<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>


【炎舞ノ抄 -抄ノ陸-】炎、舞い

 不意に上がった火の手…の方を見ていたのは、勿論、俺だけじゃなかった。

 …と言うか、むしろ反射的にそれを見た俺より、他の居合わせた連中の方が、火の手の方に一気に意識が持ってかれているように見えた。…蓮聖も、龍樹も、秋白も。
 俺としては「あれ」を見る限り、いつぞやの集落で見た龍樹の「アレ」を思い出すところだが…いや、ひょっとして「そう」なのか? だとしたら…今ここに龍樹が居る以上、あれは「誰」だ?

 と、俺が俄かに訝しんでいる間にも、龍樹と秋白は――それまでの三つ巴すら忘れたように、それぞれ火の手が見えた方にすっ飛んで行く。蓮聖だけは元々同行していた俺が居たからか、他の二人みたいに問答無用ですっ飛んで行くような事は無かった。が、酷く動揺した様子で居る事は確かで、正直、軽く驚いた。無言のままにどうしたのかを訊いたら、恐らく朱夏です、とやけに硬い声で返されて――かと思えば、相済みませぬ、とかいきなり謝られて、結局、蓮聖もすぐに続いてすっ飛んで行ってしまった。

 唐突にその場に置いて行かれる形になった俺としてはいったいどんな了見だと思ったが…何と言うか、ここに来て面倒臭い気分の方が勝って来た。…いや、あの火の手が上がってるのを見たら、面倒臭いで放っておく訳には行かないとは俺でも思うが。

 …思うがやっぱり面倒臭い。



 思いながらも、俺もやや遅れて駆け付けはする。
 着いたところは白山羊亭…があったんだろう辺りだと思う。俺が着いたところで――焼けてる金属みたいな明るい色の炎と、どっかで見た土みたいな色の炎が派手にぶつかり合っていた。その二つの炎の塊に煽られるようにしてそこかしこが燃えている訳で、着いた時点で少々ヤバめなそれなりの熱波も来るのを感じた。正直、周囲の景色よりそっちの余波を気にするのが先だった。
 炎の大元は、人型なんだろう事は今の時点で想像が付く。…つまりあの龍樹が魔法の産物めいた炎の化身らしい姿になって暴れてた状況と同じ――実際、目の前の「土色の炎」の方はどっかで見たって思った通りに龍樹なんだろうし。となると「焼けてる金属みたいな炎」の方も同じような誰かと見ていいんじゃないか――さっきの蓮聖の話からして朱夏って事か? と思った時点で、当のそちらから火の粉が――いや、火の粉どころじゃなく圧力染みた灼熱の炎がこちらに飛んで来る。殆ど勘の領域でそれに気付くと、考えるまでも無く一気に飛び退っていた。いたが間に合うかどうか――と。
 軽く焦ったんだが、その時にはもう俺の目前に迫っていた筈の炎の圧は、そこには無かった。…俺に到達する前に、横合いから飛んで来た土色の炎が巻き込むようにして呑み込んでいたのが見えた――つまり。

 …あの龍樹が、こっちの事も気にして、守りに出た、って事になりそうな。

 そう判断出来た時点で、また驚いた。これまでに俺が見た龍樹の様子からして有り得ないような。何がどうしてそうなってるのか。…俺が遅れて来たからかそうでなくともなのか、とにかく今の状況がわからん。ので、面倒臭いながらもそもそもの状況を見極めようと努める――が。
 大丈夫ですかっ! と慌てたように叫ぶ女の声がして、自然とそちらに先に意識が向いた。聞き覚えの無い声――顔の方を見ても多分初対面だと思う。が、俺に呼び掛けたその女のすぐ側に、何処かで見たような黒い着流し姿の男が居た。あれ? と思う。予期せぬ顔見知りの存在――と言っても、考えてみれば知っているのは本当に顔だけの「顔見知り」で名前も知らなかった気がするが。多分暗殺者か賞金稼ぎか何かで、いつぞやの夜に「剃刀が仕込まれてる携帯火種兼灰皿(?)」を「やるよ」と俺に渡した相手。何でここにと思うが、思うと同時に男の風体からして――実は元々この件の関係者だったのかもしれないともすぐに腑に落ちた。龍樹とか蓮聖とか朱夏とかと服とか纏う雰囲気が何となく近い。今俺に声掛けて来た女もまた同じ。
 思う間にもまた、辺りでは二色の炎が荒れ狂っている――魔法的能力が無い生身な以上、それ自体をどうこうするのは少々無理に近い。ので、仕方無いからまずは避け切る事に専念しないと――と思ったのだが。
 思ったその時には、俺に大丈夫かと声を掛けて来た女が――揃えた指で指示するみたいにして腕をぶん回し、どういう理屈でか二色の炎と似た力、だと思える光の壁を作り出して、荒れ狂う炎から自分や着流しの男、それから偶然居合わせていたんだろうその他の連中の身を守っていた――と言うか、俺もまたいつの間にかその壁で守られる中に含まれていた。…壁が作られる直前、力尽くで引き倒すようにして俺を光の壁の内側に連れ込んでいたのは、件の黒い着流しの男だった。…何だこの状況。

「…ったく。あんたも絡んでやがったのか」
 それはこっちの科白。…いや科白としては喋ってないが。
 と言うか、今これどうなってんだ。
「おれも正直よくわからねぇ。おれたちが突付いたせいかもしれねぇ。ただはっきりしてるのァ、朱夏がいきなりああなっちまったって事だ」
 やっぱり朱夏か。…龍樹じゃない方の、あの炎。
「ああ。あんたにゃ龍樹の事も朱夏の事も改まった説明が要らねぇみてぇなのァ助かるが…正直、ここでいきなり龍樹が来たンにゃ魂消たんだが。気が付きゃ蓮聖様まで居やがるし。それに…ありゃあ秋白じゃねぇのか? どうなってんだ」

 …。

 …説明するのが面倒臭い。
「って呑気に話し込んでる場合じゃないんだけどッ!」
 またさっきの女が、迫り来る炎の圧から光の壁を重ねて作って防御している。…確かに彼女の言う通り。
「まぁ、龍樹さんが出てくれたから、あたしも守る事だけを考えていられるんだけど…」
「その龍樹も何だか様子が変じゃねぇか」
「…うん」
 頷いた女の方だけじゃなく、俺もその事を否定はしない。…あの魔法の産物めいた姿自体が変だと言われればその通りとしか言いようが無いが、そういう意味じゃなく…何となく、立ち回りがどうにもディフェンスに回っている気がしてならない。俺の知る限り、あの男は完全にオフェンスに振り切れてた立ち回りをする奴だった気がするんだが。…まともに防御をしていた事があった気がしない。なのに今は、その逆。

 と。

「手を出しかねてるんでしょ、どうせ」

 不意に子供の声がした。秋白。…気が付いたらすぐ側に、ふわっと降り立つ形で…何だか不機嫌そうな貌でぼやいている。
「全部台無しだよ。『灼熱の朱鳥』が勝手に『起き』てるなんてっ」
 どういう意味だそれ。
「…わかんなくていいよ。もうこうなっちゃったら失敗してるようなもんだし」
 失敗の結果が目の前のコレって事か?
「そう。…ああもう、このままじゃ『灼熱の朱鳥』も長くは保たないしっ」
 吐き捨てるようにぼやきつつ、秋白はまたふわりと跳躍し、舞い狂う灼熱の炎から軽やかに逃れている――直前まで秋白の居た位置を、朱夏の方の炎がぞろりと舐めている。いるが、その事自体には秋白は動じている気配は無い。
 黒い着流しの男の声がした。
「…てめぇが秋白なんだな。訊きてぇ事は山程あるが…朱夏に何しやがった」
「うるさいな、今それどころじゃないんだよ!」
「何だと」
 着流しの男が憤ったところで、今度は焼け爆ぜた瓦礫が割って入って来る――また、悠長に話している場合じゃなくなる。秋白は相変わらずやけに軽い身のこなしで悠々と飛び退り、女の方は咄嗟に光の壁を作って防御に入っている。…そろそろ息を切らしている。まぁ確かに、幾らそんな力を持っていたって…アレに対抗出来るレベルの出力をここまで乱発すればバテもするだろう。そもそも、俺が見ている以上の回数――俺が来る前から使ってた可能性だってあるし、それなら尚更そう思う。
 と、俺がそう考えたのがわかったのか、壁作ってる当の女の声がした。
「…っと、これってあたしのじゃなくて慎十郎さんの力なんだけどね」

 ?

「つかお前の術を編むやり方と集中が無きゃここまでやれてねぇだろ。そろそろ辛ぇか」
「大丈夫。まだ行ける」
 …何の話。
「説明してる余裕がねぇ。早く言や、おれん中に蓄えられてる力引き出して舞姫が…この舞が使ってるってところだ」
 おれ自身じゃ使えねぇんだが、生きてる奴なら一度おれに触れて意識してりゃ誰でも使える。…説明している余裕が無いとか言いつつ着流しの男――多分そっちの名前が慎十郎――はそこまで続けるが、言っている側からまた、さっきの圧力染みた炎がまた来た。そしてまた女――多分こっちの名前が舞――がすかさず同じようにして守っている――何だか切りが無い。と言うか、これが続けば舞と…今の話からすると慎十郎もなのか? の方がいずれ潰れるだろと想像が付く状況。
 舞とは違い、どう見ても朱夏の方は――消耗しているようには全く見えない。「あの」龍樹と似たような感じだと想定するなら、まず底が無いんだろうとも想像が付く。そして見た目からして張り合えそうで、事実今も朱夏の真正面に出てはいる当の龍樹の方は――秋白曰く何やら朱夏に手を出しかねてるんじゃないかとか言っていた。…いや、そもそもその秋白だって手を出しかねてるようにしか見えない。こいつが何を仕掛けようとして何を失敗したんだかは知らないが。何にしても秋白だって今の状況は望んでないって事なんじゃなかろうか。
 そして駆け付けた筈のもう一人は――蓮聖は何処だ? 思いつつ姿を捜したら…あろう事かこの状況下で、瓦礫の狭間で殆ど棒立ちになって突っ立っているのが見えた。

 は? と思う。



 …ちょっと待て。

 何やってんだ。と軽く焦る。…あの蓮聖でそれか。いつもの思わせ振りかつ裏の裏まで読んでるみたいな超越的な余裕の態度はどうした。あの女の状態がそれ程ショックだったって事か? それにしたってもう少し何とかならないのか。あんたがそのまま燃やされたら色々取り返し付かないんじゃないのか。あんたがそれで良くても見てる方としては全然良くないんだが。…多分俺だけじゃなく他の連中も。蓮聖の事が凄く嫌いなんだろう秋白だって――何故か蓮聖に攻撃は仕掛けてなかったし、その蓮聖があのまま燃やされでもしたら、秋白の思惑からだって外れるんじゃなかろうか。
 朱夏だって龍樹だって、手前の炎で蓮聖焼くなんて望んでるとも思えない。思えないが朱夏の様子は変わらない――そろそろ、龍樹が朱夏の力をある程度抑えてるんだろう事だけははっきり言えると思う。その事だけは俺の知覚でも見ていて判断が付く。付くが、龍樹はどうにも消極的に朱夏の炎を受け止める以上の事はやろうとしない――何となく、奴にしてみれば却って難しい事をしている事になるんじゃないかと思うんだが。俺とやり合った時のアレを考えると、その気になればかなりの応用を利かせられるだけの力も持っているんだろうに、何故か、やらない。もどかしい。

 いいかげんにしろ――やや癇癪気味にそう思ったのと、棒立ちの蓮聖の方に意識が向いたのが殆ど同時。何故かふと、気になった。気になったその時その瞬間には、まだ特に状況が劇的に変わった訳でも無く、それまで通りの状況でしかなかった。…なかったが。
 ヤバいと思った。考えるよりその直感の方が先だった。身体の方が動いていた。さっき、慎十郎が言っていた事が頭に過ぎる――良くわからんが、『条件』を満たしてはいる、と思った。なら、このくらいなら俺でもやりようがあるかもしれない。最早、理屈も何も吹っ飛ばしての話だが――ただ、『行ける』と思った。
 だから、俺は一気に蓮聖に向かって突進した。間に合うか。自問する――自問する間に到達、いや到達したと言うより殆ど体当たりする形になった。そこで。

 やけに明るいオレンジ色の――朱夏の炎が、来た。



 …良くこんな面倒臭い無謀な真似をやる気になったな、と後になって思う。今の朱夏の炎は、完全に蓮聖に直撃する上に逃げ場も無い軌道だった。俺はそれが放たれる直前、殆ど勘の領域で気付けていたんだろうと自覚する。それで――あの無防備なところに当たったらあの蓮聖でもヤバくないか? とそう思ったのと殆ど同時に、俺でも何とか出来そうな手段があるんじゃないか――そして気付いてるのはひょっとして俺だけじゃないのか? と身体の方が先に判断して動いていた気がする。
 つまり、舞がやってたアレ。体当たりする勢いでぎりぎりで蓮聖の前に出て、迫る炎を叩き返すようなつもりで自分の剣を揮う――その軌跡に沿って、そこから舞が作ってた光の壁とよく似た力が一気に生まれる。…よし、と思う。出たとこ勝負だったが、成功の手応えはあった。…事実、俺も蓮聖も炎に呑まれていない。

 背後で蓮聖が何処か呆然と俺を見ている気がする。慎十郎や舞も…他の連中も、何かぎょっとしたようなそんな気配があった。秋白も俺を見た。朱夏は、わからない。相変わらず、その目に意思があるのかすら読めない感触。龍樹は――こちらの状況に一応気付いてはいるようだったが、朱夏の炎を抑える方で手一杯な感じで、そちらに重点を置いているようだった。…確かに、多分今龍樹が朱夏を抑える手を緩めたら、ただでさえキツいところがもっとキツい事になるのは目に見えている。目に見えているが…そもそもそれ以前に、もっとどうにかならないのか、とも思うんだが。

 そう。

 あの女が生きているのか死んでいるのか知らないが、あんたら何の為にわざわざここに来た。あの訳わからん三つ巴中断してわざわざ飛んで来ておいて、結局、碌に何にもしないでウダウダやってるって何なんだ。もう結構暴れたしそろそろ話し合え、なんか色々相容れないんだろうがそんな事より今は結託してこのなんか燃えている女をどうにかしろ。蓮聖も秋白も。龍樹もさっきから凄くやり難そうに見えるんだがもっと他にやりようがあるんじゃないか。これまでに俺が見て来たあんたらの力ならまともにやりさえすればどうにか出来そうな状況の気がするんだが。

「…暴れたいならこの状況をどうにかしてから改めてやれ」

 そもそも『当事者』のあんたらがやらなきゃならない事じゃないのか。
 思ったより低い声が出た。声に出してない部分の考えも勿論伝えるつもりで――届くなら届いていて欲しいとは思っている。…その方が色々と改めて話す面倒が無い。
「結託してって…無茶言うねお兄さん」
 秋白の声がした。じろりとそちらを見る。…何が無茶。
「やっぱり手綱こっちに戻せないし、力尽く以外にやりようないよ、あれ」
 どういう意味だ。
「あーもうえぇっと、今のあの子はボクの一部なんだよ。それで、獄炎の魔性と潰し合わせて「あいつ」を揺さぶろうと思ってたんだけど、そうする前にボクの手綱から勝手に外れちゃって、力の箍も外れてる感じ」

 …。

 何だか良くはわからんが…無難に何とか出来る状態では無さそうだ、とだけは取り敢えず呑み込めた。
 そして同時に、力尽くなら何とかなりそうではあるらしい。
「…止めるなら、殺せと?」
 蓮聖の声がした。
「そういう事。…できる?」
「…」
 秋白の声に、蓮聖はすぐに答えない。龍樹も多分、聞こえている――おい、と咎めるような慎十郎の声もした。そりゃあねえだろ、そんなのって、とも続く――舞の声もする。…俺も同感である。死にたくもないが、誰かが死ぬのも見たくない。
「あっそ。ま、どうするにしても、殺す気で掛からないと難しいよ。今の彼見てればわかると思うけど」
 彼――龍樹。…確かに、秋白の言わんとする事はまぁわかる。抑え続けるだけでは先が見えない。殺して解決しろとは思わないが、だからと言って別に力尽くで動くなとも思わない。そもそもあの朱夏の物理的な燃えっぷりを見る限り、いつぞやの龍樹と同じくそう簡単に死ぬ気はしない――むしろ、何か力の箍が外れてあの状態って事は、殺す気でも何でも力尽くで止めてやった方が、あの女を「助ける」と言う意味でもまだ可能性があるんじゃないかと思うんだが。
 そこまでの考えを他に伝えるつもりで誰にともなくぶつける。俄かに俺に他の連中の視線と意識が集中する。少しして、蓮聖が細く息を吐き、大薙刀の柄を握り直すのが見えた。秋白も不本意そうだが、次の動きの為に構え直している…ような気がする。龍樹も一度、こちらを見た。…厳しい目をしてはいたが、反対と言う風じゃない、と思った。
 よし、と思う。…多分、事は決まった。

 その時点で、気のせいか――どういう訳か、燃えている女が微笑んだ、気がした。



 ついでに、妙な声も聞こえた気がする。

 現実味の薄い、遠い声。…誰も汝を認めぬのならば、不死鳥の名に於いて汝を認め、茨の夢へと導こう。炎の内より何度でも甦るが我が印。生と死の狭間に惑う者、汝の守護を担い、汝の心に応えよう。何かの口上でもあるかのような、その声。

 しみじみ訳がわからんが…今目の前にある状況と関係ある『誰か』――『何か』の声かって気だけはした。
 根拠も何も無かったが、聖獣か? と頭の中で閃く。
 然り、と肯定された気がした。
 とは言え俺の守護聖獣はバットな以上、何だか今の口上(?)とは合わない――ならば朱夏のって事か? とも思う。さっき秋白が多分今の朱夏の事を指して『灼熱の朱鳥』とか言ってたし、不死鳥と来れば――そんな聖獣も居たかと思うし。
 と。

 …汝、全き傍観者足るが故に、『声』を届かせる事が叶ったと見える。

 とか何とか、妙な事を言われた気がした。…いや声も何も俺はそもそも大して声に出して喋ってないのだが…と反駁し掛けるが、そういう意味じゃないだろうともすぐに気が付く。
 つまり。
 この声が言いたいのは、「これまで完全に他人事で居た俺の言った事だったから、さっき三つ巴やっててここに来た三人に届いた」、って事か? と思う。思ったら、また肯定された気がした。
 当の三人は、今になって漸く、実際に行動に出て朱夏を止めようとしている。俺は戦力外と自認して一歩下がってそれこそ傍観している立ち位置だが、その三人が動いている状況は勿論、見えている――と言うか、状況からしていつ巻き込まれるかもわからない訳だし、この局面で目を離すような悠長な真似は出来ない。

 …その筈、だったのだが。

 何故そうなったのかの経緯が見極められない状態で、彼らの動きが、不意に止まっていた。



 蹴りが付いたのか? と、一応構えたままの態勢ながら、殆ど反射的に状況の分析を試みる――が、実際よくわからない。…結託して何とかしろと伝えてから、蓮聖と秋白が朱夏の前に出ているのは見えていた。龍樹は主に炎を抑える役回りになっていたと思う。その三人が、朱夏と何合か撃ち合っているのも見えた。龍樹みたいに炎で作った刀を使う場合と、炎そのものを魔法みたいに使う力で。三人同時に相手に回して。

 そんな中、不意に、眩い程の光の勢いが弱まったかと思うと。
 風に煽られるようにして荒れ狂っていた炎の舌は、どういう訳か、嘘のように掻き消えた。

 そして――灼熱の炎が消えたそこには、何故か――誰の姿も残ってはいなかった。

 朱夏、すらも。

 消えていた。
 …何がどうなったのか、俄かに状況がわからない。確か、前に龍樹もこの手の消え方をした事はある。倒してしまった事になるのか何処かへ逃げたのか何なのか、判断が付かない結末。
 それでも。

 これで今この場で荒れ狂う炎が静まった事だけは、確かで。


【灼熱の朱鳥、収束(成功)】



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 登場人物紹介
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 ■3425/ケヴィン・フォレスト
 男/23歳(実年齢21歳)/賞金稼ぎ

■NPC
 ■朱夏

 ■舞
 ■夜霧・慎十郎

 ■佐々木・龍樹
 ■秋白

 ■風間・蓮聖