<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


 懐かしい香りと目を閉じた想い

 それはほんの気まぐれだった。
 いつも通る道が賑やかで気分ではなかったとか、ふと目についた裏道に興味がわいたとか、そんな気まぐれ。
「こんな道があったんだな」
 そう、ディーク(3466)は辺りを見渡しながらこぼした。
 陽だまりの多いどこか懐かしさを感じさせるその裏通りは、ホッとするようなそんな温かさがあった。
 子供たちが楽しそうに駆けていく。最後を走っていた女の子が転び、涙を目に浮かべながら兄だろうか、先に行った少年を呼んでいる。
 ディークはそっと少女を抱きおこし、
「大丈夫か?」
 と声をかけた。
 少女は少しおびえた様子だったが、ポンとディークが手の中から花を出して差し出すと、嬉しそうに笑ってお礼を言うと手を振りながら走り去っていった。
 その後ろ姿に、ふと義娘の姿が重なる。
 それを振り払うように、頭を振ってそっと立ち上がると、細い路地裏に陽だまりがひとつ。それに照らされた古めかしい看板が何故か気になって、歩は自然とそちらへと進んでいた。窓から覗くにアンティークを扱う店だろうか。
それに……
「いい香りだ」
 好きな香りとかそういう事ではなく、心地よい香りがした。ずっと昔から知っているようなそんな香り。その香りに誘われるようにディークは扉を押していた。

ーカランー
 来客を告げる鐘の音にエル・クローク(3570)は作業の手を止め笑顔で出迎えた。
「いらっしゃい、何かお探しかな?」
「いや、すまない。ただ通りがかっただけなのだが…」
「それなら香りがあなたを呼んだのかもしれないね。折角来たのなら少し見ていってはどうだい?」
「……そうだな。そうさせてもらう」
 香りが人を呼ぶなどと言う事があるだろうかとディークは思ったが、直前香りに誘われるように店内に入ったことを思い出すと特に反論することもできなかった。
 店内には綺麗な香水瓶、色々な形や色のお香、アロマ、ポプリと言った香る物と言えば一般的な物から紅茶葉や茶葉入りのクッキー、香りずけの為の酒まで置いてあった。不思議なのはそれぞれがお互いを邪魔しないように控えめに香っているのだ。これだけ色々な香りがあるのにも関わらず店内の雰囲気はとても優しく温かい。
「それが気になるのかい?」
 クロークが声をかける。驚いたようにディークが手元を見ると手の中には可愛らしいケースに入ったハンドクリームが握られていた。その時、ディークの脳裏に愛しい義娘の事が思い出された。
「……そうだな。竪琴を良く弾く娘がいるんだ。手がすぐにボロボロになるくせに、こういった物をつけるのを嫌がって……いつも手を焼いた」
 そう、竪琴をつま弾きながら歌う最愛の娘。料理が苦手で何度教えても上手くいかなくて……
「本当に手が焼ける娘だが、最近は口を開けば結婚したいとばかり……」
 それ以上はため息でかき消えた。
 クロークは微笑んでこう提案した。
「夢を見てみないかい?このまま一緒にいて義娘さんがいつか誰かと結婚する未来がきた時、あなたがどう思うのか」
 首をかしげるディークにクロークは奥の部屋へ案内した。
 その部屋は中央にリクライニングチェアが一つ置かれ、壁沿いに色々な便が並べられた棚と、その部屋全体をぼんやりと照らすランプが置かれているだけだった。表の店が昼だとするなら、ここは夜のようだ。ディークは素直にそう思った。
「中央の椅子に座って」
 クロークが優しい声音でそう言いながら香炉に火を入れた。部屋が店の外で感じたものと同じ香りに包まれる。
 どこか安心した気持ちでディークは眠りに落ちていった。

 ディークが目を開けると、目の前にウェディングドレスを着た義娘と、ディークが立っていた。勿論、自分ではない。だが、夢なのだと何故か納得できた。
 義娘の前に立つディークは安堵したような表情で、最愛の義娘の頬をそっと撫でながら何事か言っている。その言葉に義娘は顔をほころばせ微笑んでいた。そして、義娘が背を向け歩き出す。
 その光景を見ていたディークは引き留めようと手を伸ばし走ろうとした。行かないでくれ。そう言いたかった。しかし、足も喉も動かない。勿論その手も彼女に届くことなく、彼女は行ってしまった。胸にあるのは寂しさと後悔に似た感情だった。
「傍に……いてくれ」
 その言葉だけが義娘がいなくなったその場に響いた。
 そして、金の瞳から一粒涙がこぼれたところで、まるでそれを合図にするかのように意識が一気に現実へと戻っていった。

「その様子だとちゃんと夢は見れたようだね」
 クロークの穏やかな声がするが、ディークの意識はそっちには向いていなかった。正確には混乱していて頭に入ってこなかったのだ。
 そんな様子のディークを見てもクロークは微笑みを崩さない。
「あっ、ああ……すまない。考え事をしていてな」
「構わないよ」
 クロークはそう言って奥の部屋からディークと共に表の部屋に戻った。ディークは再び店内を眺めていたが一本の香水に目が留まる。
 それは、天使の形をした瓶に入った香水だった。香りは分からなかったが、義娘に似合う。そんな直感的な確信めいたものがあった。
「これをくれないか?」
「芍薬の香水だね。少し待っていてくれ」
 プレゼント用とも言わなかったがクロークは丁寧に包装して小さな丁度その瓶が入る大きさの紙袋に入れると、ディークの前に置いた。

「義娘さんは素敵な女性なんだろうね。少なくても彼にとっては」
 代金を払い、店を出ていくディークの後ろ姿を見送ったクロークはそう呟くと店をクローズドにすると奥の部屋へと入っていった。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【3570 / エル・クローク / 無性性 / 18歳(外見) / 調香師】

【3466 / ディーク / 男性性 / 38歳(外見) / 旅芸人】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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エル・クローク様、ディーク様初めまして。
ライターの龍川 那月と申します。

今回はご縁がありまして大変うれしく思っています。
ディーク様の義娘様が軸に合ったように感じましたので、それをメインに、舞台が香りを扱う店と言う事で『時』よりをそちらを強めに出させて頂きました。

お気に召すと大変うれしく思います。

今回はご縁を頂き本当にありがとうございました。