<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>
『ファムルの診療所β〜お帰りなさい〜』
ファムル・ディートの診療所に、双子の姉妹が滞在していた。
姉のルニナが大病を患っており、治療を受けながらここで療養生活を送っていたためだった。
夏が近づいた頃。
妹のリミナはアルバイトで稼いだお金で、車椅子を購入した。
そして、数々の日用品と数日分の食糧も。
「大変お世話になりました。お礼も出来ず、申し訳ありません。姉が元気になってから、少しずつ、お返ししていきたいと思います」
見送りに出て来てくれたファムルに、リミナは深く頭を下げて感謝する。
ルニナとリミナ、そして千獣も一緒に、今日、新たなカンザエラの街へと帰ろうとしていた。
「まだ少し早いんじゃないか? いいんだよ、妹さんの方だけ残ってくれても」
「なんで、リミナの方だけなんだよ。病人は私でしょーが!」
ペシッとルニナがファムルにツッコミを入れた。
「君はほら、カンザエラの人達をまとめるのに必要な人材だと聞いてる。だから、今後の治療の相談とか、病状の報告や、処方した薬の受け取りや、この家の家事といった仕事がリミナにはあるわけで!」
「ここの家事はリミナの仕事じゃなーい!」
ベシッとまた、ルニナがファムルを叩いた。
「……薬や、手紙を持っていくの、私が、出来る……」
千獣が言うと、ルニナは今度はペシペシとファムルの腕を叩く。
「というわけで、リミナはもうここに来る必要ないから。さーよーうーなーらー♪」
「ルニナ、そんな言い方ないでしょ。私これからもエルザードで働かせてもらったり、姉の治療の相談に伺うと思います。引き続きどうかよろしくお願いいたします」
再び頭を下げたあと、リミナはルニナの耳を引っ張る。
「ほら、ルニナもちゃんとお礼を言いなさい。本当は凄く感謝してるくせに」
「あー……う、ん。まあ、感謝はしてる。迷惑もとてもかけたと思ってるよ。アリガト。でもさ、こういう真面目なの苦手だろ、アンタも」
にかっとルニナが笑うと、ファムルもふっと笑みを見せた。
「そうだな。またな」
そう2人に言ってから、ファムルは千獣の頭に手を乗せた。
「2人をよろしくな」
千獣はこくりと頷いて、ルニナ、リミナと共に馬車に乗って2人の新たな故郷に向ったのだった。
* * * *
自由都市カンザエラから移住した人々が暮らす、新たなカンザエラの街は、聖都エルザードから少し離れた場所に存在する。
彼らが元々暮らしていた土地からはさほど離れていないが、環境は随分と違った。
聖都エルザードの助けもあり、新たな街までの道は随分と整えられていたが、街の中はまだ開拓の最中である。
「ただいま!」
「ただいま、戻りました」
「……久しぶり……」
出会った人々に、ルニナ、リミナが挨拶をし、千獣も2人に倣う。
「みんなー! ルニナちゃんたちが戻ってきたよーーーー!!」
街の人々は突然の帰還に驚き、仕事をしていた人も、自宅にいた人も顔をだし、3人の帰還をとても喜んでくれた。
(……街、少し変わった……でも、聖都とは違う……静かで……)
この街には何か足りないなと、千獣は思う。
聖都の周辺にも、さまざまな街がある。
活気にあふれた街や、自然あふれるのどかな街。
なんというのだろう。どちらの街も――命を沢山感じる。
でもなんとなく、この街には命の力というのが、他の街より弱い気がした。
その日は3人とも疲れているだろうから、帰還を祝うパーティは次の集会の時に行おうと、街の人たちは相談していた。
「煮物作ったの、食べてね!」
「今日釣ったばかりの魚だ。ルニナちゃんにあげるよ」
家に戻った3人を訪ねて、街の人たちが代わる代わる訪れる。
「ありがとうございます。よかったら、こちらの乾物持って行ってください。聖都で沢山いただきましたので」
リミナは頂き物をするたびに、聖都から持ってきたものを街の人に渡していた。
(みんな、沢山食べるもの、あるわけじゃないのに……私たちに、親切にしてくれる……)
リミナが配っている食糧も、彼女が働いて稼いだお金で買ったものだ。
そうして、物を交換して生きていくんだなあと、千獣は考えていく。
2人が街の人々と話をしている間に、千獣は1人外へ出て、街の様子を見て回ることにした。
「ルニナが言ってた……聖都と物、交換して……つきあっていくって……」
カンザエラの復興の為に、自分は何が出来るだろうかと千獣は歩きながら考える。
この辺りは自然が豊かで、開拓をすれば作物が沢山とれそうだ。
そして、少し離れた場所には、生き物もいる。
一年を通じて、様々な食べられるものを採ることができそうだ。
「……聖都の街の中じゃ、作物は……採れない、から……」
気候を把握し、地理を把握し、生息する生き物を把握して。
自分はそうして、ルニナと街の人々の役に立てるのではないかと、思うのだった。
夜――。
家に戻って、食事を終えた後。
ルニナを先に休ませて、千獣はリミナと二人きりになった。
「千獣、ちょっと待っててね」
洗い物を手伝おうとした千獣に、椅子に座っているように言い、リミナは小箱を持ってきた。
「お帰りなさい。そして、ただいま、だね」
淡い笑みを浮かべて、リミナは千獣に小箱を渡した。
箱を開けた千獣は、驚きの表情を浮かべた。
箱の中に入っていたのは――リミナが大切に保管していたそれは、千獣の右耳の赤い耳飾りだった。
千獣が最初にリミナに耳飾りを預けたのは、フェニックスの神殿で危機に陥った時。
手元に戻ってきたそれを、千獣は再度リミナに渡してあった。
ザリス・ディルダの精神を滅する前に。
(……この、耳飾りは……)
耳飾りをくれた人のことが思い浮かぶ。
あの人の笑顔が思い浮び、目を細めた。
「さ、片付けしちゃいましょ。今日は早く休みましょうね」
リミナは千獣の様子を不安に思いながらも、努めて明るく振る舞い、流しに向かって行った。
千獣は耳飾りを見ながら考えていた。
このまま受け取って、耳につけようか。
それともやはり、リミナに持っていてもらおうか――。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【3087 / 千獣 / 女性 / 17歳 / 異界職】
【NPC】
ファムル・ディート
ルニナ
リミナ
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■ ライター通信 ■
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ご依頼ありがとうございました。
ライターの川岸満里亜です。
こちらは、エルザード祭より後の話となります。
ご参加いただける機会があと少しとなり、寂しいです。
千獣さんの決断をお聞かせくださいませ。
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