<東京怪談ノベル(シングル)>


●ルーミィと森の不思議な動物
「こいつ、色々反則よ」
 ルーミィ(3861)は、目の前に敵を呪いたくなっていた──。


 ──事は、少し遡る。
 物語に出てくる女勇者に憧れ、いつか吟遊詩人のサーガに歌われるような冒険者になる事を夢見て、
冒険家になったルーミィが訪れたのは、とある辺境の森に面した村である。
 村人達は、久しぶりの遠方からの旅人だとルーミィを温かく迎え、食事などを振舞った。
「お礼がしたいの。何か困っている事はない?」
 ルーミィの問いかけに初めは渋っていた村人達だが、
「最近森で『ある動物』が出て被害が出ている」とルーミィに話した。

「どんな動物なの?」
「大きさは『大きな熊』位だな」
「毛皮は白黒よね」
「顔は愛嬌があって可愛いかもしれないな」
「毛はふさふさだったな」
 村人の証言を元に想像を膨らませるルーミィ。
(ふさふさの白黒毛皮で大きな熊サイズ……東方に住むって言う大熊『ジャイアントパンダ』かなぁ?」)
 ルーミィも文献でしか知らない『ジャイアントパンダ』なら村人が、知らなくても可笑しくはない。

 だが、その動物に対する目撃情報は決して少なくないようだ。
 つまりそれだけ、その動物と村人達の距離が近いという事である。
 大型獣は肉食草食に関わらず、その大きさ故に人にとって危険な生き物なのは代わりがない。
 この村にとって森は、生活に恩恵を与える重要な場所である。
 森の中に入れなければ、村人達生活が困るのは目に見えていた。

「あたしが退治してあげる!」
 そう言うルーミィは、村人が止めるのを聞かずに森へと飛び出していった。


●森の熊さんならぬスカンク(極めて大)
──森に入ってすぐにルーミィは、その動物と遭遇した。
「確かに白黒だし、熊サイズだけど……」
 周りの大人達が言っていた「人の話はちゃんと最後まで聞きなさい」の意味をかみ締めていた。
 次からはちゃんと最後まで話しを聞こう、そう思うルーミィ。
 そんなルーミィの前に立つその動物は──

「こんな大きな『スカンク』だなんて反則っ!」

 否、この動物を果たしてスカンクと言っていいのだろうか?
 村人達が、スカンクと言えなかったのも無理はない。
 一般的なスカンクは小型犬サイズだが、目の前にいる動物の大きさは、大熊並みである。
 スカンクに見えるが、ひょっとしてスライムなどと同じ魔法生物なのであろうか?
 そんな思いがルーミィの脳裏に浮かぶ。

 だが──ぷるぷると頭を振るルーミィ。
「『大きすぎる』スカンクでも、負けないもん。あたしは、熊だって倒したんだから!」
 落ち着きを取り戻したルーミィは、素早く考えた。
 スカンクも長い爪を持つが、熊と異なり後ろ足で立つのは余り得意ではない。
 ならば臭いオナラをさせないようにすればいい。
「なんだ楽勝じゃない」
 そういうとモショモショと木の葉を食べている大スカンクの前に飛び出した。

「あたしはルーミィ! あなたを退治するやって来た『冒険者』よ!」
 大きな声で名乗りを上げるルーミィに、食事中の大スカンクが顔を向けた──
(所詮、動物。これで正面は取れたわ)
──が、大スカンクはルーミィを一瞥すると何事もなかったかのように食事の続きを始めてしまった。
「あなた、あたしが小さいからって馬鹿にしているでしょ」
 大スカンクの人を食ったような態度が、ルーミィの闘争心に火を点けた。


●ルーミィ vs 大スカンク
「小さくたって冒険者なんだから。魔法だって使えるのよ」
 呪縛魔法の詠唱を始めるルーミィ。
 キラキラとした魔法の鎖が大スカンクの回りに出現し、体に巻きついた。
「身動き取れないでしょ! 覚悟しなさい!」
 だが体についた雨粒でも祓うかのように、ぶるんとその大きな体を一振りすると魔法の鎖が弾けとんだ。

 思わず「ガーン!」とするルーミィ。

 ショックをひた隠し、
「ふふ……流石、超一流ハンターを目指すあたしに相応しい敵ね」
 再び魔法を詠唱し始めるルーミィ。
「これならどう!」
 何もない空間から石の礫が飛び出し、大スカンクへと降り注いだ。

 鈍い大スカンクも流石にルーミィから攻撃されている事に気がついたようである。
 体をルーミィの方に向け、唸り声を上げた大スカンクが、尻尾を立てドスドスと足を踏み鳴らす。
「そんなの怖くないもん!」
 ルーミィは、大スカンクが右を向けば右、左を向けば左に回りこむ。
 痺れを切らして突進してきた大スカンクに向かって剣を抜き、斬りかかるルーミィ。

 すかっ──ルーミィの剣が空を切った。

 大スカンクが急ブレーキをかけたのだ。
 次の瞬間くるりと向きを変え、一目散に逃げ出す大スカンク。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
 とはいえ足が遅い大スカンク。
 ルーミィは前に素早く回りこむ。
「逃がさないんだから」
 魔法で大スカンクの後ろに石の壁を出現させるルーミィ。
「さあ、観念しなさい」
 剣を構えなおし、再び大スカンクに斬りかかる。


●誤算
 逃げ場がないと思ったのだろう。
 大スカンクはルーミィが突進して来るのを見て、
 素早く攻撃のポーズ 逆立ちをした。
「え?」
 と思った瞬間──

 ばふん!

 ──大スカンクがオナラを放った。

「くっ臭っ……!」
 げほげほゴホゴホ。
 息ができない程、臭いオナラに咳き込むルーミィ。
「何これぇ……ゴホゴホっ」
 腐ったタマネギと卵を混ぜ合わせ何十倍にもした臭さに、
 鼻は曲がるし、何んだか目に沁みる。
「あうぅ気持ち悪っ……きゅ〜ぅ」
 思わず目を回して気絶してしまったルーミィ。


 ──ルーミィが目を覚ました時には、高かった陽は傾き夕方近かった。
 静かな森はルーミィが大スカンクと戦った痕跡を、オナラ臭以外感じさせないでいた。
 どうやら大スカンクは近くにいないようである。

「はうぅ。逃げられちゃった」
 しょぼんとするルーミィ。
 相手がいなければ倒しようもない。
「村に帰ろう」
 とぼとぼと村に続く道を戻るルーミィ。

 だが幾ら歩いてもオナラ臭から遠ざかった気がしないルーミィ。
(なんでだろう?)
 なんとなく服の袖に鼻を近づけたルーミィは、強烈なオナラ臭にクラクラした。

 ルーミィも髪から服から全身、大スカンクのオナラ臭がする。
「いや〜ん。これじゃあ、恥かしくって村に入れないよ」
 でも戻らなければ村人達が、心配して探しに来てしまうかもしれない。
 そうなれば別な意味でサーガを残してしまうかもしれない。
『一流の冒険者』に恥かしい過去は、不要である。

 こうなったら手段は一つである──







 じゃばじゃばと川で髪や服を洗うルーミィ。
『オナラで負けた』と『探索中、足を滑らせて川に落ちた』のでは、かなり違う。
「く〜っ……見てなさい、大スカンク。今度、会ったら必ず倒してあげるわ!」
 輝く星空にリベンジを固く誓うルーミィだった。








<了>



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【3861 / ルーミィ / 女 / 13歳 / 冒険者】