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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


謹賀新年妖怪決戦

------<オープニング>--------------------------------------------------------------
 数人の友人達と談笑しながら、瀬名雫〔せな・しずく〕ネットを巡回していると、不思議な
雰囲気の掲示板に出た。
 そして、そのトップを見て思わず大笑いしてしまう。

『弐千弐年元旦。本年最初の大闘技会の開催を決定した。ルールは会場にて発表。参加資格は
人に在らざる者である事』

『今大会会場は、円盤より入る腐海の路を通り抜けた漆黒の闇の底に於いて開催する。参加希
望者は大晦日、円盤より腐海へ入れ。案内者が会場へ導くだろう』
                            『大東京妖怪連絡協議会』

「えー、これは嘘だよぉ」
 呼吸困難になりそうになりながら、雫は思わずそうのたまってしまう。笑い転げる雫が不自
然な格好になった時、隣にいた大柄の男が同じ所を表示しているのが見て取れた。
 薄笑いを浮かべて画面を見つめるその男に、雫は恐怖を感じるあまり、固まってしまって視
線を外す事が出来ない。
「あ‥‥‥」
 雫の視界にいた筈のその男の姿がどんどん薄くなって行く。向うの景色が透けて‥‥‥消え
た。
「きゃああああっ!?」
 雫は思わず、叫び声を上げてしまう。
 その事で緊張が解けたのか、体が動くようになっていた。
「ど、どうしたの雫?」
 周りにいた友人達が心配そうに雫の顔を覗き込んでいる。
「と、隣にいた、お、男が消えて‥‥‥」
「え? 隣になんかずっと誰もいなかったわよ」

 ………。

『腕に覚えのある者の来場を歓迎する!』

------<竹下博行の場合>-------------------------------------------------------------
 2001年も残り一日だけとなった大晦日の夕方、竹下博行(たけした ひろゆき)は特に
やる事も無く、炬燵に入って蜜柑を食べていた。
 年末年始の番組も毎年変わり映えもしないし、明日からの休み、何しようかなあ。
 そんな事を考えていると、ドアチャイムがぴんぽんと鳴る。
「ただいま」
 妹の由美子が帰ってきたようだ。
「おかえり」
 随分と疲れた表情であったが、何か聞いて欲しいのかこちらの方をちらちらと見ている。
「何かあったの?」
「別に‥‥‥」
 別に、と言う事であればそれ以上聞く事も無い。
「そか。なんか疲れた顔してるな、って思ってさ」
「やっぱそうかな。実はさ、ゴーストネットOFFにいつもみたくみんなといったんだけどね。
そこでさ、なんか雫が変なものみちゃったみたいで」
 何か寒気を催したように両腕を抱いて、由美子は首を振った。
「変なもの?」
「雫が話すにはさ、隣に座ってた男が消えていなくなったって言うんだけど。私達にはそんな
男、見えなかったの」
 腕を組んで考えてみる。
「雫ちゃんの見間違えってことは?」
「ほんっっと、ならいいんだけどさ‥‥‥」
 今にも泣きそうに表情を歪める由美子。そして、深い溜息をついてまた首を振る。
「でも、やっぱ‥‥‥幻覚とかそういうのじゃなくて。隣の男が座ってた席のパソコンのモニ
ター‥‥‥私達が見ていたとこと同じとこが開かれてて‥‥‥なんか、怖いよ。お兄ちゃん」
 体を震わせる由美子の頭をよしよしと撫でてやる。
「大丈夫だよ、なんともないから。なんかあっても、お兄ちゃんいるじゃない」
「うん‥‥‥」
 やや落ち着いた様子で由美子は微笑を浮かべる。心無しか引きつっているように見えるが。
「で、その男はどんな感じだったの?」
 好奇心から聞いてみるが、それが由美子の不興を買ったようだ。ぷうっと頬を膨らませて、
上目遣いににらんでくる。
「お兄ちゃん‥‥‥心配してくれてるんじゃないの?」
「ば、ばっかだなあ。心配だから聞いてるんじゃない」
 何と無く納得がいかない表情で由美子は口をとがらせている。
「なら‥‥‥いいんだけどさっ。まあ、私が直接見た訳じゃないから何とも言えないんだけど。雫が言うには身長はかなり高くて、けどなんか物凄く痩せてる男の人だったって」
「特徴はそれだけ?」
「お兄ちゃん。ホントに心配してくれてる??」
 疑いの眼差しの由美子。
「当たり前じゃない。心配だからどんなやつかなって、聞きたかったんだよ」
「ホント? ならいいけどさぁ‥‥‥なんかね、ロンゲで冬なのになんかこう、和服の薄いの
みたいなの着てたんだって」
 着流しのことかな?
「そうかあ。まあ、別に何かして来ないで消えたんだったら大丈夫じゃないかな」
「だと‥‥‥いいんだけど」
 まだ心配そうな表情の由美子の頭をぐりぐりと撫で回した。
「大丈夫だって!」
「お兄ちゃん、やめてよおっ。もう‥‥‥なんか、未だに子ども扱いだよねえっ」
 こうして、竹下家の平和な大晦日は更けていく。そして、何事も無く除夜の鐘を聞きつつ年
越しそばを食べて、布団に潜り込む博行。自分の好奇心がまさかそんな事になってしまうとは
この時は露にも思わずに、あの後由美子に聞いた文言を繰り返していた。

『円盤より入る腐海の路を通り抜けた漆黒の闇の底に於いて開催する。参加希望者は大晦日、
円盤より腐海へ入れ』

 そして、次の朝。
 由美子入魂のおせちに手をつける事も無く、早朝一人で握り飯を作ってぱくつく博行。
「お兄ちゃんっ! なんでそんなの食べてるのよっ?」
「悪い悪い、今日も仕事だから。一応夜までには戻るから、残しといて」
 実に不満そうな表情で溜息をつく由美子。
「もうっ。早く帰ってこないとみんな食べちゃうんだからねっ」
「はいはい。出来るだけ早くに帰ってくるから。じゃ、行ってきまーす!」
 早朝の鋭い冷気がまどろんだ気分を吹っ飛ばす。
 さて。
『円盤より入る腐海の路』ってのは当りがついている。多分マンホールから下水道に入れ、って
事だろう。だけど、由美子が見たその男がどこにいるか調べるのは至難の技、と言うより闇雲
に入っていては不可能だろう。
 ゴーストネットOFFで見た、と言う事はその周辺のマンホールから入れば一番遭遇する可
能性が高いのではなかろうか。
 早朝の今のうちであれば、元旦の朝という事で人通りも比較的少なくマンホールに怪しまれ
ずに入っていく事が出来るかもしれない。迷っている暇は無い、と言うことだ。
 ゴーストネットOFFから近いマンホールの蓋を、人のいない時を見計らって開けると、中
に身を滑らせる。そして、中から蓋を閉めると、取りあえず降りて懐中電灯を取り出した。
「あ、あれ!? 電気が点かない!?」
 電池は昨日入れ替えたはずのに、いくらスイッチを入れても電気が点かないのだ。仕方無い
ので、予備の灯りとして持って来ていた蝋燭を取り出した。
「ほいっとな」
 博行が人差し指をかざすと、蝋燭の芯に火が燈る。この程度の物を発火させるのは訳も無い
事で、能力の無駄遣いの様な気もしないでもない。
「見つかるといいけどな」
 そう、呟いた瞬間だった。
 今まで見えていた天井のマンホールの蓋も下水道の壁面も消えうせて、腐臭を放つ水路が大
きく広がり、周りが大きな空間に成って行く。
 始まるんだ。やっぱ、本当だったんだ‥‥‥。
 蝋燭の灯り無しでも見渡せる事に気づいてそれを消し、水を漕いで歩き出した。
 先程まであったはずの壁は無く、辺りには木々まで生えている空間。これは一体どういう事
なのであろうか。
 しばらく歩いていると、人の話し声が聞こえてきた。
 ‥‥‥あの男だ!
 直感的に話に聞いた男、と見えた男がそこにいた。高い身長、細身の体、着流し。
 ロンゲと言うより、ザンバラ頭と言った方がしっくりと来るかもしれない。
 背中になにかぞくぞくとしたものを感じつつ、その男の様子を見守る。なにやらフードを深
く被った人物と話をしている。
「それでは、大会に出ますね」
「見学のみが認められぬならそれも致し方あるまい。あまり期待も出来ぬが出るとしよう」
 渋々と言った様子で男がそれを認めると、白い服の人物が提灯に火を燈して前へと歩き出す。
 すると、どうした事だろう。
 空間が水面のように波打ち、その人物とあの男がその空間に吸い込まれて行くでは無いか。
 そして二人がそこに消えていくと、浪打は徐々に収まっていく。
「行ってみよう!」
 好奇心に後押しされて水面を乗り越えると、そこには青空が広がっていた。少し向うに街並
が見えている。ここは一体、どこなのだろう。
「げっ! 人間まで着いて来ちゃった!?」
 見ると先程の白い服の‥‥‥フードを下ろして顔が露になっている‥‥‥女性が驚愕してこ
ちらを見ている。
「あちゃあ。どうしよー! あんたねぇ無茶にも程があるよぉ。この人はまあ、人間食う種類
の魔じゃないからいいけどさあ。だけどぉ、生きて帰れないよ。大会終るまで亜空間から何人
たりとも出られないんだからっ!!」
 でもまあ‥‥‥。
「見つからなければいいんですよね。こんな広そうな街だし、隠れつつ大会を見学‥‥‥」
「あまぁい!」
 びしっと博行を指差す女性。
「人間の臭いってあるのよね。まあ、この場所はいろんな邪気が漂っているから多少感知しづ
らくはあるだろうけどさあ。って、大会って判って入ってきてんの?? 書いてあったじゃん。
参加資格に人にあらざるものって」
「だから見学‥‥‥」
 そう聞いてますます顔を紅潮させて女性は頭をかきむしった。
「だああぁっ。この人間はあっ。自分がどんなに危険な所に飛び込んできたか自覚もへったく
れも存在しないのくわあーっ!!」
「まあ、良いではござらぬか」
 なんと、口を挟んで来たのはあの男だった。
「貴殿、拙者と契約せぬか? 胆の据わり加減が気に入った」
 契約と、言うと‥‥‥。
「案ずるな。西洋の悪魔やら中華の鬼と違って魂を要求したり精気を吸ったりはせぬ」
 言葉にしなくてもどうやら心の中が読めるらしい。ちょっとなんか居心地の悪さを感じてし
まったりする。
 そう思って黙っていると、白い服の女性が博行とその男の顔を交互に見つめて頭を掻いた。
「えーっ、ちょっと。いきなりどうしたの?? こんな所でどこの馬の骨とも知れぬ人間と契
約なんて!?」
「どこの馬の骨って‥‥‥」
 まあ確かに面識が無いのでそう言われたって仕方無いような気もするが、それにしたって他
に言い方もあるだろう。
「拙者は刀精でな、出来れば誰かに振るって貰った方が心地良いのだ。どうだ? 悪い話では
無いと思うが。契約を結ぶなら全力で貴殿の身は守ろう」
「でも、僕には剣術の心得なんか無いし」
 それを聞いてその男は大きな声で笑い出す。
「いや! いや失敬。この時代に満足できる剣の使い手など、拙者見たことがござらぬ故。ま
あその恵まれた体躯があれば十分でござる」
 少し考えていると、白い服の女性が下から覗き込むようにして博行の顔を覗き込んでくる。
「あのさぁ、こう言っちゃあれだけどっ。あんたに選択の余地は無いよ! 生きて出たかった
ら契約結ばないと。この人の能力なら人間の臭い隠すぐらい造作も無いから」
 そう言われてしまっては是も非も無いようだ。
「判りました。契約すればいいんですね。最後に確認したいんですが、契約をする事によって
僕に何か不利な条件は‥‥‥」
「もおっ。この期に及んであんたそんな事言ってんのっ!?」
 ぷりぷりと怒るその女性を制して男はくく、と笑う。
「まあ良いではないか。誰であろうと我が身は可愛い物。特に不利になる点はござらぬが、刀
と化した拙者を使うに当り、気をつけて頂きたい点がござる。鞘から抜いたら必ず生物を切る
事。まあ、何であろうと構いませぬ。人であろうと、あやかしであろうと、動物だろうと、ま
あ極言すれば虫でも。戯れに抜かれませぬよう。よろしいか?」
「よろしいです」
「それでは。拙者『霞焔』と申します。末永く宜しくお願い致しますぞ」
 若干口調が移ったようだ。何はともあれ、大会には参加しなければならないらしい。嫌々な
がら、博行は女性に伴われて会場に向かった。

『淑女並びに紳士の皆々様方っ! 明けましてお目出度う御座いますっ!! あ゛ーっもう、
挨拶なんか面倒臭えやっ。野郎どもっ! 一回戦っつーかバトルロイヤルが今大会の方式だ。
最後に立っていた者の勝利! 優勝賞品は『霹靂車の布片』だぁっ!!』
 うおおおおおおおっ、と魑魅魍魎妖怪妖魔の類がざわめいた。
「『霹靂車の布片』って何?」
「雷を起こす事のできる布でござるな。中華の物にござる」
『さあさあさあ。準備万端整ったかあっ!? 行くぞこらあっ!!」
 9本の尻尾を振り乱してほら貝を吹き鳴らす男。かがり火の炎に照らされて、会場となった
草原は赤く燃えているようだった。
 霞焔を抜き払い、襲い掛かってくる妖怪鴉天狗と対峙する。どうやら、ここの周りは戦いの
輪からぽっかりと抜けて、とりあえずの敵は目の前の鴉天狗しかいないようだ。
 強風が身を襲い、石礫が眼を潰そうと襲い掛かってくる。
「くっ!」
『博行殿っ! 斯様な低級妖怪にてこずっている場合でしござらんぞっ。風と礫の時の間を読
むのでござるっ!』
「そ、そんなこと言ったって!!」
 頭の中に響く霞炎の声が風の中で妙にクリアに聞こえる。容赦無く風と礫を送ってくる鴉天
狗。霞焔を持っているので剣の間合いには絶対に入ってこようとしない。
 覚悟を決めて、その風を突っ切ろうとしたその時! 鴉天狗のどてっぱらから黒い手がにょ
きっと伸びてくる。
「うわあっ!」
 後ろから黒い毛並みの人狼が襲い掛かったのだ! 飛ぶ力すら失った鴉天狗はへなへなと草
地に堕ちた。
「貴様、人間だろう? 他の者が騙せても俺の鼻は騙せねえ」
 緊張が支配する場。先に動いたのは博行だった。
 大きく足を踏み出して、霞焔を逆袈裟に振う!! 人狼は鋭い爪でこれを払うと、両者大き
く後ろに飛ぶ。
 そして、溜めを作って博行は一気に前に剣を突き出した。
 たまらず人狼は転がって避けるが、その抜群の敏捷性で博行の喉下に飛び掛ってくる!
 
 ガキッ!!

 人狼の右手を刀の鍔で受ける。その時、人狼の口元がかすかに緩むのが見てとれた。
「俺の勝ちだ!」
 刀を右腕で押え付けたまま、人狼の左腕が鉤突き気味に迫ってきた!!
「グアアアアアっっ!?」
 刀を巻き込んで右半身で人狼の右腕を博行は受け流していた。そして、霞焔を右手一本に持
ち替えると、一瞬背中を向けた人狼に能力一杯の発火を仕掛けたのだ。
 背中半分焼け爛れた人狼は堪らず膝を衝く。勝ったかっ!?
『博行殿、後ろ!!』
 その声に振り返った瞬間、何かの足のような物が視界に入ってくる。
 ‥‥‥‥‥‥そして総てが、暗転。

------<エピローグ>-----------------------------------------------------------------
 気が付くと、そこは下水道の通路の上だった。
 冬とは言え、やはり腐臭が鼻に衝く。低い位置はなおさらだ。
「負けてしまいましたな。まあ、初陣としては中々のものでござったが」
「うわっ!?」
 隣にあの男‥‥‥霞焔が座っているではないか。
「優勝はあの人狼だったようでござる。まあ、そのおかげで周りの目が向うに集まって無傷で
終る事が出来たのでござるが」
「そうなんだ‥‥‥」
 少し頭痛はする物の、何はともあれ、目立った外傷も無く帰ってこれたのは良かったと言え
るであろう。
「それじゃ、僕はこれで帰るよ」
 そう言って帰ろうとすると、霞焔がきょとんとした顔で博行の手を掴んだ。
「何を言っているのでござるか。契約した以上持って帰って頂かねば困るでござる」
「えっ! 大会中だけじゃなかったの??」
 それを聞いてにやりと笑う霞焔。あっ‥‥‥たぶん雫ちゃんが見たのはこの笑いだ!!
「世の中そんなに甘いものではござらんよ」

 こうして博行は刀精を一人手に入れて、大会を終了する。なにか釈然としない気持ちで家に
帰ると、鬼の形相で由美子が怒鳴り声を上げた。
「お兄ちゃんっ! どこ行って来たの!? ‥‥‥無茶苦茶くっさいよ。御飯の前にお風呂入って来て。わあっ、近寄らないで臭いんだからあっ」

 ‥‥‥とんだ新年になったご様子でありました。



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        ■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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          【 PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】
         竹下 博行/ 男 / 24 / 東京都清掃局清掃員
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        ■         ライター通信          ■
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    シナリオお買い上げ下さいましてまことにありがとうございます。それから、明      けましておめでとうございます(笑)。篠田足往です。
    こういうパターンで行動掛けてくるとはちょっと予想外でしたので、少し考えて
   こういうシナリオにしてみました。お気に召していただけたでしょうか。
    霞焔は持ち物なんで、懐に収めてやってください(爆)。
    感想などいただけますと今後の励みになりますし、今回置きに召さなかった所な
   どありましたら、今後気をつける事にいたしますので、よろしければ下さいますと
   嬉しいです。
    それでは、またの御指名をお待ちしております。ありがとうございました。