<東京怪談ノベル(シングル)>


●ルーミィと森の不思議な動物2
 ──深い森の中。
 白黒の猿のような動物を発見したルーミィ(3861)は、手が緊張で汗ばむのを感じていた。
 木の陰からそっと様子を伺っている事に、動物はまだ気がついていない。

(これが、村人達が話していたスカンク猿ね……)
 その猿はゴリラのように大きな体をしていたが、ゴリラではない。
 ゴリラにない長いしっぽを持っていた。

(この前は、いきなり大物だったのが良くなかったのよ)
 前回、大熊サイズの大スカンクにオナラでやられたルーミィ。
 別の困った動物(お手頃サイズ)はないかと尋ねた所、教えられたのがこのスカンク猿だった。

 同じ轍は踏まないようルーミィの事前調査もバッチリだ。
 スカンク猿という名前に恥じない攻撃──オナラ対策は、万全だ。
(リベンジ……いや、あたしの武勇伝はここから始まるのよ!)

 そして剣を手に、気づかれないように少しずつ間合いを詰めていく──。


●ルーミィ vs スカンク猿
 猿は、スカンクよりも手が器用だ。
 単なる魔法の呪縛攻撃では、取り逃がすかもしれない。
(それなら物理的にも動かなくすればいいのよ)

 ルーミィは、小さな声で詠唱を始めた。
 用意したロープが蛇のように蠢き、スカンク猿の足元に忍び寄る。
 そして、あっという間にスカンク猿をぐるぐる巻きにしたと思ったら、
 最後は綺麗な蝶々結びになって動きを止めた。
「捕まえたわ!」
 木陰から飛び出すルーミィ。

 大きな咆哮を上げ、地団駄を踏むスカンク猿。
「いくら怒っても怖くないよ」
 バタバタ暴れようがこれならスカンク猿が何かを投げてきたり、逆立ちする事もできない。
 あとは噛み付かれないように気をつけて倒すだけだ。
 勝利を確信するルーミィにスカンク猿が尻尾を上げて「ぶぅうう〜っ!」と反撃のオナラを放つ。

「く、臭っ!」
 その臭さに思わずめまいを起こすルーミィ。
 落ちそうになる膝をぐっと堪えて体を立て直し、スカンク猿を睨んで不敵に笑う。
「この程度であたしを倒そうなんて甘いわ。これより臭い匂いは、体験済みなんだから」

 スカンク猿のオナラは、大スカンクより幾分マシだが、所詮オナラ。臭い。
(……でもこのまま何発かやられたらやっぱり危険!)
 ポケットから大きなハンカチを取り出し、鼻を覆うルーミィ。

 再び詠唱を始め、新たな縄でスカンク猿の締め上げるルーミィ。
 負けじとスカンク猿もオナラで応戦する。

 ──そんな攻防が何度か続いた。
 膠着状況の中、業を煮やし先に動いたのはスカンク猿だった。


●動くんです、尻尾
「きゃあ?!」
 唯一自由になっていたスカンク猿の長い尻尾が、鞭のように動きルーミィの足にくるりと巻きついた。
「あたしの魔法を真似るのなんて卑怯よ!」
「キィキィキィ!」
 それはこっちの台詞だと言わんばかりにスカンク猿が鳴く。
 振りほどこうとするが、強い力で振りほどけない。
 尾を断ち切るべく剣を抜くルーミィ。

 ぐん!──それを見たスカンク猿がルーミィの足を力強く引っ張った。

 転んでしまったルーミィは、そのままズルズルとスカンク猿の方へと引っ張られていく。
 ルーミィの目の前にあるのは、スカンク猿の尻である。
「ちょ、ちょっとたんま。幾らあたしでも直撃は──」

 目の前に迫るスカンク猿の尻に、
「それは、いやああああ!」
 悲鳴を上げるルーミィ。
 勝利を確信したスカンク猿は怪しい闇笑いを浮かべ──


●臭いものには蓋
「──なんてね。こっちはあなたの事、研究済みなんだから!!」
「きぃ?」
 そう。ルーミィは、もしもの時の為に『奥の手』を用意していたのであった。
 ルーミィはバックから素早く『奥の手 トリモチ』を取り出し、スカンク猿の尻にぺたりと押し付けた。
 次の瞬間、
「ぶぅうう〜っ!」
 大きな音と共に臭いオナラが放出されたが、トリモチが栓となって臭い匂いの放出を防いでくれた。

「……危なかった」
 ふぅと息を吐き出すルーミィ。
「『臭いものには蓋』。ふ……昔の人の知恵って役立つわ」
 スカンク猿が尻についたトリモチが取れないとキィキィ騒ぐ中、
 マスク代わりにしていたハンカチを取り、額についた汗を拭うルーミィ。

「ぶぅうう〜っ!」
「幾らやっても無駄よ」
 ぶぅぶぅとオナラ攻撃を繰り返すスカンク猿だったが、
 ルーミィの言うようにトリモチがオナラのガスを防いでいた。

「でもスカンク猿の生け捕りか〜。むふ♪ 何気にあたし凄くない?」
 村からスカンク猿に懸賞金は掛かっていなかったが、珍しいスカンク猿である。
 どこかの研究所か動物園に売り払っても良いだろう。
 それにこの活躍で一流冒険者の仲間入りをしたかもしれない。
「サーガに唄われちゃったらどうしよう♪ あ、そうなると通り名が必要よね」
 妄想を広げるルーミィは、後ろに危険が迫っている事に気がつかなかった──。


●迫る危機
 つい──
 何かがルーミィの服の裾を引っ張った。

 振り返ったルーミィは、思わずその場で凍りついた。
「何よ、これ!」
 いつの間にか目の前に大きな風船が1つ出来ていた。
 その先には、スカンク猿がいる──
「ま、まさか……」
 目の前に大きく膨らんで風船いるのは、ルーミィがスカンク猿の尻に付けたトリモチだった。

 ルーミィが妄想をしている間、スカンク猿がオナラをする度に出口を失ったガスが、
 トリモチをフーセンガムのように大きく膨らませていたのだった。
 慌てて逃げようとするルーミィの足には、スカンク猿の尾が巻きついたままで逃げるに逃げられない。

 段々大きくなっていくトリモチ風船は、スカンク猿を飲み込んだ。
 ジタバタと暴れれば暴れるほどルーミィにトリモチがくっ付いていく。
「いやあああああ!!!」
 遂にトリモチ風船はルーミィを悲鳴ごとルーミィを飲み込んでしまった。
 だが、それでも膨張は止まらなかった。


 
 そして限界まで膨張したトリモチ風船は──

 バァアアアアーーーーン!

──と大きな音を立て割れた。


 あたり一面を黄色く染め、立ち込めるガスの中でフラフラと動く姿があった。
 風船に取り込まれたルーミィ。
 そしてスカンク猿だった。

「うへへへへ〜〜っ」
 怪しい笑みと浮かべながら、涙を流すルーミィ。
 密閉空間で嗅がされたオナラで人格崩壊寸前である。
 濃密な臭さは脳髄の奥まで染み込む厳しさだったのだろう。
 自らの臭いにやられたスカンク猿は、白目をむいてピクピクと痙攣を起こしていた。
 ルーミィは暫くフラフラと歩いた後、ばったりと倒れてしまった。






「……うーん?」
 ルーミィが目を覚ました時には、どっぷりと陽が暮れ。
 空には綺麗な星が、輝いていた。
 スカンク猿の姿は何処にもなく、残ったのはロープと臭いトリモチだけである。
「あうぅ……また負けちゃった」
 激しく落ち込むルーミィであった──。





<了>



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【3861 / ルーミィ / 女 / 13歳 / 冒険者】