<PCクエストノベル(1人)>


封印の塔にて物語り

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■冒険者一覧
 ■整理番号/名前/クラス
 ■3827/ロザーリア・アレッサンドリ/迷宮司書

■その他登場人物
 ■ケルノイエス・エーヴォ(愛称ケルノ)/封印の塔塔守
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 ロザーリア・アレッサンドリは迷宮司書である。
 迷宮司書とは、『迷宮と化す程に拡張に拡張を重ね、最早ダンジョンと言った方が良いようなレベルにまでなっている――それも魔術師やら錬金術師の類が求めるような書物が多数所蔵されている大図書館、の司書』の事である。
 自然、その迷宮司書の行う業務は――所蔵されている書物の把握と管理、と言う、素直に文字通りの表現から想像出来る『普通』の仕事だけにはとどまらない。『把握』――禁書はどれかとか、召喚獣が溢れ出て来た元の本はどれかとか全部頭に入っていなければ勤まらない。『管理』――当然溢れ出て来た余計な召喚獣の撃退も行い、元となった本も丁重に棚に戻しておかなければならないし――禁書の類もそれぞれの様式に則って適切に扱う必要がある。…籠る魔力が暴発しそうになっている魔道書の封印を行ったりもする。
 …即ち、字面のイメージ以上にデンジャラスな職業、でもある。
 いっそ、文系でインドアの冒険者、とでも言ってしまった方が早いかもしれない。

 そして彼女は彼女自身の勤める大図書館以外の場所にも赴き、嘱託で業務を行う事もある。
 例えば、封印の塔。
 …職業柄、常連でもあったりする。

ロザーリア:「これでよし、っと」

 儀式めいた仕草で両肘を張り、ぱんっと胸の前で両手を叩いて言い切るロザーリア。その手拍子の音と共に、本が自ずから元あった棚へと戻り収まっている。その本は――暴走する呪いのエネルギーでたった今まで怪物と化していた禁書。その時ロザーリアが封印を依頼されていたのは「それ」だったのだが――ロザーリアはモンスター状態の「それ」を当然のようにたったひとりで相手に回すと、愛用のレイピアと短銃を用いてがりがりと着実にエネルギーを削り、完全に弱らせ切ったところで――手際良く、さくっと封印したところになる。

 その様、全く危なげは無い。
 それどころか――非常に凛々しく頼もしく。
 いかにも『物語の主人公』然とした姿であって――。

ケルノイエス:「凄いね。そんなに簡単に」
ロザーリア:「いや。この程度の事は容易く出来てこそだよ」

 女剣士ロザーリアの名を受け継ぐ者としてはね。と自分に話し掛けて来た声の源を――背後、巻き込まれない程度の位置にいつの間にか佇んでいたケルノイエスを振り返りながら、ロザーリアは爽やかに笑む。

ロザーリア:「で、そんなあたしに話し掛けて来ているキミは――何者なのかな?」
ケルノイエス:「ああ、これは失礼を。初めまして。僕はケルノイエス・エーヴォ。この封印の塔の塔守をしている者だよ」
ロザーリア:「おや。では失礼したのはあたしの方になるのかな」

 この場所の当の塔守に、キミは何者かと訊くなんて。

ロザーリア:「非礼を詫びよう。あたしはロザーリア・アレッサンドリ。迷宮司書をしている者だよ。今日は禁書の封印の為にこちらにお邪魔していたところなんだが」
ケルノイエス:「承知している。いつもお世話になっているからね。ロザーリアさんにも他の迷宮司書の皆さんにも。僕一人でどうしようもない事は、この封印の塔にはたくさんあってしまうから」

 ただ、そんなお世話になっている人たちに、僕が直接会ってお礼を言えない事も多いんだけど。

ロザーリア:「ふむ。…それでケルノイエスとは初めまして、になる訳だね。ああ、あたしの事は気軽にロザリーと呼んでくれて構わないよ」
ケルノイエス:「有難う。僕の事もケルノで構わないよ。ロザリーさん」
ロザリー:「そう? ではケルノ。今あたしに声を掛けて来たのには――何か改まった理由があるのかな?」
ケルノ:「はい。実は――」

 何か、外のお話を聞かせて貰えたら、と。

 僕は、塔守としてこの塔に住んでいますが、この塔から出る事が出来ません。
 その事自体は承知と覚悟の上。構わない事。
 ただ、塔守となりここに住み着くと――老いる事無くそのまま長い時を生きる事になる。
 結果、出来てしまう有り余る時間。これだけは如何ともし難くて。

 外から来る人たちの面白い話を聞くのが、僕にとっての一番の楽しみで。

ケルノ:「だから…良かったら、何か、ロザリーさんの知っている話を聞かせて貰えたらって」
ロザリー:「なんだ。そんな事か――」

 勿論、全然構わないよ。
 むしろ、あたしにとっても願ったりだ。



 何から話そうか。
 ロザリーはそう前置いて思案する。ロザリーがケルノに招かれた先は、ケルノが塔内の住まいとしている場所のようだった。ソファにテーブル、書棚と言った古めかしくも品の良い調度の数々。明かりを灯すランプや良い香りを周囲に漂わせている紅茶――ロザリーを持て成す為にケルノが煎れたもの――入りのティーセット等の道具も同様で、ゆったりと落ち着ける空間が作り上げられている。

ロザリー:「んー…あたしの知ってるお話は結構たくさんあるんだよ」
ケルノ:「へえ、じゃあ、ロザリーさんはこれまで生きて来て色んな事に遭遇してるんだね」
ロザリー:「ううん。あたしじゃなくて『女主人公のロザーリアが』になるけどね」

 あたし自身は生まれてたったの二年だよ。

ケルノ:「え、どういう事?」
ロザリー:「あたしは本の動器精霊なんだ」

 だから、あたしの知ってるお話は――あたしの元ネタ、原作であるその本に書かれてるお話、になるんだよ。
 書かれてる話はたくさんあるんだ。…結構有名な古典的冒険活劇の小説になるからね。
 だから、もしかしたらケルノにとって聞き覚えがある話も出て来るかもしれないけれど、その場合は遠慮無く言って欲しい。
 また、別の物語を話すから。きっと、ケルノが聞いた事の無いお話もたくさんあるよ。

ロザリー:「あたしは本の動器精霊だからね。情報の記録や保存は勿論、他者への継承――話して伝える事はあたしの存在意義でもあるんだよ。
 だから、求めてくれるのならばたくさんたくさん話したい」

 …うーん、そうだなぁ。
 じゃあ、まずは仲間と出会った時の話からにしようか――。



 初めて顔を合わせた時の印象は、あんまり良くは無かったね。
 いや、むしろ最悪だったのかもしれないかな。…あれは食堂だったか酒場だったか、とにかくそこで――『彼』の肩に偶然ぶつかってしまって、飲み物をこぼさせてしまう、と言うちょっとした粗相をしてしまったんだよ。勿論、非を認めてロザーリアの方でもすぐに謝ったのだが――『彼』の方は余程虫の居所が悪かったのか何なのか、当たり散らすみたいにロザーリアに食って掛かって来る始末でね。それから、どう謝っても聞く耳持たずで…ほとほと困ってしまったんだよ。そりゃあまずその時に非があったのはロザーリアの方だった事に間違いは無いんだが、それにしたって言い過ぎなくらいに貶して来られたんだ。あろう事か親の事まで罵られてね。…勿論、そこまで言われちゃあ、さすがのロザーリアでも黙っちゃいられないよ。
 それで、ならば決闘だ、と言う話にまで大きく膨れ上がってしまってね。
 その時のロザーリアも『彼』も頭に血が上っていたから、周囲の止める声も聞いている余裕なんて無かったんだよ。

ロザリー:「…まぁ、結果としてその『彼』がロザーリアと共に冒険に赴く頼れる仲間になるんだから、人生はどう転ぶかわかったものじゃないんだけどね」

 日と時間を改めての決闘は、ロザーリアも『彼』も勿論逃げずに顔を合わせたよ。逃げなかった事だけで、ロザーリアも『彼』もお互い讃え合っていたくらいだ。その時、少しは見直してたね。
 それでも勿論、一度剣士が決めた決闘だ。安易に取り止めたりはしなかったよ。物見高い街の皆が見物している中、互いの剣先を合わせて、いざ、と二人は打ち合いを始めたんだ。

 そうしたらね。

 不意に、地鳴りがしたんだ。ロザーリアは何事かと思ったよ。思わず『彼』に向けていた剣も止めたくらいさ。それで、音の方を確かめた――二人の決闘を邪魔した地鳴りの正体は、なんと、魔物の軍勢が雪崩れ込んで来る足音だったんだよ。ちょうどその軍勢がその街を襲いに来たところに居合わせていたようでね。
 当然、もう決闘なんかしている場合じゃない。街の皆は逃げ惑い、阿鼻叫喚の大騒ぎだよ――でも、黙って見ているロザーリアじゃない。決闘そっちのけでその魔物の軍勢に一人敢然と立ち向かったんだ。そうしたら――『彼』の方でもロザーリアと同じように魔物の軍勢に立ち向かっていてね。悪を赦せない心は同じなんだ、と行動でわかったよ。
『彼』の方でもそれがわかったみたいでね、ちょっとした皮肉を言ったり悪態を吐きながらだったけど、自然とロザーリアと協力して魔物の軍勢に立ち向かう形になっていたんだよ。意外な事に、二人の息もぴったりでね。
 それで、魔物の軍勢を率いる軍隊長を二人が協力して倒す事で、その軍勢は散り散りになった。たった二人だったにも拘らず、何とか軍勢を退ける事が出来たんだよ。
 …と、言うかね。その倒した軍隊長の正体が――邪悪のエネルギーを注ぎ込まれて操られていた『精霊』だったって事が倒した後にわかってね。倒す事で元に戻って、ロザーリアと『彼』に謝罪と…お礼として、何か助けになれる事は無いかって申し出て来て。
 結局、その『精霊』もロザーリアの仲間になる事になったんだよ。

ロザリー:「…そこまで来ると、さすがにもう決闘とかする気も失せちゃってね。でも一度口に出した事だから有耶無耶にはしたくなくって、けじめとして一応ロザーリアは『彼』と立ち合ったんだよ。…勿論、命までは取らない形でね」

 結果は、ロザーリアの勝利。

 それで『彼』がロザーリアに食って掛かってた理由も知らされる事になったんだよ。…お店で遇ったあの時、『彼』はちょうど、長年行動を共にしていた仲間に裏切られたばかりで気持ちがささくれていたところだったらしくてね。それもその仲間が、羽根付き帽子に長い金髪、モノクルにマント姿――とロザーリアを彷彿とさせる要素を持つ洒落者だったらしいんだよ。それで、ついロザーリアを重ねてしまって、八つ当たりをしてしまったようなものだったんだって。
 そう明かされて、謝罪もされた。

 …そんな理由があったのか、って、ロザーリアはあっさり笑い飛ばして、全部水に流したよ。

 それどころか。
 ならばこのロザーリアが裏切られた憤りと悲しみを忘れさせてあげよう、って、新たに『彼』に手を差し伸べまでしたんだよ。



 そこまで話したロザリーは、さて、とばかりに紅茶で唇を湿らせる。

ロザリー:「これだけでも普通なら結構波乱万丈だったって言えそうなものだけど、ロザーリアの場合はこれでもまだまだ序の口なんだよね」
ケルノ:「へえ、そうなの? じゃあその仲間たちと、これから色々な冒険に出るって事なんだね」
ロザリー:「うん。でも、彼らだけじゃないんだ。ロザーリアは他にもたくさんの仲間に出会った。そっちの仲間とも冒険した事だってたくさんあるし、その時々でパーティを組む相手は色々だったんだよ。
 でも、今特にこの『彼』と『精霊』が仲間になった時の話をしたのには理由があってね」
ケルノ:「理由?」
ロザリー:「そう。ロザーリアの宿敵である邪悪な魔術師兼大臣との因縁さ」

 元々、ロザーリアはその邪悪な魔術師兼大臣を倒そうと――懲らしめようとしていたんだ。そんな中で出会ったのがこの『彼』と『精霊』。それで、二人もロザーリアと一緒にこの大臣と戦う事になるんだよ。
 大臣がほぼすべてを牛耳っている城に向かって、ロザーリアは何とか大臣の元へ辿り着こうと努力を重ねるんだ。大臣の――魔術師としての大臣の配下になる魔物たちを次々と薙ぎ払い追い詰めて、やっとの事でロザーリアたちは大臣と対峙した。その時にね、仲間になった『精霊』の方もこの大臣と因縁がある事がわかったんだ。
 …そう、あの街を襲った魔物の軍勢の軍隊長として、この『精霊』に邪悪のエネルギーを注ぎ込んで操っていたのが――その魔術師兼大臣だったんだよ。その大臣こそが、街を襲った黒幕だったのさ。使う魔術の贄にしようと、密かにその街の民を狙ったらしい。
 その事を知った『精霊』はとてもとても怒ったよ。当然、仲間であるロザーリアも『彼』も怒りを覚えた。正義の為だけじゃない、仲間の為にもと剣を抜き、皆で大臣と戦ったんだ。

 と。
 ロザリーがそこまで話したところで、あ! とケルノが小さな叫び声。
 その声に、ロザリーはきょとんとケルノを見る。

ロザリー:「どうしたんだい? ケルノ」
ケルノ:「あっ、急にごめんなさい…でも、邪悪な魔術師の大臣と戦うお嬢様剣士の物語、遠い昔に聞いた事があるって気が付いたんだ。やあやあ我こそは――って名乗りを上げて。確かにあれって…実際目の前に居たらホントにロザリーさんそのまんま、って見た目のイメージだよね」
ロザリー:「そう見えるかな? …長い金髪の上に羽根付き帽子をちょこりと乗せて、モノクルを掛けたその姿。颯爽とマントを翻す派手好きで洒落者の、レイピアと短銃を自在に操る女剣士、ってね」
ケルノ:「そうそうそう! …凄く強くてかっこよくて可愛い子で――ずっと前の記憶だったから、名前まではちょっと思い出せなかったんだけど、あれってロザリーさんの事だったんだ。…あ、ごめんなさい。名前を忘れてたなんて」
ロザリー:「いやいや。気にする事は無いよ。むしろケルノに思い出して貰えた事こそが光栄だね」

 そのくらい、女剣士ロザーリアの冒険譚は古くから知れ渡っている話だと言う事だから。

ケルノ:「そう? じゃあ、もっと他にも聞かせてくれる?」

 僕の知ってるだけじゃない、女剣士ロザーリアの――ロザリーのお話。

ロザリー:「勿論。業務に支障が無い程度にと注釈は付けておくけれど――時間の許す限り、幾らでも」

 話してあげるよ。
 まだまだこれだけじゃ全然足りない、女剣士ロザーリアの冒険譚を――。

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          ライター通信
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 ロザーリア・アレッサンドリ様には初めまして。
 今回は何やら「PCクエストノベル」と言う商品の駆け込み的な発注を有難う御座いました。…それも取り扱い終了まで残り一桁日数、と言うところでの駄目元に近い窓開けの間に(笑)。正直需要があるとは全く思っていなかったのですが…最終日に目敏く見付けて頂きまして。
 ちなみに今回、ロザーリア様のこれと他の方のもう一件、の二件をこの間でお預かりする事になっているのですが…実は当方、PCクエストノベルを手掛ける事自体がこの機会で最初で最後と言う状況でもあったりしまして(汗)、しかもPCクエストノベルはその他のノベルとは書式が少々違うので…至らないところがあったら申し訳無いと予めお伝えしておきます。

 で。
 内容ですが…ええと、微妙に気になったのが、「ロザーリアと言うお嬢様剣士の古典的冒険活劇小説」はリアルで実際にあるお話「では無い」と判断して良いんですよ…ね?
 いや、まず、そうだろうとは思いつつも、PCデータとプレイングを拝見していてちょっと待てよとつい一旦立ち止まってしまいまして。
 そんな訳で、一応それなりに「作って」はみましたが、こんな感じで良かったのやら。…結構派手に捏造な気がしています(汗)
 あと、初めましてなので、PC様の性格や口調に行動等もこれで違和感無かったかどうかも気になりますし。

 ともあれ、如何だったでしょうか。
 少なくとも対価分は満足して頂けていれば幸いなのですが。

 では、もしまた機会が頂ける事がありましたらその時は。

 深海残月 拝