<PCシチュエーションノベル(ツイン)>
あなたと二人、いつまでも……
それは時折雨が窓を叩き、もう間も無くの夏の訪れを告げようとしている6月。
誰もが憧れる6月の花嫁……ジューンブライドの頃である。
静かな夜にまぎれて、レインとローズマリーは深い眠りの中に入り込んだ。
互いに互いを想い合う二人にのみ訪れる、夢の中の教会。結婚までのカウントダウンは始まっていた……。
荘厳な造りの教会の鐘が空一杯に響き渡る。
白鳩が大きく翼をはためかせ、何羽も群を成して空を飛び交っていた。
雲ひとつない晴天に恵まれ、申し分ない日和だ。
教会の扉はピッタリと閉じられているが、その教会の前には長く赤い絨毯が続いている。その絨毯を褐色の肌に良く映える真っ白なドレスを身に纏った女性が一人ゆっくりとした歩みで歩いてきた。
手には色とりどりの花々のブーケを握り、顔を隠す薄絹のヴェールの向うでそっと瞳を伏せているのはローズマリーだった。
赤いルージュをつけ、静々と歩いてくるローズマリーを扉の前に歩み出たレインが出迎える。
「どうぞ」
ローズマリーと同様に真っ白いタキシードをまとったレインは、柔らかな笑みを浮かべてローズマリーへと手を差し伸べる。
その言葉にゆっくりと顔をもたげたローズマリーは頬を僅かに赤く染め、はにかんだように微笑みながらそっと手を伸ばした。
互いに手を取り、見つめあいながら隣に並ぶと、ローズマリーは恥ずかしそうに口を開く。
「あの……私のドレス、どうですか?」
「うん。とてもよく似合ってますよ。思わずため息をついてしまうくらい、とても綺麗です」
レインは自分に正直に思ったままの事を口にすると、ローズマリーは更に顔を赤らめてブーケを持った手を頬に当てる。
「夢だと分かっていても、嬉しいです……」
あまりに恥ずかしそうにするローズマリーを見ていると、必死に照れを隠していたレインも隠しきれないほど恥ずかしくなってきた。
とても穏やかで品が良く、包容力を持ったローズマリーに憧れ、恋焦がれてここまで来た。
嬉しくないといったら嘘になる。好きな人と共に唯一夫婦として認められる場所に、こうして立っていられるのだから。
「じゃあ……。ボクは、どうですか?」
照れくさそうにそう聞き返すと、ローズマリーは赤らんだ顔のまま恥ずかしそうに頷き返す。
「とても……、カッコいいです。いつものレインさんじゃないみたいで、照れてしまいます」
「え……」
あまりの恥ずかしさに、ローズマリーは両手で顔を覆い隠してしまう。そんな彼女の様子を見ていると、レインは堪らなく胸がキュンとなり頬を染めてローズマリーを見つめた。
「ローズマリーさん。ボクも嬉しいです。あなたとここにいられる事が」
「レインさん……」
レインはローズマリーの手を握り、満面の笑みを浮かべた。
ローズマリーもまた、そんなレインを見つめ返してにっこりと笑みを浮かべる。そしてどちらからともなく扉の方へ向き直ると、二人同時にそっとその扉を押し開いた。
中は、外から続く赤い絨毯が教壇まで続き、色とりどりのステンドグラスは陽の光を受けて七色に教会の中を染め上げていた。
参列者も神父も居ない二人だけの挙式……。
ローズマリーはそっとレインの腕に手を回すと、ゆっくりとした歩調で歩き始めた。
二人の靴音だけが静かな教会の中に響き渡り、教壇の前まで歩いてくるとそっと向かい合って立つ。そして互いの手を取り合い真っ直ぐに見詰め合う。
「ボク、レイン・フレックマイヤーは、ここにいる神に誓って、生涯ローズマリーさんを幸せにします」
静かな口調でそう誓ったレインに、ローズマリーは嬉しそうに、目尻に涙をうかべながら微笑み返した。
「私も……私も、レインさんと一緒に幸せになります。なりたいです」
僅かに声を震わせながら、しかしハッキリとした口調でそう言うと、レインはあまりの嬉しさに胸が震え握っていた手に力が入った。
「本当に、ボクでいいんですね?」
ここまできて今更と分かっていても、ついそう訊ねてしまう。するとローズマリーはくすっと笑いながら頷いた。
「えぇ、もちろんです」
「……っ! 絶対に、幸せにしてみますから!」
「私も、レインさんを幸せにします」
二人は顔をつき合わせてクスクスと笑い合うと、教壇の上に置かれた結婚証明書へと手を伸ばした。そして互いの名を記すと、二人はまた静かに見詰め合う。
レインが手を伸ばし、ヴェールに手をかけるとローズマリーは僅かに足を折って姿勢を低く保つ。ヴェールを持ち上げ、そっと姿勢を戻すと、レインは彼女の両肩に手を置き唇を重ねる。
ほんの僅か、押し当てられた柔らかく暖かな感触が離れていくと、二人はまたも恥ずかしそうに照れ笑いを浮かべた。
「レインさん、大好きです」
「ボクも大好きです。これからもずっとずっと、大好きです」
どちらからともなくぎゅうっと抱きしめあう。そしてそっと離れようとした瞬間、レインがローズマリーを横抱きに抱き上げた。
「きゃ……っ」
突然の事に驚いたローズマリーは、思わずレインの首に腕を回してしがみついた。
目を瞬き、僅かな時間何が起きたのか不思議そうにしていたローズマリーだったが、すぐ至近距離にレインの顔がある事に気付いて赤い顔を一層赤く染め上げた。
「……もう、レインさんったら」
「……大好きですよ」
こつんと額を突き合わせ、囁くようにそう呟いたレインとローズマリーは再び唇を重ねる。
そんな二人を祝福するかのように、教会の鐘はいつまでも鳴り響いていた。
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