を軽く観察してみるエスメラルダ。着ている物はシックな雰囲気を漂わせ、使われている布も上質なようだ。言葉は悪いが、今居る大衆向けの宿には似つかわしくない装いである。高級宿が似合う装いなのにここに居るということは、訳ありか世間知らずといった所かもしれない。しかしながら、テーブルに突っ伏している姿に違和感はなく、むしろ馴染んでいる。今日たまたま酔っ払った、とはとても思えない様子であった。
エスメラルダ:(……酔い潰れ慣れてる?)
 と――突然女性がテーブルから顔を上げた。横顔でも美人であると分かる女性の顔色は鮮やかなる桜色、これは完璧に出来上がっている。少しぼーっとした様子であった女性は、ゆっくりと顔を左右に動かし……。
 エスメラルダと目が合った。
エスメラルダ:(あっ!)
 と、エスメラルダが思った時にはもう遅い。女性はにこーっと満面の笑みを浮かべると、テーブルからガタッと立ち上がった。そしてエスメラルダの居るテーブルへとご機嫌な様子で近寄りながら、空のジョッキを高らかと掲げ言い放った。
酔っ払い美女:「ビールおかわりお願いします!」

●酔っ払いの相手は大変だ【2】
酔っ払い美女:「……それでですね、その御主人に言ってあげたんです」
エスメラルダ:「『彼がすり替えていたんですよ』って言ったのよね?」
酔っ払い美女:「あら、どうして分かったんでしょう? 心を読まれたのかしら」
 にこにことそう言って、エスメラルダの肩にジョッキを持たない方の手を回してぐいと引き寄せようとする女性。エスメラルダは軽く力を入れて身体が引っ付かないよう抵抗しつつ、やれやれといった表情を浮かべている。
エスメラルダ:(そりゃあ……何度も同じ話聞かされたら、嫌でも覚えてくるわよ)
 そう、酔っ払い特有の延々とループする話を、エスメラルダもこの女性から聞かされていたのである。そのループ話に、これまた酔っ払い特有のころころ変わる喜怒哀楽が加わり、ぺたぺたと触れてきてスキンシップを図ろうとしているのだから、これはもうたまったものではない。酒癖がよいか悪いかと問われれば間違いなく悪い部類、それもかなりのだ。
酔っ払い美女:「うふふ……言いたいことが分かったえらい娘には、ご褒美あげないといけないかしら♪」
 と言って、女性はエスメラルダに顔をぐいと寄せてきた。頬に唇が触れそうになるくらいまで。
エスメラルダ:「あっ! ほ、ほらっ! ジョッキが空いちゃってるわよっ?」
 これで何度目になろうかという身の危険を感じ、慌てて言い放つエスメラルダ。その声に女性はエスメラルダから身体を離してジョッキを確かめると、そのまま高く掲げた。
酔っ払い美女:「すみませーん、おかわりをー」
エスメラルダ:(あっ……危なかったぁ……)
 エスメラルダがほっと胸を撫で下ろす。どうやらこの女性、キス魔の傾向もあるようで、スキンシップを図る最中に、何度となく唇で頬や手の甲、首筋にうなじといった所へと触れようとしてきていたのだ。エスメラルダは機転を利かせ、それをどうにか回避してきた訳である。
エスメラルダ:(でもそろそろ限界かも……)
 そんな不安が脳裏をよぎった時、天はエスメラルダの味方をした。
酔っ払い美女:「あふ……。何だか眠くなっちゃったかしら……」
 と、小さなあくびとともにつぶやいたかと思うと、女性はまたテーブルに突っ伏してしまったのである。これを好機と言わずして何と言おうか。
エスメラルダ:「ちょっと席を外すわね!」
 そそくさと席を立ち、宿の主人の居る方へとまっしぐらに向かうエスメラルダ。そして延泊の旨を告げると、そのまま自分の部屋へと逃げ込んだのであった。

●意外な正体【3】
 翌日、食堂兼酒場で少し遅めの朝食を済ませた後、エスメラルダは音楽祭の会場へと向かった。もちろん、昨日話に聞いたサクラなるハープ演奏の歌姫を鑑賞するためだ。
エスメラルダ:「あー……昨日は酷い目に遭ったわー」
 やれやれといった様子でつぶやくエスメラルダ。今朝はあの女性に出会うことはなかったが、まだこの村に滞在しているかもしれない。ちょっと気を付けようかと考えている間に、エスメラルダは会場に到着した。見るとすでに8割ほど席が埋まっていたので、エスメラルダも手早く席を確保してハープ演奏を待つことにした。
司会者:「お待たせいたしました! 美しきハープの音色と、素晴らしき歌声をどうぞお楽しみください! サクラさん、どうぞー!」
 幸いなことに、目当ての演奏はエスメラルダが席に着いてすぐだった。会場が拍手に包まれる中、歌姫サクラがステージに登場したのだが――。
エスメラルダ:「……えっ……!」
 エスメラルダは、そのステージに登場した女性の姿を目にして絶句してしまった。そこに居たのは、昨夜散々絡んできた酔っ払い美女。ドレスアップしてハープこそ携えているが、その顔は間違いなく昨夜の女性であった。
エスメラルダ:(確かに昨夜の……? え、でも歌姫? え? え?)
 エスメラルダの困惑を他所に、一礼の後に粛々とサクラの演奏は始まる。ハープを爪弾き、少ししてから自らの歌声をハープの音色に乗せていく昨夜の酔っ払い美女――サクラの姿は、間違いなく名奏者であり歌姫でもあった。美貌の名音楽家、そう言っても何ら支障はない。
酔っ払い美女=サクラ:「……いかがだったでしょう?」
 1曲終え、客席に問いかけるサクラ。客席の聴衆は返事の代わりに、大きな拍手でそれに答えた。そんな中、未だ唖然とした様子のエスメラルダ。多くの聴衆が拍手する中での唖然とした姿は当然ながらステージ上のサクラからして目立つようで――。
 エスメラルダと目が合った。
サクラ:「それでは、続いての曲を……」
 何事もないかのごとくそう言いながらサクラが、エスメラルダに悪戯っぽくウィンクを飛ばしてきた。

【初めましては、ジョッキとともに おしまい】