<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


秘密の特訓

「じゃあ行ってくるな」
 兄弟に見送られケリー(3130)は朝焼けの空へと身を躍らせた。
「今日はっと」
 どこで店を開くのか考えながら地上を眺め風に乗る。気のままに店の位置を変えるので固定客はつきにくい欠点があるが、もともと彼の扱う商品は好事家達が好む者ばかりなので固定客がいなくても困らないのが現状だ。

「……」
 一羽の鳥が何かを言って横を通り過ぎた。
「サンキュ」
 その言葉が聞こえたのか、ケリーが口元をにやりと歪め、羽ばたくのをやめる。そうは言ってもパラグライダーの様に風に乗っている彼の体が落下することはない。そのまま風の音に耳を傾け、空気の流れを肌で感じる。
 そして口の中でカウントダウン。
 ……3、2、1
 後方より急速に迫っていた物体を流れる動きで躱し、商売用のハリセンの柄で一撃。そのまま二撃目に移ろうとしたところで、物体を目で確認。ケリーの肘鉄はほんの数ミリ前で止まった。
「っと……何やってんだ?」
「ケリー兄ちゃん痛いよ!」
 そこにいたのは兄弟の末弟。ケリーのすぐ下の弟グレン(3106)だった。片手に槍、片手でコブができただろう頭をさすっている。
「いや、悪いのおまえだから。ちゃんと止めてやったろ?」
 すっと体勢を戻し、二人は地上へ降りる。目尻に涙を浮かべながらまだ頭をさすっているグレンを手招きしケリーも頭をなでてやるが、そんなに大きなコブではなさそうだ。
「へへ。ケリー兄ちゃんに僕の『ひっさつわざ』見てほしいんだ!」
 撫でられたのが嬉しいのかグレンは人懐っこい笑顔を浮かべる。一方のケリーは溜息をついた。グレンにとって『ひっさつわざ』作りは趣味と言うかライフワークの様な物だろうとケリーを含めた兄たちは認識している。が、槍術の基本も完璧でない弟が独自の技を編み出すのはまだ早いのではないか。と言うのもまた兄との共通認識である。グレンの気持ちも分からなくもねーけどな……とケリーは思う。男なら誰もが一度は憧れるだろう必殺技。前口上付きの必殺技で敵を倒す冒険者の話に憧れてか、子供同士でごっこ遊びをしている子供をよく見るし、ケリー自身そういう事をした事が無いと言えば嘘になる。
 教えたとはいえ、ほぼ我流のグレンの腕がいいとは思えないが、発展途上であることも事実。それに……
「しょうがねぇな。少し見てやるからやってみろ」
 グレンの頭から手を離し少し距離を取るケリー。その背には今日の売り物が背負われたままだ。
「そのままでいいの?」
 玩具をもらったばかりの子供の様にわくわくした声で言うグレンに、にぃと余裕そうに口角を上げたケリーがそのまま人差し指で挑発するように合図した。
「いっくよ!!」
 槍の石突の方を持ち直し数歩の助走から突進。槍での突きに見せかけつつ銅金による横からの打撃。そこまで躱しながらケリーは思う。悪くはないと。しかしそれと同時に
「全然なってない」 
 一瞬の隙を突きハリセンを頭に落とす。スパーンといい音がしてグレンの槍が零れ落ちる。
「何するんだよ!!痛いじゃないか」
 両手で頭を押さえながらその場に蹲ったグレンが半泣きのまま睨みつける。
「それが必殺技なら、今の俺のも必殺技になるな」
 からかうような口ぶりのケリーにグレンの口がとがっていく。
「そういや、グレン。これ出来るようになったのか?」
 地面の草を適当にむしりぱらぱらと落とすケリーにグレンは慌てた様に答える
「で、出来るよ!」
「じゃあやってみろよ」
 落ちてくる草や葉に攻撃を当てる。昔よくやっていた遊びでグレンが一番苦手だった遊びだ。
「そういうケリー兄ちゃんこそ出来るの?」
「当たり前だろ?ほら槍かしてみろ」
 グレンの槍を受け取ると草を再びむしりケリーは空へ投げ上げた。次の刹那、槍が空気を薙ぐ音だけがした。
「出来てな……」
「あ?」
 当たる所が見えなかったグレンはやっぱりと言った声を上げるが、ケリーが広げた手の中に最後まで言い切ることはできなかった。手の中には投げ上げたはずの草があるのだ。草を投げ上げた方の手でケリーは槍をふるった。そして、開かれた手はそれとは反対。移し替える暇はなかったし、
「草が潰れてない……」
 草を持ったまま槍を掴めば草が潰れる。手の中の草はその形跡が全くなかった。
「集めてキャッチすりゃいいだけだろ」
 こともなげに言う兄にグレンは目を輝かせた。そして賞賛の言葉をかけようと口を開いた。が、
「次グレンな」
 肩を叩かれると同時に槍が返され、それは言葉にはならなかった。

 時は変わってお昼。
 二人は並んでパンを食べていた。正確にはケリーのお昼を分け合っているのだが。
「ケリー兄ちゃんは朝みたいなことどうして出来るの?」
 半日やってもグレンの槍が草に当たることはなかった。
「使い方を分かってるだけだ」
「それなら僕だって知ってるよ。兄ちゃん達に教えてもらったもん」
「まあ、そういうと思った」
 グレンが槍を上手く使えない理由の大きな理由が使い方を知っているだけで分ってないからだと言う事に午前中見ていてケリーは気が付いていた。むくれるグレンをよそにケリーは最後の一かけらを口にいれ立ち上がった。
「ほら、続きするぞ」
「まだ、草やるの?」
 つまらなそうに言うグレンにケリーは首を振る
「いや。俺も体なまるからな」
 ケリーは営業中に日避けに使う棒を持ってきて構えた。
「俺とやろうぜ」
「うん!」
 グレンが元気に頷き槍を構える。どうやらやる気は戻ったようだ。

「俺の体に槍が触ったらグレンの勝ちでいいぜ」
「馬鹿にしないでよ!」
「そう言うのは出来てからいえよっと」
 ケリーが棒を槍の様に構えたまま突っ込んでくる。グレンは後ろに少し飛び下がり回避するが、横から殴られたような衝撃を受け軽く吹き飛ぶ。何が起こったのかわからないグレンが目をぱちくりする。
「なんだよ。おまえの『ひっさつわざ』だろ」
「じゃあ僕も!」
 見よう見まねで『ひっさつわざ』を繰り出すが、グレンのはことごとく当たらない。その間にもケリーはグレンの『ひっさつわざ』を進化させていく。
 動きは見えるのに、反応が追い付かない。隙があるように見えるのに上手くそこをつけない。何度もやってグレンには躱すか防ぐかが精いっぱいだ。
「槍、当たらねえな」
 完全にからかい口調のケリーにグレンはますますむくれて、むやみやたらに槍を振り回す。勿論当たる訳がない。
「もうこんな時間か」
 気が付くと辺りはオレンジ色に染まっていた。そろそろ帰らなくていけない時間だ。ケリーは棒を荷物に戻し
「帰る前に『ひっさつわざ』もう一回見せてみろよ」
 午後、一回もあたらなかった。っていうか朝見せてからちゃんとやってないのに……とグレンは気乗りしない様だ。
「いいなら、俺は帰るぞ」
 ケリーはそう言って空へ飛び立つがグレンの足は動かない。
「見てくれるって言ったのに……」
 グレンは完全にへそを曲げていた。ふてくされている彼は背後からの殺気に気が付かなかった。空気が引き裂かれる音で何とか回避したものの羽が何枚か舞い散る。はぐれなのか、冒険者に追われてきたのか、この辺りにはいないはずの大型モンスター。その体には致命傷にならないながらも大小様々な傷がついていた。
「ケ……」
 兄を呼ぼうとするがグレンは黙り込み、まっすぐモンスターを見据える。そして、ケリーが午後散々グレンに打ち込んできた『ひっさつわざ』の構えを取る。
 槍の様な構えから突進し、敵の直前で槍を引いて銅金で横合いから薙ぐ。しかし、モンスターはグレンの様に吹き飛んだりはしない。重さが違うのだ。しかし、ダメージは入っている。槍の柄に手を滑らしモンスターとの距離を限りなく詰め、そのまま腹部を蹴りこむ。ぐらりと傾くモンスターとグレンの体。だが、槍の石突が地面に突き刺さる。グレンは槍の切っ先でモンスターの喉元を貫いた。血反吐を吐きながらモンスターは槍共々倒れこみ物言わぬ肉塊へとなった。
「……やった」
 肩で息をしながら呟いたグレンの声は嬉しさに震えていた。朝よりもずっと形になっている『ひっさつわざ』に驚いてはいるがそれよりも嬉しさが先に立つ。
「大丈夫か?」
 ケリーが夜空から降りてくる。気が付くと日が沈んで空は満点の星空になっていた。グレンに怪我がない事を確認し、モンスターに目をやるケリーにグレンが抱き着いた。
「ケリー兄ちゃん!『ひっさつわざ』出来たよ!!」
「よかったな」
 嬉しそうに頭を撫でてくるケリーにグレンは少し申し訳ない気持ちになった。一日ケリーが付き合ってくれたから『ひっさつわざ』でモンスターを倒せた気がしたのだ。少なくとも朝の状態では絶対に無理だっただろう
「ケリー兄ちゃん!……」
 礼と詫びの言葉より先にグレンの前に兄の少しだけ大きな手が差し出された。
「ほら、早く帰ろうぜ?腹減っただろ」
「……うん!」
 その手を取り嬉しそうに笑ったグレンはもう一回ちゃんと槍の勉強をしようと心に決めるのだった。
兄達と一緒に戦える位つよくなりたいから。
「ケリー兄ちゃん、また特訓しようね」
「気が向いたらな」

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【3130/ケリー/男性性/19歳/燕翼の冒険職人】

【3106/グレン/男性性/13歳/雀翼の槍使い】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ケリー様、グレン様初めまして。今回はご依頼ありがとうございました。

仲睦まじい兄弟の中にも同性同士だからこその空気感が出ていれば幸いです。

お気に召されましたら幸いですが、もしお気に召さない部分がありましたら何なりとお申し付けください。

今回はご縁を頂き本当にありがとうございました。
またご縁があることを心よりお待ちしております。