<PCクエストノベル(3人)>


永遠の炎を求めに

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■冒険者一覧
 ■整理番号/名前/クラス

 ■3434/松浪・心語/傭兵
 ■2377/松浪・静四郎/放浪の癒し手
 ■3573/フガク/冒険者

■助力探求者
 ■キャビィ・エグゼイン/盗賊
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 一人で行くのは、さすがに止めた方が良い気がした。

 勇気と無謀は違う、とは承知している。
 貴石の谷。いつからかモンスターが棲み付いた事で廃棄された、宝石採取の為の坑道。かつて貴重な宝石が豊富に採れた谷に造られ、縦横無尽にかなりの深部まで掘り進められている通路が「そこ」になるが――現在は宝石喰いと呼称されるモンスターが出るのみならず、崩落の危険まで常にある危険な場所になってしまってもいる。
 それでも、肝心の宝石が――貴石が尽きて廃棄された訳では無いので、幾ら危険と言われていようと冒険に赴く者は数知れない。特に通路の最深部には貴重な魔法石がまだまだ眠っていると言われており、実際にそれらを採取した者の話も巷間流れてはいる。

 松浪心語が今回採りに行きたいと思っているのも、そんな魔法石の一種。

 ――――――【永遠の炎】と呼称される赤い石。

 だが、事前情報から考えて、一人で探索に行くのは躊躇いを覚えている。…危険の種類がモンスターの存在のみならず崩落の可能性。となると危険回避の面からして複数名のパーティを組んで行った方が絶対に良いし、それに合わせたきちんとした作戦や入念な下準備も必要になって来る。一人で行かない方が良い、と思ったのはそう言った実際的な理由もあるが――それよりもっと先に引っ掛かったのは。
 こんな事前情報の場所に勝手に一人で行っては、義兄二人にとても心配を掛けてしまうだろうな、と言う感情面での話になる。これは下手を打つとかなり拗れて相当に難題になってしまう話でもあって――そこを難題にしない為の方法は、ただ一つだけになる。

 それは心語自ら義兄二人にも事前に貴石の谷へ冒険に赴く旨をきちんと話して、素直に協力を頼む事。



 …と言うか。
 貴石の谷に【永遠の炎】を探しに行くつもりだ、と話をした時点で、協力を頼む前から「わたくしも一緒に参ります」と、きっぱり言い切られた。

 心語がまず話をした相手は――当然と言うか何と言うか、「話すべき相手」と考えた義兄の二人である。エルザード王立魔法学院内にある賢者の館、と言う貴石の谷への冒険を決めた場所の関係で、同姓を名乗る義兄の一人である兄上――松浪静四郎がウェイターとして勤めている白山羊亭が場所的に一番近いと見、心語はひとまずそこに赴いてみる事を選択。そうしたら、都合が良かったと言うか何と言うか――あろう事かそこに同族である義兄こともう一人の兄さん――本名まほら、現在名乗っている名前はフガク――も居た。
 フガクは一人で食事をしている。…それも、着いているテーブルのすぐ側に給仕用のエプロンを着けた静四郎まで居た。さすがに同席してまではいないが、すぐ側に佇んで何やら話までしている。それも、時々笑みまで零しつつ。少々ぎこちない雰囲気も見えないでもないが、それでも互いの距離を僅かでも縮めようとしてくれているのを感じ――そうでもなければまずフガクの方が静四郎の勤める白山羊亭に来る事など無いだろうし――、心語は素直に驚いた。…と言うか嬉しかった。
 心語が近くに行ったら、ぎこちない雰囲気の方は一気に消える。義兄二人とも、心語の姿を見た時点でまず心語を迎えるのが先になる。…そこは、二人とも同じ。二人が互いでそれまで話していた事よりも当然のように心語を優先する。…まぁ、その方が義兄二人にとっても気が楽なのだろうから――心語の存在自体が恰好の潤滑油にもなるのだろうからそんな扱いにも心語の方に否やは無いが。
 そんな義兄たちの態度に甘えて、心語も二人に挨拶をしてから本題の話に入る。…そうしたら、すぐさま静四郎の方が「わたくしも」と同行を申し出て来た訳で。

静四郎:「…貴石の谷と言えば崩落の恐れがあると聞いた事があります。危険な場所なのでしょう? わたくしに出来る事は是非やらせて下さい」
心語:「…有難う、兄上。…こちらこそ宜しく頼む」
フガク:「ふーん、貴石の谷かぁ。そういや俺も行った事無かったなぁ」
心語:「兄さんにも…協力を頼める、だろうか」
フガク:「うん。いいよ。可愛い義弟の頼みならえーんやこらってね。勿論一緒に行くよ。とーぜんね」
心語:「有難う。二人とも…とても、心強い」
静四郎:「…では、今回は三人で、と言う事になりますか?」
心語:「それは…あと、エルファリア別荘のキャビィにも…協力を頼もうと、思っている」

 ――――――キャビィ・エグゼイン。
 既に更生しているとは言えど、過去に盗賊として磨いた能力は、今回のような冒険にはきっと役に立つだろうと思うから。



キャビィ:「…貴石の谷ね。話はわかったけど…結構危ない場所だよね? あたしで役に立つかなぁ?」
心語:「…そう見込んだから、頼んでいる。現地での…貴石の鑑定も頼めたら、と…」

 と、賢者の館での探求者登録の伝手を辿り頼み込んだ結果、通常報酬の他、坑内で入手した貴石の三割を危険手当にする約束で、心語はキャビィを口説き落とす事に何とか成功。
 その後、今回の冒険の為に組んだパーティの四人でそれぞれ事前準備に入る。

 準備をするのはこの聖都で、と心語は考えている。情報を得た当の賢者の館もあるし、そうでなくともエルザードのような大きな都の方が集まって来る物品も多く、種類もある――即ち、色々な物品が入手し易い。
 ここで揃えられるだけは、揃える。

心語:「支給品だけでは…やはり心許無いか」

 事前に申告する事で、賢者の館の方からも冒険に必要な基本的な物品のある程度の支給は受けられる。が、貴石の谷となると場所も場所。距離もあり、少々時間もかかる――道程を考えると、支給された分だけでは満足とは言えない。が、当然、足しにはなるので有難く支給を受けてはおく。…必須と言える方位磁石とかはここで入手出来るし。
 心許無い分は他の店で調達。貴石を掘り出すのに必要な道具は、結構嵩も張る。

 貴石の谷坑内の地図も、あれば要る。…勿論、そもそも「あるかどうか」さえ不明ではあるが、巷間流れている話からして赴いた者は少なからず居る筈でもある。ならばある程度の現時点での内部構造は知られている筈――もしくは探鉱の通路が掘られた当初の地図だけでもそれなりに役には立つだろう。

フガク:「今はどのくらい通用するものかわからないけど、地図、あった以上は貰ってくよ」

 …貴石の谷、坑内地図。
 立ち寄った馴染みのギルドでフガクが入手出来たのは、探鉱の為掘り進められた当初の通路地図に、実際そこへ冒険に赴いた者たちから集められた情報が賑やかに付け加えられたものだった。…当然のように、深部に行けば行く程不明点が多くなっている。宝石喰いとの遭遇点もある程度書き込まれている。
 なかなかに有効そうな情報がちらほら載ってはいるが、それでも今この瞬間に貴石の谷の何処かで落盤が起きたとかそういう可能性は否定出来ない以上、完全は求められない。それでも、意外と使えそうな情報が載っている地図を入手出来た事にフガクはほっとする。…この手の地図があるのとないのでは、冒険に於ける安全度が格段に違ってくるから。

 行き先が探鉱の通路ともなれば灯りも当然必要。薬品や携帯食、水などの対策も忘れてはならない。これもまた賢者の館からある程度は支給を受けられるが――以下同文。念の為を考えるならば、他の店で心許無い分を調達しておく必要がある。
 特に灯りの燃料や灯芯等の消耗品、薬品などについては専門店で見繕っておいた方がずっと手厚くなる。水の――水筒なども持ち慣れている物の方が良いし。携帯食については――どうだろう。

静四郎:「不測の事態も有り得るでしょうから…持ち歩くのに邪魔にならない程度に、少し余分をと考えておいた方が良いかもしれませんね」

 つと思い、静四郎は再考する。…調達する物資。多過ぎても困るが、逆に足りなくなっては――足りなくなった場所によっては困るどころか死活問題になり兼ねない。場所が場所。それは身軽な方が良いのも確かだろうが――その辺りの加減を見極めるのは結構難しい。
 …それでも当然、可愛い義弟の為である。
 持ち運びの利便性と必要分の確保を天秤に掛けて、ちょうど釣り合いの取れるところはどの辺りになるか。静四郎はその辺りを念頭に、店で求める品を改めて選び直す。

 そして三者三様、準備を整えてから再び合流。もう一人の探求者もそこに合流し、パーティは四人になる。…心語に静四郎、フガクにキャビィ。互いの装備や調達した品を確認、足りないものは無いか、余計なものは無いか。今の時点で想定出来る諸々からして、現時点の準備に改善出来る点は無いか等相談し――よし、となったところで、いざ貴石の谷へと出発する。



 ――――――あくまで目的は【永遠の炎】の入手。
 入手したなら迅速に坑道から戻り、無事、帰途に着く事こそが一番重要。
 他の事は二の次。

 そう念頭に置いて、一行は貴石の谷坑道内部の探索を開始する。落盤の危険性を考え、短時間での迅速な行動を取る事。まずは事前に地図と照らしてなるべく大きな通路――現在はともあれ元々は頑丈だった筈の通路――及び、撤退時の利便を考え複雑で無い通路を中心にルートを選択。また同時に既に崩落し通路が潰れている可能性を考え、枝道で繋がっている――万一の際にはそちらの通路に退避出来るよう――幾つかのルートを想定してもおく。

 通路を進む隊列の先頭はフガク。聖獣装具の三眼兜――スリーゲイズを召喚、装備して魔法的暗視能力を活用し、崩落や宝石喰いの危険を真っ先に感知出来るよう努めている。そして、注意深く隊列を誘導。パーティの三人が付いて来ている筈の後ろをくるりと振り返る。

フガク:「みんな逸れてないよね? こっちこっちー。…って。あんまり大きい声も出さない方が良さそうだねぇ、この場所」
キャビィ:「うん。なんか思ったより響く感じがあるみたいだもんね」
心語:「気を…付けてくれ」

 兄さんは笑い声が大きいから。

フガク:「ははっ。全くだ。気を付けるよ!」
心語:「…。…言ってる側から…」
静四郎:「さすがに今くらいの音響では落盤は起こさないとは思いますが…」
フガク:「まぁ、そうでなくとも怪物に気付かれる可能性はあるかもしんないから気は付けないと」
心語:「怪物…宝石喰いか」

 なるべく遭遇したくは無いが。と心語は溜息。全くだ。全くです。と義兄二人も同意するが――そこに。
 何か居る! とキャビィが小さく叫ぶ声がした。一行が進んでいたのとは別の、けれどその通路に繋がる脇道の先。隊列前方から中央の辺りに居、位置関係として一番近かった為にキャビィがまず気が付いた。続いてすぐに隊列先頭のフガクと殿の心語も気付く。…脇道の先、何者かが近付いて来る気配。やがて、ひたり、ひたり、と何かが動き、近付く音も実際に耳に届いた。断続的な。密やかな足音のような――恐らくは宝石喰いの。
 接近に気付いた時点で、心語が前に出た――出ようとした。が。

フガク:「ちょっと待った。こー来たならそーっとやってみよう」

 声を潜めて言いつつ、フガクはその行動を遮った。
 …脇道の先。まだ姿は見えない。けれど足音、気配の近付き具合とその距離からして、坑道内と言うこの場所の条件でただ黙って逃げ切るのは――恐らく難しいと思われる間合い。…下手に追いかけっこになってしまっては、落盤の危険も増してしまう。
 恐らくこの宝石喰いは、こちらの事を「何かが居そうだ」程度にだけ意識して近付いて来ていると思われる――となると最低ライン、このまま進む為には何らかの対処をして足止めをしておく必要がある。
 だから事前に打ち合わせておいた通り、拘束に適した【気】の扱い方を心得ているフガクが迅速に相手の動きを止められるよう、まず宝石喰いの興味を惹き付ける為に囮として心語が出ようとしたのだが――フガクとしては今は取り敢えずその必要は無いと見た。そんなフガクに従い、心語以外の皆も極力息を殺して――当の脇道から見えないよう、隠れるように位置を取る。そして宝石喰いの頭が脇道から出て来るその時その瞬間を見計らい、フガクはすかさず【気の触手】を操って――狙っていた【幻覚の種】を撃ち込んだ。
 途端、宝石食いは前進する動きを止めたかと思うと、ゆるゆると向きを変え、元来た道を引き返し始める。ひたり、ひたり。その密やかな足音が少しずつ遠ざかり――ある程度離れたと見たところで、ふー。フガクは軽く息を吐いた。…今。【幻覚の種】を撃ち込む事で「元来た道にこそ新たに放っておけない何かが現れたようだ」と宝石喰いにイメージを送り、宝石喰い自ら大人しく道を引き返すよう仕向けた。と言う事になる。
 状況や条件からしての思い付きで一か八かでやってみた事ではあるが――自分とは全く違う生き物である以上、送ったイメージ自体がそもそも通用するかわからない訳だし――、意外と図に当たったらしい。
 …ちなみに、今のが効かなかったならそのまま【幻覚の種】を繰り出した【気の触手】で、不意打ちしたまま一気に拘束、力技で眠って頂く方向で考えていた。

フガク:「…よし。上手く行った。黙って遣り過ごせるなら、その方が余程安全でしょ」
心語:「そうだな…向こうが自ら避けてくれるならその方がずっといい…」
キャビィ:「だね。この先もこんな調子で行ければいいけど」
静四郎:「そうですね。…不要な戦闘も殺生も、避けるに越した事はありません」
フガク:「ま、そういう事で。で――」

 ここで宝石喰いが出たって地図に印付けとこう。とフガク。受けた静四郎は手許の地図を広げ直し、灯りで照らしつつ印を付け、見えた頭の大きさや足音の間隔から想定される宝石喰いのサイズも付け加えておく。
 現在、地図を預かっているのは隊列中央に居る静四郎。心語やフガクのような戦闘向きの能力は持ち合わせていない半面、支援や治癒の能力には長けている為にそんな位置取りをしている。そして地図の確認もまた彼の役割。印を付けると同時に、皆で集まったところだったので改めて、とこれから進む予定である通路情報を再確認して共有する。

フガク:「んー、ここでもう今のサイズが出るかぁ」
心語:「…。…地図に付記してある情報より大きかった…ような気がする」
キャビィ:「…やっぱりあんたもそう思う?」
心語:「…ああ」
静四郎:「今くらいの大きさの宝石喰いは――もう少し奥に行ったところで出くわした、との情報が多いようですね…となると、今後はより注意が必要となりそうです」

 元から居たのがあの大きさなのか、何らかの要因で育った結果なのかはわかりませんが、想定外の大きさのものが早い段階で居たとなると、色々な意味で危険度はより増すでしょうから。…それでも奥に向かうとなれば、尚更。

静四郎:「気を引き締めて行きましょう」

 静四郎が纏めたところで皆は一斉に頷き、再び組んだ隊列の並びに戻る。
 そして一行は更に、通路の奥へ。



フガク:「そろそろ結構深部まで来たと思うけど…それっぽい石ありそう?」

 坑道の奥に来るに従い、通路の様子が変わって来る。通路を構成する岩石の色や質感。大部分にあるそれらとはまた違う、隙間にある違った結晶や鉱石の塊。…そのどれもが、採取し磨き上げれば宝飾の役に立ちそうなものばかり。即ち、それなりの貴石が、採ろうと思うならすぐ手に入る位置にある。
 但し、今のところ通路のそこここに見えている石は――貴石と言ってもあくまで「それなり」。一応、宝飾用に売れる程度のものではあるようだが、それらの石であっても目的の魔法石と比べれば格段に稀少度は下がる――美しくはあるが、そのくらい有り触れた良くある石でもある。…けれどそれらの石がごく普通に当たり前のようにあるくらいの場所ともなれば、鉱脈として豊かであるのだろう事も察して余りある。
 そんな中、キャビィは時折見える光を帯びた貴石の塊が露出した場所に近付いては、専用の小さなスコープで覗いて確かめていた。…魔法石には通常有り得ない条件で何らかの光を発するものが多い。暗闇で光るものもある――【永遠の炎】もそう。暗いところで淡く輝く赤い貴石。また、石の内部で炎が揺れているのも特徴――それこそが名の由来でもある。…太古の昔、火山の炎が凝固してこの石になったとの謂れもある。
 現在位置の深さからして、そろそろ魔法石が見付かってもおかしくない頃合い。だからこそキャビィは何度かそれらしい赤色の貴石を確かめているのだが――なかなか見付からない。
 そして、今はそれらしく見えた貴石の塊の、五回目の鑑定になる。

キャビィ:「んー…今度こそ当たりだと良いんだけど――よし! これ当たりだ。【永遠の炎】で間違いないよ」
心語:「! …本当か」
キャビィ:「うん。それも結構大きい塊になるよ。これ」
心語:「それは有難い。…キャビィへの報酬分もあるからな」
静四郎:「その塊で、心語が必要とする分は足りそうですか?」
心語:「…(確認中)。…三割差し引くと考えても充分そうだ。キャビィは…この割り当てでどうだろう」
キャビィ:「ん。いいよこれで。…折角だから採れるだけ採ってこ」
静四郎:「…ですが、これだけの塊です。掘り過ぎては崩落の危険も高まるかもしれません」

 …予定していた分だけ採取して、地上に戻る事にしましょう。
 静四郎のその一声に、やや渋々な様子を見せながらも素直に頷くキャビィ。…貴石の採取は必要最低限。まぁ確かに、元々その予定ではあった。けれどキャビィにしてみれば、この貴石の塊を前にしてしまうと、少々元盗賊の血が騒ぐと言う面もあるのだろう。
 ともあれ、見付かったなら、後は掘り出して早々に戻るだけ。

 実際の貴石の採取は静四郎とキャビィの二人で行い、隊列先頭に居たフガクと殿に居た心語は、その間、手分けして周囲の警戒を優先する。
 するが。
 分担してそう行動し始めたところで。
 心語は通路自体が微妙に震えているのに気が付いた。…通路の壁に沿って、上方からパラパラと少しずつ砂が零れ落ちて来ている。
 それも、止まる気配が無い。

心語:「! ここまでだ。…崩れるかもしれない――いや」
フガク:「――デカブツがおいでなすったよ」

 心語の後を引き取るようにしてフガクが通路の先を見る。三眼兜で見通した先、フガクの目に視えていたのは――宝石喰いの姿。それも、四人で優に立って歩けて窮屈でもない今居る通路の幅が塞がってしまう程の、巨大な体躯。ずしんずしんと重苦しい音を立てて、刻一刻と接近して来る。…様子を窺う段階じゃない。接近する宝石喰いはここに人が居る事を完全に察知、空かした腹を満たそうと狙っての突進を仕掛けて来ている。当然、その巨体で駆けて来る訳だから――通路に掛かる加重や衝撃も半端では無い。
 こうなっては崩落も時間の問題になる。心語は咄嗟に【鎧気】――敵の攻撃ダメージを吸収し和らげる効果のある【気】の用い方――を纏いつつ宝石喰いに突進、迎え撃つ形で単身躍りかかる。が、両生類めいた姿にしては意外な程の素早さで宝石喰いはそんな心語目掛けて牙を剥き、一息に食い千切ろうと試みる。
 瞬間、その食い千切ろうとした顎が弾かれたように戦慄いた。宝石喰いがよたよたと数歩後退する。【鏡気】――【気】の防御壁をすかさず用いての攻撃反射。それで怯ませたところで、宝石喰いは絶叫――するかと思える口の動きを見せたが、フガクの【気の触手】がその動きを封じ込めているのが先だった。今心語が宝石喰いの興味を惹き付けていた間に、【気の触手】は巨大宝石喰いの体躯を完全に絡め取っている。
 そこまでの戦闘。…極力、周囲に衝撃を与えないよう努めはしたが、パラパラと崩れる砂は止まらない。それどころか――砂では済まず小石と言えそうなやや大きな欠片まで零れ始め、通路の壁自体に罅まで入り――。

 ――認めた時点で、静四郎が前に出て【幻の盾】を張っていた。両手を広げて念じる事で作り出せる不可視の障壁。それで今にも崩落し始めている岩盤から皆を守る事を選択。

静四郎:「皆さん、早く離脱して下さい!」
キャビィ:「わわっ、ちょっと待って――」
静四郎:「【幻の盾】を維持するのは三分が限度です。ですから今の内に!」
フガク:「こうなっちゃしょうがないね。取り敢えず俺はぎりぎりまで宝石喰い押さえとくから、いさなはキャビィさん連れて早く行って!」
心語:「わかった…行くぞ、キャビィ」
キャビィ:「ん、うん…!」
静四郎:「急いで下さい!」
心語:「兄さんたちも早く!」

 一度崩れ始めた通路の崩落は止まるどころか速度を増していく。心語とキャビィの離脱を待ってから、フガクと静四郎も崩落の度合いからタイミングを見計らって能力を解き、後は崩落するに任せた。そして崩落の続くその通路から、二人は一気に離脱――心語とキャビィの後を追う。フガクが静四郎の手を引き、引き摺る勢いの速さで――石が落下して来ないルートを適宜見極めつつ走り抜ける事で、何とか二人とも崩落から逃げ切った。
 なお、崩落の原因――になったのかもしれない宝石喰いは、その崩落に巻き込まれる形で姿を消している。…取り敢えず、一行を追っては来れていない。



 崩落から何とか無事逃げ切れたところで、一行は一息。…吐いたところで、皆、身体のあちこちが細かい擦り傷や切り傷、小石が落下するのにでも当たったのだろう軽い打撲だらけになっている事に気が付いた。どうも、崩落から逃げる最中にやったものらしい。

静四郎:「…手当ての必要がありますね」

 静四郎は【命の水】――傷を癒す魔法を一行の皆にそれぞれ発動する。一番手っ取り早い方法で、勿論自分の傷もそれで癒した。
 そして――これからの事を考える。

心語:「また別のルートを取って探さないと…か」
フガク:「あー、さっきあった【永遠の炎】の大きな塊、惜しかったねぇ」
静四郎:「ですが、命あっての物種ですから。気を取り直して行きましょう」
キャビィ:「…。…あのさ」
フガク:「ん? どうしたの」
静四郎:「…キャビィ様?」
心語:「?」
キャビィ:「…これじゃダメかな?」

 言って、申し訳無さそうにキャビィは自分のポーチを開けてそこから【永遠の炎】の欠片を取り出した。小さく掲げて見せられるなり、え? と皆は思わずきょとん。そして――誰からともなく、キャビィの持つ当のポーチの中を覗き込んだ。

 と、そこには――ぎっしり【永遠の炎】の欠片が詰まっていた。

心語:「…」
静四郎:「…」
フガク:「…」
キャビィ:「…えっと…ちょっと細かくなっちゃってるけど…アレ前にして収穫無しも勿体無いなって、取り敢えず露出してた分を思い切って砕いちゃって、飛び散った分掻き集めて拾って来てみたんだよね」
心語:「…。…それで…あの局面で「ちょっと待て」と…」
フガク:「…あの間でよくもここまで拾えたもんだねぇ」
キャビィ:「そりゃ必死だったしね。折角のお宝目の前にしてただ指銜えて見てるなんてあたしにゃ出来ないよ」
静四郎:「…また危ない真似をなさいましたね」
キャビィ:「でも、ギリギリ間に合う! って思った量しか採って来てないよ。死んじゃったら何にもならないからさ。…もしこれで足りるんだったら、後は無事に戻る事を考えるだけで済むかなって」
フガク:「ははっ。確かに」
キャビィ:「でしょ?」
心語:「…ああ。良くやってくれた。キャビィ」
キャビィ:「あ、って事はじゃあ、【永遠の炎】はこれで足りるんだね?」
心語:「充分だ。…キャビィの割り当て分もこれの三割で良ければ、だが」
キャビィ:「そりゃあ、しょうがない話だから我慢するよ。後はその辺にある魔法石って訳じゃなさそうな普通の貴石ちょっと貰ってけば良しとしようと思ってる。…あの青いのとか七色のなんか、いい値で売れそうだしね」
静四郎:「…程々にして下さいね?」

 キャビィ様。と静四郎は苦笑。キャビィは現在地のすぐ周辺にある貴石を示し、「売れそうだ」と言うが早いが採取の為に削り始めている。そんなすぐさま可能な事のようだったので静四郎もわざわざ止める事はしなかったが――それでも本来の目的が達成された以上は、こんな危険な場所に長居は無用。
 早々に戻った方が良い。
 静四郎は地図を広げて、改めて現在地と地上に戻る為のルートを確認。今逃げて来た元の場所、崩落を起こした場所にも印を入れ、フガクと心語とも、進む予定――地上に戻る為のルートを共有する。
 …そうしている間に、キャビィの手による「その辺にあった普通の貴石」の追加採取も終了。
 そして漸く、一行は地上へと帰還する。

 ――――――今回の貴石の谷での冒険。
 目的である【永遠の炎】の入手は――ひとまず、成功と言えた。

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          ライター通信
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 フガク様には初めまして。
 松浪心語様、松浪静四郎様にはいつもお世話になっております。…そして御二人には『炎舞ノ抄』の窓を長々と開けてなくて済みませんとも書いておくべきなような…(汗)

 ともあれ、今回は何やら「PCクエストノベル」と言う商品の駆け込み的な発注を有難う御座いました。…それも取り扱い終了まで残り一桁日数、と言うところでの駄目元に近い窓開けの間に(笑)。正直需要があるとは全く思っていなかったのですが…目敏く見付けて頂きまして。
 ちなみに今回、御三方のこれと他の方のもう一件、の二件をこの間でお預かりする事になっていたのですが…納期の関係で先に発注頂いたこちらの方が後回しになってしまった上に、(いつもの事と言えばいつもの事なのですが)お渡しまでお待たせしてしまいました。どうぞ御容赦下さい。
 それと、実は当方、PCクエストノベルを手掛ける事自体がこの二件の機会で最初で最後と言う状況でもあったりしまして(汗)、しかもPCクエストノベルはその他のノベルとは書式が少々違うので…至らないところがあったら申し訳無いと予めお伝えしておきます。

 内容ですが、結構勝手をしてしまった部分が多いような気がしています。また、御三方の関係性等、色々複雑なようにお見受けするのでその辺読み違えてなければ…とも思ってもいるのですが。
 そして最後、何故かキャビィが全部持って行ったような感じにもなってしまったりしてますし。…どういう訳か気が付いたらこうなってました…。
 それと。他の二方もですが、特にフガク様には初めましてなので、PC様の性格や口調に行動等、違和感やこれは有り得ないと言うような事は無かったか、気にもなっております。

 ともあれ、こんな感じになりましたが、如何だったでしょうか。
 少なくとも対価分は満足して頂けていれば幸いなのですが。

 では、もしまた機会が頂ける事がありましたらその時は。

 深海残月 拝