<PCシチュエーションノベル(ツイン)>
―― どんな貴女でも大好きです ――
「……」
サクラは窓の外の景色を見つめながら、小さなため息をつく。
(まだ、エスメラルダには私がセイレーンだと気づかれていない……)
エスメラルダ・ポローニオ、彼女はサクラにとって深く心を許せる女性だった。
(エスメラルダちゃんも、私がセイレーンだと知れば他の人と同じようなことをするのかしら)
かつて、サクラには親友、恋人と思っていた人がいた。
けれどサクラがセイレーンだと知ると、欲望に駆られ、生け捕りにしようとした者もいた。
そのせいか、サクラは他人に完全に心を許すことに、僅かな恐怖を覚えている。
(エスメラルダちゃんに限って、と思いたいけれど……その確証がないから、怖い)
セイレーンは不老長寿の美女、血も肉も霊薬になり、全身が金のなる木とも言える。
だからこそ、余計に人々はセイレーンに対して欲望のまなざしを向けるのだろう。
「……セイレーンである自分を否定するつもりはないけど、ね」
本来の姿を鏡に映し、サクラは苦笑した。
「……サクラ?」
そんな時だった。
迂闊にも鍵を開けたままにしており、タイミング悪くエスメラルダがやってきたのは。
「エスメラルダ、ちゃん……」
自分を見て、驚いた表情を見せるエスメラルダに『やっぱり』という気持ちがこみあげてくる。
(……そうよね、私はセイレーンだもの。心から私を見てくれる人なんていないんだわ)
諦めにも似た感情でため息をついた時「綺麗ね」とエスメラルダが言葉を投げかけてきた。
「え……?」
「今までサクラの本当の種族は知らなかったけど、人魚? セイレーン? なのね」
今までと変わりない笑顔を見せながら、エスメラルダはサクラへと近づいていく。
(もしかして、私を油断させるための……?)
どうしても過去の出来事から、サクラは完全にエスメラルダを信じきれない部分がある。
「漆黒の鱗が綺麗ね、この姿だと余計に真珠とか珊瑚が似合って見えるわ」
「……エスメラルダちゃん?」
「何? あ、もしかして少し馴れ馴れしすぎたかしら、ごめんなさい」
エスメラルダは慌てて謝った後、少し距離を取る。
「いえ、そういうことじゃなくて、まさか、これも作戦のひとつなの?」
「……作戦?」
「私を生け捕りにしたりするんじゃないの?」
サクラの言葉に、エスメラルダはポカンとした表情を見せた後――……。
「あはははははっ! 何それ、あたし、どれだけ悪い奴に見られちゃってるのかな!」
エスメラルダはお腹を抱えながら、大きな声で笑い始めた。
「確かにサクラがその姿になってるのを見た時は驚いたよ、でも利用しようとか、サクラが言うようなことは絶対考えてないから安心して」
サクラはエスメラルダの言葉の意味が分からず、首を傾げる。
「どうして? 私を売り払えば三代は遊んで暮らせるお金が手に入るのよ?」
「……サクラはあたしに売り払って欲しいの? それに、あたしは大事な人を売り払ってまでお金が欲しいなんて、絶対に思わない」
真っすぐ見つめられ、サクラも言葉を失う。
「むしろ、その姿のサクラを見て納得しちゃった。サクラの歌声が美しい理由。一房の金髪と、マリンブルーの瞳。今までどうして気づかなかったんだろうってくらいだよ」
エスメラルダはニコニコと微笑みながら、サクラの手を取る。
「……っ」
エスメラルダに手を取られ、サクラは僅かに身体を震わせる。
「怖い?」
エスメラルダの問いに、サクラがピクリと反応した。
それが肯定なのか、否定なのか、恐らくサクラ自身にも分かっていない。
「大丈夫だよ。あたしはずっとサクラと一緒にいる。過去に何があったかなんて、あたしには分からないけど……怯えないで。そんな人達と、あたしを一緒にしないで」
少しでも過去の傷が癒えるように、優しく諭すように言葉を投げかける。
「……エスメラルダちゃん、ごめんね。別にあの人達と貴女を一緒にしているわけじゃないんだけど……それでも、その、やっぱり思い出しちゃうっていうか……」
「うん。分かるよ。だから無理に忘れてなんて言わない。ただ、あたしを見てくれればいいの。あたしは絶対にサクラを裏切らない。傷つけない。ずっと傍にいて守ってあげるよ」
エスメラルダの優しい声に、サクラは少しだけ泣きそうになっていた。
(心の全部を預けられる人なんて、絶対に出会えないと思ってたのに、そうじゃなかった……)
サクラが気付かなかっただけで、こんなにすぐそばにいたのだと嬉しさがこみあげてきた。
(私は、自分の愛情をすべて向けてもいいって人に出会えたんだ……)
利用としてしか見てもらえなかった今までの中、光が差したようにも思える。
「エスメラルダちゃん」
サクラはエスメラルダの手を握りしめながら、にっこりと微笑む。
「これからも、どうぞよろしくね?」
「……う、うん! こちらこそ!」
お互い照れくさそうに微笑み合いながら言葉を交わす。
この日、ふたりは本当に心を通い合わせることになったのだった――……。
―― 登場人物 ――
3853/サクラ/女性/27歳(実年齢72歳)/歌姫(吟遊詩人)
3831/エスメラルダ・ポローニオ/女性/20歳(実年齢20歳)/冒険商人
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サクラ 様
エスメラルダ・ポローニオ 様
初めまして、今回執筆させて頂きました水貴透子と申します。
今回はシチュノベツインのご発注をありがとうございました。
ちょっとしんみりした内容になっておりますが、いかがだったでしょうか?
気に行って頂ける内容に仕上がっていますと幸いです。
また、機会がありましたら宜しくお願い致します!
今回は書かせて頂き、ありがとうございました!
2016/2/22
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