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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


『333の誘い(いざない)』
●オープニング【0】
『ねえ、知ってる? 周囲に333枚の鏡が並んだ場所で、全ての明かりを消したまま3時33分に1本のろうそくに火を付けると、鏡の中に自分の見たいことが見えるんだって!』
『僕も聞いたことあるよ! けど、333枚も鏡並べるなんて難しいよねー』
『私の友だちのお兄さんのそのまた友だちの従妹の人が、実際にそれを試して亡くなったそうです……』
『結局は合わせ鏡でしょう? 何だか胡散臭いよね〜☆』
『誰か実際に試した人! レポートしてよ!!』

「見ての通り、こんな話題が出てたんだけどぉ」
 振り返って、瀬名雫が言った。背後のパソコンの画面には、掲示板の書き込みが表示されていた。もちろん今のこの話題のである。
「333枚も鏡のある場所なんてあるの? こんなに集めるのも大変だし……ネットで検索すれば見つかるのかなぁ?」
 首を傾げる雫。きっと想像がつかないのだろう。
「……ところでぇ。これを実際に試すことができたら、どんなことが見てみたいと思う?」

●想い出がいっぱい【1C】
 土曜日の昼下がり。遠野一哉はふらりとインターネットカフェに立ち寄っていた。百貨店の店員である一哉だったが、今日明日は有給を取っていた。だからこそ、稼ぎ時の週末でもこのような場所に居られるのだが。
 しかし、別にパソコンを触るでもなく、ただ普通に紅茶を飲んでいた。
(まただよ……)
 一哉は小さく頭を振った。
(忘れようとしてんのにな……これでも俺)
 一哉はここにネットをしに来た訳ではない。単に飲み物を飲むのなら、普通の喫茶店へ行けばいいだけの話である。だがここに入ったのには理由があった。女性がここに入ったから自分も入ったのだ。
 女性といっても、彼女ではない。見ず知らずの人間だ。なら、ストーカー? 全く違う。ただ引かれるように追いかけてしまったのだ。かつての彼女、響子の面影のある女性を。
 一哉が響子と別れたのは2年前。別れたと言うより、一哉が振られたと言った方がより正確だろう。俗に言う、性格の不一致というやつだ。
 振られた当初こそはそのショックも大きく、仕事でミスを連発してしまう等、生活への影響が大きかった。けれど2年だ。徐々にショックも薄れてゆき、響子のことなど忘れてしまった……と、自分では思っていた。
 でもそうではなかった。街中で、響子によく似た後姿を見るとつい反応してしまう。客として響子似の女性が来ると、言葉に詰まってしまう。今日みたいに、自然と後を追ってしまう……。心の奥底では、まだ響子のことを忘れられなかったのだ。
 このままではいけない、そう何度も思ってはいるのだが、なかなか思うようにはいかない。
(どうすりゃいいんだよ……!)
 うつむく一哉。と、そこに近くの席から話し声が聞こえてきた。少女の声だった。
「周囲に333枚の鏡が並んだ場所で、全ての明かりを消したまま……」
 一哉はちらりと声の聞こえる方に目をやった。パソコンの前に座っている制服姿の少女が、傍らに立っている別の制服姿の少女に何やら話して聞かせていた。一哉はそのまま2人の話に耳を傾けた。
(……鏡の中に見たい物が見えるだって?)
 何やら考え込む一哉。
(よし……!)
 意を決し一哉が椅子から立ち上がったのは、少女の1人がカフェから出て行った瞬間だった。

●儀式の前【2】
 真夜中の寂れた倉庫街。立ち並ぶ倉庫の中の1つで、密かに動いている者たちが居た。
「わあ……すごーい!」
 滝沢百合子は感嘆の声を上げた。声が倉庫の壁にぶつかって反響する。
 百合子が何に感嘆しているのかというと、答えは床一面に並べられた鏡にあった。正しくは鏡の破片だ。
「333枚きっちり、さっき並べ終わったとこさ。鏡は彼が用意してくれたけれど」
 遠野一哉が百合子に説明した。その鏡を用意した紫月夾は無言で周囲を見回していた。
(あれっ? 確かカフェでは眼鏡かけてたんじゃあ……?)
 百合子は夾の今の姿を見て、ふと気付いた。カフェで会った時には眼鏡をかけていたが、今はかけていない。服装は白衣を1枚上に羽織って黒革の手袋をしている以外、さほど変わりがなかったが。
 ちなみに今の百合子の服装は、さすがに制服姿ではなく、動きやすい衣服に着替えており、何故か竹刀を持ってきていた。
「それは?」
 気になって一哉が尋ねた。彼1人だけ、昼間の格好のまま変わっていない。
「護身用です。もし変な物が見えたら、これで壊してやろうかと思って。これでも有段者なんですから、私」
 笑顔で百合子が答えた。
 ところで、この3人がどうしてこんな時間にここに居るのかを説明するには、少し時間を戻して話さなくてはならない。
 雫がダメでどうしようかと思案していた百合子に、ほぼ同時に声をかけたのが夾と一哉であった。2人とも、雫と百合子の会話を耳にし興味を持ったのだ。
 簡単に自己紹介を済ませ、今回の話の真偽はさておき3人は具体的な策を話し合った。実際に試してみれば、全てはっきりするのだから。
 そこで出た意見が、夾の言った『大きな鏡を砕いて333枚作ればいい』というものだった。大きさにこだわらないならば、これが一番簡単な方法だ。特に異論も出なかったので、3人はこの方法を使うことに決めた。
 この場所は夾が知り合いから借りたらしい。『らしい』と言うのは、本人が詳しく語らないからだった。
 そして大きな鏡を何枚か買い入れ、砕いて333枚用意したのだ。ここまでの作業を夾が1人で行っていた。
 遅れて一哉が倉庫にやって来て、2人で鏡を並べる。で、最後に百合子が来て、先程の言葉が発せられた訳だ。
「作業、本当にご苦労様でしたっ!」
 百合子は2人に元気よくお辞儀をした。一哉は照れた笑みを浮かべ、夾は表情を変えずにいた。
「大きさや並べ方って、これでいいんだろうか……」
 つぶやく一哉。鏡の破片は3人が座る部分を中心として空け、それを取り囲むように雑多に並べられていた。破片の大きさもまちまちである。
「……さあな。大きさ等が決まってるのなら、どうしようもない」
 夾が一哉のつぶやきに答えた。
「今何時なんだろ……」
 百合子は家から持参した携帯ラジオの電源を入れた。
「……時刻は午前3時を回りました。今夜のお相手は星野レミがお送りしております。さて、目に見える物が全て正しいとは限りませんが……」
 小さなスピーカーから、ラジオが喋り出す。問題の時刻まで約33分――。

●午前3時33分【3】
 明かりの落とされた倉庫内で、1本のろうそくに火が灯された。時刻は午前3時33分ジャスト。ろうそくの炎に浮かび上がる3人の顔には緊張の色があった。
 果たして何が起こるのか。そう思った瞬間、目の前の鏡の破片から天井に向けて一筋の光が放たれた。
「!」
 驚き、天井を見上げる百合子。しかしこれで終わりではなかった。むしろ始まりの合図に過ぎなかった。周囲の鏡の破片から、次々に天井に向け光の筋が放たれる。
 光の筋は次第に太くなってゆき、1つの巨大な光として集束されてゆく。そして――激しい閃光が起こった。

●偽りの愛【4C】
 激しい閃光に一哉は思わず目をつぶった。そして閃光が収まった頃を見計らって、恐る恐る目を開いた。
 一哉の目の前に、1人の女性の姿があった。女性といっても、百合子ではない。一哉はその女性に見覚えがあった。忘れたくても忘れられない女性――かつての彼女、響子だった。
「響……子?」
 まさかという表情を浮かべる一哉。響子がここに居るはずがない。頭ではそれが分かっている。だが、目の前に居るのは、紛れもなく響子だった。
「久しぶりね、一哉」
 響子が口を開いた。声も別人ではなく、響子本人のそれだった。
「違う……響子がここに居る訳が……」
 一哉は大きく頭を振った。
「私よ、響子よ。あなたが望んだから……私はここに居るんでしょう?」
 優しく一哉に微笑みかける響子。
「会いたかった……」
 ゆっくりと一哉に歩み寄る響子。
(まさか……これが鏡の力……!?)
 まだ信じられないといった様子の一哉。やがて、響子が一哉の至近距離にやってくる。
「別れても……あなたのこと、忘れたことなんてなかった」
 響子が一哉の目をじっと見つめ言った。
「別れてから気付いたの……私には、あなたが必要なんだって。勝手でしょう……こんなことを言って?」
「そんな……そんなことはない!」
 一哉は響子の身体をぐっと抱き締めた。
「俺も……俺も忘れられなかったんだ!」
「……嬉しいわ、一哉」
 響子はそうつぶやくと、両手を一哉の背中に回した。
「いつまでも一緒に居ましょう……」
 笑みを浮かべる響子。ふと見ると、いつの間にやら響子の右手にはナイフが握られていた。だが一哉がそれに気付くはずがない。
 ナイフを大きく振り上げる響子。その瞬間、遠くで何かが割れる物音が聞こえた。
 響子の顔色が変わり――再び激しい閃光が起こった。

●現実と幻覚の狭間で【5】
 2度目の閃光が収まった後、倉庫は静けさに包まれていた。暗闇の中、3人は周囲を見回した。ろうそくの炎には、3人の姿しか浮かび上がらなかった。
 夾が倉庫の明かりをつけに行き、倉庫内が一気に明るくなった。鏡の破片は変わらず床に並べられ――いや、1枚だけが粉々に砕け散っていた。夾の仕業だった。
 この呪術は333枚の鏡が並べられているからこそ成り立つのだ。ならば1枚でも欠けたなら、呪術が成立しなくなることは自明だ。
「あれが私の見たかった物……?」
「……響子……」
 頭を抱えながらつぶやく百合子と一哉。あれは本当に起こった出来事なのか、それとも全くの幻覚だったのか……?
「幻覚だろ、馬鹿馬鹿しい。恐らく、集団ヒステリーに陥った上での幻覚だ。オカルト絡みでそんなケースはよく報告されているそうだしな」
 小さく溜息を吐き、夾が言った。
「……あれ? 右頬、どうかしたんですか?」
 何かに気付いたのか、百合子が夾に尋ねた。右頬を手で押さえ、夾はその手を見た。
 黒革の手袋に、赤黒い血がこびりついていた。

【333の誘い(いざない) 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 PC名(読み) / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 遠野・一哉(とおの・かずや) / 男 / 25 / 店員 】
【 紫月・夾(しづき・きょう) / 男 / 24 / 大学生 】
【 滝沢・百合子(たきざわ・ゆりこ) / 女 / 17 / 女子高校生 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で、NPCを姓で表記するようにしていますが、一部例外もあります。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全9場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の依頼ですが、調査するという意味では成功です。しかし、あと1歩という感じでした。どなたかが並べ方を調べていれば、また違った結果になっていたかもしれません。
・遠野一哉さん、今回のこの結果で響子さんのことは忘れることができたのでしょうか。それとも……?
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。