<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>
【炎舞ノ抄 -抄ノ肆-】彼方の嵐
聖都の義兄に、会いに行く旅程での事だった。
…何故か、どうにも嫌な予感がして仕方が無かった。戦に征く訳でもないのに、先へ進めば進む程、嫌な予感は増した。これはいったい何なんだと思う。思いながらも、俺は歩いている。
じき、いつも小休止の為に立ち寄る集落へと到着する。
の、だが。
向かう先、漸く俺の視界に入って来た当の集落で、常ならぬ事態が起きている事に気が付いた。
煮炊きのものとは到底思えない煙が、あちこちから上がっているのが見える。
建物の合間から、不意に、やけに黒っぽく荒々しい炎…のようなものが立ち上ったのすら、見えた気がした。
嫌な予感が、膨れ上がった。何であれ、常ならぬ事態が起きている事だけは言える。
もし、助けが必要な状況であるなら――とまず頭に浮かんだ。
放ってはおけない。
…行かない、と言う選択肢はない。
■
細心の注意を払いつつ、集落へと急ぎ駆け付ける。…外との境近く、倒れ伏している者が一人居た。すぐに駆け寄り、助け起こそうとするが――既に絶命している事に気が付き、途中で止めた。…まだ「状況」は終わっていない――そう判断出来たから、今は弔う方を優先させる事は出来ない。
何が起きている。それを確かめなければ次に何をすべきかの判断も出来ない――間近にある情報源の一つとして、今助け起こそうとしたこの人物の様子を確かめさせて貰う。凄まじい火傷――だけではなく、皮一枚だけで繋がっている程の深い刀傷。斬られている――それも、その切り傷自体が、酷く焼け爛れているようでもあって。
…何だ、この傷は。
思う間にも、おお、と消え入るようなおめく声が聞こえた。然程離れていない場所、歳経た者の声。見ればそこに居たのはこの集落に居た古老だった。その古老は今俺が助け起こそうとした者を見ている…家族か何かだったのかもしれない。捜して捜して、今、やっと見付けたところだったのかもしれない。縋り付こうとでも言うのか、こちらに手を伸ばしつつ――覚束ない足取りでよろよろと近付いて来る。
その最中、当然のように俺の姿も視界に入った、のだろう。
「っ…! …心語殿か…!」
「…いったい、何があった」
「わからぬ…ただ、燃え立つ炎めいた異様な人影が…」
集落の中に不意に降り立ったかと思うたら――後は何が起きたのかとんとわからぬのじゃ。
ただ、瞬きの一つもせぬ内に、辺りがぞっとするような寒気を伴う異様な熱に包まれた。その人影を中心に、燃え盛る黒い炎が見えた。その炎が…集落の建物あちこちに飛び火し、辺りを焼いていた。
その中で、何か鋭く細い光が幾つも弧を描いていたようにも思える。
…気が付いた時には、あちこちが焼け焦げた破壊の痕と、赤に塗れ倒れ伏しぴくりとも動かぬ民たちの姿が山とあった。
古老は、ただ己の感じた、見た事柄を――そう俺に伝えて来る。まだ、困惑と、皮膚感覚から来る理屈抜きの恐怖、以上の感情が殆ど伴っていない――起きている事に、感情が追い付いていないのかもしれない。
じき、感情が追い付いたなら――この集落は嘆きと悲しみに包まれる。
燃え立つ炎めいた異様な人影。
…そう言われた時点で、俺の頭の中、何処かで何かが引っ掛かった。今自分が目の当たりにしている集落の惨状…その情報と、今の古老の言葉。…それで、何が引っ掛かった?
自問する間にも、到底無視出来ない異様な気配がこちらにゆっくりと近付いて来ているのにすぐ気が付いた。まだ、幾分距離はある位置関係。俺の側から見て、古老の後ろ。ゆらりとゆらめく炎のような、その気配。黒…と言うよりやや茶褐色を帯びた、大地のような色とでも言うべきか。色としては炎らしくない――その気配を纏うようにして、着物姿――袴姿のまだ年若い男…らしい者が居た。片手には血刀をぶら下げている――未だ、その切っ先から赤黒い滴が地に滴っている。その時点でこいつだ、と確信した。…この集落に起きている事態の元凶。見た時点で、否、気配を感じた時点で――俺の頭の中では最大級の危険信号がうるさいくらいに鳴り響いている。そんな頭の隅で、男の風体そのものにもまた引っ掛かるものがあった――が。
…今は、そんな悠長に考えている場合ではない!
動いていたのは殆ど反射の領域でだった。古老の背後、その荒ぶる土色の炎の化身が、不意に古老に目の焦点を合わせていたのに気付いた。この男、基本の形としての姿は人間だったが――その感情の見えない視線自体が、もう人間の範疇から振り切れているとしか感じられなかった。
そんな目で古老を見た男が、浅く身を沈ませた、気がした――次に動く為の予備動作に見えた。ごく軽い所作だったが――それだけで、背筋がぞっと冷えた気がした。理屈じゃない。ただ、このまま何もせず放っておいたら駄目だ、と思った。…放っておけば、次の瞬間に古老が殺される。
だから、そうなる前に。
俺はその男の顔面を狙って【気弾】を撃ち放ち、古老から自分へと注意を引き付ける事を狙った。…自分の感覚に従った。「気」を操って作り出した不可視の弾丸。正直、消耗が激しい技になるが、今はそんな事を気にしている場合ではない――使うなら、今。古老を守るには――俺が俺の力量で今出来る事をするにはこの一手しかない。自分の感覚がそう言っていた。その時にはもう、この炎のような異様な気配を持つ男の「何」が、自分の頭の中で引っ掛かっていたかにも辿り着いている。
――――――以前話に聞いた『獄炎の魔性』。
それが、これか――と頭より感覚の方で先に気が付いていた、のだろう。確証は何もないが、聞いていた情報と合致する部分が多い。…確かにこれは相当だ。俺如きが何をしても無駄な気しかしない。生半な力量ではもうどうしようもない――それでも、ここまで来てしまってはただ逃げると言う選択肢は取れない。…己の力量は弁えている。だが…まあ、いい。いつかは俺も誰かに倒される…それだけの事だ。
ともかく、古老と集落からこの男を引き離すのが先。そう考えての――いや、考えたと言うより勝手に身体が動いていた、と言う方が近いかもしれないか。それで俺は問答無用で叩き付けるように男の顔面へと【気弾】を撃っていた。一瞬でもいい。視力を奪えるか――目眩ましになるかとも期待した。…同時に、効果の有無すら疑いを持ちもした。だが少なくとも、この一手で古老より俺の方に注意を引ける事だけは言えるだろう。今のような真似をされれば、誰がどう考えても俺の方を先に邪魔と思う筈。
一瞬でも何でも、男が止まったか――僅かでも態勢が崩れたかどうかはまだわからない。確かめるより己の態勢を整える方が先。そう考え、ひとまず防御の為に【鎧気】を用いて気を全身に纏い、古老や男から離れる形に――集落からも離れる形に一気に飛び退り、腰を落として構えた。男から視線は外さない――外せるような余裕はない。そしてそれでもまだ不安は残る。すぐさま【鏡気】や【吸気】――更には奥の手とも言える【爆闘気】をも使えるようにと心の準備はしているのだが、それでも、まだ。
構えつつ、背に負っていた愛剣「まほら」を一気に引き抜く。引き抜き、すぐさま攻撃――と言うより今の場合は防御――に出られる形に構えられたかどうかと言う時点で、男の姿は殆どコマ落としの速度で俺の真正面にまで肉迫していた。男から目を離してなどいなかった筈なのに、そこに至るまでの間が追い切れなかった。その時点で力量の差をひしひしと感じる。異様に低い位置、そこから俺を横薙ぎに両断する勢いで振るわれた血刀の刃を、引き抜いたまほらの剣身で受け止められたのが奇跡の気さえした。
否。
奇跡はそれだけではない。受け止めたその衝撃で、男の持つ血刀の刃があっさりと折れ飛んでしまった事こそが――本当の奇跡だったかもしれない。まほらは俺の背丈程もある、長さのみならず幅も厚みもある大剣。対して男の武装は片手剣と見紛うような細身の刀だった。幾らその刀が粘り強い鋼で出来ているものだとは言え、まほら相手では勢いや当たりどころによっては折れる可能性もあるだろう――彼我の得物の質量差からして、単純に物理的な問題だったのかとは思う。
初手から相手の武装が壊せた事は大きい――だが。それでも危険が去った気は全くしない。男の刀は殆ど柄に近い部分から刃が折れてしまっている。…にも拘わらず、相手の脅威が減じたとは到底思えなかった。
思えた通りに、刀が折れた事すら意に介さず、男はすぐさま動いている。次の一手――男は既に折れた刀の柄から手を離していた。次の一手は徒手だった。否…徒手ではないのか。その纏う獄炎自体が、俺の扱う「気」同様、ある意味で魔法的な攻防力を持っているのかもしれない。自分の攻撃を邪魔したまほらの刃を直接掴みに来ている――そう気付いたのは、一拍遅かった。気付いた時には掴まれている――酷く無造作にまほらの刃が掴まれたかと思うと、そのまま横に押し退ける形で凄まじい力を感じた。その動作をする事自体で掌が傷付き赤が飛沫いているのにも、構う気配が全くない。むしろ、通常の手合わせではまず起きないだろう方向からの質の違う力が掛かり、俺の方の態勢が崩れ掛けた。
やはり無理かと直感し、まほらが押し退けられる事を覚悟して【爆闘気】をも重ねて発動。一瞬にして全身に気を巡らせ、爆発的に身体能力全てと攻撃力を上げる。それで崩れ掛けた態勢を無理矢理戻しつつ、至近距離で再び男に【気弾】をぶつけた。…今ある余力で――ここから暫く相手と切り結ぶ為の余力も鑑み、ぎりぎり操り切れるだろう範疇での最大規模の【気弾】を。それから押し退けられたまほらを手許に引き戻しつつ、再び後方に下がる形で一気に離脱。するが、ほんの一拍の間の後、男は当然のように俺をまた追って来た。…【気弾】も大して効いた様子はない――が、今のでごくごく僅かな間ながら虚を衝く事は出来たらしい。男の興味を古老や集落から逸らし、俺だけに向ける事も、どうやら叶った。
その事実に、ほっとする。…古老や集落からこの男を引き離す、と言うこちらの目的は果たせた。後はこの一撃離脱の繰り返しで俺がどれだけ保つかが問題――大して保たない内にやられてしまっては、この男はまたすぐに集落へと舞い戻ってしまうかもしれない。…再び古老を狙うやも。そうなってしまってはわざわざ自分が出た意味がない。…敵わぬまでも、ある程度粘る必要がある。
殆ど時差なく、再び躍り掛かって来る男の姿。躍り掛かるその勢いと重量に乗る形で、諸共に貫手が撃ち込まれる――貫手であっても容易く人体を貫くだけの威力はあるとしか見えなかった。咄嗟に【鏡気】で受ける――ダメージをそのまま相手に跳ね返す「気」の防御壁を張る。その筈だったが――次の瞬間には、肩口が掠る程度だけ持って行かれていた。それだけでも只事ではない圧と衝撃が来る。…【鎧気】を纏っていた筈なのに。食らってしまった命中点に肉が焼き削られた灼熱が走る。俄かに力が入らない――腕が動かない。
【鏡気】が効かなかったのか――? 反射的にそう思うが、すぐに違うとも気が付いていた。今俺に当たっていたのは、二撃目。一撃目は【鏡気】の能力通りに、男自身に跳ね返っている。にも拘らず、直後にすぐさま別の攻撃が繰り出されていた…と言う事だろう。それも【鎧気】を貫く威力の攻撃が。…【鏡気】では一度しか跳ね返せない。男は、恐らくは今の一撃目は捨てていた。どんな方法でかわからずとも止められるなり躱されるなり、潰されると見ていたのだろう――否、そこまで考えてもいないかもしれない。己など顧みず、ただ闇雲に邪魔をした俺を獲ろうとしているだけだったのかもしれない。
ともかく、【鏡気】が有効だったその証拠に、男のこめかみ辺りから血が噴いている――跳ね返ったダメージは恐らくそこに行ったのだろう。それでも男は気にした様子がない。黒血の如き男の目の色には全く動揺が見えない。強いて言うなら、何か、不思議そうな色。…今、何がどうなって己のこめかみ辺りが傷付く事になったのかをただ素朴な疑問として抱いているような。そんな目で、茫洋と瞳を揺らめかせたかと思うと、俺を見ている――動きも、俄かに止まっている。
その間に俺はまた、飛び退った。
殆ど本能的に次の一手の為に態勢を整えつつも、今なら話をする間もあるかと思った…のかもしれない。
男の目を見返す。
「…夜霧慎十郎や蓮聖が捜していた、龍樹か」
名を出し、端的に尋ねた。
「いつまで慎十郎の手を汚させる積りか」
愛剣を引く事はしない。ただそれでもこちらからは仕掛けない。
細心の注意を払って、様子を窺う。
何か、変化は。
「…聞こえているか」
確かめた時点で、ふっと男の表情が和らいだ、気がした。…何処か、何かを諦めたようにも見える、貌。
届いている。
そう、思った。
…ならば、もう一つ。
伝えておきたい事がある。
「秋白、を承知しているな」
男が目を、眇めた。
「…義兄は何があろうと秋白を信じている、何をする積りかは知らないし口を出す積りもないが、あまり義兄を悲しませてくれるな」
獄炎の魔性が現れる先に、秋白の存在がちらつくと言う慎十郎の言葉。…この事もまた俺は思い出していた。ならば…これもどうしても伝えておきたい事になる。
自身の大切な存在が気に懸け、信じている者の事。どういう関係の何であるのかは知らないが、この男と秋白、両者の間に剣呑なものがある事だけは、どうやら確実で。
だからこそ、機会が得られたなら、どう思われようとこのくらいは言っておかなければと、思った。
…そうしたら。
今の微かな変化が嘘だったように、男の気配が元に戻っている――それどころか、いつの間にか男の手に再び刀が握られている――否、柄持つ形に握られたその手の中で、纏う獄炎が凝縮し、元々持っていた刀と全く同じ形に具現した…とでも言った方が正しい様を見せていた。…初めから、「そう」だったのかもしれないとさえ思わせた。
あの折れた刀も、彼の纏う獄炎の産物だったのかもしれない。考えている間にも男はその抜き身の刃を閃かせ、躊躇なく斬り掛かって来る――俺はまたまほらで受けた。刃と刃が噛み合う異音が響く――今度は男の刀も折れない。のみならず、続けて何合も撃ち掛かって来る――【爆闘気】の発動中であるにも拘らず、受けるので精一杯のその仕業。更には少しずつ自分の動きが遅れてしまっている自覚もある。付いていけない――焦りを感じた数合の後、強く激突した鍔迫り合いの至近距離でぼそりと一言、何事か囁かれた気がした。
…かと思ったら、不意にまほらに掛かっていた力がなくなる。瞬間的に、何だかよくわからない――まずい、と思うが、状況がわからないながらもこの「間」はもう致命的だと自覚した。自覚した通りに、横合いから凄まじい衝撃が来る――まほらの剣身に撃ち込まれていた刀が唐突に引かれ、旋回するようにして全く逆方向から刃が撃ち込まれていたのだと気付いたのは、それからだった。男が刀を引いた――受ける為に俺がまほらに籠めていたその力をも利用しての旋回、その勢いを籠めた剣撃。ぶつりと刃が肉に切り込まれる取り返しの付かない感触が側腹に走る――――――
――――――そのまま意識が飛んでしまうまで、然程時は掛からなかった。
■
気が付いた時には、男の姿は消えていた。…そう認識した時点で、古老は…集落の方はどうなった――とまず気になった。が、その当の古老が俺の顔を心配そうに覗き込んでいた事で、その心配が不要とわかってほっとする。…古老は、無事だった。俺は集落から幾分離れた場所――男を引き付けた先の場所で倒れていて、そこにまで古老が来て俺の事を気にしている時点で――既に脅威は去っているのだろうと察する事は出来た。
どうやら俺はちょうど今、古老だけではなく、生き残った集落の者に介抱されようとしていたところ…らしい。
そこで、当の俺が目を覚ました事に、驚かれた。
…俺自身も、何かがおかしいと思った。
何故今、俺は無事でいる?
あの流れで、俺が男にとどめを刺されていないのは何故か。まずおかしいと思ったのはそこ。そして――己の身の軽さもまた、おかしいと思った理由の一つだった。そもそも意識が飛ぶ原因になった――死を覚悟する程致命傷に近い深傷もあった筈。その上に【爆闘気】も使用した――【気弾】どころでなく、寿命すら約一年縮む程の消耗をする技の筈だった。なのに、それ程消耗した気がしない。いつもなら、「ここまで」やれば例え無傷で済もうと事後にはずしりと身体が重く、だるくなる筈なのに。…悪ければ立って歩く事どころか、ただ身体を起こす事すら難しくなる。その筈なのに何故か全くこれまで通りの――戦闘の直後であれば当たり前程度の疲労感と、戦う為に研ぎ澄まし、平時の状態に戻し切れていない感覚の方に勝手に引き摺られるような、淡い高揚感…しか今はない。浅くない傷を負っていた筈なのに、「らしい」痛みも不具合も…どうやら殆どないに等しい。
…それは何故か、を暫し考える。
有り得ない可能性が、浮かんだ。
…戦う中でわかったのだが、「気」と言う呼び名や扱い方ではないにしろ、あの男もあの男なりのやり方で生命力を扱うようだった。元々、俺の――俺の一族の扱う「気」の力は、敵の探索等の為に培った、生命力の感知・干渉能力を応用したものになる。言わば、突き詰めれば俺とあの男は、同じ得物で戦っていた…と言う事になるのかもしれない。
否、あの男の場合は。
むしろ、当人自身が――俺の流儀で言えば、それこそ「気」でその身が形どられているような気さえした。まるで、「存在」ではなく、「現象」だったような。…獄炎の化身である前に、荒れ狂う「気」の化身なのでは、と頭に浮かぶ。浮かんだ通り、俺にしてみればそんな形容が一番しっくり来るように思える存在だった。
元は人間である――と言う事の方を、余程疑いたくなるような。
なのに。
――――――『済まないな、応えられない』。
至近で鍔迫り合う中、それだけを囁かれた気がした。
謝罪。そうは聞こえたが――何処に向いているのかがいまいちわからない言い方でもあり。慎十郎の事か、俺の義兄の事か、それとも手合わせた俺自身の事か。
…何にしても、今、俺は。
戦いで負傷した分だけ、消耗した分だけ――元通りに近い形に、あの男に、回復されていた…としか思えない。
あの男の様子を見る限り、やる、とは到底思えなかったが、出来るか出来ないかで言うなら、出来るだけの力はあの男には充分にあった…と思う。そして今に至る経緯。古老や集落の者の様子。他の誰かが何らかの方法で俺を回復させた可能性はまずない。色々運良く自力で回復出来ていた…とも到底思えない。
いやそもそも、「気」を扱う事での消耗は、真っ当な方法であっさり回復出来るような消耗ではない筈で。
もし、それを為したと言うのなら――それこそあの男が揮ったような、並の理屈が通らぬ強大な力で無ければ、有り得ないだろうと、思う。
思うが。
その結論が正しいとするなら、それこそ訳がわからない。
これだけの事をしておきながら、戦った相手をわざわざ回復させる意味は何だ?
…あの男は…いったい何を考えている?
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登場人物紹介
××××××××
■視点PC
■3434/松浪・心語(まつなみ・しんご)
男/13歳(実年齢24歳)/傭兵
■NPC
■獄炎の魔性(佐々木・龍樹)
■集落の古老
(名前のみ)
■夜霧・慎十郎
■風間・蓮聖
■秋白
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