<聖獣界ソーン・白山羊亭冒険記>
翡翠の追復曲 jade- canon
まるで最初に顔を出した時のように、キョロキョロと中を伺うように入ってきた少年は、ルディアを見つけるなり嬉しそうに微笑んで駆け寄った。
「お姉ちゃん!」
「あら、君はこの前の子ね。声出るようになったのね。良かった」
「うん。お姉ちゃん、飴、ありがとう!」
ぱぁっと顔を輝かせた少年は、先日白山羊亭にやってきて嵐のように去っていった双子の弟――ライムだ。
そういえば、この子はやけにあの双子に大切にされていた気がする。ルディアは首をかしげながら辺りを見回して、またライムに向き直った。
「今日、お兄さん達は一緒じゃないの?」
「えっとね内緒で出てきちゃった。お姉ちゃんにお礼言いたかったの」
てへっと笑ったライムに、ルディアは思わず頭を撫でる。
「ありがとう。でも、内緒は良くないわ」
「うん。分かってる……直ぐ帰るよ」
ライムは肩からかけている鞄の紐をきゅっと握り締める。
「じゃあね」
そう言ってルディアに笑いかけると、白山羊亭からたったとかけていった。
「うーん……」
その背を見送って、ルディアは悩み顔で頬に手を当てる。
「一人で大丈夫かしら……」
内緒ということは、勝手に出てきたということだ。先日のあれは倒されたとはいえ、もう居ないとは言い切れない。
「誰かついて行ってあげて欲しいの」
そう言って、ルディアは白山羊亭の中を見回した。
白山羊亭から出たライムは、双子の兄達と同じように軽く膝を折って体勢を低くする。靴底の下に現れた方陣を蹴れば、一瞬にして空へと飛び上がった。
「ぁっ!!」
何かが突き刺さる痛み。
空中では避けることも出来ず、痛みと共に体勢を崩して落下する。火傷のような痛みに意識が飛びそうになるが、落下する寸前、とっさの方陣で衝撃を和らげ、その場に座り込む。
「ひっ…!!」
涙目で、痛みで感覚さえも薄れ始めた腕を見れば、あの異形と同じ腐食したような黒の腕が、自分の腕を握り締めていた。
「や、やだよ。何これ……!」
肩から外れたような腕だけが、まるで意思でもあるかのように自分を掴んで放さない。
「に、兄ちゃっ」
勝手に出て来て、ごめんなさい。言いつけを守らなくて、ごめんなさい。それでもボクは――
ぎゅっと閉じた瞳に涙が浮かぶ。
「た……」
助けて。と言いかけて、きつく奥歯をかみ締め口を閉じる。
痛い。痛い。痛い。
ああ、もうダメだ――…
ライムの意識はそこで途切れた。
********
ライムが白山羊亭に入ってきた姿を見たキング=オセロットは、ルディアが言うように一人であることを気に留め、カランと氷を鳴らしながらグラスを机に置いた。
ルディアに礼だけ告げてすぐさま出て行った背中を、オセロットと同じテーブルの席についていたアレスディア・ヴォルフリートと千獣は顔を見合わせる。
「む、今のはライム殿……!?」
「……ライム?」
が、千獣ははたと思い出したように席を立つと、風のように白山羊亭の外へ出た。
彼らは今、狙われているはずなのに、なぜ一人で?
「……匂い……ない……?」
キョロキョロと辺りを見回してみても、ライムの姿も匂いもない。
「千獣殿!?」
追いかけるように出てきたアレスディアも、その場で立つ千獣の様子や、今出て行ったばかりのはずのライムの姿が何処にも見えないことに、少し表情を硬くする。
「一度関わった縁だ。私達が追いかけよう」
「ありがとう、オセロットさん」
背中でルディアのお礼の言葉を受け止めながら、オセロットは先に出た二人を追うように白山羊亭を後にした。
「ライムは?」
オセロットの質問に、千獣は首を振る。
「空、から、探してみる……」
「それがいいだろう」
「千獣殿宜しく頼む」
それぞれ頼まれ、千獣は小さく頷くと、翼を広げて空へと飛び上がった。
「では、私は向こうを探してみようと思う」
「了解した。では、私は向こうを見てみよう」
アレスディアとオセロットも、それぞれ分かれて歩き出す。
今ライムがどんな状況であるにしろ、早く見つけたほうがいいという事だけは理解できた。
********
気がついたらライムの姿が見えなかった。
双子はあおぞら荘の中をかけまわし探すも、何処にもライムの姿が無い。
「「何で!?」」
一人で出かけたらダメだと言ったのに。出かけたい時は一緒に行くと言ったのに。
どうして! どうして!!
イラついていてもしょうがない。
双子は、杖を手に駆け出した。
「アッシュ、サック?」
双子は、あおぞら荘を出たところで名前を呼ばれて立ち止まる。声の方向へと視線を向ければ、其処には飛び出してきた双子に多少の驚きの表情を浮かべたサクリファイスが立っていた。
「そんなに急いでどうしたんだ?」
余裕の無い双子の様子に、サクリファイスは首をかしげて問いかける。
「ライムが勝手に出かけやがった!」
「声かけてから行けっつったのに!」
「なっ……!?」
サクリファイスの口から思わず驚愕の声が放たれる。
未だ解決したとは言いがたいのに、ライムが何も告げずにあおぞら荘から姿を消してしまった。
「あいつに道具がなくても疾風の魔術があるのは分かってる」
「けど、俺達みたいに魔術を生業にしてるわけじゃねぇ」
だから、どれだけの力でどれほどの術が行使できるのか、方陣の精度だって其処まで高いものを組めるわけじゃない。咄嗟の場合だろうとも方陣が組めるほど修練を積んでいるわけじゃない。
「ったく」
「何で…」
双子の苛立ちは一向に納まらず、この状況はサクリファイスにとってもあまり好ましいものではない。
「早く見つけよう」
「「勿論だ」」
辺りを見回してみても、行き交う人々はいつもと変わらぬ生活を送っている。混雑しているというほどではないが、人と人の隙間や影に隠れてしまうことが出来るほどの人数はいた。それでも流石にこの中を掻き分けて進むというのは厳しい。
「人ごみの中を探すのは難しいな……私は空から探す」
「頼んだ。オレ達も跳んで探す」
「あいつも同じくらいの機動力持ってるし」
それぞれ頷きあい、サクリファイスは翼を広げて飛び上がる。
「ああそうだ!」
そして、思い出したように地上の双子に向けて、二人は離れ離れにならないよう告げてその場から飛び去った。
********
(物見遊山で出かける子ではないだろう。冒険心からだとしても、知った場所を中心に動くはずだ)
自分を心配して、守ってくれる兄達を無碍にするような、そんな子供には見えなかった。きっと、彼なりに理由はあるのだろうが、それは見つけてから聞けば良い。
それはそうとして、この短時間で姿が見えなくなったとしても、そう遠くない場所に居るはずだ。
オセロットはちらりと表通りの方面を見渡して、視線を戻す。
もし、ライムに何かあった場合、騒ぎになっているだろうし、表通りにはアレスディアが向かっている。幸いなのか、どうなのか、表通りでは騒ぎは起きていない。仮に、あの子の身に何も起きてなかったとしても、彼女が見つけて保護してくれるだろう。
とあれば、自分は、何処かの路地に入り込んだ可能性を考えたほうが良い。
何も無いことを願うばかりだが、それはきっと叶わない願いなのだろうと、どこかで感じている。
「命、か――……」
ふと、ライムが書き出したメモを思い出す。たった3行のそれが、これほどまでに大きな意味を持つなんて。
それに比べて、残念なほどに双子から齎された情報は、自分達で対峙し、手に入れた情報の方が精細だと思えるほど中身が無かった。確かに、彼らが元から異形の正体を知っていたら、白山羊亭に頼むこともせず、自分達で解決を図っていただろう。そうなれば、自分達はきっと何も知らずに、結果だけを告げられたのだ。
あの世界の理と羽根は、深く繋がっているのだろうが、それを証明できるものは何も無い。
「まずは、ライムを見つけないとな」
生活道路と言えるような少し細い路地から、裏道や抜け道と呼ぶに相応しい路地。その全てを見落とさないように、オセロットは眼に力を込めた。
********
オセロットと離れ、アレスディアは表通りを見回す。
思えば、ライムはお世辞にも背が高いとは言えず、むしろ小さいと言っても良い。人ごみの中に隠れてしまったら、その姿を見つけ出すのは余り容易ではないような気がする。
それでも、アレスディアは行き交う人々の邪魔にならないよう軽い駆け足で人の中に割り込み、周囲を見回した。
(居られぬか……)
あの短時間で姿が見えなくなるほど足が速いとは。その機動力だけを思えば、確かに双子の弟だ。だとしたら、地面を歩かず跳んで移動した可能性は十二分にある。
しかし、思考が固まってしまっては、そこにあるモノも見落としてしまう。アレスディアは一通り大通りを駆け抜け、ライムの姿が見えないことを確認すると、そこから脇道である路地へと踏み入った。
表通りと比べて一気に人の往来が減った路地。全く誰も居ないわけではないが、それでも比率からすれば2:8くらいで人が少ない。
民家と民家の間にある袋小路も見落とさないよう、アレスディアは瞳を凝らしながら路地を歩き勧める。
そんなアレスディアの姿を、紅と蒼、二つの双眸が捉えた。
双子は何個目かの屋根の上に降り立ち、路地を駆けるアレスディアの頭に向けて声をかける。
「「なあ、ライム見なかったか!?」」
「アッシュ殿! サック殿!」
白山羊亭で見かけたライムの姿を思い返せば、双子には無言だったことも、こうして探しているだろうことも直ぐに想像がついた。
「こちらも白山羊亭にてお見かけし、探しているところ」
「そっか、世話かけて悪ぃな!」
「見つかったら、教えてくれ!」
「お二方も、お気をつけを!」
地面を歩く自分よりも、機動力の高い双子の方が、早く見つけ出せるだろう。ただ、狙いはライムだと言ってはいたが、油断は禁物である。
早く見つけて安全な場所へ。自然とアレスディアの足取りは速くなっていた。
********
翼を広げて飛び上がった千獣は、あたりを見渡すように眼を凝らすが、目的の人物は見つけられず、微かに眉根を寄せる。
空からでは不便な道や人の影に完全に入ってしまっているのだろうか。
それにしたって、ライムが白山羊亭を出てから、自分が追いかけるまで、1テンポ程度しか違わなかったはずなのに、姿を――匂いさえも――見失ってしまうなんて。
単純に考えれば、地面を歩いて移動したのではなく、あの双子のように飛び上がって移動したのだろうことは、容易に想像がつく。
表通りを探すアレスディアと、路地へと入っていくオセロットの姿を確認して、千獣は高度を少し上げる。少しでも高い場所から見下ろしたほうが、死角は減るはずだ。
飛び上がった先、同じように翼を広げている人物に気がつき、千獣は彼女に近づいた。
「サクリ、ファイス……」
「千獣じゃないか」
何かを探すように下を向いて飛んでいたサクリファイスに、もしかして、同じ目的なのではないかと、千獣は軽く首をかしげて問いかける。
「そうか、白山羊亭に…」
サクリファイスから、双子達もライムを探していることを聞き、早く見つけなければという思いが強くなる。
「早く、見つ、ける……」
お互い頷きあい、別々の方向へと飛び上がる。
何処にいるか分からない存在を探すのだから、同じ方向よりは散らばって探したほうがいい。
千獣は再度高度を上げて飛び上がった。
********
空から探していた千獣は、路地の影で蹲る銀の頭を見止め、その羽ばたきを止める。
きっと、あの頭はライムだ。
近づこうと降下を始めれば、丁度路地を曲がったオセロットと鉢合わせる。
「……ライム、居た!」
「ああ、こちらも確認できた」
千獣の背後、オセロットの視線の先に、ライムの顔が見える。けれど、その瞳は閉じられ、微かだが血の気も失せているようだ。
しかし、注視すべきはライムの表情ではない。
「……あれ、は……?」
気を失っているように見えるのに、その体勢は膝立ちという不自然さ。黒い腕だけの存在が、少年を捕まえ持ち上げている様は、正に異様としか言いようが無く、あの腕が先日の異形の腕だと思わせるにはさほど時間はかからなかった。
ライムが腕に捕われている以上、あまり腕を刺激するような行動を取るのは得策とは言えない。
千獣は、はっと思い出すようにサクリファイスに出会ったことをオセロットに告げる。
「探して、た……」
「彼女は白山羊亭に居なかったのに探しているということは、きっと双子も一緒だな」
双子に何も言わずに出てきただろうことは確定しているため、その方面から探しているだろうことは直ぐに想像がつく。
しかし、対処が先か、報告が先か。
「あの腕の下――…」
赤くただれたように見える皮膚は、あの異形の腕に掴まれている場所から拡がっているように見える。
「化学熱傷か……?」
オセロットが見たてたところ、レベル2〜3程度の火傷のようだが、実際そう見えるだけでの形質の違う怪我かもしれない。
「腕……片方、だけ……?」
じっと腕の出方を見つめていた千獣は、怪訝そうに眉根を寄せてそっと辺りを目配せするように視線を移動させる。
「千獣、アレスディアを呼んできて欲しい」
もし、もう片方の腕がどこかに隠れているのだとしても、ライムがここに居て、腕に捕まっているという情報は共有しておいたほうがいい。
「分かった……」
千獣は翼を広げて飛び上がった。
その頃、表通りの端まで探し終わり、裏路地から来た道を戻るように探していたアレスディアは、同じ状況だったと推測できる双子達と合流していた。
戻る道は同じなため、細い路地などもそれぞれ分担しながら確認しては戻る、を繰り返す。
「マジでどこ行っちまったんだ!?」
「あの羽根がまだあるかもしれねぇのに」
「では尚更早く見つけねばな」
軽く駆け足になりながらも、それでも見落としの無いように注意しながら路地を駆ける。
「アッシュ! サック!」
上からの声に足を止めた双子は、影を濃くしながら降りてきたサクリファイスに片手を上げた。
「そっちはどうだ?」
「「全然」」
双子は成果なしとばかりに首を振る。
路地に降り立ったサクリファイスと、双子の会話がかみ合っていることを、アレスディアは瞬時に理解してほっと言葉を零す。
「サクリファイス殿も探しておられたか」
「アレスディアも探しているんだろう? さっき千獣に会った時に聞いたんだ」
空や路地から探しても見つからないということは、この方向ではなかったということだろうか。もしかしたら、あおぞら荘に戻っていて、どこかですれ違ってしまった可能性もあるだろうし、この方向へ来なかったオセロットや千獣が見つけた可能性もある。
とりあえず、合流するなり白山羊亭に戻るなりしてみたほうがいいだろうか。
サクリファイスはしばし考え、ふわりと足元を浮かせて飛び上がる。
「私が一番機動力があるだろうから、一度戻ってみるよ」
「よろしく頼む!」
全は急げとも言う。アレスディアは飛び上がったサクリファイスに向けて、託す言葉をかけて見送った。
「俺達はどうする?」
「このまま進むか?」
飛べるサクリファイスほどではないが、跳べる双子も機動力からすれば、徒歩のみであるアレスディアよりは高い。
闇雲に探して時間だけ消費させたくはない。そう思いながら唸る双子を、アレスディアはただ見つめる。確実に見つけられるとは限らないため、このまま一緒に進もうとは言えなかったのだ。
「アレス、ディア……! と……」
名を呼ぶ声と、またも空から落ちる影に、3人は顔を上げると、そこには千獣が飛んでいた。
********
アレスディアや双子と別れたサクリファイスは、まだ進んでいない方向を選びつつ、あおぞら荘へと向けて飛んでいた。
「ん?」
黒い何かと、その側に見える銀の頭。あれは――
「ライム!?」
空からよくよく見れば、黒い何かは腕のようで、その手がライムの腕をしっかりと握り締めているように見えた。
これは余り良い状況とは言いがたい。どうするべきかと視線を廻らせれば、対処を思案しているかのようなオセロットの姿が眼に入る。
「オセロット!」
サクリファイスはオセロットの傍らに降り立ち、今の状況を尋ねる。
「ずいぶん早かったな。千獣は一緒じゃないのか?」
「千獣とは別れたきりだけど……」
お互いどうにも会話がかみ合わない事を悟り、簡単に状況を説明しあった。
「「ライム!?」」
状況の確認の途中、少年のハモった声がその会話に割って入り、オセロットとサクリファイスは声の方向に視線を向ける。
まるで最初にあの異形と対峙した時のように、ライムを中心として対称となる位置に立ち尽くしていたのは、アレスディアと彼女を呼びに行った千獣、そして双子だった。
「む、ぅ……ライム殿が、彼奴の手にあるとは……」
ライムを掴んでいるかのように見える腕に気がついたアレスディアは、眉根を寄せる。自然と槍を持つ手に力が入った。
「下手に引き剥がせばライムの肌も傷つく、が――」
オセロットは今集まっている面々を見回す。やることは、ライムから腕を引き剥がしつつ、遠くへ避難させ、あの火傷を冷やすということ。それを一気に行う必要がある。
アレスディアは前回のことも思い出し、傍らのサックに問いかける。
「サック殿、腕だけ凍らせることは可能か?」
「そんな器用な使い方はちょっとな。あれじゃどうしても、ライムを掴んでる部分が凍らせられない」
その答えに、アレスディアは軽く唇を噛む。
「腕が暴れぬように、瞬時に動きを封じられればいいのだが……ライム殿が掴まれているこの状況、盾も矛も役に立たぬ。何とも、口惜しいが……!」
もし、こちらが攻撃を仕掛けた場合、ライムに当たるのではないか。避けようと腕が動き回った場合、傷が重症化するのではないか。その思いが、アレスディアの動きを停止させた。
が、その横を通り抜ける影に、思わず目を瞬かせる。
「せ、千獣殿!?」
攻撃を加えることを躊躇しているアレスディアは、じりじりと間合いを詰めるように腕へと近付いていく千獣に、静止に似た驚きの声を上げた。
動き出した千獣に、オセロットは何かに気がついたような笑みを口の端に湛えて、サクリファイスに尋ねる。
「サクリファイス、あの腕が離れたらライムを急いで水場へ運んでくれないか?」
「分かった」
サクリファイスは先日手に入れた、腕輪にそっと手を当てる。この魔法が篭った腕輪の力ならば、一瞬でライムを移動さえることが可能なはずだ。これならば、移動する距離や振動を考えれば、ライムへの負担は一番少ない。
「一瞬でライムを移動させれば、万一追いかけられることはないだろうし」
限定的だが“転送”の魔法が使えることを告げるが、この場を離れて水場の近くに移動する以上、何かタイミングよく合図を送る方法を考えなくてはいけない。
「なら、俺が行く」
くいっと膝に力を入れたアッシュが、ライムの上を弧を描くように飛び上がりサクリファイスの側に降り立つ。
「俺とサックなら、コンマゼロだ」
双子は良く繋がっているというが、彼らもそうであるらしい。確かにまるで示し合わせたかのように同時だったり交互に喋る彼らを見ていれば、自ずと納得できた。
「分かった。直ぐに移動しよう」
「了解」
飛び上がったサクリファイスを追いかけるようにアッシュも跳びだす。
その背を見送らないまま、オセロットもライムの方へと腕の出方を観察するように少しずつ近づき始める。
じりじりと双方から距離を詰めていくが、腕はまだ動きを見せない。見当たらない片方が加勢に来ることを待っているのだろうか。それとも、腕そのものに反撃する能力がないのか。
「……んっ」
「ライム!!」
微かな身じろぎの後、気を失っていたライムの瞳がゆっくりと開く。その身を案じるように名を呼んだサックの声に反応して、ライムははっとして顔を上げた。
「兄ちゃん……!?」
「ライム。自分で動くことはできそうかい?」
サックとは反対方向からかかった声に、ライムは視線を向ける。気がつけば、この前助けてくれた面々が居ることに、どこか諦めたような、それでも安堵した表情を浮かべた。
「ダメ…そう」
声をかけてきたオセロットに、少し腕を動かそうとしてびくともしない様子に、静かに眼を伏せる。
「怪我……痛い……?」
「もう、何も感じないや」
痛みを通り越して何も感じなくなった腕を見やり、ライムはその怪我と繋がっている腕がまだそこにあることに、ぐっと息を呑んで千獣に答える。
「すまぬ。ライム殿……! 私の力が至らぬばかりに……!」
ああ、なんだか暖かいなぁ。と、ライムはそっと俯いて思う。つい先日あったばかりなのに、どうしてこんなにも自分を気にかけてくれるんだろう。
「とりあえず、今らソレを引き剥がすから!」
腕の出方を探っていたオセロットと千獣の思惑などどこ吹く風。サックはライムの元に駆け出す。この際腕ごとまず凍らしてしまえと思った。
もう少しでライムに手が届く。その距離まで近づいた瞬間――
「兄ちゃん!?」
「サック!」
サックの頭上に、なぜか空から針が落ちてきた。咄嗟に展開した氷の盾でソレを防いだサックは、ぎりっと奥歯をかみ締めてライムから間合いを取る。
その針は、腕から生み出されたものと言うよりは、空間を裂いて現れたように見えた。
「やはり、ただでは近づかせて貰えないか」
「針、より、早く、近づけば、いい……」
針の出現と、落ちるまでには防御を行えるだけの時間的余裕があるということ。
そのコンマ何秒でさえもあるのであれば、あの腕を取り払い、ライムをサクリファイスの元へ飛ばすことは出来るだろう。
いや、“だろう”ではない。やらなくては。
「サック、連絡と、氷、に、専念、して……」
「分かった」
サックが下手に動いて怪我を負ってしまっては、作戦に支障がでる。大人しく頷いたサックは、腕が引き離される瞬間をじっと眼を凝らして待つことにした。
「千獣、少しいいか?」
オセロットは千獣に小さく耳打ちする。その内容に、千獣は頷いて、数歩後ろに下がった。
くっと足に力を込めたオセロットの速さは常人のそれではなかった。
一瞬にして自分の前に現れたオセロットに、ライムの方が驚く。
空に現れた数個の針の先が、地面に落されるよりも早く、オセロットの手刀が振り下ろされる。
やけに脆いソレに、オセロットの眉がピクッと動いた。が、今はライムを傷つけず、羽根が残れないぐらいギリギリの位置で切り落と方が先だ。
そのコンマ数秒の動きで切り下ろされた腕は、動き出すよりも早く、サックの魔方陣に囲まれて凍りつき、地面に落ちた。
その瞬間、ライムの姿がこの場から消えうせる。きっとこれがサクリファイスが手に入れた方法なのだろう。
しかし、空から現れた針は消えることなくオセロットに迫っていた。
痛覚を停止させれば痛むことはない。などと、どこかで思いながら、オセロットは衝撃を覚悟する。
けれど、それはオセロットに当たることなく、千獣の爪と、アレスディアの槍によって、霧散した。
「助かったよ。ありがとう」
礼を述べれば、何のことは無いと、二人の笑顔を返された。
そして、さて。と顔つきを変えたアレスディアは、凍り付いて地面に落ちた腕に視線を落す。
「ライム殿が居ないのであれば、遠慮をする必要などありわせぬ」
手にした槍を、凍った腕に振り下ろした。
「オセロット……手、大丈夫……?」
前回、異形の攻撃を羽根で受け止めたとき、寝食されるような感覚の染みが残ってしまった。
「全く、本当に何とも無いとはな」
自嘲気味に微笑むオセロット。身に着けていた白手袋は焼けたかのような焦げた穴が開いているのに、自身の肌は無傷。試してみたことがあると、千獣に告げて腕への攻撃を買って出た結果が、これだ。
「―――を思い出す」
「オセロット殿?」
吐き捨てるように呟かれた言葉に、アレスディアは首をかしげた。
「ああ、アレスディアは覚えているか? あの街の、あの男の事を」
それは、千獣は知らない二人が持つ経験。
初めてコール達兄弟が住まう世界の歪みに触れた思い出だった。
サクリファイスは、あの傷を冷やすなり、残った腕の欠片がもし合った時洗い流せるよう適度な水場を探していた。
遠からず、近からず、流水がある場所が望ましい。
あおぞら荘……までは、少しあるし、万が一ということもあるから却下。白山羊亭はルディアに迷惑をかけるかもしれないから、これもまた却下。
「……ちょっと酷いけど、天使の広場の噴水が妥当か」
流水もあって、遠からず近からず。
「よし、天使の広場に行こう」
そうアッシュに告げて、頷く彼と共に天使の広場まで飛ぶ。
「その腕輪そんなに凄ぇのか?」
「腕輪が、というよりは、込められた魔法が、が正しいかな」
サクリファイスは貰った腕輪にそっと手を添えて、送り主を思う。彼らが持つ魔法は、特殊で強力な言霊だ。
「まぁいいや。期待してっからな」
天使の広場に降り立ち、適当な法螺を叫んで軽く人払いをすると、辺りを見回す。
意識を集中させるように、薄く眼を伏せたアッシュを、噴水の傍らで見つめながらサクリファイスは合図を待つ。
サックが動く気配、魔術を使う気配を感じて、アッシュは眼を開いた。
「今だ」
サクリファイスは頷き、早口で必要な言葉を紡ぐ。
「“この手に、ライムを転送”」
広げた手の中に、一瞬にしてライムが現れ、アッシュも流石に眼を点にする。
「え?」
当のライムも、場所は変わったことに軽くパニックに陥りながら、辺りを見回している。
「場所が噴水で申し訳ないけど、早く傷を冷やそう」
サクリファイスはライムの腕を、噴水に浸す。
「っつ!!」
冷やされたことで、皮膚が引きつる感覚に、ライムは痛みで顔を歪めた。
「アクラ、来てくれっかな……」
ルミナスが居ない今、治癒術を持った知り合いは、アクラしか居ない。アッシュのそんな何気ない呟きに、サクリファイスは眼を伏せる。
(お礼を言わないとな……)
サクリファイスは、改めて傷を冷やすライムを見ながら、腕輪をくれた彼を思い浮かべた。
凍って砕けた腕の欠片を見下ろしながら、千獣は自らの考えを告げる。
「あの、腕、は、囮……きっと、本命は、別……」
「何故そう思われる?」
アレスディアとて、その可能性を危惧したわけではないが、囮や本命などの考えには至っていなかったため、純粋な疑問を投げる。
「ライム、現れる、まで……襲撃、無かった、から……」
「なるほど。私も何故同時に来ぬのか、他の部位のことなど気になっていた」
口元に手を当てて考えを纏めるような仕草をするアレスディアに、千獣は一度その顔を見上げて、また砕けた腕に視線を戻す。
「強い、個体、に、囲まれた……弱い、個体、だけ、狙う、なら……後、を、つけて、巣を、見つけて……潜り込む」
その方が、一網打尽に出来て話は早い。確かにその通りなのだが、それを考えるだけの知性が、あの腕にあるかどうかと思うと、何とも断定しがたい。
「うむ。千獣殿のお言葉も分かる。仮に、こちらの出方を伺っているのだとしたら、今も近辺に潜んでいると考えねばならぬ」
ちらり、と、アレスディアは視線を廻らせ、その気配は無いか探る。
「もしくは、もう片方に羽根を残し、温存が目的である可能性もある」
オセロットは穴の開いた手袋をポケットに突っ込む。何はともあれ、もう片方の腕の奇襲や尾行に警戒を怠らないようにしなけば。それは、千獣もアレスディアも気持ちは同じだった。
「オレ、ちょっとあおぞら荘戻るわ」
「サック殿?」
「あいつらは噴水の所にいるってよ。後でな!」
「あ、待って……!」
千獣が止めるよりも早く、サックは膝に力を入れると、その場から跳んで行ってしまった。
「噴水……天使の広場か」
いろいろ思い当たる水場はあっただろうが、あの腕の事を考え、特定の誰かに迷惑がかかるかもしれない場所を避けたのだろう。
「急ごう。もう片方の腕が現れているかもしれないしな」
頷き、3人は天使の広場に向けて駆け出した。
広場の噴水周りは、いつもよりもかなり人が少ないように思えた。最初の適当な法螺がとても功を奏している。
現れた三人に気がついたサクリファイスは、その頭が1つ足りない事に顔をかしげた。
「サックは?」
「あー、多分アクラ呼びに行ってくれた」
サクリファイスの問いかけに答えたのは、合流した三人ではなく、その場に居たアッシュ。
「君達は本当に以心伝心なのだな」
「ん? まぁな!」
アッシュは、噴水に腕を突っ込んで涙目を浮かべているライムの頭をくしゃっと撫でて、もう少しの我慢だからと、弟を鼓舞する。ライムの肌が白いせいか、赤くただれた痕は酷く深い火傷のように見えた。
噴水の方向に、確認するように近づいた千獣が告げる。
「腕……片方、だけ、だから、気を、つけたほうが、いい……」
皆が合流したことで、少し警戒を解きかけたサクリファイスの表情が鋭くなる。そうだ。自分も腕が片方な事は気になっていた。
アクラが来るというのなら、動くこともないだろうと、もう片方の腕が現れる可能性を考えながら待つ。
「連れてきた」
すっと空から降り立ったのは、サックだ。その後、ばさっと羽ばたきの音に顔を上げれば、白い羽根が空から降ってきた。
「はぁ……もう、君達は」
その羽根と共にその場に降り立ったアクラは、面倒くさいと言わんばかりの表情で頭をかいて、噴水に腕を突っ込んだライムに近づく。
「あんまりボクを便利に使わないでよね」
「ご、ごめんなさい……」
「いいよ。君には言ってないから」
不機嫌そうなアクラの声音に、ライムは申し訳なさそうに頭を垂れる。彼にはこの世界に来た時からお世話になりっぱなしだ。
「腕、見せて」
流水の中から腕を引いてアクラに向ければ、彼の表情が一瞬だけ硬くなった。
「……結構酷いね」
アクラは火傷にそっと手をかざす。キューブ型の方陣が、ただれた部分を囲むように現れる。
まるでそれに呼応するかのように、空間が歪む。
「腕か!?」
その歪みから、ライムが捕われていた時に現れた針と同じようなものが顔を出す。その針先が向いている中心に居るのは勿論――
二人に一番近いサクリファイスは、庇うように立ちはだかる。
「……邪魔、する、つもり……?」
千獣は空間の歪みの位置まで跳躍し、現れた針先を爪で切り刻む。
オセロットは、反動もなしに銃の連射で同じように現れた針を蜂の巣にした。
「もう片方の腕――か?」
攻撃の方法は、先ほどの腕と同じようだが、本体(?)となる腕そのものが見当たらない。それとも、この空間を歪ませて現れる針そのものが、片腕の別の形だったということか。
「アクラ……申し訳ないが、なるべく早く治せないか?」
「この傷は、ちょっとね。もう少しかかりそう」
「そうか、すまない。ありがとう」
サクリファイスは、なるべく早くこの場からライムを避難させたかった。
「切ったやつとか、穴開いたやつ、どこにも無ぇ!」
「いっそのことあの歪みごと凍らせるか!」
歪みが凍るかどうかは分からないが、其処から出てくるこの針を順次凍らす事は出来る。
「「よし、それで行こう」」
パンッ! と、手を打ち鳴らした双子を見やり、アレスディアは辺りを警戒するように見回す。このままではどうにも終わりが見えない。やはり本体はどこかに潜みながら、攻撃だけを飛ばしてきているのだろうか?
「何かが、来る!!」
何かがこちらに飛んでくる。
それは、先ほどまでライムが腕につかまれていた路地の方向。
アレスディアの叫びに、誰もが意識をそちらへ浚われる。
「「あれ?」」
はっとして視線を戻せば、歪みは1つの大きな歪みに収束していき、其処からもう片方の腕が降りてきた。
「やはり隠れていたか」
オセロットは確信のように呟く。だが、何故今現れた? 浮かんだその疑問は、すぐさま解決へと向かっていく。
「「嘘だろ?」」
羽根さえ残らないほどに凍らせて砕いたはずなのに、その欠片が、今現れた腕に飛び込んで吸い込まれていく。
欠片を飲み込んだ腕は、徐々にその形を変質させていき、それは頭のようなものへと変わって行った。
ごくっと、唾を飲み込む。
あの異形に存在しなかった、頭か――?
「腕、と、頭……同じ……?」
分裂すると腕に変わる異形か? それとも、片方を完全に吸収し、その形に変わってしまった異形か。
「倒せ、ば、同じ……」
羽根が残らないほど、あの頭を細切れに切り刻んでしまえば良い。
千獣が動こうとした瞬間、頭の口が動いた。
『帰って、おいでよ』
双子とライムの肩がビクッと振るえ、アクラの顔から表情が消える。
『兄弟は、皆一緒に暮らしたほうがいい』
「何、言って……」
「兄弟って……」
まさか、自分達も含まれていた? その事実に、一番驚いたのは、当の双子で。
『直ぐに、迎えに行くから』
青年と思われる声の口調はどこまでも無邪気なのに、その奥に感情のようなものが全く感じられない冷たい音。
『大人しく、待ってて』
もしかして、ライムを先に捕まえたり狙ったりしたのは、そうすれば芋蔓式に双子も着いてくると判断したから?
サクリファイスは庇うように、背後の二人をちらりと見やる。
またも変質を始めた頭は、まるでスライムのように軟体な動きを見せると、黒い球体へと変わり、其処から黒い手を伸ばす。
「アッシュ!」
「サック殿!」
オセロットはアッシュの腕を引いてその背に庇い、アレスディアはサックの前に躍り出た。
「待たせる、なら……傷つける、必要、ない……」
跳び上がった千獣は、硬く長い爪を使って、中心の球体を千々に切り裂く。
「……?」
あの空間を歪ませて現れた針を切り裂いた時は焼けなかったのに、今度は爪が焼け落ちた。
「サック殿!」
あまりの動揺に意識を飛ばしかけたサックは、名を呼ばれた事で現実に引き戻る。はっとして杖を構えなおすと、少し広範囲な方陣で細切れにされた球体を取り囲み、急速冷凍していった。
「凍らせるだけでは、羽根は残ってしまうのか?」
確かに前回は、念には念をと、砕いた異形を灰さえも残らないほどに焼き尽くした。それを思い出し、オセロットはアッシュに振り返る。
「やっぱ1つずく焼くか」
アッシュは、凍った球体の欠片に1つずつ高密度で高温度の炎の方陣で焼滅させていった。
「オッケー」
アクラがぎゅっと握るような動作をすると、ライムの腕を囲っていた方陣が霧散し、その中から傷がすっかり癒えた腕が現れる。
「ありがとう」
ライムの笑顔に、微笑を返す。
その様子に、サクリファイスはほっと胸をなでおろした。
(………)
アクラは誰にも悟られないよう握った手を開いて、その中のガラスのように薄く一見無機質にも見える光る羽根を見下ろす。もう一度握り締めれば、その羽根は無残にも粉々になった。
アクラはふいっと視線を上げて、不可解そうに爪を見ている千獣に歩み寄り、ぎゅっとその手を握り締める。
「アクラ……?」
千獣は眼をぱちくりさせてアクラを見ると、ぱっと手を離した彼は、何事もなかったかのように手を振って帰っていった。
見下ろした爪は、どこか綺麗になっていた。
あの双子の顔が少しだけ怖い。少しだけなのは、元々の造形のせいなのだろうが、それでも双子はとても立腹しているようだった。
「どうして一人で出かけたんだ?」
「ちゃんと声をかけてから行けって言ったよな?」
ションボリと肩を落として噴水の脇に腰掛けたライムに、双子の兄の低い声が降りかかる。
これでもかとばかりに口をきつく閉めたライムは、俯くばかりで無言だ。
「ライム殿にも何かしら理由があろう? 頭ごなしに怒ることもあるまい」
なだめるように声をかけるアレスディアに、まるで頭から角を生やしたような鬼の形相で振り返る双子。確かに起こってしまった事を考えると、双子が怒るのも納得できて、ぐぐっと言葉が詰まる。
「……黙って、出て、きた事は、ダメ……」
もし、誰かが知っていたら、もっと早く――いや、もしかしたら腕にだって捕まる事もなかったはずだ。
小首を傾げるような仕草と共に告げた千獣の言葉は尤もで、それはライムも重々承知している。
「……気付かれる前に帰れるって思ってたから」
ぐずっと鼻をすすって、口を尖らせる。
「何が起こるか予想して出かける事は難しいが、それでも声をかけるくらいは出来ただろう?」
黙って出て来てしまったという事実から、オセロットも双子の味方である。
「ごめんなさい……」
搾り出すように零れた言葉を聴いた瞬間、一同の表情がふっと穏やかなものへと変わる。
「ライムはちゃんと謝ったぞ?」
サクリファイスは双子に問うような視線を向ける。
双子は、集まってくれた残りの面々にそれぞれ伺うような視線を向ければ、謝罪の言葉を述べた以上、これ以上責めると事はないと言わんばかりの瞳が返ってきて、ふぅっとお互い大きく息を吐く。
「「よし、許す。でも、次はコール兄の拳骨な」」
え、コールって拳骨するの? とか、そんな疑問はさておいて、双子のこの言葉が出た瞬間、ライムはばっと頭を押さえる。
「びぇえええ、ごめんなさぁあああい!!」
そして、盛大に泣き出した。
(それにしても――……)
あの声はいったい誰のものか。繋がっていて喋りかけられたのか、予めそう喋るようセットされていたのか。
どちらなのか分からないが、異形の頭が口にした言葉が、これを解き放った者の真意であるならば、なぜ傷つけるような事をしたのか。それとも、傷つけると思っていなかったのか。
だが、あの頭の言う『待て』は、明らかに『捕まれ』という意味だった。きっと、迎えに行くまで、あの異形で拘束しておくつもりだったのだろう。
それが、予想以上の抵抗にあったということか。
空を見上げて、薄く息を吐く。
其処にはいつもと変わらない、青い空があった。
☆―――登場人物(この物語に登場した人物の一覧)―――☆
【2872】
キング=オセロット(23歳・女性)
コマンドー
【2919】
アレスディア・ヴォルフリート(18歳・女性)
ルーンアームナイト
【3087】
千獣――センジュ(17歳・女性)
異界職【獣使い】
【2470】
サクリファイス(22歳・女性)
狂騎士
☆――――――――――ライター通信――――――――――☆
翡翠の追復曲にご参加ありがとうございます。ライターの紺藤 碧です。
最後、実は誰の考えでもいいようにぼかしています。情報として汲み取っていただければ幸いです。
ソールからの腕輪を、実は狙ってたんですが、実際にお使いくださってありがとうございます。なんと言うかそれだけで感無量な気分になりました!
それではまた、サクリファイス様に出会えることを祈って……
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