<PCシチュエーションノベル(ツイン)>
月桂樹の花を抱いて
ミルカ(3457)には最近習慣になっていることがあった。義父のディーク(3466)からもらった天使の形をした瓶にそっと口づける事。
この中には芍薬の香水が入っている。ミルカはこれを身に纏った事はない。宝物の様に大切に持ち歩き、眠る前と起きてすぐに口づけるだけ。
しかし、それも今日まで。
ミルカはお気に入りのワンピースに袖を通し、手首と首筋にそっと香水をなじませた。そしてショールを羽織る。
その衣擦れの音を、布の質感を、芍薬の香りを感じながらミルカは思いだしていた。義父の言葉、笑顔、温もり……思い出せば思い出すだけ穏やかな笑みが口元に生まれる。
それはずっと続くと思っていた。ずっとそばにいたくていられると思っていた。だからこそ『いいひとはいないのか』と言われた時、世界が終わるような気さえした。一生懸命考えて「結婚したい」と告白をした。告白のつもりだった。でも、返事をもらう事すら出来ないままこの香水がやってきた代わりに義父との距離は離れた。
「このままはいやなの」
だから、義父がくれた芍薬の香水に、天使の瓶に祈りを込めて口づけ続けた。
どこかの国で芍薬をすきな女性に毎晩1本づつ毎日贈り100本になったら結婚する約束をしたと言う話がある。その結末は知らない。知りたくない。ミルカはそう思っている。
ただ、そんな話があるなら、義父のくれた芍薬の天使に100回祈りと口づけを贈ったら、ずっと側にいられるんじゃないか。夢見がちな少女が考えるような願いを思いついただけ。そしてこれが100回目。
そっと最後の口づけをして、瓶をいつも通り割れない様にしまう。
「おとん。少しいいかしら」
「ん?……ああ、ならお茶にしよう」
ディークは少し考えてから頷いた。香水を買った店を出た後、義娘への接し方をずっと迷っている。やはり上手く接することが出来る気がせずはぐらかそうとしたが、ミルカのまっすぐな瞳に逃げることをやめた。そうしてしまったら全てが終わる気がしたのだ。
紅茶とお菓子を準備し向かい合って座るが、ディークは目を伏せ、ティーカップに視線を投げつつけていた。
「おとんは……あたしのこときらいになったの?」
暫くの沈黙の後、震える小さな声がディークの耳に届いた。はっと顔を上げると、白い肌を涙が伝っていた。ディークは言葉を詰まらせる。
「あたしはおとんがすきよ?ずっと側にいたいし、あたしのとなりもおとんのとなりもほかの人じゃいやだわ。でもおとんは『いい人はいないか?』って……だから結婚したいって、おとんがあたしのいい人よって……いったのよう」
言葉と共にミルカの大きな金の瞳から涙がこぼれる。
ディークは静かにそれを聴いた。聴くしかできなかった。ミルカの言葉に嘘はないと思ってきたし、今もそれは変わらない。だから、自分が彼女を傷つけ、涙を流させていることも痛いほどわかった。その自分に彼女の涙を止める事は出来るなら、話を聴いてやることが先だろうと思ったのだ。
「すまなかった。そんなつもりじゃなかった」
ミルカの言葉が途切れ、話が終わったのだと判断してからディークは口を開いた。ミルカはちゃんと気持ちに向き合ってそれを教えてくれた。今度は俺の番だ。そうディークは覚悟を決めた。
「……俺もおまえと一緒にいたい」
「じゃあ!」
「最後まで聴いてくれ。おまえは俺を男としてすきだと言ってくれている。だが、俺はあくまで父としておまえを愛している。おまえの気持ちと一緒じゃない。これから先ミルカに俺より特別な、すきな相手が出来たらそいつと一緒に添い遂げてほしいと思ってる。そうなっても、俺の傍にミルカがいなくなっても、俺はずっとそれこそ一生おまえを愛しているし、世界で一番大切だ」
今まで沈んでいたミルカの声が一転して明るくなる。彼女の言葉を制しディークは続けた。理性的な彼らしい言葉だったが、その言葉にも想いにも嘘はない。
「あたしはおとんのそばにいていいのね?きらいになったわけじゃなかったのねえ」
ミルカは涙のたまった瞳のまま満面の笑みを浮かべこう続けた。
「そういうおとんだからあたしはすきなのよう」
閉じられた瞳から涙が溢れ再び頬に伝ったが先程まで涙とは違い、日の光にきらきらと輝いて、まるで天使のようだとディークは心から思った。
「そうねえ。あたし、きめたわ。おとんのそばにずっといる」
世界一の義父にふさわしい女性になって、義父が他の女性なんか目に入らない様に。俺のとなりはミルカがいいと言ってもらえるように。
「他にすきな人ができるまでいてほしいっておとんも言ったものねえ」
いたずらっ子の様に、無邪気な子供の様に話す娘に少し目を細めディークは答える。
「確かにそう言ったな。ならその間にしっかりと色々教え込まないとな」
「色々ってなによう」
「とりあえず料理だな」
「おとんのごはんは美味しいんだから、これからもおとんがつくればいいと思うわ」
「それじゃ、勉強にならないだろ?」
そういうディークの表情は柔らかい。久しぶりにこんな柔らかい義父の表情をミルカは見た。それは、ずっと見たかった、彼女の大好きな彼の表情だった。ミルカは安堵と喜びでますます笑顔になっていく。
やっと以前の様な、いや以前より柔らかくて温かい空気が2人を包んだ。
「おとん。じゃあ約束してくれるかしら」
「約束?」
そっと、小指を出してくる義娘の指に指を絡めながらディークは不思議そうに尋ねる。その瞬間、芍薬の華やかで甘い香りが香った。成熟しきっていないけれど、艶やかで若々しい乙女の香り。と言えば大げさかもしれないが、ミルカそのものを示す香りの様にディークには感じられた。
「おとんがあたしの特別でいるあいだは、ずっとそばにいて欲しいって」
唐突な言葉にディークはきょとんとしたが、すぐに微笑んで指を強く絡めなおした。そんな日が来るとはお互いに想像もつかなかったので、それが破られることはないんだろうと思ったが、ちゃんと口に出して伝えることは尊いことだ。
「初めて会った時、真っ暗闇の中からあたしを救い出してくれたおとんは、真っ直ぐ差し込む一筋の光に見えたの。おとんはね、いつだってあたしを照らしてくれるお日さまで、暗い夜道を導いてくれるお星さまなのよ」
その夜、星を眺めながらミルカがそう語ったが、ディークはそれはこっちの台詞だ。と内心思った。
全てを失い、悪に、闇に染まった彼を光の下まで連れ出してくれたのは、目の前に可愛らしい、愛おしい白銀の少女なのだ。彼女がいたからここまで生きてこれた。かのじょがいるからこれからも生きていける。
「そうか。そう思ってくれてありがとう」
心からの言葉だった。
「ないな」
「そうねえ」
後日、2人はとある店を探して街中を歩いていた。
2人にきっかけをくれた不思議な店。しかし、一向に見つからないどころか街の人に聞いても知らないと首を横に振るばかり。まるで魔法のようだ。
「お礼が言いたかったのだが」
「ねえ、おとん。今度の旅はそれにしたらどうかしら?」
「それ?」
「あの店主にお礼をいう旅よう」
元より目的地のない旅。そういうのも悪くない。ディークは頷いた。
そして、2人の幸せな旅は続いていく。
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【3457/ミルカ/女性性/外見年齢18歳/星の様な芍薬】
【3466/ディーク/男性性/外見年齢38歳/太陽の様なストック】
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お久しぶりです。今回もご縁がありましたこと大変うれしく思っております。
常に隣にいたお二人が離れずに寄り添っていける様にと願いながら書かせていただきました。タイトルには不躾ながら私からのお祝いの言葉を使わせていただいております。
お気に召されましたら幸いですが、もしお気に召さない部分がありましたら何なりとお申し付けください。
今回はご縁を頂き本当にありがとうございました。
どうか末永くお幸せに。
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