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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


『333の誘い(いざない)』
●オープニング【0】
『ねえ、知ってる? 周囲に333枚の鏡が並んだ場所で、全ての明かりを消したまま3時33分に1本のろうそくに火を付けると、鏡の中に自分の見たいことが見えるんだって!』
『僕も聞いたことあるよ! けど、333枚も鏡並べるなんて難しいよねー』
『私の友だちのお兄さんのそのまた友だちの従妹の人が、実際にそれを試して亡くなったそうです……』
『結局は合わせ鏡でしょう? 何だか胡散臭いよね〜☆』
『誰か実際に試した人! レポートしてよ!!』

「見ての通り、こんな話題が出てたんだけどぉ」
 振り返って、瀬名雫が言った。背後のパソコンの画面には、掲示板の書き込みが表示されていた。もちろん今のこの話題のである。
「333枚も鏡のある場所なんてあるの? こんなに集めるのも大変だし……ネットで検索すれば見つかるのかなぁ?」
 首を傾げる雫。きっと想像がつかないのだろう。
「……ところでぇ。これを実際に試すことができたら、どんなことが見てみたいと思う?」

●興味あり【1B】
 土曜日の昼下がり。黒髪で眼鏡をかけた青年、紫月夾はインターネットカフェに入り、パソコンを触っていた。細身に黒を基調とした衣服を着て、パソコンを操る姿は見ていて様になっている。
「ふむ、死斑がこう出るから……」
 パソコンの液晶画面を見ながら、ふとつぶやく夾。『死斑』なんて単語が出ているが、別に怪しい者じゃあない。夾は医学部法医学6年生のれっきとした大学生である。
 今、夾は教授からの頼まれ物を調べている最中だった。調べるのなら何もこんな場所で調べなくともよさそうなものだが、翌週早々までにと言われていたことを、つい先程まで忘れてしまっていたのだから仕方がない。で、とりあえず概要だけでも調べておこうと思い、何度か利用しているこのカフェに足を運んだのだ。
(忘れるとは俺らしくもない……。まあ、近頃『患者』が立て続けにだったからな)
 マウスを操作しながら、夾はそんなことを思っていた。もっとも『患者』と言っても、いわゆる病院に来るような患者ではないのだが……。
「ふう……」
 夾は一休みして、傍らのコーヒーカップに手を伸ばした。と同時に、近くの席に座っている少女の声が耳に入ってきた。今までも聞こえていたのだろうが、集中していたために自然に聞き流していたのだろう。
「周囲に333枚の鏡が並んだ場所で、全ての明かりを消したまま……」
 夾はちらりと声の聞こえる方に目をやった。パソコンの前に座っている制服姿の少女が、傍らに立っている別の制服姿の少女に何やら話して聞かせていた。
(確かあの制服は……)
 立っている少女が身を包んでいる制服に、夾は見覚えがあった。都内一の有名進学校の制服だ。大学に受験の下見に来ている姿を、何度か目撃していたからよく覚えている。
 夾はコーヒーを飲みながら、何とはなしに2人の少女の会話に耳を傾けた。どうやら怪談というか、都市伝説の類のような内容だった。
(鏡の中に見たい物が見える? ……鏡を使った呪術の類か)
 夾はカップに残っていたコーヒーを一気に飲み干した。
(こんなのを信じる程、馬鹿ではないが……気になるな)
 やがてパソコンの前に座っていた少女が、傍らの少女に何やら謝りつつカフェを出て行った。夾は自分の席から立ち上がると、残された少女に近付いていった。

●儀式の前【2】
 真夜中の寂れた倉庫街。立ち並ぶ倉庫の中の1つで、密かに動いている者たちが居た。
「わあ……すごーい!」
 滝沢百合子は感嘆の声を上げた。声が倉庫の壁にぶつかって反響する。
 百合子が何に感嘆しているのかというと、答えは床一面に並べられた鏡にあった。正しくは鏡の破片だ。
「333枚きっちり、さっき並べ終わったとこさ。鏡は彼が用意してくれたけれど」
 遠野一哉が百合子に説明した。その鏡を用意した紫月夾は無言で周囲を見回していた。
(あれっ? 確かカフェでは眼鏡かけてたんじゃあ……?)
 百合子は夾の今の姿を見て、ふと気付いた。カフェで会った時には眼鏡をかけていたが、今はかけていない。服装は白衣を1枚上に羽織って黒革の手袋をしている以外、さほど変わりがなかったが。
 ちなみに今の百合子の服装は、さすがに制服姿ではなく、動きやすい衣服に着替えており、何故か竹刀を持ってきていた。
「それは?」
 気になって一哉が尋ねた。彼1人だけ、昼間の格好のまま変わっていない。
「護身用です。もし変な物が見えたら、これで壊してやろうかと思って。これでも有段者なんですから、私」
 笑顔で百合子が答えた。
 ところで、この3人がどうしてこんな時間にここに居るのかを説明するには、少し時間を戻して話さなくてはならない。
 雫がダメでどうしようかと思案していた百合子に、ほぼ同時に声をかけたのが夾と一哉であった。2人とも、雫と百合子の会話を耳にし興味を持ったのだ。
 簡単に自己紹介を済ませ、今回の話の真偽はさておき3人は具体的な策を話し合った。実際に試してみれば、全てはっきりするのだから。
 そこで出た意見が、夾の言った『大きな鏡を砕いて333枚作ればいい』というものだった。大きさにこだわらないならば、これが一番簡単な方法だ。特に異論も出なかったので、3人はこの方法を使うことに決めた。
 この場所は夾が知り合いから借りたらしい。『らしい』と言うのは、本人が詳しく語らないからだった。
 そして大きな鏡を何枚か買い入れ、砕いて333枚用意したのだ。ここまでの作業を夾が1人で行っていた。
 遅れて一哉が倉庫にやって来て、2人で鏡を並べる。で、最後に百合子が来て、先程の言葉が発せられた訳だ。
「作業、本当にご苦労様でしたっ!」
 百合子は2人に元気よくお辞儀をした。一哉は照れた笑みを浮かべ、夾は表情を変えずにいた。
「大きさや並べ方って、これでいいんだろうか……」
 つぶやく一哉。鏡の破片は3人が座る部分を中心として空け、それを取り囲むように雑多に並べられていた。破片の大きさもまちまちである。
「……さあな。大きさ等が決まってるのなら、どうしようもない」
 夾が一哉のつぶやきに答えた。
「今何時なんだろ……」
 百合子は家から持参した携帯ラジオの電源を入れた。
「……時刻は午前3時を回りました。今夜のお相手は星野レミがお送りしております。さて、目に見える物が全て正しいとは限りませんが……」
 小さなスピーカーから、ラジオが喋り出す。問題の時刻まで約33分――。

●午前3時33分【3】
 明かりの落とされた倉庫内で、1本のろうそくに火が灯された。時刻は午前3時33分ジャスト。ろうそくの炎に浮かび上がる3人の顔には緊張の色があった。
 果たして何が起こるのか。そう思った瞬間、目の前の鏡の破片から天井に向けて一筋の光が放たれた。
「!」
 驚き、天井を見上げる百合子。しかしこれで終わりではなかった。むしろ始まりの合図に過ぎなかった。周囲の鏡の破片から、次々に天井に向け光の筋が放たれる。
 光の筋は次第に太くなってゆき、1つの巨大な光として集束されてゆく。そして――激しい閃光が起こった。

●我が罪は常に我が前にあり【4B】
 激しい閃光に思わず目をつぶる夾。そして閃光が収まったのを気配で感じ、ゆっくりと目を開く。
「!」
 夾は目の前の光景を疑った。そこには夾自身が立っていたのだ。いや、夾は自分自身であるのだから、寸分違わぬ姿で目の前に居るのは何者なのか?
「何を戸惑っているんだ?」
 目の前の『それ』が口を開いた。
「……何者だ?」
「そんな言い方はないだろう、お前自身に向かって」
 『それ』がニヤリと笑った。夾ならまずしない、卑しい笑みだった。
「今までどれだけの『患者』を相手にしてきた? 最期の声が、耳にこびり着いてるよな? なあ?」
「…………」
 同意を求める『それ』に対し、夾は何も答えなかった。
「お前を連れてこいと、『患者』たちが向こうで寂しがってるぜ!」
 『それ』がそう言い放った瞬間、夾は横に飛んだ。今まで夾が立っていた場所から、鈍い音が聞こえた。
 舌打ちする『それ』。見ると手には鋼糸が握られていた。先程の物音はこれだったのだ。
 反撃する夾。夾の鋼糸が『それ』の首を目がけて放たれる。だが『それ』はぎりぎりの所で身をかわし、右頬を擦る程度で鋼糸から逃れた。
「はっ! 散々他人の生命を奪っておきながら、自分の生命は惜しいかっ!」
 笑みを浮かべ叫ぶ『それ』。夾は『それ』を睨み付けた。赤い瞳が妖しく光った。
「おっと、俺にはそれは効かないぜ。何たって、お前自身だからな」
 『それ』がニヤリと笑う。
「……言いたいことはそれだけか?」
 夾が普段と変わらぬ声で言った。慌てている様子は見られない。
「333枚の鏡、1枚でも欠けるとどうなるか……俺なら分かるだろ」
 夾がそう言った瞬間、『それ』の顔色が変わった。夾は目を閉じると、精神を集中させた。
「やめろっ! やめてくれ!」
 叫ぶ『それ』。けれども、夾の動きは止まらなかった。
「そこだっ!!」
 何もない空間に、夾の手から鋼糸が放たれる。そして――何かが割れる物音がし、再び激しい閃光が起こった。

●現実と幻覚の狭間で【5】
 2度目の閃光が収まった後、倉庫は静けさに包まれていた。暗闇の中、3人は周囲を見回した。ろうそくの炎には、3人の姿しか浮かび上がらなかった。
 夾が倉庫の明かりをつけに行き、倉庫内が一気に明るくなった。鏡の破片は変わらず床に並べられ――いや、1枚だけが粉々に砕け散っていた。夾の仕業だった。
 この呪術は333枚の鏡が並べられているからこそ成り立つのだ。ならば1枚でも欠けたなら、呪術が成立しなくなることは自明だ。
「あれが私の見たかった物……?」
「……響子……」
 頭を抱えながらつぶやく百合子と一哉。あれは本当に起こった出来事なのか、それとも全くの幻覚だったのか……?
「幻覚だろ、馬鹿馬鹿しい。恐らく、集団ヒステリーに陥った上での幻覚だ。オカルト絡みでそんなケースはよく報告されているそうだしな」
 小さく溜息を吐き、夾が言った。
「……あれ? 右頬、どうかしたんですか?」
 何かに気付いたのか、百合子が夾に尋ねた。右頬を手で押さえ、夾はその手を見た。
 黒革の手袋に、赤黒い血がこびりついていた。

【333の誘い(いざない) 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 PC名(読み) / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 紫月・夾(しづき・きょう) / 男 / 24 / 大学生 】
【 滝沢・百合子(たきざわ・ゆりこ) / 女 / 17 / 女子高校生 】
【 遠野・一哉(とおの・かずや) / 男 / 25 / 店員 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で、NPCを姓で表記するようにしていますが、一部例外もあります。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全9場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の依頼ですが、調査するという意味では成功です。しかし、あと1歩という感じでした。どなたかが並べ方を調べていれば、また違った結果になっていたかもしれません。
・紫月夾さん、プレイング本当に惜しかったです。ですが、上手く動かれていたと思います。感謝。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。