<東京怪談ノベル(シングル)>
●Cocatris
冒険者ギルドからの紹介で行方不明者保護の依頼を請けたレギーナ(3856)は、依頼元である郊外の村にやってきた。
レギーナは、宿屋に荷物を預けに言った際、耳にした話の是非を確認する為に保護対象者2人の父親である村長の家を訪れていた。
レギーナが、宿屋で聞いた話によれば最近、村の周辺でコカトリスの仕業と思われる石化現象が多数確認されているという。
「コカトリスがいるっていう話しは、聞いていなかったよ。本当なら一体、何が起こっているか詳しい話を教えて」
レギーナにとってコカトリスの石化は対した問題ではないが、些細なことでも保護の障害になる隠し事は困るのだ。
コカトリスに関しては、近々、退治の為に冒険者ギルドに依頼を出す予定で、退治が済むまで村人達には山に入るのを禁止していたのだと答える村長。
「行方不明の娘さん達2人に家出をする理由がないなら、言いつけを守らず山に入ってコカトリスに遭遇。石化して帰れなくなっている可能性が高くなるよ」
レギーナが、石化解除の薬は村にあるのかと問うと村にはなく、コカトリス退治依頼をギルドに出す際、町で買う予定だったと村長は答えた。
「全てが後手……余り状況は良くないね」
レギーナは、幾つか村長から娘達の行きそうな所等を確認すると早速出かける準備を始める為、宿屋に戻っていった。
***
シンプルなブラウスとキュロットスカートに着替え、リュックを担いで村を出たレギーナ。
山迄への道に変化は見つけられなかったが、山に入ってすぐ風景が一変した。
シン──と静まり返った山に生き物の気配がしないのだ。
(動物達が、コカトリスを恐れて逃げたのかしら……)
何れにしろコカトリスが、山の麓。村の近くまで来ているという事になる。
(コカトリスと遭遇しなかったらお節介かもしれないけど急いで依頼を出したほうが良いって教えてあげよう)
コツン。
レギーナは、足に当たったものを見る。
飛ぶ姿のまま石化した小鳥だった。
揺れる草に止まるトンボ、白く石化した木、
耳を緊張させ警戒するウサギ、逃げようとする鹿。
道に生える草花まで石化していた。
コカトリスが通った後が、石化した道を作っていた。
(これなら早く発見できそうかな?)
レギーナは、石化した道を登り始めた。
***
道を奥へと進むレギーナは、程なく2人を見つけた。
石化した娘達は、手を繋いだままの姿で横倒しになっているなっていた。
後ろを振り返り、目を見開いた驚愕の表情を浮かべる姉。
姉に手を引っ張られ、転びかけ靴が片方脱げかけたままの泣き顔の妹。
足元に転がる籠から零れ落ちた摘んだ花。
揺らぐお下げにリボン。
風に翻るスカートもそのまま、
二人は身の上に何が起こったか判らないまま石化したのだろう。
よっこいしょと2人を起こすレギーナ。
「どうしようかな?」
娘達は互いの手をしっかりと握っており、それぞれ別々に運ぶのは不可能である。
「山道を降りるのに二人同時に担ぐのは、大きすぎるし、重すぎるのよね」
かといって二人は既に横倒しになったはずみにスカートの裾や袖が砕けて、あちこちボロボロの状態である。
引きずって運べば村に着くまでに更に割れてボロボロになってしまうだろう。
「重たい荷物を運ぶなら馬車とか橇。他の人を呼んで人海戦術?……どっちにしても割れないように梱包財が必要かな?」
──パキ。
────パキパキ、パキ。
悩むレギーナの思考を中断する大きな音と共に木をなぎ倒してコカトリスが突進してきた。
『ギョエーーー!』
「出たわね。元凶」
ぱっと横に飛びのくレギーナの側をコカトリスが通り過ぎていく。
コカトリスの呪いの石化は、元凶である本体を倒しても解除できない。
だが猪突猛進ならぬ鳥頭で所構わず石化させ、暴れまくる危険なこの生き物をこのままにしておけば二人を壊しかねない。
「やっぱり先に退治よね。仕方がないから遊んであげる。お馬鹿さん」
『ギョエーーーーーー!』
言葉が理解できなくともバカにされたと察したのだろう。
木々を突っついていたコカトリスは、奇声をあげレギーナに向かって突進してきた。
息や体に触れば石化するコカトリスである。
レギーナは、距離をとって鋼糸を振るう。
鋼糸がコカトリスの体にを切り裂き触れた瞬間、ぱっと鋼糸から手を放すレギーナ。
コカトリスがお返しとばかりに息をレギーナに向かって放つ。
レギーナが、避けようとした先に娘達がいた。
レギーナがぶつかれば娘達が割れてしまうかもしれない。
一瞬、足を止めたレギーナに息が直撃した。
仕舞ったとレギーナが思った瞬間、体は石化していた。
だが、念には念をなのか、コカトリスは、強敵とみなしたレギーナに息を何度も繰り返し吹き付ける。
そして満足したのか、動かないレギーナにコカトリスが、ゆっくりと近づいてきた。
じろじろと眺め、嘴で体のあちこちをつっついたりしてが、レギーナはぴくりとも動かない。
石化して(死んで)いるのを確認したコカトリスは、敵を倒したと安心したのかくるりとレギーナに背を向け、新たな獲物を探す為、歩き出そうとした。
「残念でした」
後ろからの声にコカトリスの足が止まる。
逃げるフリをしながらレギーナが敷いた鋼糸の陣の中にコカトリスはいた。
鋼糸が、コカトリスの全身に絡みつく。
「わたしは、陶器製の人形だから石化しても動けるの」
くん──レギーナが指先にほんの少しだけ力を入れただけだった。
一瞬でコカトリスは、バラバラになった。
***
「酷い目にあった……」
パタパタと砕けた服の破片を振り払うレギーナ。
綿やシルク。元々生き物からできた服やリボンは、石化の影響を受けていた。
服を着替えていくレギーナ。
「このリボン結構気に入っていたんだけど……でも頭や顔を突っつかれなくって良かったわ。
自分の顔を修理するのって、やったことがないから私情が入らず冷静にできるか自身がないもの。
でも町にいる間にコカトリスの話を聞いていれば石化解除の薬をあらかじめ用意できたのに。
全くギルドの職員って最近、手抜きなのかしら」
珍しく饒舌なレギーナ。
レギーナの自慢の髪は、歳を経ても艶も手触りも衰えぬ最高級の100%人毛である。
石化が解除できないので気持ちも頭も、重く。愚痴でも言わなければやっていられなかった。
「まあ、これ以上、文句を言っても仕方がないわ」
村に戻り、娘達を運ぶ人手を呼ぶ為、天使に変身をするレギーナ。
──だが、
「やっぱり……」
思わずがっくりするレギーナ。
何時もであれば天使に変身すれば生身の人間と変わらぬ姿になれるが、石化の影響は取れきれず髪はごわごわ、柔らかくなるはずの体は茹で時間が短く芯が残ったパスタのように硬い。
「誰かが言っていたっけ、家に帰るまでが仕事だよって。こんな仕事さっさと終わらせて、早く町に戻って石化解除の薬買いに行こう……」
任務完了まで後もう少しだが、ちっとも心が晴れぬレギーナだった。
<了>
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【3856 / レギーナ / 女 / 13歳 / 冒険者】
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