<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


―― 女の子の憧れ、花嫁体験 ――

「……どうしようかな」
 アリサ・シルヴァンティエが神官を務める教会では、ウェディングドレスの試着イベントが行われている。
 その前をエスメラルダ・ポローニオは興味深そうにウロウロとしており、他の人が見ていたなら、酷く怪しい様子だっただろう。
 彼女はウェディングドレスの試着には興味津々らしいが、やっぱり恥ずかしいという気持ちの方が強いらしく、堂々と試着イベントに赴く事が出来ない。
 今までも何度か教会まで足を運んでは恥ずかしくて家に戻る、というのを繰り返している。
「こんにちは、外から見ていないで中に入ってみたらどうですか?」
 教会の中から、エスメラルダがウロウロとしているのを見かけたアリサはにっこりと穏やかな笑みを浮かべて彼女に話しかける。
「……ッ!?」
 自分の考えでいっぱいだったエスメラルダはアリサが近づいてきた事にも気づかず、声を掛けられると同時にビクッと肩を大きく震わせた。
「今日はお客さんもいませんし、ゆっくりとウェディングドレスを見られると思いますよ」
「べ、別にあたしはウェディングドレスに興味なんか……」
 アリサに話しかけられ、エスメラルダは照れながらも頬を赤らめて言葉を返す。
 その態度や口調は『ドレスが気になって仕方ない』という風に見えて、アリサは頬を緩めながら、微笑ましそうにエスメラルダを見つめる。
「……けど、その、こういうイベントって相手がいる人限定でしょ? あたしは、別にそういう相手とかいないし……イベントでもウェディングドレスを着る資格なんて――」
「ウェディングドレスは女性の憧れですし、着たいと思ってもおかしくありませんよ? 確かにカップルのお客さんは多いですけど、こういう機会に興味のあったウェディングドレスを着に来られる人も少なくはありませんし」
 アリサの言葉に、帰ろうと思っていたエスメラルダの心がぐらぐらと揺れ始める。
「エスメラルダさんが、どうしても嫌だと言うならお引き留めしませんが……もし、そうでないなら少しでも着てみませんか? 私も多くの人にドレスを着てもらいたいと思って、こういうイベントを開催しているんですから」
 まるで背中を押すようなアリサの言葉に、エスメラルダは少し考えた後「……うん」と頷いた後、アリサの後を追って教会の中へ入って行った。

※※※

「鏡で確認をしながらドレスとか選びます? 結構品揃えはある方だと思いますけど……」
「あ、ううん。どうせならメイクとか全部してから自分の姿は見たいな」
 エスメラルダは照れながら答える。
 確認しながら選ぶというのも楽しそうだけど、エスメラルダ的には最後までドキドキを取っておきたいのだろう。
「分かりました、それでは幾つかウェディングドレスを持ってきますので、好きなドレスを選んでくださいね」
 アリサは優しく微笑んだ後、衣裳部屋へと消えていく。
「……わぁ、綺麗……」
 アリサが衣裳部屋に向かった後、エスメラルダは並べられているティアラを見つめ、感嘆のため息を零しながら呟いた。
 ライトを浴びてきらきらと輝く宝石、運命の人に選ばれた人のみがこれを被り、バージンロードを歩くのだと思うと、エスメラルダはわくわくした気持ちが込み上げてきた。
「わ、男性用のタキシードもあるんだ……」
 近くのマネキンが着ているタキシードを見つめ、いつか自分もこのタキシードを着た誰かの隣に並べる日が来るのかな、と思うと自然と頬が赤らんでいく。
「お待たせしました、エスメラルダさんにはこういうプリンセスラインのドレスも似合うと思うんですが、どうでしょう?」
 アリサが持って来たウェディングドレスを見つめながら、エスメラルダは照れたような表情を見せた。
「けど、こんな可愛いドレスが本当にあたしに似合うかな……?」
「もちろんですよ、エスメラルダさんはスタイルも良いですし」
 エスメラルダの不安をかき消すように、アリサはにっこりと微笑む。
「メイクとかもしてもらえるの?」
「ええ、ウェディングドレスに合ったアクセサリーもお見立てしますよ。折角ですから、髪も整えて本格的にしましょうか」
 アリサはエスメラルダを別室に案内して、髪を整え始める。
(どんな風になるんだろう、あたしも他の女の子みたいに綺麗になれるのかな?)
 今まで体験した事がないせいか、エスメラルダの心の中にある緊張は計り知れず、ここまで緊張したのは初めてと言っても過言ではない程だった。
 エスメラルダの髪を整えながら、その緊張が分かるため、アリサは小さく微笑む。
(でも、プリンセスラインのウェディングドレスなんて可愛すぎるかな……?)
 子供の頃に憧れたお姫様のようなドレスに心が沸き立つけど、果たして本当に似合うのかどうかという不安もエスメラルダの心に残る。
「髪の毛のセットは終わりました、これからメイクをしますので目を閉じてもらえますか」
 アリサの言葉に、エスメラルダは促されるまま目を閉じ、頬を滑るブラシの感覚に緊張で身体を震わせていた。

※※※

 メイクなども終わり、いよいよエスメラルダが自分の姿を確認する時がやってきた。
「ふふ、とても可愛いですよ」
 アリサはにっこりと微笑みながら、エスメラルダの前に鏡を置く。
「……っ」
 エスメラルダは鏡に映る自分の姿を見て、言葉を失う。
 綺麗にまとめられた髪、いつもと違うメイク、ウェディングドレスを際立たせるように煌めくアクセサリーの数々、そして頭の上に置かれたティアラ。
「ちょ、ちょっと可愛すぎるんじゃないかな……? あたしに、似合ってる?」
 エスメラルダは不安そうにアリサに問い掛けると「もちろんです」と勢いよく頷いて答えた。
 彼女は自覚こそないみたいだけど、磨けば光るタイプの女性であり、綺麗と言うより可愛らしいといった言葉の方が似合う。
「その姿、絵姿にしてプレゼントさせて頂きますね」
 魔法の絵筆が既にエスメラルダの絵を描き始めており、それを見て「えっ、べ、別にそんなのはいらないって」と照れたように顔を真っ赤に染めている。
 けど、それは照れ隠しであり、エスメラルダが心から不要だと思っていないことに、長い付き合いのアリサだけは分かった。
(最初はどうしようかって思ってたけど、やっぱり試着イベントに来て良かったな……)
 心からそう思うエスメラルダは、心の中でアリサに対して感謝の言葉を述べたのだった。


――登場人物――

3831/エスメラルダ・ポローニオ/20歳/女性/冒険商人
3826/アリサ・シルヴァンティエ/24歳(実年齢48歳)/女性/異界職

――――――――

エスメラルダ様
アリサ様

こんにちは、今回はシチュノベツインのご発注をありがとうございました。
ギリギリの納品になってしまい、申し訳ございません。
内容の方はいかがだったでしょうか?
気に入って頂ける内容に仕上がっていることを心から祈っております。

それでは、また機会がありましたらご発注お待ちしております。
今回は書かせて頂き、ありがとうございました!

2014/9/19