<東京怪談ノベル(シングル)>
Escort der Quotient Corps
●Die regen bewolkt
(ついていない……気がつかなかったけど朝、猫が顔を洗っていたのかな?)
久しぶりに商隊の護衛の仕事を請けたレギーナ(3856)は、今にも泣き出しそうな空を覆い厚く垂れ込めた雲を恨めしそうに眺めて呟いた。
少なくもと商隊の選択自体は、間違っていなかったはずである──。
選んだ商隊自体は、詮索好きがいなさそうな、大きすぎも小さすぎもしない小さな商店や行商人らが寄り集まった商隊であった。
馬車2台と馬1頭、ロバ2頭。歩きの行商人1名。
街道沿いに出るという山賊対策の警備に雇われた冒険者は、レギーナを含め6人と適当であった。
おしゃべりも人間も嫌いではないが、好奇心旺盛で一度興味を持つと色々詮索したりと面倒な人間がいる事も、
人間を長く見つめてきたレギーナは良く知っていた。
そんなレギーナが読み間違えたとしたならば、この天気である。
(仕方がないな)
ガサガサと背負ったリュックから雨合羽と帽子を取り出すと、溜息交じりで着込むレギーナ。
陶製の肌は雨を通さないが、関節の部分から雨が入り込み身体を繋ぐ大事なパーツを錆びさせないとは限らない。
ごわごわとする雨具は、レギーナの素早さ奪うが然程ではない。
雨具を優先するに越したことがないだろう。
レギーナが雨避け装備をフル着用完了を待っていたかのように、雨が降り出した。
●Troupe der Gaukler
山道に差し掛かったところで一行は、立ち往生している旅芸人の一座に遭遇した。
商隊を狙った山賊が偽装したのかと一瞬、レギーナ達、護衛は武器に手をかけたが、一座には幼子も複数いたので、それもなかろうとすぐに警戒を解いた。
先頭を勤めるレギーナが近づき、詳しい話を聞くと、泥濘に荷車の車輪が嵌ったはずみに車軸が折れてしまったのだという。
隣町まで一緒に連れて行ってくれないかという座長。
「なぁに。荷車の荷を乗せてくれって言うんじゃないんですよ」
荷は衣装ばかりで買い直しが効くが、振り出した雨で子供らに風邪を引かせたくないのだという。
「子供達だけ馬車に乗せていただけないですかね?」
どうしたものかとレギーナ達、護衛達は、顔を見合わせた。
とりあえず自分達だけは判断できないとレギーナ達は、座長を後ろに待たせていた商人達のところに連れて行った。
商人達もレギーナ達と同様に顔を見合わせたが、商人の一人が座長の顔を覚えていた。
何時の時代でも子供は、世の宝である。
「そういう事なら仕方がない」と商人達は、一座の同行を許可した。
「ちょっと待ってください」
これに難色を示したのは、護衛の一人である。
子供を含めて守るべき対象が、一気に倍に増えてはたまらない。
「その点は、自分達で身を守れると思いますから心配しなくていいですよ」
旅芸人の一座には音楽や歌を見せる芸人もいるが、ナイフ投げや居合い斬りを見せる芸人もいて山賊程度ならば自分達で切り抜けてきたのだという。
確かに少しでも考える力がある敵ならば、自分達が返り討ちに合うのを嫌がり襲ってきてもすぐに引き上げるだろう。
「一座の荷車は、このままじゃ馬車の通行の邪魔だから谷に落とさなきゃいけないし、その位はお互い様じゃない?」
「そういう事なら特に反対する理由がないか……」
レギーナの一言が決め手になって旅芸人の一座が商隊に加わったのだった。
●Ich will nicht, um Besucher einladen
「もうすぐ雨が止むよ」
レギーナの側ではしゃいでいた一座の子供達が、どんよりとした空を指差していった。
「どうしてそんな事が判るの?」
「だって小鳥が鳴いているもん」
「「ねーっ♪」」
子供達は顔を見合わせるとキャアキャア言いながら、後ろを歩く親達のところに走っていった。
子供達がいうように暫くして雨は上がったが、厚い雲はそのままだった。
予定より遅れが出ていた商隊が野営場所を決めたのは、かなり陽が傾いてからだった。
枯れ枝を捜し、火をおこして食事が出来上がった頃には、陽もとっぷり暮れていた。
一同が食事をする中、一座の楽師と踊り子が火の前に進み出てきた。
「本日のお礼と言っては何ですが、我々の芸をお楽しみください」
恭しく礼をするとシタールと笛の音楽に合わせて踊り子が踊りを披露した。
それをきっかけに芸人達が次々に芸を披露し、楽しい夕餉になった。
明日も早いというのに人々が眠りについたのは、月が空の真上に差し掛かる頃だった。
火を囲むように眠る者や木の下、馬車の荷台で眠る者。
それぞれが好みの場所で眠りについた。
レギーナ達、護衛は交代で休憩を取り、火を絶やさぬよう番を続けていた。
──その音は昼間であれば気が付かない程、遠く小さな音だった。
それ故、レギーナもパチパチと爆ぜる薪の音に気が付くのが遅れてしまったが、
フクロウが声を潜め、周囲の虫が鳴き止んでいた。
レギーナは、素早く行動した。
寝ている護衛達を起こすと同時に鋼糸を周囲に張わせるレギーナ。
程なくゆっくりとした歩みのモノが南から近づいてくるのが判った。
急いでレギーナ達は、寝ている商人達を起こしていった。
火を背にに商人達と子供達。戦える芸人達。
そしてレギーナ達護衛が一番前に陣を取る。
待ち受ける一行の前にヨロけるようにふらつき乍ら森の闇から這い出てきたのは、ゾンビ群れだった。
子供達の悲鳴をきっかけにゾンビ達は一斉に襲い掛かってきた。
腐り落ちた服装から件の山賊達の成れの果てだろう。
「ネクロマンサーかなんか襲って返り討ちにあったのかもしれないけど迷惑な話ね」
弓使いがゾンビを近づけまいと矢を放ち、レギーナの鋼糸がゾンビを絡めとり、戦士が剣で止めを刺していく。
だが、敵の数は多く。芸人達の協力があっても簡単には数が減らせないでいた。
「こいつら、朝になったら活動を停止するタイプかな? 一日中動くタイプかな?」
「どっちでも関係ないよ。全滅させればいいんだもの」
帰りも同じ道を通るのだ。
先に倒しておけば帰りは楽である。
「仕方がないね」
鋼糸とナイフでの攻撃を早々に諦めたレギーナ。
適当な木を地面から引き抜くと棒のようにブンブンと振り回し、ゾンビ達を次々となぎ倒し、時には叩き潰していった。
「凄いわね、彼女」
「こっちも負けてられないな」
レギーナの活躍に当てられ他の護衛達もゾンビ退治に力が入る。
結局、明け方近くまで掛かったが、ゾンビを全て退治したレギーナ達。
だがレギーナ以外の全員が、寝不足である。
このまま出発すれば途中で倒れてしまうだろう。
襲ってこないゾンビは、只の遺体である。
臭すぎて眠れないかもしれないが旅では寝るのも仕事であり、死体の隣に寝れないなど柔な神経をした者はいなかった。
一行は仮眠と食事を取った後、全員で山賊の遺体を埋葬し、予定よりだいぶ遅れてその場を出発した。
峠を越えると眼下に目的の町が、見えてきた。
さあ、もうひと分張りだ──。
<了>
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【3856 / レギーナ / 女 / 13歳 / 冒険者】
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