<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


『エルザード祭〜いつまでも〜』

 その日は暦の上では普通の1日だった。
 澄み渡る青空が広がるその日。聖都エルザードは特別な日となった。
 天使の広場を中心に『エルザード祭』が開
催されたのだ。

 天使の広場に設けられた舞台では、さまざまな催しが行われていた。
 お昼過ぎ、皆が昼食を終えた頃には、舞台で楽団の演奏が始まり、集った人々が楽団の演奏に合わせて踊り始めた。

「美味しい!」
 魔女のレナ・スウォンプが目を輝かせる。
「まさか屋台でこんな本格的な料理が楽しめるとは〜」
「豪華すぎるおやつだね」
 並んで座っているのは、半透明な姿のマーオ。
 マーオは精神体の、いわば幽霊のような存在で普段は人や物をすり抜けてしまうのだが、集中をすれば人と同じように物を掴むことも出来るのだ。
「一口とは言わず、コースで食べたいわ〜。ワインも最高!」
 レナが食べているのは、一口サイズの煮込みハンバーグに豚の角煮。
 濃厚な味わいが、口の中でとろけて広がっていく。
 2人は既に様々な屋台を回り、料理やお酒、催しを楽しんできた。
 祭りの雰囲気の効果もあり、どれもこれもとても美味しかったが、その中でもこの屋台の料理は格別だ。
「マーオもそんな格好だと、年相応……には見えずとも、10代後半くらいには見えるよ、うん」
 店主は近くの料理店のシェフで、マーオもレナも良く知る人物だった。
「10代後半かー。レナさんとは釣り合ってる?」
 マーオはブラウンのタキシードを纏っていた。多少大人っぽく見えるが、それでも年相応には見えないようだ。
 本当は20歳のレナよりずっと年上だけれど、マーオの外見は10代半ばくらい。記憶もそれくらいまでしかない。
 レナはキラキラ輝くストーンが散りばめられた、華やかな黒と白のドレスを纏っており、大人びた美しさを醸し出していた。
「2人共神秘的なカンジで、姉弟のように見えるよ」
「ありがとう! それじゃレナお姉さん、そろそろ行きませんか?」
 マーオが屋台の暖簾を上げると、広場でダンスを楽しむ人々の姿が見えた。
「随分賑わってるわね。ええ、私たちも混ざらせてもらいましょう。美味しかったわ、ありがとね」
 レナは店主に礼を言って代金を払うと、マーオと共に広場のダンス会場へと歩いて行った。

「レナお嬢様、それでは一曲よろしくお願いいたいます」
 少し気取った仕草で、マーオはレナに手を差し出した。
「ふふっ、よろしくねマーオ」
 微笑みながらレナはマーオの手をとり、楽団が奏でる音の波に乗ってワルツを踊り始めた。
 マーオの金色の髪と、光を浴びて金色に輝くレナの髪も共に美しく舞う。
 レナのドレスはひらひらと優雅に回り、見学者たちをも楽しませていった。
「王子様とお姫様みたいね」
 誰かの声が二人の耳に入り、マーオとレナは顔を合わせて笑みを浮かべた。
 続いて、クイックステップ。
 楽しく軽快な音楽に、2人の心も踊っていく。
「こういう曲好きだわー」
「とっても楽しい気持ちになるよね」
 軽快なステップで、楽しく弾けるようなダンスを披露していく。
 その曲の中盤。ダンスのスピードが上がった時……。
「よおよお、ねーちゃん。楽しそうじゃねーか〜。お兄さんとも踊ろうぜぇ〜」
 割り込むようにして、酒樽を持った男が入ってきた。
 進路をふさがれ、マーオとレナの足が止まる。
「ねーちゃん、美人だねー。お兄さんゾクゾクしてるよ〜」
 その男は派手なアクセサリーと服を纏っていたが、どれも安物のようだった。
「あんちゃん、つかれてへろへろだろ? あとはおにーさんに任せて任せて!」
 むしろ酔っぱらってヘロヘロなのはその男性の方である。
「いえ、僕は疲れたりしてないけど……」
 そういえばそろそろパートナーを変更した方がいいのかなと、マーオはレナに目を向けた。
 レナはにこにこにこにこにこにこにこにこ、どこか凄みのある笑みを浮かべている。
「そうねー。でもあたしとしては、一緒に踊るんじゃなくて、激しく踊るおにーさんの姿が見たいかなーふっふっふっ……」
「よし、俺の踊りを見せてやろう〜。その前に、一緒にチークタイムだぁ〜♪」
 にへら〜と笑って、酔っ払いがレナに飛びついてきた。
「はっはっはっ、寝言は寝てからにしなさいッ」
 黒い笑みを浮かべながら、レナは飛びついてきた酔っ払いに魔法発動!
 ぽーんと酔っ払いの体が浮かび上がって、くるくる回りながらお空に上がって。

 どっかぁぁぁぁぁぁーーーーーん!!

 空の上で、何かが弾けた。
「レ、レナさん……何か爆発したみたいだけど」
 マーオが驚きながら、恐々尋ねるとレナはすっきりしたような笑みで答えた。
「大丈夫。服を吹き飛ばして、身体を湖に飛ばしただけだから。……衝撃で酒樽が爆発しちゃったみたいだから、体もちょーっと燃えちゃったかもね」
 空を見上げる人々の元に、花びらと共にカラフルな布の破片や、ラインストーンが舞い落ちてくる。
「今のはちょっとした演出よー。さ、次の曲、お願い。明るい曲がいいわ!」
 レナの言葉に会場が沸いていく。
(火傷したとしても、湖に落ちたのなら大丈夫なのかな? も、もしもの時は、僕の仲間として迎えよう、うん)
 そんなことを思いながら、マーオはレナの手を掴み、続く曲を踊り始めた。

 明るい曲が流れ、大人も子供も、ダンスを知らない人々も、人間も獣人も精霊たちも。
 楽しく弾けるように、爽やかな汗を流しながら踊っていく。

 祭りはいつまでも終わらない――。