<PCシチュエーションノベル(グループ3)>
ダブル・ウェディング
6月のよく晴れた日。高らかに鳴り響く幸福の鐘の音の下に、3人の男女が立った。
汚れなど一つもない真っ白なタキシードに包まれたレイン・フレックマイヤーは、目の前にいる二人の女性を前にやや緊張気味の表情を浮かべていた。
自分にとって、とても愛しい女性が二人。二人ともドレスこそ違うものの純白のウェディングドレスを着込んでいる。
レインの一人目の花嫁であるブランネージュは大胆に開いたスレンダーラインタイプのドレスに、長い銀髪の髪を一つのお団子にまとめて大きな花をあしらったヴェールをつけている。
二人目の花嫁であるローズマリーは、肩と胸元が大きく開いたマーメイドラインのドレスに、銀髪を柔らかく流した状態で小さな花があしらわれたヴェールをつけていた。
愛しいと思っている二人との夢の中の挙式。緊張と共に背徳感を感じさせるものの、これ以上ない喜びを感じているのも否めない。
誰も居ない教会の中。祭壇の前に立っていたブランネージュもローズマリーは互いに顔を見合わせてクスリと微笑むと、二人揃ってレインに向かって手を差し伸べた。
「レインさん」
「レインさん」
二人同時に名を呼ばれてレインが二人に近づくと、二人は彼の肩に手をかけながらそっと耳元に顔を近づけた。
「あなたとこうしてここに立つ事ができるだなんて、わたくし、この上なく幸せですわ」
僅かに前かがみになったブランネージュの言葉に、レインは胸の高鳴りを感じた。そして反対側の耳元でローズマリーが囁きかけてくる。
「レインさん……私の事も一緒に愛してくださるなんて、とても嬉しいです」
その言葉に、高鳴る鼓動と共に熱を呼び起こす。
二人と同時に挙げる事ができるとは、何と言う贅沢であり、幸せであり、そして罪な事だろう。
レインはそんな二人を見つめ、ふっと吸い込んだ。
「マリーさん」
「ブランネージュさん」
二人の名を呼び、二人の手をきゅっと握り締める。そして交互に見やりながら二人を平等に愛する誓いの言葉を口にした。
「ボクはこれから先どんな事があっても、二人を共に平等に愛し、病める時も健やかなる時も、この手を離さず嘘偽りのない愛情を二人に捧げる事を誓います」
レインは心から本音で二人への愛を誓う。そんな彼の言葉に、二人は嬉しそうに頬を染めてはにかんだ。
「わたくしも、あなたを生涯愛する事を誓いますわ」
「私も、お嬢様と同じです」
嬉しそうに微笑むと、ふいにブランネージュが何かを思い立ったように手を打った。
「そうですわ。せっかくですもの。レインさんからわたくしたちそれぞれに対する誓いの言葉も聞きたいですわね」
「まぁ。それはご名案です。私も、レインさんからの私だけの誓いの言葉を聞きたいです」
二人の花嫁はよいことを思いついたと嬉しそうにそう要望してきたが、当のレインはやや面食らってしまった。
それぞれに対する誓いの言葉……。
少し悩みはしたものの、愛する二人の要望とあらば応えなければ男が廃る。
「……分かりました」
レインは頷くと、まずブランネージュの方へと視線を投げかける。そして、彼女の手を握りコホンと小さく咳払いをすると、緊張して僅かに赤らんだ顔のまま顔を見上げた。
「ブランネージュさん」
「はい」
「ボクは、あなたの幸せと笑顔を一生かけて守り抜くと誓います」
真っ直ぐでストレートなその言葉に、ブランネージュは頬を染めて嬉しそうに顔をほころばせると満面の笑みを浮かべて頷いた。
今度はローズマリーの方へと振り向いたレインは、彼女の両手もしっかりと握り締めて真っ直ぐに見つめる。
「マリーさん」
「はい」
「ボクは、あなたの献身的な思いに応える為に、生涯を捧げる事を誓います」
レインの言葉に、ローズマリーは顔を赤く染めて目に涙を滲ませながら心底嬉しそうに何度も頷き返した。
祭壇の上に置かれていた三つの指輪。レインはその内の一つを手に取り、ローズマリーの方へと向き直ると差し出された左手を取り、そっと薬指へ指輪をはめた。そしてもう一つの指輪を取るとブランネージュの方へと向き直り、彼女の左手の薬指にも指輪をはめた。
残された最後の指輪を最初に手に取ったのは、ブランネージュだった。彼女はレインの左手の薬指に指輪を軽くはめると、ローズマリーと共にその指輪を彼の指の根元にそっとはめこんだ。
誓いのキス。
レインは最初に頭を下げてしゃがみこんだブランネージュのヴェールへと手をかけ、そっと持ち上げると閉じていた瞳を開く彼女と視線がぶつかった。
その青い目に吸い寄せられるようにレインが顔を近づけてくと、ブランネージュも開いた瞳を再び閉じて彼の暖かなキスを受け止める。
ブランネージュがそっとその場に立ち上がると、今度はローズマリーの方へと振り返ったレインの前に、やはり彼女も頭を垂れて身を低くして待っている。
そっとヴェールを持ち上げると赤い瞳が、喜びから来る涙で潤み揺れているのが目に入る。そんな彼女にも唇を寄せると、ローズマリーもまた瞳を閉じて応えた。
誓いのキスを終えた3人は証明書にそれぞれがサインを済ませると、いよいよ正式に夫婦になった事を実感していた。
3人は共に手を取り合い、祭壇上から降りてくるとふいにブランネージュが足を止めた。
不思議に思ったレインたちが彼女を振り返ると、何かを考えるような素振りを見せるブランネージュはレインを見つめる。
「ねぇ、レインさん? もう少し、この夢を楽しみたくはありません?」
「え? あ……、はい。そうですね」
彼女の持ちかけた言葉に、レインは素直に頷き返す。
実際のところ、これで終わってしまうのは物足りないと思っていた。それが、自分だけじゃなく彼女も同じように思っていたのだと思うと、どこか嬉しく感じる。
ブランネージュの提案に、ローズマリーもまた瞳を輝かせて大きく頷く。
「まぁ、それは素敵な提案です! 私もこのまま終わってしまうのは物足りなくて……」
嬉しそうにニコニコと微笑むローズマリーに、レインもまた同じように頷き返した。
「それじゃあ、ボクが二人の願いを叶えますよ。何でも言って下さい」
頼もしくそう応えると、真っ先に口を開いたのはローズマリーだった。
「では、私のお願いです。この教会の裏にある花畑まで私を運んでくださいませんか?」
「お安い御用ですよ」
「お嬢様、よろしいですか?」
確認を取る為にローズマリーがブランネージュに訊ねると、彼女はにっこり微笑みながら頷いた。
「えぇ、構いませんわ」
「ありがとうございます」
ブランネージュの許可を得たローズマリーをレインは横抱きに抱き上げ、教会の裏へと向かった。
あたり一面花の甘い香りが立ち込め、そよぐ風に花々がカサカサと音を立てて揺れる音だけが周りに聞こえている。
花畑の中まで入ったローズマリーとレインは、互いにじっと見詰め合う。
「レインさん……。私、本当に本当に幸せを感じています」
「ボクも同じですよ、マリーさん」
二人はコツンと額をくっつけると、クスクスと幸せそうに微笑みながらどちらからともなくキスをした。
花畑に囲まれたメルヘンな雰囲気で交わすキスは、花の甘さと相まって二人の気分を最高潮まで持ち上げていく。
そんな二人を見ていたブランネージュもまたレインの傍まで歩み寄ってくると、彼はローズマリーを地面に降ろして彼女へと向き直った。
ブランネージュは花畑の真ん中に座り込むと、そっとレインに手を差し伸べる。
「わたくしも、あなたとこれから共にいられることを、心から嬉しく感じていますわ」
赤らんだ顔でふっと目を細めて微笑むブランネージュに、レインは彼女の差し出した手を取るとどちらからともなく指を絡める。そして、レインは初めてブランネージュを見下ろすような体勢で彼女を見つめ、そっとその頬に手を伸ばした。
「ボクも、あなたと共にいられる事が幸せです」
指を絡めたまま、レインが腰を折って顔を近づけ再びキスをする。
いつもは屈む事が多いブランネージュを初めて見下ろす感覚は緊張するものがあった。
ブランネージュもまた、愛しい人に見下ろしてもらう事に喜びを感じて胸を打ち震わせ、交わしたキスがいつもよりも緊張していたのは言うまでも無かった。
二人がお互いに幸せに感じられる、二人の要望を叶えたレイン。
幸せ一杯の3人を、どこまでも広がる花畑の甘い香りと、風に舞い上がる色とりどりの花びらが包み込んでいた。
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